第90話 いや待てよ、これ強くてニューゲームか?
戻ってきた俺は、取り敢えず事のあらましをエルメスさんに伝えた。かなり端折ったが、まぁ伝わっただろう。
「それで、どうするんだ?」
「うーん、一旦エルメスさんも連れて向こうを軽く探索しつつ帰還するか、もしくは即帰還するかですね」
どっちにもメリットとデメリットがある。行けば情報の密度が増して、行動の精度が格段に上がる。デメリットはマジで死ぬ可能性がある事。戻れば増えた情報を共有できるし、死ぬリスクは無いが、出来る行動に限りがある。
「エルメスさんはどう思います?」
「私の意見か? 参考にならないと思うが」
「ほぅ、言ってみるが良い」
「私が単独で探索してくる」
「却下で」
「ほら見ろ、そう言うと思ったさ」
エルメスさんは頭の回転が早いしキレが良い。ぶっちゃけ最良の案だとさえ思う。だからと言って採用する訳でもない。
これはダメって訳ではない、嫌なんだなこれが。
「今この状況で一番避けるべきは君を失う事だ、リーダー」
「それは確かにそう」
「それに比べて私の存在は代えが効く。それを利用して価値の高い情報を持ち帰れるかもしれない可能性にアプローチするのは至極真っ当に思うのだけどね」
「エルメスさんに代わりが居る訳なくね?」
「おや、嬉しい事を言ってくれるね」
こんな珍妙な雌豚二人も居てたまるかっての。
「さて、そうなるとどうする?」
「……二人で入りますかね」
「まぁそうなるね」
エルメスさんを帰せば情報は共有出来る、だが俺の死のリスクが上がる。なんだかんだ言ってエルメスさんは強い。レベル以上に有能な冒険者だ。俺なんかとは経験値が違いすぎる。
今避けるべきは俺の死だ。これは命乞いでも何でもなく、俺という存在の重要度はかなり高くなってしまった。
それなら、価値のある情報に対して今可能な範囲の最大限にリスクを下げた状態でのチャレンジが望ましい、か。
「ごめんエルメスさん、ワンチャン死ぬかも」
「君に貰った価値は、とうの昔に私の命を超えている。好きに使ってくれ。さぁ、好きなだけ胸をも」
「ありがと」
「……ふむ」
冗談は言いたいけど、今の切迫具合だとそうもいかない。敵は倍の能力で襲って来る可能性があり、侵入の際は制限をかけられていた人数的な枷も無い。
はたまたこちらと言えば、絶対防御と不可避の攻撃を失った俺と、能力の変動が読めないエルメスさん。
これで未知の世界に乗り込まなきゃいけない。今度は俺の命だけじゃない、エルメスさんの命と、世界の命運ごと賭かっている。失敗は許されない。モミモミ。
モミモミ?
ん?
「どうだ? 案外柔らかいだろ?」
俺の両手が、エルメスさんの胸を?
モミモミ?
「……ふぇぁぁぁああああああばばばばななななな何してるのええええエルメスさんんんんんん!!!」
「何って、胸を揉ませているのさ」
「そうじゃなくてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ああああ何何何何何何何何何何何????
何が起こった?
何で胸揉んでるの?
え? 何この柔らかさ。
まるで全てを包み込むかの様な抱擁感。
「ふふふ、どうだい? 全ては君の物なんだから、いつ揉んでくれても構わないのだよ?」
「あばばばばばばばば……へ?」
あ、そうか。
これが母性、そして愛、はたまた世界。
俺は遂に、世界の理に触れてしまったという訳か。
もうだめポ。
「さて、そろそろ全てどうでも良くなった頃合いかな?」
「へ、へい」
「む、まだ理性がありそうだ。モミモミ」
「ふぉぉぉぉぉぉ柔らかぃぃぃぃぃ!!!!」
あれ何だったっけ?
何考えてた?
胸が柔らかい件について?
あー、そうかそうか。
胸は柔らかいです、はい。
「まぁ色々あったし、君はかなり広い範囲で思考が機能してしまうからね。ちょっとオーバーワークが過ぎるよリーダー。少し休ませた方がいい」
「あ、は、はい……」
そうだな、確かになんかおふざけで適当にぷぎゃぷぎゃしながらうんこうんこ叫んでるのが俺の役目なのに、なんかシリアスが続いておかしくなってたか?
「君はある程度の余裕を持って、俯瞰的に全体を観察して、そこから判断するから強いんじゃないか」
「そ、そうなんですかね」
「今みたいに鬼気迫る君では、こちらの世界でも敵に負けてしまうよ?」
「……確かし」
やれやれ、本当にこの人には敵わないな。ふぅ、少し落ち着いてきたかな。にしても神様にあったせいか? いや、それまでの一連の全部か。
異世界チートを取り上げられて、でもパイセンの国を何とかしなきゃで、でも敵はルムたんごと世界まるっと乗っ取るつもりで。俺の判断次第でそれは実現してしまう。それを唐突に思い知らされた神様との邂逅。
こんな状態じゃダメだな、何も出来やしない。
よし、大丈夫だ。
「ほら、上から突っ込めば直接揉めるぞ? ズボっと、そしてモミモミ」
「ほぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!」
あばばばばばばくぁwせdrftgyふじこlp