表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/500

03-19 再々訪

 ハチミツレモン風の蜂蜜酒ミードを持って、ゴローとサナは軽食堂『猫の手』へと向かった。

 一昨日の約束通り、『習慣の違い』を聞きに行くためだ。

 また、獣人(ビーストマン)蜂蜜酒ミードをどう評価してくれるか、というお試しでもある。


 今回は面倒ごとに巻き込まれたくないため『足漕ぎ自動車』を使った。

 時刻は午前11時、まだ混み合う前の時間だ。

「いらっしゃいませー」

 と迎えてくれたアーニャに、

「やあ、習慣の違いを聞きに来たよ」

 とゴローは声を掛けた。そして、今回も『日替わりサンドイッチ』とお茶を注文する。


「さぁびすですー」

 今回も、末の妹ニーニャがクッキーと紅茶を持ってきてくれた。

「ありがとう」

 定番のクッキーはいつもどおり優しい味であった。

 そして間もなくサンドイッチも運ばれてくる。

「おまたせしましたー」

「お、美味そう」

 この日はチーズハムサンドと玉子サンド、それにハムレタスサンドであった。


 ゴローとサナはぱくぱくと瞬く間に平らげ、食後の紅茶をのんびりと飲む。その向かいにはアーニャ。

「ええと、習慣の違いでしたね」

 そう言いながら、紅茶のお代わりを注いでくれた。

 そして説明をしてくれる。

「まず、『草食系』と『肉食系』の獣人(ビーストマン)がいまして、食べ物の好み……いえ、食べられるものが異なっています」

 『草食系』は文字どおり肉類は一切食べないという。

 逆に『肉食系』は植物性のものも口にするそうだ。

「果物やお菓子類は双方食べますね」

「なるほどなるほど。仮にお客を迎える際には気を付けないといけないな」

 ゴローは頷いた。

「そういうことになりますね。あとは宗教でしょうか」

「宗教か……」

 これはいつの世でも難しい問題だな、とゴローは思った。


「私たち獣人(ビーストマン)は、基本的に『自然崇拝』です。地の精(グノメ)水の精(ウンディーネ)火の精(サラマンドラ)風の精(シルフ)木の精(ドリュアス)などですね」

