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03-11 ダンス

 少しずつ人が増え、いつしか日も傾き、空が茜色に染まってきた頃。

 会場には魔導ランプのような明かりが灯されており、明るすぎず暗すぎず、いい雰囲気をかもし出している。

 その明かりが急に明るくなったかと思うと、

「お待たせ致しました」

 という声が響き、いよいよ晩餐会が始まる。


 まず大広間の奥、2段ほど高くなった壇上に王族の従者らしき、他とは異なる服装の男が現れた。

「それではこれより、王族方の入場となります!」

 その男性が進行役らしく、よく通る声で宣言が行われると、壇の左右にいた楽団が音楽を奏でた。

 そして奥の幕が左右に開かれ、一般参賀の時に見た国王陛下の一家が姿を現したのである。

 国王、王妃、ローザンヌ王女、クリフォード王子、そしてジャネット王女。他の王子王女は顔を見せなかった。

 会場は拍手と歓声で埋め尽くされる。

 そして国王陛下が手を挙げると、すっと静まる会場。

「皆の者、今日はよく来てくれた。我が娘の誕生日を共に祝おうではないか」

 そして今度は王妃様の口からも、

「皆さん、今日は我が娘のために集まってくれてありがとう。短い時間ですが、楽しんでいってくださいね」

 との言葉が。

 そして当のローザンヌ王女殿下も声を掛ける。

「皆、私のためにありがとう。これからも国のため国民のため、王家は尽力するとここに誓おう!」

 弟のクリフォード王子殿下も、今夜は集まった者たちへ言葉を掛ける。

「皆さん、姉のため、妹のため、お集まりくださってありがとうございます。どうか楽しんでいってください」

 最後はジャネット王女。

「皆さん、どうぞお楽しみくださいませ」

 まだこういう場に慣れないらしく、少し頬を染めながらの初々しい仕草であった。


 そうした言葉が終われば、いよいようたげの始まりである。

 まず、出席者全員にグラスが配られ、そこにワインやジュースが注がれていく。

 ちなみにゴローとサナはワイン、ティルダはジュースだ。

「それでは、乾杯! ルーペス王国、万歳!」

 進行役が音頭を取る。

 出席者全員がそれに合わせ、

「ルーペス王国万歳!」

 と言い、グラスを掲げた。


 儀式的な内容はそこまで。あとは無礼講だ。

(無礼講って無礼・講じゃなくて無・礼講なんだっけ)

