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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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お遊び

 手始めに馬を預けている駐馬場へと向かい、ドスト帝国で貰った馬の様子を見る。

 半月近い移動の後だというのに疲れは見せず、毛並みも相川らず素晴らしいもので体調も良好。

 この様子であれば少しは知らせてやってもいいかと思い、街の外周を軽く走らせることにした。


 北方の馬という事も有り鈍重そうな外見だが、その足は優れておりなかなかの速度で一時間もかからずに走り終えた馬をねぎらい、飼育のプロにその後の食事や世話を任せてナルは軽いコミュニケーションをとってから今度は馬車を止めている駐車場へと足を運んだ。


 そこに止められた数々の馬車、以前レムレス皇国へ向かう途中まで同情させてもらったようなに運びに特化した簡易的な物から貴族が町中の移動に使うような実用性を度外視した外観優先の者までそろっている中に、一つだけやけに傷んだものがある。

 ナルが持ち込んだもので、行軍にも耐えられるような剛健な作りであるにもかかわらず雑な作りに見えるのはひとえに組みなおした際にナルが時間を優先して精度を無視したからだった。


 それを【力】のカードを使いながら牽くナルの姿はかなり悪目立ちしていたが、もはや気にするまでもないとそれを馬車の修理業を営んでいる店へと運び込んで、交渉を始める。


「つーわけで、これを一週間で使えるようにしてほしいんだわ」


「そうはいうがなぁ……ここまで適当な仕事をされてると一部は部品を取り換えなきゃいけないぞ。それに車軸が少し傷んでいるのも気になる。車輪事態も無茶な走らせ方をしたせいだろうな、ここに罅が入っているから新しく作り直さなきゃならん。とにかく金のかかる仕事になるぞ」


「間に合うなら、いくらでもとは言わないがそれなりの額は出せるぞ」


「ほう、貴族のぼんぼんかい? 」


「いんや、ちょっと懐が温まってるところでな。金はあるに越したことはないが使い時を間違えるつもりもないんだ」


「そうかい、なら前金を貰おうか」


 その言葉にナルは懐を探り、そしてしまったという顔をして見せた。


「おい、まさかやっぱり金はないなんて言うんじゃねえだろうな」


 ナルの表情を見ていた職人は、無駄な時間を使わされたのかとこめかみに青筋を浮かべて威圧する。

 とはいえ、これはナルの悪い癖である。

 真面目な人間程からかいたくなるという性分が滲み出てしまったのだ。

 ここ半月ほどは人とのコミュニケーションをとっていなかったため、ついやってしまった悪戯である。


「あぁ金の持ち合わせそのものは少なかったんで現物をな」


 そう言って取り出したのは馬同様ドスト帝国で手に入れた宝石だった。

 普段この手の物々交換はどの店でも大抵の場合断られる。

 宝石の鑑定は専門の人間が行わなければ偽物をつかまされる可能性が高く、また偽物と結果が出ても相手が本物を渡したのにお前がすり替えたのだろうと言い張れば国の人間を交えて双方どちらが嘘を吐いて詐欺を働こうとしているのかという事態に発展しかねないからだ。


「兄ちゃん、わかって言っているのか? 」


「あぁ、ただの冗談だ。この通り金を払う宛てはあるから安心して作業に取り掛かってくれってことだ。あ、これ前金な」


 そして宝石とは別に革袋に詰め込んだ紙幣を差し出す。


「俺は長くこの仕事を続けているが、あんたほど面倒な客は初めてだ」


「そうかい? 結構いると思うぞ」


「いてたまるか」


 至極まっとうな事を言われてしまったナルは、しかしそれでも笑みを絶やさずにどうにか目途が立ったと仕事を全て任せる事にしたのだった。

 こうしてナルが真っ先に行わなければいけない事は片付き、あとは今後の路程を考えて水や食料を購入するばかりである。


 女性陣と違ってある程度適当な準備をしておけば旅先で困る事もないナルは安価な衣類や下着を買いそろえて、ついでのように煙草屋でいつものザクソン産を買い込み、そして貰ったはいいがとにかく目立つという理由からあまり使う事の無かった煙草ケースの代わりを見繕っていった。


 そのついでに鍛冶屋により、グリムとリオネットから預かっていた剣の研ぎなおしを依頼して事は万事順調に進んでいった。

 剣の類は既に一度ナルがいない間に研ぎなおしがされていたが、ここ数日の事業の関係で使う事があったため痛みやゆがみがないかを確認してもらう意図も含めてのものだったが、以前持ちこんだグリムの事を覚えていた鍛冶師に盗品ではないかとまで疑われたのは流石に苦笑を隠せなかったのだった。


 今ではグリムも有名になったものだと、初めて出会った時の事を思い出しながらも予め預かっていた書状一式を見せて後日当人を連れて取りに来ると武器を渡してそのまま適当な店を冷かして言ったナルは最後にせっかくだからと二人の様子を見に行った。

 昼間、人だかりのできる自由市ではあるが人相の悪い人間が集まっている場所を探すとすぐにそれを見つける事ができた。


 一人の若い兵士に密着して剣の握り方を教えるグリム、同じようにして兵士の身体に触れながら構え方を仕込むリオネット。

 その様子を目の当たりにしてナルは兵士たちの表情に着目した。

 グリムとリオネット、どちらに教えてもらっている兵士も鼻の下が伸びているのである。


 特にリオネットが教えている方の兵士は当人が気づかないのが不思議なほどにデレデレとした表情を見せ、本人はばれていないつもりなのか時折胸元に目線を向けている。


(まぁ、そうなるよな)


