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03-14 謁見

 国王陛下に呼ばれた、ということでゴローは少なからずびくつきながらモーガンの後に続いた。対してサナは堂々としている。

 モーガンに案内されたのは、謁見の間というような大袈裟な場所ではなく、こぢんまりした執務室であった。少しほっとするゴロー。


「陛下、ゴロー殿とサナ嬢をお連れしました」

 いつもとは異なる口調でモーガンが報告する。

「よく来てくれた、ゴロー、サナ」

 執務室正面に座っている国王ハラムアラド・ラグスメイルス・ルーペスが口を開いた。

「会ってみたいと思っていたのだ」

「……」

 言葉をなくしていたゴローに、サナの肘がつん、と当たり、同時に念話が届く。

〈名乗らなきゃ、駄目〉

 それでゴローも我を取り戻した。

「あ、え、ええと、ゴローと申します。こちらは姉のサナです」

〈うん、まあ、それでいい〉

「うむ。娘たちから聞いている。変わった知識を持っているそうだな」

「恐縮です」

「その上、今日はジャンガル王国の王女が危ないところを、身を以て救ってくれた。礼を申すぞ」

「……」

〈もったいないお言葉です、と答えて〉

「も、もったいないお言葉です」

 サナからの念話による助言で、なんとかかんとか対応しているゴロー。

「そう硬くならんでもよい」

〈だからといって気易くしちゃ駄目。あれは上に立つ者の常套句だから〉

〈わ、わかった〉

「ありがとうございます」


「まだ硬いな。だが、まあよかろう。……掛けるがよい」

 国王の許可が出たので、部屋の端にいた侍女が椅子を出してくれた。

「お、畏れ入ります」

 ゴローとサナは腰を下ろしたが、モーガンは立ったままである。いいのかな、と思っていると国王が話を再開した。


「先程、リラータ王女殿が、そなたらをジャンガル王国に招待したいと申し出たのは知っているな?」

「は、はい」

「うむ。その際、そなたたちだけではなく、我が国の騎士も数名同行させたいと思うが、よいな?」

〈これは尋ねているのではなく単なる確認。返事は肯定以外にない〉

「はい」

 サナからのアドバイスで、ゴローも大過なくやり取りができている。


「おそらく我が娘と息子も同行するのでよろしく頼む」

「は、はい」

 この場にはいないが、ローザンヌ王女とクリフォード王子が同行するのだという。

 全く知らない王族と一緒に行くよりずっと気が楽だ、とゴローは思っていた。

「守護騎士の隊長にはこのモーガンに務めてもらうことになるだろう」

 それもまた、ゴローにとっては朗報である。

 知り合いと一緒なら、かなり気が楽になるだろうからだ。


「ジャンガル王国へ行くための馬車は、こちらで用意する。日程その他は……そうだな、モーガンを通して連絡しよう。……よいな、モーガン?」

「は、陛下」

 本来ならモーガンのような身分の者が請け負う役目ではないが、ゴローたちとの親交を考慮してくれた結果といえよう。


「さて、事務的な話は以上だ。……モーガンも座れ」

 その言葉に、さっとばかりに侍女が椅子を用意した。

 さらに、冷たい飲み物も用意される。


「さて、遠慮せず飲んでくれ」

〈ここは慌てて飲んじゃ駄目。王様がグラスに口を付けてから〉

〈お、おう〉

 ここでも、サナの助言に従って行動するゴロー。飲み物は果物のジュースであった。


「ローザンヌとクリフォードから聞いたが、変わった菓子の助言をしてくれたそうだな?」

 おそらく『和三盆もどき』のことだろうとゴローは悟り、

「はい、僭越せんえつですが」

 と答えた。

「いやいや、われも口にしてみたが、上品な味わいであった。きさきも気に入ったようだったぞ」

「それは何よりです」

「ゴローとサナ……そなたたちがどこから来たのか、非常に興味があるが……」

「いえ、来たのはずっと北のカーン村の方からですよ」

 カーン村から、とは言わない。それは真実ではないから。


「ほう、北か……宝石の産地だな。そういえば、『金緑石』もそなたらが持っていたものらしいな」

「は、はい」

「……北の地はどのようなところなのだ? 報告書では知っていても、行ったことがない。そこに住んでいた者の話を聞かせてもらいたいのだ」

〈ゴロー、私が説明するから、そう話を振って〉

「ええと、そうした話は姉のサナの方がうまいと思いますので……」

「ほう、そうか。ではサナ、聞かせてくれるかな?」

 国王はサナの方に目を転じた。

「はい。……北の村では、宝石や鉱石を売って生計を立てています。栽培されている穀物もありますが、調味料のたぐいはだいたいが行商人からの購入になります」

