第88話 どれが夢でどれが現実かなんて誰も知り得ない
「どっちに向かっている?」
「やっぱ俺らが来た方角っぽい、でもクッソ早いから急がないと見失いそう」
「それはマズイな、急ごう」
追跡は見破られたくなかったのである程度は……とは思っていたが、まさかここまで早く距離を開けられるとは思っていなかった。全力疾走じゃないですか。
しかも向こうは遠慮なく空中からいくからマジで辛い。こっちがそれをやると燃費がクソ悪いからどうしても陸路になってしまう。
橋を越えなければならない断崖が間も無く迫るというところで……設置していたマーキングの気配が消える。
むほぉぉぉバレタァァァァァァ!
ガッデェェェェェムやべぇあれとられたらマジで自前の感知だけで追わないといけなくなるんですけど最早このままじゃ追いつかない。
空中をいかれるのマジ辛い、しかもこの谷を越えるのにまた空間固定しなきゃで、そうなると残存魔力も半分を切ってくる。
ここまで使ったのは初めてと言っても過言じゃありませんから、そこにも焦りが募る。
いや待て待て、ここはクールにだ。
逆に考えよう。
逆って何だ? ダッシュの逆?
よし、とりま一旦ストップだな。
「なっ!? どうしたリーダー? 何故ここで立ち止まる?」
「いやちょっと待って、一分だけ」
「馬鹿な、このタイミングで……いや、リーダーの事だ。何か考えあっての事だろう」
「ん、悪い」
最後に感知した方角はやっぱり俺たちが来た方角に近いルートを取っていた。なら目的地は俺らの通ってきたルートに近い何処か? いや、それなら見落とすなんてまず無いはずだ。或いは……根本的に何か勘違いを?
ただどうあっても今から追跡しても見失ったままになる可能性か高い。
なら……賭けに出てみるか。いっそ見落としがあったとして……フォローしてくれる存在がいる場所。
最初の村か。村長なら或いは何か分かるかもしれない。今回パイセン王国を目指すに当たってここに寄るのは飛ばしていた。そこで収穫が無ければツインドラゴンテールの街か。めちゃくちゃ夜更けだけど……緊急時だ、そこはマリアさんにごめんなさいしよう。
「ひとまず飛ぼうと思う。エルメスさん」
「頼む」
エルメスさんの手を取って、俺は村長マリアのいる村へと移動した。
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「やっほー村長」
「あら、また貴方ったら急に現れるんだから本当にもう……」
外から村長家を見るにまだ明かりがついており、どうも村長がまだ起きている事が伺えたので普通にドアノック。
「すみませんけどちょっと急いでまして。聞きたいことがあるんですけど」
「……何かあったみたいね、何かしら?」
「最近、この辺で変な魔力は感じました?」
「変な魔力? いいえ、いつも通りよ」
「そう……ですか」
ない……か。
ならツインドラゴンテールの街か?
そこですらなかったら……手詰まりになりかねない。それは避けたいが、他に可能性があるのは……。
「いつも通り特に何もなく、たまにダンジョンの魔力か不安定になる程度にいつも通りの状況ね」
「……え?」
「え?」
たまにダンジョンが……? んん?