 などと浮かぶ謎知識を無視し、ゴローはサナやティルダたちと料理を物色しに行った。


 立食パーティー形式で、大広間の壁際に様々な料理が置かれている。

「お、これだ」

「綺麗……」

「見事なのです!」

 『和三盆もどき』を使った和菓子はすぐにそれとわかった。

 バラのような花の形、貝殻の形、星の形など、さまざまな形に成形されており、うっすらと色も付いている。

 サナはさっそく1つを口にしている。

「うん、甘い。とっても美味しい」

 サナのお墨付きが出た。


「ほう、甘い菓子だと?」

「あら、可愛い形ね」

「食べてみようかしら」

 いかにも美味しそうに食べるサナの様子を見て、他の客も集まってきた。そして1つ、口に。

「これは……!」

「甘いわ。でもちっともくどくないのよ!」

「いくらでも食べられそう!」


 女性客を中心に評判がいいようだ。

 これなら、これを作った、『ローザンヌ王女の幼馴染みのそのまた幼馴染み』である料理人見習いも認められそうでゴローはほっとしたのだった。

「さすがだな、サナ」

 真っ先に口にし、先鞭を付けたサナをゴローが褒めると、招待客の口の中に消えていく『和三盆もどき』を見て、

「……ああ……減っちゃう」

 と、少し悲しげな顔をするサナがいたのだった。


 もちろん、甘いものは他にもあった。

 しかし単に『甘い』だけで、サナの琴線に触れるものはなかったようだ。

 むしろ、ミニステーキやフルーツサラダの方を楽しんでいるようだった。


*   *   *


 1時間ほど過ぎた頃、会場の明かりが少し暗くなり、進行役の声が響いた。

「それではこれより、舞踏の時間となります」

 楽団が静かな音楽を奏でる。

 そこに、壇上から降りてきたクリフォード王子とジャネット王女がお手本(?)となるようなダンスを披露する。

 ジャネット王女は今年社交界にデビューということだが、なかなかの技巧派で、兄であるクリフォード王子との息もぴったり。

 見事なダンスを披露してくれたのだった。


「……やっぱり王族だなあ」

「うん、立派」

 ゴローとサナはそんな感想を抱き、

「おお……ジャネット王女殿下、素敵ですなあ」

「クリフォード殿下、凛々しいですわ」

 来客たちもまた、絶賛している。

 そこへさらに、

「それではここで、ジャンガル王国からのお客様、リラータ王女殿下とそのお付きの方たちをご紹介いたします!」

 壇上がひときわ明るくなると、奥の垂れ幕が左右に開かれ、3人の獣人が姿を現した。

 3人とも狐獣人らしく、真ん中にリラータ姫、右にお付きの女官、左に護衛の騎士、といった立ち位置のようだとゴローは感じた。

 ちなみに女官はネアではない。


「おお……」

「なんとお可愛らしい……」

 姫と女官は金色の狐耳と尻尾、騎士は白銀の狐耳と尻尾をしており、金と銀の取り合わせが美しかった。

「……」

 ごく一部、反応が悪い者もいたが、概ね好評のようだ。


 そしてここでまた、ダンス音楽が奏でられ、クリフォード王子とリラータ姫が踊り始めた。

「ほう……」

 そんな溜め息のような声がどこからか聞こえた。

 それほどまでに2人のダンスは美しかったからだ。

 リラータ姫の金茶色の髪と尻尾がダンスに合わせて揺れる様は圧巻である。

 見とれる者は大勢いた。

 が、しかし。

「?」

 サナの耳に、この場に似つかわしくない音が聞こえた。念話でゴローに話し掛ける。

〈ゴロー、聞こえた?〉

〈え、何が?〉

〈……急いで聴覚を強化して〉

〈わかった〉


 ここまで1秒弱。

 聴覚を強化したゴローの耳に、金属同士が触れ合う音が聞こえた。

〈これって……〉

〈鎧を着たものが動く時の音〉

〈4人……かな?〉

〈正解。ここへ向かってくる〉

〈何が目的だろう?〉

〈今はまだ、わからない。……会話もしていないし〉

 ここまででまた1秒。

〈だが、晩餐会に来るような格好じゃないよな?〉

〈それは、間違いない〉

〈……警戒しておいた方がいいか〉

〈しすぎるということはない〉

〈よし、『強化(ホプリゾーン)』〉

〈『強化(ホプリゾーン)』〉

 ゴローとサナは身体構造と能力を強化する魔法を自らに掛けた。

 普通の人間なら1.2倍から1.5倍、せいぜいが2倍程度の強化であるが、人造生命(ホムンクルス)の彼らが使えば4倍以上の効果が出る。

 ここまでで2秒。

〈来た〉

 王族がいる壇上に向かって右側の入口から、軽鎧を着た4人の男たちが現れた。


「きゃああ!」

「な、何ごとだ!?」

 悲鳴が上がる。

 それもそのはず、鎧姿の男たち4人はショートソードを手にしていたからである。


 4人が狙ったのはどうやら獣人(ビーストマン)族の3人らしかった。


「させるか!」

 思わずゴローは飛び出したのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月16日(日)14:00の予定です。


 20210216 修正

(誤)「それではこれより、王族の入場となります!」

(正)「それではこれより、王族方の入場となります!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば社交界デビューって他の作品だと複数人でするけど今回はどうなってるんだろう? 後男性でデビューの話聞かないなと思った(その前に親の手伝いするからか?) [一言] 獣人と踊る時地…
[気になる点] それではこれより、王族の入場となります →王族方のご入場となります。 元のセリフだと王族より上の人、 もしくは同格の人がしゃべっていると感じるので。 検討してみてください。
[一言] >>壇の左右にいた楽団が音楽を奏でた 何故か新世界より第四楽章を >>グラスを掲げた そして一息に飲み干し、そのグラスを床へ・・・ >>舞踏の時間となります 更にその後には曲者との武闘の…
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