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ひと悶着過ぎて

 旅支度の為の買い物に出た二人は、早速問題に直面していた。

 まず衣類、ナルはそれなりに頑丈で汚れの目立たない物を選ぼうとしていた。

 しかし途中で、見た目はともかくとして一応は成人女性であるグリムを見てその考えを変えようとしていた。

 過去、恋仲に有った女性から旅とはいえ身なりには気を使わなければいけないのが女性であると物理的に教え込まれた経験からくるものだったが、当のグリムと言えば動きやすさを重視した服を選んでいた。

 ただ、選んでいた服はどれも高級品であり熟練の冒険者が着る物ばかり。

 長持ちするから悪い選択ではないと口を挟むことなく眺めていたナルだったが、グリムはたった一着しか購入しようとせずその事について言及すれば使い潰して新しく買いなおせばいいという冷めた答えが待っていた。


「いや、高級品を使い潰すなというのもそうなんだがな。汗だの土だので汚れるんだから着替えは何着か持っていた方がいいって言ってんだよ」


「不要、汚れたら川で洗う」


「素っ裸でか? 」


「当然」


「ざっけんな、そんな場面誰かに見られたら俺が本当につかまるわ」


「……でも無駄な出費は避けるべき」


「俺が捕まらないってだけでも十分無駄じゃねえよ」


 この調子である。

 装飾品を身につけたいという訳でもなく、更に化粧品などにも目をくれないグリムに対してナルの女性観という物が音を立てて崩れていった。

 そしてどうにか予備という事で着替えを何着か購入させるに至ったナルが次に苦悩したのは食料品だった。

 旅の間新鮮な野菜を持ち歩くことはほぼ不可能である。

 大手の商人や貴族のように移動式食糧庫を保持している、あるいは魔術師のように自前で冷凍保存ができる者がいない限り野菜はピクルスなどの漬物や干し野菜に限定される。

 そして旅の道中如何に美味い食事をとれるかはモチベーションに、モチベーションは生存率に直結している。

 故にナルは出来のいい、多少値が張っていても丁寧に仕上げられたものを吟味していた。

 その横でグリムは出来の悪い干し肉を大量に購入しようとして止められていた。


「そんなもん日持ちしないわ不味いわで最悪だっての、ほれこいつを見ろ、すでに腐りかけだぞ」


「食べられるならどれも同じ」


「同じじゃねえよ不味い飯で元気が出るわけねえだろ、そんなだから貧相……」


 そして威圧されていた。


「悪かった、剣に手をかけるのやめてくださいマジで」


「わかればいい」


 こうして食糧、水の確保も完了し、最後に武具の調達となった。

 これが、これこそがナルを大いに悩ませることになった。

 グリムの要求があまりに高すぎたのだ。

 もとより武具を求めるのは傭兵、あるいは街から街へと移動を繰り返す商人、そして衛兵や私兵と言った者達だ。

 彼らの大半は日頃から鍛えており、相応の筋力、体格を有していた。

 対してグリムと言えば、少し大きな犬の手綱を持てば引きずられる程度の筋力、子供と見紛う体格である。

 当然のごとく扱える武器は限られており、軽量のレイピアやナイフを勧められたが彼女が選んだのはロングソードだった。

 振り下ろせばグリムの身が反動で浮き上がりかねない武器をわざわざ選んできたことについて、ナルは疑問をぶつけずにはいられなかった。


「だって、一番出来がいい」


「出来が良くても使えなきゃ意味ねえだろ……」


「大丈夫、殺すためならどんな武器でも同じ、使える」


「否定できないのが恐ろしい……じゃなくてだな、食料とか衣類は適当だったのに武器だけは最高品質を一

発で選び抜いてくるってなんだよ……」


「武器の良し悪しこと、死なない秘訣」


「……死にたがりが生きるコツをつかんでいるのは皮肉だよな」


「あ……」


「気付いてなかったのかよ、我ながらカードの力って怖いなぁ……」


 そんなものを身に宿していたという事態と、そして敵を殺すことに関しては手を抜くことのない、否、抜くことのできないグリムと死神の相性の良さに身震いしながら結局そのロングソードを購入することになった。

 ただしグリムが腰から吊るせば地面に跡を残しながら進むことになり、背負えば抜くことができないので結局ナルが持つことになった。

 元々グリムが所持していた武器数点とナルが所持していたサバイバル用のナイフ等は研ぎなおしを依頼して翌日の受け取りという事になり、2人は適当な宿で身を休める事となり、ナルもようやくこの無意味な疲労から一時とはいえ解放されると安堵した。

 それが間違いだった。


「一泊、一部屋」


「いや二部屋だろ、自分の分だけじゃなく俺の分も合わせて頼んでくれよ。二度手間で宿にも迷惑がかか

るだろ」


「……? 二人で一部屋」


「まてまて、却下だ阿保たれ。いいか、俺達男と女、ロリだろうが何だろうが別の部屋だろ常識的に考えて」


「……ロリって、言った、か? 」


「何度でも言ってやるわ! 威圧で怯むと思ったら大間違いだぞ。少なくとも俺はロリコンじゃねえんだっての」


「二度も言った……一昨日は一緒の部屋だったのに」


「あれは事情有ってこそだろ」


「昨日だって一つ屋根の下、寝かせてもらえなったのに……」


「衛兵の詰所という屋根の下でな、一晩中二人揃って取り調べ受けてたからな」


「そもそも二部屋もとるなんて無駄、出費は抑えるべき」


「最高級の剣買って高価な衣類数着買ったからね、財布がさみしくて当然だ」


「それ、半分はナルが原因」


「ちくしょう、このロリっ子すげえめんどくせえ……もういいや、ベッドが二つある部屋頼む……食事のサービス頼むぞ。あと酒、今日はしこたま酔いたい」


「酔った拍子に何をするつもり……? 」


「なんもしねえよ! 疲れたから酔いつぶれて寝たいだけだ! 」


 そう叫ぶナルを無視して台帳に諸々を記入していた宿の主人は、実は大物なのかもしれない。

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