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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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皇帝

「占いだと? 」


「はい、占術師の身としては皇帝陛下を占ったと有ればこれ以上ない名誉ですので」


「ふむ……して、どのような占いであるか。我の断りなくできる物であればこの場で言い出す必要もあるまい」


「えぇ、タロットカードを引いていただければと思います。お忙しい立場という事は重々理解しておりますので、大アルカナ、22枚のカードから引いていただく簡単な物です」


 途端に、周囲の威圧感が跳ね上がる。

 それは裏を返せば皇帝に近づく、あるいは皇帝に私物を触らせるという事になる。

 更に深読みすれば暗殺のチャンスにもなりえるという事だ。

 強力な毒、それも触れただけで浸透するような物を選び、更に遅効性の物を使えば毒殺は難しくない。

 その事を十全に理解している皇帝直属の近衛隊は今すぐにでも切りかかるべきかと身構えていたのだ。


「ならばしかるべき手順を踏んでもらおう、今日この場でそのカードを我が側近に預け入念な調査をさせてもらう。そして問題がなければそれを返却してからという事になるぞ」


「構いません、ただし私のカードは特別性なので同席させていただきます」


 もし破られたりしたら困りますから、とまさしく不敬に値することを平然と言ってのけたナルに殺気が集中する。

 それはリオネットからも発せられており、ちらりと目を向ければ顔中から脂汗を流している。

 なんてことを言うのだと青ざめているのも見て分かった。


「ふむ、構わぬ。ただしその間、そちらのグリムとやらは別室で待機させる。合わせてリオネット大隊長も別室で待機だ」


「仰せの通りに」


 恭しく頭を下げ、そして先程まで勲章が乗せられていた台に懐から取り出したタロットカードを置く。

 イミテーション、模造品でありナルが能力の使用に行使する物とよく似せて作った贋作であるそれは愚者のみに色がついている。

 後日占いを行う際にすり替えるという魂胆だった。

 それはある種の勝負でもある。

 ナルのいかさま技術が勝るか、あるいは皇帝の側近たちの眼が勝るか、どちらかと言えばナルに勝ち目の薄い勝負だったがある秘策があった。

 そんなことは知らないリオネット達は皇帝が命じるままに退室し、その場にはナルと兵士たち、そして皇帝が残った。


「さて……腹を割った話をしたいと思う」


「構いませんよ」


「そなたら、何処の国の者だ」


「私は根無し草です。故郷はとっくの昔に滅びました。グリムはどこぞの鉱山出身だと聞いていますが同じように長らく放浪していた身です」


「腹を割る、と言ったが」


「ならばはっきり言いましょう。俺達の裏には誰もいない」


 敬語まで捨てたナルの言葉は皇帝の表情を変えさせるのに十分な威力を発揮した。

 先程までの外向けに繕った表情が一転、険しい物へと変わる。


「おや、腹を割るといったくせに腹芸ですか。そんな怒ったふりをしなくてもいいですよ」


「……ふむ」


 ナルに指摘されて気が抜けたように表情を崩した皇帝は玉座の上で姿勢を崩した。

 ひじ掛けに腕を立てかけ、そこに頬を乗せる。

 足を汲んで面倒くさそうにナルを見る姿はまさしく堕落であった。


「なんなら、話し方もいつも通りでどうぞ」


「そうしたいところなんじゃがな……ほれ、周りに面倒なのがおるじゃろ」


 急に年寄り言葉で話し始めた皇帝は全身の力を抜いている。

 先程までの威圧感はどこへやら、周囲の兵士たちもその姿に驚いているようだ。


「確かに」


「だから今はこれがせいぜいじゃ。して……どこまで話したかのう」


「俺達の裏まで」


「あぁ、そうじゃったな。嘘は言っていないが重要な部分は話していない。正直に答えてくれんかのう……どこの国出身じゃ? 」


「グリムの出身はあいつに聞いてください。この前戦車街で実家に手が見送ってたんでまだ故郷はあるんでしょうし。俺はさっきも言った通り滅びた村の出身で、今でいう所のブランロード王国の南方辺りですね」


