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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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再び叙勲

 さて、無事釈放されることになったナルは再び謁見の間にいた。

 そこにはリオネットとグリム、そして皇帝の4人だけが立っている。

 あちらこちらに激戦の傷跡を残したこの部屋でナル達は叙勲をされていた。

 一連の騒動における立役者としてではあるが、それは表向きの理由であり。


「よって此処に剣戟護衛勲章を授与する……という事でナル坊、代表して受け取れい」


「ちょっ、投げんな爺」


 儀式めいた言葉を紡ぎ終えた皇帝は勲章をナルに向かって放り投げた。

 流石にどうなんだという表情を隠そうとして、しかし隠しきれずに見抜かれているリオネットにはナルと皇帝が同時に同じことを考える。

 若いなぁと。


「して、ナル坊。これは本来であればもう少し早くに渡せるものだったんじゃがこの場で目を通して破棄しなさい」


「ん? ……へぇ」


 勲章とは違い直々に手渡された一枚の書類に目を通したナルはいやらしい笑みを浮かべた。

 そこに書かれていたのは謎の一団に関する情報、おそらくはレムレス皇国が握っている情報の全てだと悟ったのだ。

 その内容はほとんどが不明という物だったが、いくつか有益な情報が混ざっていた。

 また先日遭遇したマギカとジャッジという子供たちについてもいくつかの記述が書き加えられた跡がある。


 例えば南方で起こっている内戦が激化すると予想され、反乱軍と呼ばれる側に強力な魔術師と剣士がいるという事。

 その二人は子供と見紛う外見であり死神が参戦しているのではないかという未確認情報と記されていた。

 しかし死神と呼ばれる傭兵は、この場にいるグリム以外にはいない。

 そして子供で魔術師と剣士のコンビと言えばあの二人以外にはいないとナルは一抹のきな臭さを感じ取った。


 それでもなお今後の予定を変更することなく北上してドスト帝国へと向かう事を決めていたナルは、こちらの手の内が読まれている可能性を考慮する。

 おそらくは内通者の類ではない、密偵のような監視だろうと当たりをつけて煙草に火をつけたついでに受け取った書類にも火をつけた。

 結局一団の名称は不明、しかし人知れずエコーという圧倒的強者を捕らえていたぶるほどの実力者が揃っている。


 おそらくは小規模という予想がでているが結局のところ憶測の域を出ない。

 首領も不明だが、唯一実りある情報と言えたものが一つあった。

 活動時期について明記されていたのだ。

 およそ40年ほど前に、ちょうどナルが【力】のカードを手に入れた前後の頃、その集団が動きを見せたのではないかという事件が発生していた。


 怨恨の線もなければ、通り魔や流れの傭兵の仕業でもない、突然村人の一人が誰かに殺され犯人は愚か容疑者さえも不明のままという不可思議な事件の記録だ。

 曰くその女性は健康体そのもので、病気やケガとは無縁、しかし統率力に優れており実質村の収め役という立場だったそうだ。

 村人全員が女性に感謝しており、村の中での痴情の縺れや怨恨という線は一瞬できえ去ったという程である。


 おそらくはカードの保有者、意味から逆算すれば【節制】のカード当たりの持ち主だったのだろう。

 ともすれば謎の一団の手の内が一枚見えたとナルは、その考えを頭の中に有る戸棚にしまい込む。

 いづれ彼らとは何かしらの形で接触することになるのだ、判断を急ぐ必要はないと考えての事。


「爺、ありがとうよ。良い情報だった」


「ほっほっ、ならばよかったわい。して、これからどうするのじゃ」


「北へ行く、【皇帝】か【女帝】がいる可能性があるからな」


「そうか……では儂が一筆紹介状を書いてやろう。それがあれば面会くらいは通るじゃろうて」


「ありがたいが……いいのか? はっきり言って俺みたいな胡散臭いの紹介したら国の威信とかに関わりそうだが」


「かまわんよ、その程度で揺らぐような国にはしておらぬからな」


「そうか、じゃあお言葉に甘えるとしよう」


 そう言って固い握手を結び、いつぞやのように少年のように笑い合って手を叩く二人の姿にリオネットはこんな光景を作り出せるのは他にいないだろうと不思議な気持ちを抱いていた。

 決してナルがうらやましいという訳ではない。

 むしろ皇帝陛下の友人などという身に余る光栄は面倒事を呼びかねない。


 だというのに、貴族連中がどれほど欲してやまないかを知っているそれを、英雄の血族とはいえ平民、どころか旅人という根無し草のナルがあっさり手に入れてしまった事に対する興味だった。


「そしてグリム嬢や、お主には一つ頼みごとをしたいのじゃよ」


「なん、でしょう」


「ナル坊はこれで随分と危なっかしい性格をしておるでな。その辺りを任せられる奴はそうそうおらん。お主ならうまく手綱を握れるじゃろうて」


「はい……」


 自信なさげに頷いたグリムに、皇帝は笑みを浮かべたままそれでいいと頷き返す。

 そして最後にリオネットの肩に手を置いた。

 皇帝陛下直々に触れられたという事態にリオネットの思考がフリーズする。


「さて、ではリオネット大隊長。新たな任務じゃ」


 そう言ってのけた皇帝の顔は優しい物だった。

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