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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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作戦開始

「ナル、大丈夫……? 」


「あぁ……少し考え事してた」


 ナルは今後の行動についてどうするべきか、何をすればいいのかをひたすら考えていた。

 このままハングドマンの言葉通り北を目指すべきだろうか。

 それは当初の予定通りの行動だが、しかし問題が残る。

 なにせ敵の言う事を鵜呑みにしなければいけない、そして北で松という言葉からも敵が待ち構えている可能性は大いにある。


 グリムならば、それほど問題は無いだろう。

 しかしリオネットはどうだ、彼女の能力は戦車が有ってこその物、馬車という代用品すら使えないこの状況に加えて戦場となる地が入り組んだ街中や湿地帯であったならば、非常に言いにくい事ではあるがリオネットは足手まといとなる。


 グリムにとっても数少ない友人であるリオネットを危険に巻き込むのは気が進まない。

 では他の国に逃げるか、おそらく三人ひと固まりに動けばレムレス皇国に戻った時同様手荒い歓迎が待ち構えている事だろう。

 だからナルは一つの結論を出した。


「リオネット、おまえちょっと脱げ」


「ほう……君の目的については知っていたが、私程度が殺せるものなのか? 」


 ナルの言葉に怒りと殺意を隠そうともしないリオネットは、しかし自分以上の殺意を放つグリムを見て多少の落ち着きを得ていた。

 人間自分よりも感情を露にしている者を見ると不思議な事に平常心を取り戻すのだ。

 端的に言うならば、リオネット以上にグリムがやばい事になっていた。


「落ち着けお前ら、鎧を脱いでそこら辺の死体に着せろって意味だ。それで二人はアルヴヘイム共和国に行って待ってろ」


「……ナル、なに、する気? 」


「単身敵地に乗り込む気だ。面倒な事になったからちょっと本気を出そうかなと思ってな」


 ナルの本気、という話をすれば今まではどうだったのかという話に繋がる。

 言うまでもなくナルは本気を出していた。

 それは例えば【力】だったり、【悪魔】だったりと必要な場面で出し惜しみをしない戦い方から、相手の出方をうかがいつつその心境を見抜く眼力。

 全てにおいてナルは本気だった。


 とはいえ、だ。

 ナルの本質というのはそこに無い。

 どこかでカードの力は仮初であり、自分の本質とは違う所にあると感じていた、あるいは考えていたナルにとって本気で対応するというのは自分の全てを賭けるという事である。


 元々一人で旅をしていたナルは、仲間を得て、そして失い、以来人と手を組んで行動するという事は極端に少なくなっていた。

 結果的にだろうか、おそらくはグリムもそうであるが、誰かと肩を並べて戦うという事には比較的不慣れである。


 故にナルの言う本気というのは、今持っている7枚のカード全てを失うとしても敵地で相応の情報を得る、そのために全てを投げ打つ覚悟を決めるという事にあった。

 それに二人を巻き込むのは、ナルの信条に反することになる。

 加えて言うならば敵陣に乗り込みながら二人を守り切る自信はナルの中に存在しなかった。


「とにかく俺は北へ行く。あの男からの遺言に従ってやろうとかそういうつもりはないが、それが最善策だと踏んだからな。それで二人はここで討ち死にした事にして、後日共和国で落ち合う形にして一度別行動をとる。俺はその際に捕らえられたという事にするわけだ」


「……私達は君にとって足手纏いという訳か」


「リオネット君、あえて口にしなかったことをわざわざ言葉にするなんて無粋じゃないかね? 」


「察しの悪い友人のためにもこういうのは言葉にした方がいいと思ってな」


「お優しい事で……まぁ事実、俺は二人を守りながらどうこうってのは難しい。これから俺がとる手段じゃ武器も持ち込めないからな。グリムも戦えず、リオネットは当然邪魔になるわけだ」


「突っかかる言い方をしないでくれ、必要な事だったのだから」


「これからのこと考えると憂鬱でな……すまんな、八つ当たりして」


 素直に頭を下げたナルに対してリオネットは微笑みを見せながら鎧を丁寧に外していく。

 そして草原で昏倒させた兵士たちの中から既に事切れている者を見つけ、何人か吟味していった。

 性別はもちろんの事体格なども気にしながらの物だったため、時間はかかったがどうにか運よく、あるいは運の悪かった帝国軍人がいたというべきだろうか、若い女性兵士の遺体を見つけ出すことができたのだった。


 同様にグリムも細身の男性の遺体を自分の身代わりにすることにしたらしく、鎧も含めてかなりの重量があるそれを引きずってきたのだった。

 その二つの遺体、片方にはリオネットの着ている鎧を着せて、もう一方にはナルの衣類を着せてロングソードを持たせた。


 レムレス皇国に赴く以前グリムが購入した物だった。

 その二つの遺体をいまだくすぶっている炎の中に投げ込んでからリオネットは待機させていた馬から荷物の一部を下ろして、同様に炎の中に投げ込んだ。

 そして二人の人間が乗れるだけの猶予を作ると、そこにまたがってグリムの手を取り後ろに乗せたのだった。


「あぁ、そうだ。グリムこれもってけ」


「これ、は? 」


「睡眠薬、紙に巻いて寝る前に吸いなさい。半年分くらいあるけど使いすぎには注意な。リオネットはちゃんと見張っててくれ」


「ん、ありがと……」


「グリムの健康は私が守らなければいけないのか……任せてもらおう。で、何処で落ち合う」


「ミストレスの街。グリム、あの時に泊っていた宿で待っててくれ」


「あの時……悪魔? 」


「あぁ、合言葉は【愚者】と【悪魔】と【死神】だ」


「ん、覚えておく」


 そう言って駆け出した馬の背に乗る二人を見送ったナルは、適当な兵士を探し始める。

 全員が気を失っており、このままでは何人かが炎に巻かれて死ぬことになるだろう。

 それも致し方なし、というよりは目撃者が減るのは大変結構であり、むしろ望ましいから減らしておくかと【力】を発動して近くにいた兵士から順にその首をへし折り、頭部を潰しと致命傷を与えていく。


 その中でも若い者を何人か吟味して、彼らの持つ剣を自らの四肢に突き立てたのだった。

 これであとどれくらいかはともかく、しばらく時間を置けば目を覚ました彼らは重症のナルを相手にどのような判断を下すか見る事ができる。


 例えば洗脳されていたのであれば、正気に戻った兵士はナルを助けるかもしれない。

 意識を誘導されていたのであれば、それは催眠とは違って術者がいなくとも作用するためナルの捕殺を敢行するかもしれない。


 上からの命令という大義名分があればその確率は跳ね上がる事だろう。

 では、そこでナルがいつも通りの交渉術を使えばどうなるか。

 相手は若手、熟練の兵士達相手や、一部の例外を除いてナルは若僧に舌戦で負けるつもりはなかったのである。


 両手両足に響く痛みに顔をしかめながらも、煙草に火をつけたナルは後はこいつらが早めに目を覚ましてくれればと願う。

 そして、帝都へと護送してくれたら御の字とばかりに作戦を練るのだった。

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