「随分と遠いところから来たのだな。して、目的は? 」


「俺はタロットカードが目的ですね」


「ほう、占いのためにわざわざ放浪生活とな? 」


 その問いにナルは笑みを見せる。

 肯定も否定もしない、そして嘘も言わない。

 詐欺師がよく使うテクニックだ。


「それにしては随分と……なんじゃ、物騒な装いをしていたと聞いたが。それに気配の察知も随分と熟練の物だとか」


「生きるために頑張りました」


 正しく言うなら死ぬところを見られないために頑張ったである。


「若いのに苦労しておるのう。傭兵でもやっておったのか。あのグリムとやらは今は活動を控えていると聞いたが」


「そんな時期もありましたね」


「ふぅむ……やはり重要な所は話さぬか……全員部屋を出てよいぞ、お主だけ残れ。天井裏の者達も席を外すが良い」


「お待ちください陛下! それは危険です! 」


 肯定の言葉に兵士の一人が声を上げる。

 当然ながら許可なく進言するなど不敬であり、この場で処断されても文句は言えない程の行為だった。

 しかしそれだけの事を言い出したのは皇帝であり、またこの程度の事に目くじらを立てるほど狭量でもない。


「危険というならば毎年平民相手にも叙勲すると言っているこの状況こそが危険じゃろうて。なに、この者は信用は出来ぬが問題は無かろうよ」


「しかし……」


「面倒じゃ、皇帝直々の命令じゃぞ」


「……では、扉の外にて待機させていただきます。何かあればこの者の首を切り落とす許可を」


「構わぬよ、ただしその際はお主らも命の覚悟をもってあたるが良い」


「はっ……全員退室! 」


 近衛騎士団の重役だったのだろう、ひときわ豪華な鎧を身にまとった兵士が他の者へ号令をかけて退室を促し、最後に一礼してから謁見の間の扉を閉めた。

 同時に天井裏や壁の向こう側にいた気配も全てが離れていく。


「さて……お主エコーから何か聞いていたか? 」


「エコーですか……? たしか獣騎士隊の先代で今は総括をしているとか」


「とぼけずとも良い、お主の動向は犯罪行為も含めてすべて知っておる」


「……まぁそうでしょうね。ひとまずは何も聞いていない、とだけ」


「そうか、では儂から話してやろう」


 そう言って皇帝は玉座から立ち上がり、ナルの目の前に腰を下ろした。

 赤絨毯は毛足が長く直に座っても尻を痛めるようなことはないとはいえ、さすがのナルもこの事態には驚かされた。


「ほれ、楽にするが良い」


「じゃあお言葉に甘えて」


 ナルも立膝から姿勢を崩してその場に胡坐をかいた。


「さて……あれは10年前じゃったか。エコーの奴が現役で最前線にいた頃の事よ」


 そう語りはじめた皇帝の言葉は重みがあった。


「エコーが言うには妙な一団と遭遇したそうでな、特別な力を持つ者を集めているというのじゃ。あれは自分の才能がどこから現れたのかなどという不可思議な疑問を持っておってのう……その謎が解けたと儂に意気揚々と報告に来たのじゃよ」


「特別な力……」


 エコーの才能の出所であり力と言えばカードである。

 その事に思い至ったナルの表情が重い物へと変わる。


「うむ、その一団曰くエコーの奴はある英雄の血族の力を受け継いでいるそうじゃ。面白いことにその能力とはお主が先程言い出したタロットカードに起因する物らしくてのう」


「それはまた偶然ですね」


「まことに面白い偶然じゃのう。さておき、全員がタロットカードに由来する偽名を名乗っておったそうじゃ。そして力の使い道や他人へ譲渡する方法を伝えて、同胞になれと勧誘してきたと言っておった。蹴ったらしいがの」


「ほう……」


「そして数日後、エコーは何者かに足の健を切られた状態で裏社会のごろつき共に囲まれたそうじゃ。そして一線を退く事になったが不思議と傷の回復が早かったらしい。しかし最前線に出ようとすれば都度邪魔が入り、そして自分の力の出所を知って使い道を知ったという事で当時眼をかけていた部下にその力を譲渡してみたと言っておった」