「そうなんだ」

「はい。神様……は、創造神であって、世界を創造した後にお隠れになった、と言われています」

「ふうん……あまり宗教は話題にしない方がよさそうだな」

「そうですね。でも行事に参加されることがあるかもしれません。もしゴローさんたちが信じる宗教の禁忌になるようでしたら事前に断っておいた方がいいでしょうね」

「なるほどな。気を付けよう」


「それから……あ、家族について説明しておきますね。……家の中では、当然ですが家長が一番権力を持っています。次が正妻、以下第2夫人、第3夫人……となります」

「一夫多妻なのか?」

「はい、肉食系獣人(ビーストマン)は特に。草食系獣人(ビーストマン)は一夫一婦が多いです」

「ふむふむ」

「子供のうちは男女関係なく、年齢順に権力がありますね」

「そうなるのか」

「はい。成人はだいたい15歳ですが、そうなると独立して家を構えますので。あ、跡継ぎ以外は」

「ふうん……」

 かなり参考になるな、とゴローはこういった説明を聞きに来てよかった、と思ったのである。


「それから……そうですね、同族同士の繋がりが強いですので、不用意に喧嘩を売るととんでもない人数を相手にすることになりますよ?」

「ああ、そんなことしないよ……」

「ふふ、ゴローさんたちはそんな感じですよね」

 少なくともゴローは喧嘩っ早くないつもりだった。

「あ、そうだ、これは言っておきませんと……」

「え?」

獣人(ビーストマン)は得てして嗅覚が発達してますので、香水には気をつけてください。嫌われます」

「そういうことはありそうだな」

 ヒューマンの鼻にはかすかな香りでも、獣人(ビーストマン)にはきついことがあるのだと言う。

「その中では柑橘系は例外ですけどね」

「あ、そうなんだ」

 ゴローにとってはちょっと意外だった。

「お花の香水は、きついのが多いので気をつけてくださいね。……あ、でも、ゴローさんもサナさんも、臭いは薄いですよね……」

「そ、そうか?」

 ちょっとどきりとするゴロー。

 『人造生命(ホムンクルス)』であるゴローとサナには、生物としての『体臭』はないのである。

 だが怪我の功名と言うべきか、食事を毎日摂っているおかげで、それらしい臭いがする……らしい。

「ええ、お身体を清潔にされているからなのか……ヒューマンとしてみたら薄いです」

 そういうヒューマンは獣人(ビーストマン)に好かれる、とアーニャは言った。

「はは、嫌われるよりいいよな」

 ゴローは笑って誤魔化すことにした。万が一にも人造生命(ホムンクルス)であることを知られたくはなかったから。


「……そういえば、獣人(ビーストマン)の人たち自身の体臭は?」

 サナからの質問である。

「そうですね、私たちは鼻がいいので感じますけど、ヒューマンの方には臭わないんじゃないでしょうか?」

「まあ、そうだな」

 ちょっと意外である。

 確かに、身体能力をぐんと上げない限りアーニャたちの体臭は感じられなかった。


「総じて獣人(ビーストマン)は水浴びが好きですから、ヒューマンの方が感じるほどの臭いはないと思います」

「確かにな」

「ジャンガル王国には温泉も湧いていますし、国民は総じてお風呂好きですので、体臭は薄いと思いますよ」

「そういうことか」

 鼻がいいだけに、きつい体臭は我慢できないので皆身綺麗にするというのは理屈に合っているな、とゴローは思ったのだった。


「普通に毎日水浴びをしますからね。……あ、そうだ、こっちより湿気はメチャ多いですよ?」

 ゴローたちと話を続けていくうちに、アーニャの喋り方もだんだんフランクになってきた。

「水浴びをするのか……」

 ゴローとサナはこたえないが、ティルダには堪えそうだとゴローは思った。

(……まあ、馬車の中だけなら魔法で何とかできるだろう)


「もうなかったかな……あ、椅子の形も違うかもですね」

 尻尾が邪魔にならないように座面の後ろに穴が空いていたり、背もたれのないスツールが多かったりもする、とアーニャは説明してくれた。


「まだ夏だからいいですけど、春先は体毛が抜けるので抜け毛が凄かったりもしますね」

「ああ、ありそうだな」


*   *   *


 かなりいろいろな話が聞けて有意義だった。

「ありがとう。参考になったよ」

「いえいえ、どういたしまして」

 ここでゴローは、持ってきた蜂蜜酒ミードの入ったびんを差し出した。

「お礼を兼ねて、飲んでみてくれないか?」

「ありがとうございます。なんですか、これ?」

「ハチミツで作った酒なんだ。そこにレモンの汁を混ぜて飲みやすくしてある」

「へえ……珍しいものですね」

「ジャンガル王国へ行く時の手土産になるかな?」

「ああ、そうですね。それじゃあちょっと、失礼して……兄さーん!」

 アーニャは料理長の兄アロスを呼んだ。


「……何だ?」

「ええと、ゴローさんがこのお酒……ハチミツから作ったお酒の味を見てほしいって」

「へえ? ハチミツから作った酒ですか?」

 アロスは料理人らしい興味を持って酒を見つめた。

「あまり強いお酒じゃないので、業務中でも一口二口なら大丈夫かと思います。それに、飲みやすくするためレモン汁を加えてますし」

 ゴローは説明した。

「そうなのですか。では、味見をさせていただきます」

 ガラスのコップに少し蜂蜜酒ミードを入れ、明かりに透かしてみるアロス。

「綺麗な金色ですね」

 そして一口。

「……これは……レモンの酸味と、ほのかなハチミツの甘味、そしてお酒としての味……なかなか……いや、とても美味しいです」

「それはよかった。これ、ジャンガル王国への手土産になると思いますか?」

「ええ、それはもう! ……向こうにはハチミツの生産地がありますからね。もし作り方を教えてくだされば、大きな感謝と多額の礼金をもらえるのではないでしょうか」

「そんなに……ですか」

「そんなに、です」


 料理長であるアロスのお墨付きももらえたので、ゴローはほっとした。

 そしてお客が入ってきたので、話を聞くのもそれまでとし、ゴローとサナは屋敷へ帰ったのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月5日(木)14:00の予定です。


 20200303 修正

(旧)「子供のうちは男女関係なく、年齢順ですね」

(新)「子供のうちは男女関係なく、年齢順に権力がありますね」

(旧)「はい。成人はだいたい15歳ですが、そうなると独立して家を構えますので」

(新)「はい。成人はだいたい15歳ですが、そうなると独立して家を構えますので。あ、跡継ぎ以外は」


 20200612 修正

(旧)……あ、そうだ、こっちより湿度はメチャ高いですよ?」

(新)……あ、そうだ、こっちより湿気はメチャ多いですよ?」


 20210217 修正

(旧)ゴローとサナにはこたえないが、ティルダには堪えそうだとゴローは思った。

(新)ゴローとサナはこたえないが、ティルダには堪えそうだとゴローは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば抜け毛って処分どうすんだろ?(朝起きたら抜毛で布団洗濯しないととか……………)
[気になる点] 今更ですが、この世界って、 > ゴローは笑って誤魔化すことにした。万が一にも人造生命ホムンクルスであることを知られたくはなかったから。 こう↑まで禁忌なんでしたっけ? それとも『謎…
[良い点] 猫獣人さんが柑橘類の匂いも嫌わず食事も可能なんて、地球の猫と違って超越的! さすが二足歩行!(多分違う)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