 同じ男として深く共感したナルだったが、遠巻きにその様子を眺めていると兵士の指導が一通り終わったのか次の者を呼ぼうとしたグリムの視線がナルと合った。


「ナル」


 思わず漏らした言葉にリオネットも反応を示して、ナルに向けて手を振ってきた。

 こちらも初めて会った時の険悪な雰囲気を思い出して苦笑する事になったが、手を振り返したナルに嫉妬と憤懣の込められた視線が集中する。


「ちょいと悪いね、邪魔するよ」


 そう言いながら人垣をかき分けて前に躍り出たナルはグリムの頭に手を乗せてぐりぐりとなで回す。


「繁盛してるじゃないか、何割かは密着目当てみたいだけどな」


「密着……? 」


 自分の胸をさすりながら聞き返すグリムに対して、リオネットは周囲の男共ににらみを利かせる。

 性癖に疎いグリムは気づかなかったようだが、リオネットは流石に慣れているのか薄々感づいていたようである。

 ともすれば、その怒りを込めた視線は友人であり幼児体系のグリムと密着したいという邪な感情を友人へ向けている誰かへの怒気だろうか。


「はいはい、リオネットも睨むな。男は所詮そんなもんだって前にも言っただろ」


「だがな……」


「変態とか特殊性壁なんてのは珍しくないんだからいちいち目くじら立てる方が面倒だ」


「むぅ……しかし友人がそういう目で見られるのは気分が悪い」


「じゃあ俺に向けられてる視線に関しては? 」


 嫉妬と憤慨に咥えて殺意まで見え隠れする視線について言及したナルだったが、リオネットの反応は冷たい。


「私は君が男色家や暗殺者の毒牙にかかろうとも心配することはないぞ」


「ひっでぇなぁ」


「君ならその手の人間を見抜いて返り討ちにするのは朝飯前だろう。だがグリムは無垢だからな、君をはじめとする男共の毒牙に触れさせたくないのだ」


「あ、そう言う意味なら納得だ」


 リオネットが言わんとすることを察してナルは手を叩いて同意を示した。

 グリムは感情の機微に疎いが、決して見抜けないわけではない。

 あくまでもグリム自身が理解できている感情に関してならば人の三倍、殺気に限定すれば10倍以上の鋭さを見せる。


 しかし男女の如何に関わる物事や自分に理解できない物に関しては人の三倍鈍い。

 あわよくば、という邪な願望を持つ者が戦場に立つというのは死に場所を求めていたグリムからすればある意味では最も遠い存在であるからだ。

 そういった手合いは大抵の場合『生』に執着しており、生きている限りは欲望に忠実であれという考えを抱いている者が多い。

 対してグリムが戦場に求めていたのは『死』であり、思考の向いている先は真逆だった。


「まぁその辺りはリオネットが目を光らせておいてくれ」


「うむ、任されるとしよう。しかし……こういっては何だが君は手伝ってくれないのか? 」


 買い出しをするにしても時間はまだ有り余っているだろう、と付け加えたリオネットにナルは休憩用に用意されていた椅子に腰かけながら煙草に火をつけて答える。


「だって、男に密着されても誰もうれしくないだろ」


 そんな言葉に、数々の悪感情を込められていた視線にわずかながらに同胞を見るようなものが混ざった。

 ちょろい、という内心を煙草の煙で隠しながらナルは話を続ける。


「それに俺剣は向いてないから兵士に教えられることはないぞ」


「それは、違う……」


 しかしナルの言葉を遮ったのはグリムだった。

 同時にいつの間にか手にしていた謎の武器、以前レムレス皇国で作った手加減をする際に使う炭を塗りたくった布を巻き付けた棒、通称模擬戦棒を手にナルを両断しようと振り下ろしたそれは、ナルの髪に掠める事もなく今まで腰かけていた椅子を左右に切り分けた。


 それが剣ならば当たり前の光景、刃引きされた物であれば達人技、木の棒であれば神と称されるレベル、ならばそれに布を巻き付けた物体で木製の椅子を切断するグリムの腕前はどれほどのものなのか。

 同時にそれを難なく躱して見せたナルはいったい何者なのかという好奇の視線が向けられるのだった。


「危ないな」


「ナルなら、避けられると、思った」


 そんな軽口を叩きながらもグリムは一撃必殺の剣戟をナルに向けて放ち、それを柳のように躱すナル。

 あまりにも卓越した技術は時に人を引き付けるものであり、今まさに命のやり取りをしている最中だというのに聴衆にはその光景が空中で舞い踊る蝶のようにも見えていた。


「ん、やっぱり、勝てない」


「グリムは剣筋が素直だからな、割と避けやすいよ」


「素直……」


「ちなみにリオネットの剣筋は戦車に乗ってるときはともかく平時は雑、だからこそたまに読み違えると危うい場面も有ったりする」


「……勉強に、なる」


「そうかい、じゃあ頑張ってくれ」


 そう言って再び雑踏に紛れようとしたナルの腕を、誰かが掴んだのを感じ取って足を止め視線を向けた。


「あの、技術指南をお願いできませんか」


 一人の若手兵士がそんな言葉を口にした。

 同時に何人もの兵士たちが俺もと声を張り上げる。

 全体の三割程だろうか、あくまでも一部だが本当に強くなりたいと願い下心を抜きにこの場に来た者もいたのだろう。

 あるいはその願いが下心を凌駕した者だろうか。


「……わるいけどパス、そこの二人に教わった方がよほどタメになるし役得もあるし面倒くさい」


 冷たく切り捨てるように言葉を紡いだナルは、煙草を咥えたまま再び人垣を通り抜けた、


「じゃ、あとは頑張ってくれよお二人さん」


 そんな言葉を残して、自由市を後にしたナルは昨晩宿泊した安宿に戻り、道中で購入した酒を舐めるようにして楽しんでいたのだった。

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