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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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覚悟

 それからナル達は数日の間にジェネの治療を施し、また拷問実験も続け日ごとに【節制】の副作用の有無を確かめていった。

 結果、副作用は存在せず毒による損傷であろうとも治癒の見込みはあるという結論に達し、またローカストは毒の成分の抽出に成功して解毒剤の生成までも終わらせていた。


 ジェネはこの数年に及ぶ体調不良は何だったのかと思いながらも、自らの足で外に出られるようになった喜びをかみしめ、同時にナルとローカストに対する感情を上方修正したのだった。

 とはいえ、元々二人に抱いていた感情が最悪であったため普通に接する程度までしか回復していない。

 それでも何ら問題ないというよりは、そもそも気にかけていないナルとローカストは気にするそぶりも見せることなく、特にナルに至ってはこれでジェネの前でも堂々と煙草を吸えると治療用にあてがわれていた部屋を紫煙で汚していた。


 それが原因でナルに対する感情は再び下方修正されることになったが、ナルの目的はそこにあった。

 あれに比べればローカストは変人だがまだましという思いを抱かせることで今後の関係強化が図れるというもの。


 また皇帝はある程度回復したころ合いにカードの話をしたのだろう。

 ナルは無事【女帝】と【皇帝】のカードを二人の死後に受け取れるという譲渡契約を結ぶことができ、ローカストは数か月は問題なく毒に対処できるだけの解毒剤を用意してレムレス皇国へ後継者探しに向かう事ができた。


 連絡要員としてナルは牢獄の調達屋を使う事にして、彼にポーンの駒を与えて今後ローカストを呼び出す際には彼を通さなければいけないように仕組んでいた。

 調達屋は情報を売れば一時的な対価を受け取る事ができるが、長い目で見れば仲介役を続けた方が得だと吹き込んだため、当面は問題ないだろうと判断しつつ金の眼にも下級の組織員を間に挟ませ組織の一網打尽を防がせていた。


「で、約束の馬と宝石よこせ」


 一通り事が片付いたナルは既にやる事も終えたと、一応グリム達にはさらに半月ほど合流が遅れる旨の手紙を送っていたが、それでも不安は残るため早々に合流したいという一心から礼儀の一切をかなぐり捨てて当初の要求通り馬と金銭に変えやすい宝石を肯定に要求していたのである。

 ローカストへの対価は別途用意されるという事になっており、少しでも出し惜しみしたらどうなるかというのを過去の事例になぞらえて説明した所【女帝】のクインは言うとおりにしなければ事例と同じ末路をたどると助言を加えて結果的に全てが丸く収まったのだった。


「もう行くのか」


「あぁ、待たせてる奴がいるからな」


 それはグリムとリオネット、そしてトリックテイキングの連中を指していた。

 まずは二人と合流してから、再び北を目指す。

 その際にミハシリ王国にも立ち寄って、グリムが言っていたカードに関する心当たりとやらを探ってからドスト帝国の北にある近辺最大の宗教国家、ハイエロ法国へと向かう予定である。

 どこでトリックテイキングが何を仕掛けてくるか分からない以上単独行動は、いやグリム達を放置することは極力避けるべきだと考えていた。


「そうか、まずは宝石の方を用意した。検めてくれ」


 差し出された革袋、両手に収まりきらない大きさのものだが持つだけなら片手でも十分なそれは開いてみると多種多様な宝石が詰められている。

 それらを一つ一つ手に取り、光にかざして検めるナル。

 どれもがそれなりに上等、しかし手に入れようと思えばそこそこの金額で手に入れられる程度の、換金するにはちょうどいい質の物だった。


 その中でも特に価値があるであろうエメラルドは職人がどれほどの手間ひまをかけて加工したのだろうかと、鑑定眼に自信のあるナルでさえも計り知れない価値を秘めていると思わせる物があった。


「おい、これは流石に売るのに苦労しそうなんだが」


「選別である」


「選別って言われてもな……使い道のない物を渡されても困るぞ」


「使い道なぞ考えればいくらでもあるであろう。国というのは所詮人の集まり、特に頭の多い国であれば俗物もいるという事だ」


「なるほどね……まぁそう言う事なら有り難く受け取っておこうか」


 遠回しに、どこぞの国に対して賄賂として使えという意味合いを含ませての選別である。

 頭が多い国とは民主制を取っているアルヴヘイム共和国等の国を指しているのだろう。

 つまり皇帝には、カードに関する心当たりがあると暗に伝えているのだった。


「で、詳細までは教えてくれないのか」


「ミストレスの西にある街、そこに一人変わった者がいると聞いている。関わるもの皆全て例外なく身を崩す魔性の者だそうだ」


「へぇ……崩壊ね……」


 その言葉を口にしながらナルは一つのカードを想像する。

 崩壊や破滅を意味するカード、【塔】。

 それが指すところは何かを考え、そしてすぐに思考を切り替えた。


「馬は外か? 」


「然り、私達は立場上見送る事はできぬが孫を救ってもらった事、国を救ってもらったことに最大限の礼をここに」


「いらねえよ。もう形で貰ってる」


「そうか、では門番に声をかけると良い。希望に沿った馬を用意してある。選別ついでにこの先必要な食料や水は積み込んである」


「そりゃどうも。正直に言って助かる」


 馬を手に入れても直ぐに発てるわけではないと考えていたナルだったが、この様子ならば金の眼に挨拶を済ませればすぐにでも解体して隠した馬車を回収してリオネット達に合流できるだろうと考えていた。

 善は急げというが、この場合は思い立ったが吉日であろうか。

 敵の動きが読めない以上急ぐに越したことはないと城を後にしようと皇帝に背を向けてから、ふとある事を思い出す。


「俺が不老不死って知ってるのはどれくらいいる」


「この国では100人程度の兵士が。他の国まあでは手が回らぬが、帝国内ではすでに箝口令を出してある」


「手の早い事で……まぁバレても問題はなくなったんだがな」


 今後、身を隠す事ができない以上ナルは公に動けない。

 そう相手が読む可能性を考慮して、あえて大々的に動くことを決めたナルは既に能力も不老不死も隠すつもりはなかった。

 後は野となれ山となれ、ナルを巡って争いが起ころうとも、ナルの身柄を得ようとする者が現れようとも、それはもはやどうでもいいのだ。


 全てを薙ぎ払い、全てを潰して先へ進む。

 敵対するのであれば迷わずに殺す。

 この数日間でナルはそれらの覚悟を終えていた。

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