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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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尋問

「まぁなんだ、あれは英雄の血族の俺を引き入れようとして誠意を込めてお断りした連中がやらかしたテロだよ」


「それで? 」


「それでって、それだけだが」


「ならば貴君は彼らとは敵対関係に有り、皇帝陛下はその巻き添えで命の危機に瀕したと? 」


「大体そんな感じ、たぶん俺に一番ダメージを与える方法として皇帝陛下を巻き込んだんだろ」


「信じられるか! 」


 疲労困憊と言った様子のナルは、その後謁見の間になだれ込んできた兵士たちによって捕縛されることになった。

 グリムも同様、武装解除を命じられて二本の剣を鞘に納めそれを運んできてくれた勇敢な若い兵士へと手渡したのだった。

 それから延々と、夜通しこうして尋問を受けているナルだったがグリムは既に眠りについている。

 薬煙草で眠らせたというのもあるが、その見事な剣技によって兵士たちの心を鷲掴みにしたというのも一因である。


 強すぎる力というのは崇められるか恐れられるかの二択であり、グリムは前者、ナルは後者だったというだけの話しだ。

 そこに兵士たちの命を守ったという事は加味されず、正確には加味されたため拷問ではなく尋問で済んでいるというのもあるが、結局所痛くない懐を探られる羽目になっていた。

 嘘と真実を織り交ぜた話を続けるナルに、尋問官の顔色も優れない。

 今回の強襲でそれなりの死傷者が出ている以上手を抜くわけにもいかず、また皇帝の許しがあったとしても見過ごすわけにはいかなかったためである。


「なぁ俺も疲れてるんだ、ちょっとくらいや済ませてくれよ」


「これほどの事件の中心にいてそんな事が許されると思うのか」


「そりゃまぁ……その通りなんだけどさ」


「そもそも、あの二人は誰だ」


「マギカとジャッジって名乗ってたけど俺は初対面だな。グリムもだろうけど」


「では話の中に出てきたというフライという男は誰だ」


「リオネット暗殺の首謀者」


「尚更怪しいではないか! 」


 あの二人の目的をナルは知らない以上、これ以上の問答は無意味である。

 しかしどのような目的があったにせよナルにダメージを与えるという目的は万全に達せられていたといえる。

 なにせこうして尋問室でタバコを吸う事もできず、先日までの好待遇から一転個室はおろか牢獄という休憩室にさえ入れずにいたのだ。

 その際に所持品の全てを取り上げられてしまい、成す術もなくこうして尋問に素直に応じていた。

 どうにか死守しようとしたタロットカードさえも奪われかけてしまい、それらは厳重に保管されている。


「怪しいと言われてもよう……俺とあいつらがグルだって証拠はないんだろう」


「貴君の無実を証明する証拠もない、むしろ手を組んでいる可能性の方が高いのだ。何度目だこの話は」


「13回目、なぁもういい加減聞くこともないだろ。そろそろ俺に安眠と飯を用意してくれてもいいんじゃないか? 」


「そうはいかん、任務だ」


「その任務とやらはいつ終わるんだ。俺から嘘の自白を引き出したらか? 」


「貴君らが本当に皇帝陛下を救ったとわかったらだ」


「ふざけろ、そんなもんどうやって証明しろってんだ」


「それが証明できない以上、ここに留まってもらうしかない」


 ため息を隠そうともせずに、ついでに欠伸までして見せるナル。

 同時に腹の虫も抗議の声を上げていた。

 その態度が尋問官のこめかみに青筋を立てているのを見ながら、しかし改善するつもりはない。

 皇帝のような毎日腹芸をこなさなければいけない相手や、そもそも相性が悪いエコーと違ってだいぶやりやすい相手だと考えながらこっそり持ち込んでいた煙草に火をつける。

 むろん挑発である。


「それをどこから! 」


「チェックが甘いんだよ、そんなだから皇帝陛下の身に危険が及ぶ」


 そう言って服の裾をまくって見せる。

 カードは存在が割れていたため隠し通せなかったが煙草とライター程度の大きさであれば隠し場所は十分にあった。

 どちらもいざという時に役に立ってくれるからこそ隠していた物達だが、使う機会がないことを祈っていた物でもある。


「くそ、乾燥しすぎてて不味いな……」


「ここは禁煙だ! 」


「知ってるよ、ついでに人殺しも厳禁。なのに侵入者は当たり前のように従業員を殺して謁見の間に入ってきた。これは俺がどうのこうのじゃなくて管理が甘すぎるって話をしてるんだ」


