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「戻ったか……」
どこかの国の玉座にて、一人の男が声を発した。
それと同時に重厚な扉が音を立てることなく開く。
「ただいま戻りましたー! 【太陽】にして【魔術師】マギカちゃんです! 」
「【正義】ジャッジ、帰還いたしました……」
魔術を用いて死地から逃げ帰る事に成功した二人の子供、マギカとジャッジは普段通りの態度を見せながら玉座の前に膝を付く。
「聞いてませんよ陛下! ナル君があんなに強いなんて! 」
「不覚を取りました……【死神】、まさしく名の通り恐ろしい相手でした」
「うむ、まずは報告を聞こうではないか」
ナル達との戦闘について詳しく問いただした男はしばらく何かを考えるようなそぶりを見せた。
それから数秒を置いて再び口を開く。
「御苦労であった。あれは我の想像以上に成長しているようだな……これは素直に認めねばなるまい、誤算だった」
「その誤算で死にかけちゃいましたよ! 本当に相性悪かったです! 」
「であるか、ならばやはり動向を見るべきであろうな……今しばらくのマギカ、ジャッジ、2人には休暇を出そう」
「ほえ? 休暇ですか? マギカちゃんへとへとですけどまだまだ頑張れますよ! 」
元気いっぱいと力こぶを作って見せたマギカだったが、残念ながらその細腕に筋肉の盛り上がりは見られない。
「お主らの出番はまだという事じゃ……しかしただ見守るのも面白くはない、行けるか」
暗がりの中に声をかけた男は、尋ねるようにしてそう言ったが実質的な命令である。
「我らが主のお言葉とあれば何時でも」
暗がりから出てきたのは全身に縄を巻き付けた異様な装束をしていた。
その声も何処か暗いものがあり、マギカが顔をしかめている。
「であるか、では行くが良い。適度に刺激を与えてやれば十分だ。如何せんあの男は……だいぶ腑抜けておるようだからな」
「御心のままに」
「いいんですか? ハングドマンなんか出しちゃって。計画に支障が出るかもしれませんよ? 」
「あれの事だ、上手くやるであろうさ」
「ですか? まぁいいですけどね」
「では二人ともしばしの間休息を楽しむが良い。そうだな……あれが次に向かうのは北であろうから南でも行ってくるといい。海はなかなかに良いところだぞ」
「へぇ、南の海……わかりました! ちょっと遊んできます! 」
「正義の為とあらば……」
そう言い残し二人は部屋を後にした。
後日、南方で発生した内戦が近隣諸国を巻き込んでの大戦乱となりながらも数日で終息し、大海の藻屑となった大量の舟が発見されることになる。
そこには鋭利な刃物の跡と、炭化した人のような影だけが残されていた。




