???
「どうであった、あれは」
どこかの玉座で低い声が響く。
「なかなか、と言った所でしょうか。浸食は進んでいるようですが外見に変化はありませんでした」
それに応えるのはナルに殺されたはずの男、全身に縄を巻き付けたハングドマンだった。
死んでいたことはおろか、傷一つ見せない生前のままの姿である。
否、生前というのはおかしな話となってしまうだろう。
こうして、ハングドマンは確実に生きているのだから。
「ふむ……もう少し、茶々を入れてみる必要があるようだな」
「えぇ、それに関しては面白い駒が一つ手に入れられそうです」
「ほう? 貴様がそこまで言うとは、よほどの駒であるか」
「ミハシリ王国、そこで新たな英雄が生まれたという報告を受けました」
ハングドマンの言葉に、玉座に腰かけた男は小さく笑みを浮かべる。
そして堪え切れないと言った様子で、喉を鳴らし、しまいには大声をあげて笑い始めたのであった。
「それは実に面白い。あてがえるか? 」
「この世に降り立ったばかりの小娘一人であれば、誘導もたやすい事です」
「あわよくばミハシリの切り札を削り、あれは蝕まれる……フライ、ハングドマン、貴様ら二人にその役目を与えよう。マギカとジャッジを呼び戻し、その小娘と接触させ手を組ませるのだ。それから……せっかくだ、これをその小娘にくれてやれ。そうすればあれとて無視することはできまい」
そん言葉と同時に男の胸から光の球が沸きだし、ハングドマンの胸の中に吸い込まれていった。
カードの譲渡、その一端を目の当たりにしてもこの場にいる者はだれ一人驚く様子は見せない。
既に周知の事実、慣れ親しんだ光景の一つだからだ。
「承知いたしました。して、帝国はいかがなさいましょう。潰すのであれば……」
「捨て置け、今後はあれの枷として役立ってもらうためにも今は残しておく方が面白い」
この場に存在しないはずのチェスの盤面を見つめる男は、着々と駒を動かしていく。
状況は敵が有利、しかしこちらの策に気付かなければ遠からず終局の見えるそれに、再び笑みを浮かべるのであった。