 ナルの言葉に、怒りと動揺で言葉が出なくなった尋問官は口をパクパクと動かしていた。

 金魚のようだとずれた感想を抱きながらも言葉を続ける。


「そもそもこれはそっちの落ち度だ。言い換えるなら皇帝陛下とその客人を危険にさらして? 挙句戦闘は全部客人に投げっぱなし。どころか事が済み次第功労者である俺達を捕まえて尋問、明らかにおかしいだろ」


「だが! 」


「まぁ聞けって、ここで俺達を有罪と見なすのは簡単だがな。このままだとあの連中はまた来るぞ」


「お前たちを助けにか」


 すでに礼節は無くなっている。

 呼称が貴君からお前へと変化している事に当人は気づいていない。


「阿保いえ、俺達を殺しにだ。何人も証言してるだろ、殺す気でやりあっていたと」


「あぁ、お前以外がな」


「俺だって本気だったさ、ただ殺したら面倒になるし裏が取れないから生かして捕まえようと思っただけの事だ」


「筋は通っている、だがだからどうしろというのだ」


「俺達を国から追い出せばいい。皇帝陛下には信頼のおける強者達を護衛に着けて、俺達にも監視をつける。その上で相手が俺達を狙うか皇帝陛下を狙うか、それだけで結果は見えてくるだろ」


「賭け皿に陛下の命を乗せろというのか! 」


「おう乗せろ乗せろ、ついでにその子息やらなんやらも纏めて乗せちまえ」


「貴様……! 」


「更に言うとだ、この国に住む全員の首が賭け皿に乗っている。俺達を解放しなければ全員死ぬし、介抱しても危険は残る。ハイリスクローリターンだな」


「ならば貴様らを殺せば済む話だ! 」


「あ、それは無理だ。あの侵入者二人に手も足も出なかった連中が俺達を殺す? 無理無理、転地がひっくり返ってもあり得ないね」


「ならば……試してみるか? 」


「おいおい、俺に殺人の前科は不要だぞ。流石に殺す相手は選ぶからな」


「ぐっ……」


 唐突に発せられた殺気、ナルからにじみ出るそれに尋問官は威圧される。

 彼とて名誉ある職務についている身であり、また訓練に参加することは無くとも軍に身を置く人間である。

 多少の死地は潜り抜けた経験もあった。

 だというのに、ナルが放つ殺気は死地どころではない、死そのものだと感じ取ってしまった。

 むろんそれは勘違いである。

 殺すならどこから攻撃しようかなとぼんやりとした考えから適当に威圧しただけのナルに、それほどのイメージを抱かせるだけの話を聞いた後。

 合わせて寝不足と空腹で思考がまとまっていなかったところへの不意打ちに気圧されたというだけに過ぎない。


「ま、暴れる気は無いがそっちがその気ならやるってだけだ。ほれ大人しくしてるのも俺が敵じゃないって証拠だな」


「……3時間後に尋問を再開する」


「あれぇ? 行っちゃうの? 」


「黙れ、間違っても逃げようなどと思うなよ」


「はいはい、仰せの通りに」


 相も変わらずといった様子のナルに、尋問官は爪を噛んで考えを纏めようとする。

 ナルという男は確かに危険人物である。

 しかし皇帝の命が目的ならばその機会はいくらでもあった。

 ならば国を崩す事が目的かとも考えたが、やはりそれならば皇帝を狙うのが一番早い。

 ではどのような目的があっての事か、結局出した結論はナルの発した言葉全てに信憑性があるという物だった。


「と、考えるんだろうな」


 尋問官の心中を察して煙草の煙を吐き出したナルは机に脚を乗せてそのまま目を閉じた。

 あとは時間が解決してくれる、少なくとも尋問官は手慣れていたがそれだけだ。

 手強い相手ではない。

 ナルの誘導にあっさりとひっかかり、そして無罪とまではいかずとも放免という結論を出すまでそれほど時間はいらないだろう。

 これは対外的な問題も含んでいる。

 王城襲撃というニュースは数日と経たずに世界中に知れ渡る事になる。

 その功労者であるナル達を優待しているとあれば適当な記事には裏を疑う話も書かれるだろう。

 しかし逆に尋問をしているという話が出回れば今まで培ってきた、誰であろうと功労者は叙勲するという話が台無しになってしまう。

 それは皇帝の意図に反することだ。

 つまりこの状況に置いて尋問官が出せる答えは一つしかない。

 一連の取り調べで得た情報を全て皇帝に差し出し、その上で判断を仰いで、そしてナル達を解放することだった。

 その予想は3時間後に的中することになる。

 机に脚を乗せたまま眠りこけていたナルに食事を運んできた尋問官が、皇帝直々に放免を決めたと通達したのだった。


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