「ふむ」

「このあたりではついぞ見かけない魔獣も多く棲息しております」

 この情報に、モーガンはぴくりとし、国王は興味を惹かれたようだ。

「魔獣か。どのようなものがおるのだ?」

「はい。一番多いのは『イビルウルフ』です。群れを作って襲ってくるので手強い相手です」

「他には?」

「出会ったことはありませんが、『ホーンドウィーゼル』や『シュバルツビースト』がいるようです」


 ホーンドウィーゼルは角の生えたイタチのような魔獣で、小さいが素早い。肉食。

 シュバルツビーストは真っ黒な猪で、体長はおよそ3メル()、その体当たりは岩をも砕くという。こちらは雑食。


「ほほう、見てみたいが危険そうだな……」

 こういう話は王様も男であるということなのか、それとも珍しいもの見たさなのか、身を乗り出すようにしてサナの話を聞いている。

「一方で、おとなしい魔獣もいます。『トリッキースクワール』と言う魔獣は人に害を加えません。ですが作物を食い荒らすので駆除の対象です」

「ほう、なるほどな……」


 その他にも、北の方にのみ生える植物の話などをサナは説明した。

「……以上です」

「いや、興味深かった。感謝する。……それでは余り引き留めるのも申し訳ないな。……モーガン、あとのことは頼むぞ」

「はっ、陛下。……ゴロー、サナちゃん、行こうか」

 国王に返事をした後のモーガンは、いつもの調子に戻っていた。


*   *   *


「あ、お帰りなさいなのです」

 大広間に戻ると、ティルダが迎えてくれた。

 残っている人もちらほらで、随分と閑散としている。

 アーレン・ブルーは仕事の都合があるということで先に帰ったそうだ。

「ゴローさんによろしくと言っていたのです」


 オズワルド・マッツァは待っていてくれた。

「お帰りなさい、ゴローさん、サナさん」

 何の話だったのか聞きたそうであったので、ゴローは帰りの馬車の中で話そうと考えた。


「それではな、ゴロー、サナちゃん、ティルダちゃん。気を付けて帰れよ」

「はい、モーガンさん」

「うん」

「はいなのです」

 そしてゴローたち一行は王城を出て、馬車へと戻った。

 駐車場の馬車も随分減って数台しか残っていない。


「さて、乗りますか」

 オズワルド・マッツァがそう言ってまず馬車に乗り込み、次いでゴローが乗って、サナに手を貸す。

 そのサナはティルダに手を貸し、それで全員が乗り込んだことになる。

「発進します」

 御者がそう告げると、馬車はゆっくりと動き出した。

 明かりは付近の家々の窓からこぼれるものと、馬車に付いたカンテラのような魔導具の明かり。

 そして主要道路沿いに立てられた街灯の明かり。

 いずれも暗く、闇を払うほどではない。

「……本が読めるくらい明るい街灯……ってどこの世界なんだろう?」

 ふと頭に浮かんだ光景。

 謎知識は本当に謎だなあ、と思いながらゴローは馬車に揺られて行くのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月23日(日)14:00の予定です。


 20200623 修正

(誤)執務室正面に座っている国王ハラムアラド・ラグスメイルス・ルーベスが口を開いた。

(正)執務室正面に座っている国王ハラムアラド・ラグスメイルス・ルーペスが口を開いた。

(誤)そういえば、『猫目石』もそなたらが持っていたものらしいな」

(正)そういえば、『金緑石』もそなたらが持っていたものらしいな」


 20210203 修正

(誤)「陛下、ゴロー君とサナ嬢をお連れしました」

(正)「陛下、ゴロー殿とサナ嬢をお連れしました」


 20210216 修正

(旧)「ゴローとサナ……君たちがどこから来たのか、非常に興味があるが……」

(新)「ゴローとサナ……そなたたちがどこから来たのか、非常に興味があるが……」

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― 新着の感想 ―
宝石とか刀とか貰いつつ銃に撃たれたり賊を阻止したりと多くの迷惑をかけさせた人 「礼を申すぞ」 以上終わり コイツ本当に善王なん?
[気になる点] そういえば王族で冒険者なってたりするけど良く成立するよねと思うけど(一般常識があんまり無かったりとか) 話を聞きたがるのは情報収集も目的にあるかな?
[一言] サナの助言がうざい、主人公の戦闘能力なら不敬罪にされてもどうとでもできるだろ。
2022/04/07 14:13 退会済み
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