一方その頃
ナルが裁判を受けている頃、一方のグリム達と言えば。
「……やる事ないな」
「うん」
牢獄にいた頃のナル同様暇を持て余していた。
如何せん、2人はドスト帝国で大暴れして、レムレス皇国、リオネットの故郷では騎馬街から狙われるという危うい身分だった。
その為大っぴらに行動を起こせる身ではなく、更に持ち出せたゲームの類も全て飽きていた。
新しく何かを買い足そうかという話にもなったが、ナルとの合流がいつの事か分からない以上無駄な出費は抑えるに越したことはないというリオネットの生真面目な意見により暇つぶしの手段は限られていたのである。
結果として二人は各々部屋の中でできる暇つぶしに没頭することになったが、街の図書館で借りる事の出来る本を読み漁る程度の事しかなく、元々その手の暇つぶしになれていない二人。
肉体を動かす事こそを生業としている身では読書という文字を追う作業は不向きだった。
それでもリオネットはどうにか自分に合った書物を探し当てて時間を潰すことはできたが、グリムは日頃本と触れ合う機会が少ない。
文字を読むことも、傭兵として働いていた頃に書面を何枚か目に通す程度しかしていなかったため世間的に娯楽小説と呼ばれるものであってもそこに書かれている物語の内容を十全に理解することができなかったのである。
事実は小説より奇なりというが、まさしくグリムの体験はその言葉通りの物であり信じ難い経験を山ほど摘んできた身。
今更その程度の読み物で満足することはできなかった。
「今後こういう時間も増えてくるだろうからグリムも慣れておくべきだと思うのだが……やはり難しいか? 」
「ん、性に、合わない」
「だろうな……しかたない、気晴らしに街にでも出てみるか」
「そうする……リオネットも? 」
「本の返却があるからな」
こうして二人は平和という名の暇な時間に押しつぶされそうになるのをこらえるのだった。
ナルとの合流まであと一か月。




