第91話 開き直った奴は強い
「さて、ではどうするリーダー」
「適当に行って、ぶらぶらして帰るか」
「それでこそリーダーだ、付き合おう」
向こうに行って確認する事は多い。そもそも、冷静に考えると行ってすぐにやられる可能性はかなり低そうだった。せめて向こうでの稼働可能範囲だけでも理解出来ればかなり違う。
深く考え過ぎるのも良くないね。
「なんか向こうに着いたら普通に草原だったし、辺りに人気はなかったからさ。隠れられそうな場所を探しつつ、自分達の能力の確認でもするか」
「了解した」
黒い渦の中に今度は二人で飛び込んでいく。まずは俺、それからエルメスさん。勿論手は繋いだ状態、万が一に備えて。
渦から出るとそこはやはり草原だった。さっきと違う場所に出る可能性も若干考慮したが、どうやらここが固定された輸送先のようだ。
「ふぅ、案外何もないものだな」
「まぁ今のところはですけどね」
辺りを見渡し、次に気配を探ってみる。ふむ、今の時点ではこの近くに何かいるという事は無さそうだ。けれども、隠れられそうな場所もない。
「取り敢えずここで能力の確認でもしますか」
「時にリーダー、帰りはどうやって帰ったんだい?」
「ん? そこに黒い渦があるじゃん」
「……無い、少なくとも私には見えない様だ」
「は?」
え? エルメスさんには見えない?
「そこまっすぐ行ったら渦だけど?」
「ふむ、まっすぐ歩くぞ?」
そう言ってゆっくり進み始めたエルメスさんだが、割とあっさり黒い渦を通過してしまった。へ?
「私は……戻れないのか?」
「デジマ? この渦があるのに?」
「見えましなければ、何も感じない。多分無理だな」
「成る程、なら俺の手を握ってちょんまげ」
「試してみる価値はあるな」
エルメスさんの手を引いて、俺は黒い渦に飛び込んだ。するとどうですか。
「戻ってくる事自体は可能性みたいだな」
普通に戻ってこれました、脅かすなよバーロー。
「しかし、これでいよいよ私はリーダーなしでは生きられない身体になってしまうという事か」
「いや表現方法よ」
まぁ単独で戻る事が出来ないのは割とリスクだが、戻れるしまだ別行動する段階でもない。問題にするレベルではないか。
という訳で草原にカムバックした俺たち。
「どう? 身体は動かし辛いとかない?」
「今のところ変化は感じられないな」
そう言うと、おもむろに腰のナイフを引き抜いたエルメスさん。そして自分の腕をスパッと切った。
「世界樹の息吹!」
既に足元が草原で分かりにくいけど、傷口は塞がっていった。んー変化なし?
「どうも変化は見受けられないな」
「ふむ、成る程」
可能性としては、弱体化、変化なし、強化の3パターンが考えられたのだが、変化なしときたか。この世界の奴らが半減する扉なら、向こうの世界の奴は倍化する! みたいな展開があっても良かったんだけどな。何もないっぽい。
「リーダーはどうだ?」
「うーん、相変わらず空間干渉系が全滅だな。あとは幻夢之懐がどう機能するか」
「吸収と放出か。私で試してみるか?」
「一応やっておく?」
エルメスさんの世界樹の息吹を吸収して、その後放出。問題なく機能した。俺もその他ステータス的には特に変化は感じないかな。
「私は見えないから分からないのだが、この黒い渦は消えたりしないものかな?」
「それは俺も考えた、多分大丈夫だと思いたい」
「根拠は?」
「ほぼ無いに等しいけど、仮にダンジョン内部のエネルギーとリンクさせる事でこの扉を生成してるとするなら、向こうで扉付きの部屋が仕上がってる時点で簡単には変化しないと思われ」
「確かに根拠は薄いけど、一理あるね」
さて、身体に異常は無かった。
そうなると次は。
「どのレベルまで情報を探るか」
「ふむ、確かに決めておいた方が良い。引き際を誤るのは良くないからね」
この国の情勢、侵入してきた奴らの所属、今分かっているのは魔王がヤバくて、その親衛隊の手下がこっちの世界にちょっかい出し始めていたって事。
なら一応敵の敵は味方作戦でいくなら、人族? とかいってた奴らの側に情報収集に行くのが良い感じか。
「人族の街を探したいな」
「ふむ、そういう意味では私は人族という括りの中に入って良い物なのかな?」
「ん?」
「一応、私はエルフだからな。種族で言うなら人ではない」
あ、そうだった。とんでもない見落としをしてたな。そうか、エルメスさんと一緒の場合、人族との接触さえもリスクになりかねないのか。
安全面でのリスクを取ったが、情報面では裏目に出ているか? いや、そもそも人族の街がどこにあるのかというレベルからだ。探索だけなら二人で行く方が確実、これは間違いない。
「いや、探すだけに留めよう。まずはどれくらいの文化レベルで、あの魔王の群勢に対してどういうスタンスなのかくらいを視認出来れば十分でしょ」
場所さえ分かれば一人で来るにしてもリスクは高くない。リスクがリスクたらしめるのは、知らない状態にある時だけだ。まずは知っている事を増やそう。