「それがリオネットだった」


「ほう、腹芸はやめたのかの? 」


「今更必要ねえだろ、それより続きは」


「ないぞ、なにせ後は知っての通りリオネットはその才覚を伸ばしエコーは一線を退いて今に至るというだけじゃ。それから不可思議な一団との接触もなかったと聞くしのう」


「……それで」


「お主が先程言い出した占い、あれはどういう意味じゃ」


 唐突に、失われていた威圧感がその場に戻ってきた。

 皇帝の発する圧がナルを押しつぶさんとする。

 少しでも気を抜けばこの場に平伏してしまいそうだと、しかし飄々と受け流すナルは懐に手を入れた。


「煙草、吸ってもいいか? 」


「ウィード産か? 」


「愛用はザクソン産だがウィードもあるぞ」


「儂にも一本くれぬか、なかなか側近共は許してくれんのじゃよ」


「その歳じゃな、しかしこうして皇帝と煙草を吸う事になるとはな……」


「はぐらかそうとしておるの? 」


「ちげえよ、純粋な感想だ。一服したらちゃんと答えるさ」


「ほっほっ、ならばよい」


 懐から取り出した木箱とタロットカード、その2つを皇帝の前に置く。

 そして中から一本取り出して火をつけた。

 煙で胸を満たして、吐き出す。


「ほれ、毒見すんだぞ」


「なんじゃい、吸いさしか」


「嫌ならいいが、向かって右がウィード産だ」


「今更儂が死んだところでどうこうなる事もあるまいて」


 そう言って木箱から煙草を一本取る。

 そして指を立ててナルに火を催促した。


「……いい度胸してるなぁ」


「この程度の度胸無くして皇帝なぞやってられんわい」


「なるほど道理だ」


 皇帝の加えた煙草に火をつけたナル、そして二人同時に煙を吸い込み吐き出した。


「うまいのう……染み渡るわい」


「だよなぁ……この一服のために生きてるって気がする」


「じゃのう……して、これは先ほど側近に預けていたと思ったが」


「ん? 偽物預けた、本番ですり替えるつもりだったんだがその必要もなくなったな」


「いやいや、せっかくじゃ。どのようにすり替えるのかこっそり教えてくれんかのう」


 悪戯をする子供のように歯をむき出しにして笑う皇帝を前に、ナルも笑みを見せる事になる。

 腹芸の準備を万全に整えていたナルにとってあまりにもフランクな皇帝の態度は肩透かしだった。

 これが演技だとすればそれこそ腹芸では敵わないと覚悟を決めていたというのもある。

 そもそも先程の話から察するに、皇帝はカードに関する知識を微量ながらに持っているのだ。

 ならば今更余計な態度を見せる必要もないだろう。


「企業秘密だよ皇帝陛下」


「なんじゃそりゃ」


「手品の種明かしを先にするほどつまらない物はないだろ」


「ふむ、なるほどのう……ならば何を知りたかったのかだけ聞かせてもらえんかのう」


「いいぜ、これ混ぜて1枚引いてみ」


「こうか? 」


 ナルの言うままにタロットカードを混ぜる。

 一切の警戒心を見せないその姿は、衣類を変えて街中を歩かせても気付くものがいないのではないかという程にありふれた老人の姿だ。


「ほれ」


 そして1枚のカードを引いてナルに見せつける。

 【愚者】、つまりカード保有者でも元保有者でもないという証拠がそこに差し出された。


「そのカード、色付きだろ。エコーの会った一団が話していた英雄の血族ってのは俺の事で、俺の能力の欠片は世界中に散らばってるんだよ。それを探しているんだが……【皇帝】のカード保有者の可能性もあるから試そうと思ってたんだがな」


「ほほう、つまりこれを見ればお主がどの能力を取り戻したか分かるという事か」


 理解が早い、いや、早すぎる皇帝にナルはさっとカードを懐にしまい込む。

 このまま放っておけば自分の能力を赤裸々にされかねないと判断しての事だ。


「しかし元の所有者であったのならば気配くらいはわかるのではないのか? 」


「あんた本当に鋭いな……グリムとリオネットが側にいたからそこまではわからなかったんだよ」


 【愚者】のセンサーはそれほど優秀ではない。

 一人の保有者を探す際には役に立つが、近くに複数の保有者がいればそれ以上の情報を得る事は出来なくなってしまう。

 例えば人数は二人以上になれば大まかにしかわからず、察知できる範囲もそれなりに狭い。

 今現在レムレス皇国王都の中央にいるナルだが、この状態でも都の端まで察知するのが限度である。

 またカード保有者が眼前にいればそのセンサーは妨害されたかのように効力を落とす。

 特にフライのような、【隠者】のような身を隠す能力を察知することはかなりの難易度だった。


「ふむ、事情はおおむね理解した。用件は済んだとはいえ、表向きには儂を占うということになっておるからのう。それまでこの城でゆっくりするがよい」


「そうさせてもらうよ……所でこれどうする? 」


「む……? うむ、失念しておったの」


 二人は灰が落ちかけている煙草を片手に、灰皿の代わりになる物を探すのだった。

 結局見つからず、仕方ないと謁見の間の隅でタバコの火を揉み消した二人は皆には内緒だぞと子供のように笑い合うのだった。

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