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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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旧友

「さて、と……まずはどうするかな」


「自分の部屋でやってくれない? 」


 下水道に戻ったナルは金の眼の部屋に押しかけてくつろいでいた。

 ナル専用に固執が用意されていたにもかかわらずである。


「そういうなって、相談と頼み事もあるからこうして来ているんだよ」


「あら、お仕事? お金はあるの? 」


「後払い、そこそこの宝石で払う」


「ふぅん……まぁいいでしょう。それでどんなお仕事? 」


「医療器具一式、この国で用意できる最上の物とアルヴヘイム宛の手紙配送をもう一回」


 医療器具に関してはすぐに欲しいが手紙は明日か明後日に出せればいいと捕捉を加えながら答えたナルに、金の眼は顎に手を当てる。


「現皇帝の孫、ジェネ嬢に関する事かしら? 」


「正解だ、どうにもその嬢ちゃんの治療をする事になって色々必要になってな」


「貴女の事だから見捨てると思っていたんだけどね……」


 できればそうしたいと思っていたナルだが、今後の為には治療を施すのが最善策だと考えたのだ。

 そしてナル自身は気づいていない事だが、ジェネの姿が一人の少女と重なって見えたという理由も存在する。

 歳不相応の発育に青白いまでの肌、羊毛のように触り心地のよさそうな髪に、生きる事をあきらめた瞳。


 それはグリムと初めて出会った時に抱いた印象と全く同じものだった。

 ナルの信条は「死にたがりには生を」である。

 それが突き動かしたというのが最大の理由であり、また旅の仲間として気を配っていたグリムと同じ印象を与えてきた少女という一点からその思いはさらに強まっていた。


「どうにも、そんな気になれんかった」


「そう、明日までに用意できればいいのかしら? 」


「できるのか? 」


「この国でそれなりの成功を収めている人間は、何かしらの形で裏に関わっている者よ」


「……帝国、本当に遠からず滅びるんじゃねえかな」


 想像以上に内部腐敗が酷いのだろう。

 あまりの惨状に今後の行く末を想像したナルは不死を解除できてもこの国には近寄らないでおこうと決意したのだった。


「とりあえず最低限でもいいから用意してくれ。手術関連の道具は不要だけど、あれはなんだかんだで武器にも使えるから持っておきたい」


「あなた武器いらないじゃない」


「合法的に武器を持ち込めるって素晴らしいだろ」


 男の浪漫だ、と適当に嘯くナルを訝し気に見つめる金の眼だったが、腹芸で勝てる相手ではないと視線を逸らして部屋の外で待機していたならず者の一人に指示を出していた。

 その際に前金と準備金を握らせているのを目の端で捕えたナルは、ため息を吐く。

 たとえ上の人間からの勅命でも金は必要であり、金の切れ目は縁の切れ目と言わんばかりの者ばかりが集まっているようにも見えた。

 それは裏を返せば金払いさえよければいつでも敵に裏切る可能性があるという事であり、懐に抱え込むには危険ではないかと感じていたのだった。


「あんなのばかりでいいのか? 」


「いいのよ、いつでも切り捨てられるし重要な情報はここにあるんだから」


 そう言って自分の頭を指さした金の眼。

 彼女は書籍の類や世間で出回っている記事の大半は下水道に設けられた書庫に保管していたが、金銭と交換できるほどの情報や外に漏らす事の出来ない情報は全て記憶して、記録には残していなかった。


「別にいいけどな、それお前が死んだら組織崩れるから後継者用意しとけよ? 」


「なかなか、いいのがいないのよね……誰か心当たり無いかしら? 」


「あー……レムレス皇国でそれなりに使えそうなのは一人いたけどクイーンの駒を任せられるかといわれると微妙だな」


 いつぞやの薬売りの女を思い出したナルだったが、自分の組織で幹部として動かせるかとなると話は別だった。

 したたかな女だったのは覚えているが、如何せん蜘蛛のような性格をした女である。

 下手をすれば組織を丸のみにされるか、最悪の場合道連れに周囲のなにもかもを巻き込んで組織ごと自爆しつつ自分だけは逃げ延びるような相手である。

 その事を説明すると金の眼は、新しいおもちゃを見つけた子供のような瞳でナルの話を聞いていた。


「いいわね! その子! 戦車街にいるのね! それで表の顔は自由市のパンケーキ屋さん! ナルちゃんに一服盛って一泡吹かせるなんて大層なたまじゃないの! 」


「お、おう……ただ教育には時間がかかると思うぞ? 」


「時間なんてのはね、いくらでも作れるのよ。お金があればね」


「うわこわ……あまり手荒な事はしないようにな? 」


「もちろんよ、優しくじっくりと手ほどきしてあげるつもりだから安心して頂戴」


 安心できないなぁという言葉を寸前で飲み込んだナルは煙草の煙を吐き捨てて、計画書を鬼のような速さで書き上げていく金の眼を見つめるのだった。


「その子の特徴は! 」


「えーと、ブロンドの髪で胸はでかいな。夜中に治安の悪い場所で違法薬物の売買を持ち掛ければそのうち釣れるが、屈強な男を引き連れてるからそこら辺の奴を適当にあてがえば翌日には牢獄行きになる」


「薬物売買を餌に賞金稼ぎね。ますます欲しい人材だわ! 」


「昼間はさっき言ったが自由市でパンケーキ焼いてるが、そっちはあまり宛にならん。あと戦車街を取り仕切ってるエコーって軍人がやばい奴だから気をつけろ。正直俺でも手に負えない腹黒い男だ。金髪でイケメンの軍人、普段は身なりを整えているが平民にも見える服装だ。敏感な奴なら一目見ればやばいってわかるからそういう類のを連れて行くといい」


「ふむふむ……ナルちゃんがそこまで言う相手か……となると組織一丸で動かすのは危険ね」


「だな、最悪一網打尽だ。戦闘力もずば抜けてるからここにいる連中程度じゃ全員瞬殺されかねない、と俺は思うよ」


 エコーの戦力がどれほどのものなのか、実際に見た事のないナルは又聞きの話を聞かせるしかないのだ。

 それでも、エコーという男は底知れない何かを有しているのは間違いない。

 少なくとも【戦車】のカードさえも付属品程度にしかならないのだ。

 聞くところによれば悪漢の中に放り込まれた時は足の健を切られていたという。

 立場上裏組織の人間からは相当恨みを買っているだろうに、その状況で生還できるだけの実力者でもあるのだから性質が悪い。


「そうなると最小限の人数、最大限の戦力……ナルちゃん? 」


「残念、俺は今忙しいの。皇帝のお孫さん治して仲間拾って戦車街に戻る時間はないよ」


「そうよねぇ……しょうがない、ローカストに動いてもらいましょうか」


 ローカスト、それはナルの持つチェスの駒同様特殊な駒として通常のチェスで使われることのない物であり、組織内ではキングの直属として動く幹部の一人である。

 命令権はナルにあるため、結果的にナルの署名などが必要になるがそれ以上の問題が一つ残る。


「あいつがどこにいるか知ってるのか? 」


「知っているというか……半年くらいここで引きこもってるわよ。自分の研究室に」


「まじかよ……挨拶しておくか。そうすりゃ話も早いだろ」


「えぇ、お願いするわ。部屋はこの隣、ナルちゃんの部屋とは反対側だから」


「二つお隣さんだったのか……本当に気づかなかった」


 気を抜きすぎていたかなと自嘲気味に笑うナルは、善は急げと煙草を揉み消して部屋を出たのだった。

 すぐ隣の部屋にいる、もう一人の幹部に会うために。

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