「あるでしょほら、最初に貴方が向かった強力なダンジョン。あそこの事よ?」
「え、あれが……何ですって?」
「時々不安定に魔力の強まる時があるのだけれど……見に言っても何も無いのよね。見にいく頃には収まっているから特に問題視はしてないの」
「時々魔力が……強まる? もしかして最近も?」
「良く分かったわね、今日のお昼辺りに一度あったわ」
「おっふ、灯台下暗しすぐる……」
まさかダンジョンに本拠地が? まぁ確かに魔力的に強力なのであれば魔力的に強力な場所に隠れるのが一番か……それは発想になかった。ムハーこりゃぬかったなー。
「あら、もう行くの?」
「物凄く助かりました、また後日改めます」
「そう……気をつけなさいよ」
「ありやす」
何をするとも言っていないが村長にナチュラルに心配されてしまう。雰囲気に出てたかなぁ……やれやれ、もう少し上手くやらないと。
さて、それはいいとしてだ。
「もしかすると場所が判明したかも」
「本当か? なら早速そこに……」
「鉢合わせするとマズイ、別ルートのマーキングがあるから一旦そこを経由する事にしますわ」
「ほぅ、リーダーに任せよう」
という訳でちょこちょこ利用している宝物庫への瞬間移動を発動。流石にそこで鉢合わせはないっしょ。
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【B10・宝物庫】
「さて、来たはいいけどどうするべきか」
「これはまた……リーダーが金に困っていないのはこういう理由か」
「まぁそれはいいとして、ここから通常ルートに上がって、そこから空間固定で気配を断ちながら待ち伏せしますわ。まず間違いなくバレないから、通ったらクロで」
「分かった、後に続こう」
金銀財宝に千狐さんのいた宝箱の設置された部屋を抜けて、更にパシリマンのいた部屋を通過。そして階段を上って通常ルートへ。その端っこで空間固定し、通りかかるのをただ待った。
「こっちも外の気配が全くわからないから視認するしかないんでよろしく。交代でやりますか」
「心得た、まずは私からやろう」
「いや、俺からやりますわ」
「バカ言え、緊急時にリーダーの魔力が少しでも戻っている方が私の生存率も高くなる。そうだろ?」
「ぐふ、成る程……なら遠慮なく」
「膝枕は必要か?」
「あ、お構いなく」
固定された空間内なら何をしても外部に漏れ出る事はない、俺はエルメスさんの魔力を使って柔らかい芝生を生成。あぁ……寝心地最高。
______
【B10】
「……ダー、リーダー、起きろ」
「んぁ……まだ食べて……」
「例の奴らだ、本当に来たぞ」
「……んん……!?」
意識が戻って思考を修正する、やべぇめっちゃ寝ぼけてた……どれどれ。
お、マジで通ってるな。油断してるのかゆっくり歩いていらっしゃる。二人だ。って事は使い捨て軍は今回も切り捨てか、容赦ないね。
「この後はどうする?」
「因みに俺どれくらい寝てました?」
「……数時間くらいか、あまり分からないな」
やっぱり、結局寝かせてくれた訳か。
この人は本当に……こういう所あるからなぁ。
「よし、ここからは確実にこの先に何かがいる事が分かって追いかける訳だから、二人ともガッツリ休んでから奥に向かおうと思う」
「成る程、どこまでやる?」
「ひとまず様子だけ見に行く事にする」
「了解、なら遠慮なく休ませて貰おう。なんならリーダーのリビドーを沈め……」
「やめなさい」
「ふむ、襲ってくれて構わ……」
「ヤメロォォォォォ」
取り敢えず、落ち着こう。精神的にかなり昂ぶっていて、村長にもエルメスさんにも気を使われている。
一旦、少し寝て落ち着こう。
______
【B10】
「よし、行くか」
「因みここに至るまでの敵のレベルはどうなっていた?」
「レベル? えっと確か凄い速さで増えていってたかな。10階でレベル60は超えていたような……ちょっと曖昧」
「……これは噂なんだが」
「ん? 噂?」
「稀に存在する強力過ぎるダンジョンは意外と浅い、というのがある」
「……ツインドラゴンテールの時は50階だった」
「それは一般的な中で、だ。この話は挑戦不可能なレベルのダンジョンの話だ。だが誰もそこに辿り着かないから噂の域を出ない情報なのだが」
「……気をつけるか」
「そうしよう」
ダンジョンモンスターは特に何の問題もなく倒せるのでバンバンと討伐。敵に関しては異常に強い奴ばかりだった。19階でレベル150相当。そして、それは20階に辿り着こうという時だった。
______
【B20】
「普通に扉赤いっすね」
「ふむ、だがこれはおかしいな」
「そりゃ開けた痕跡がないっすからねぇ」
「なら奴らはどこに行った?」
んん?
扉が赤いって事はこの奥にダンジョンボスがいるって事でまず間違いない。のだけれども。そこまで一本道で、扉が不使用ときたもんだ。どゆ事?
まぁちょっと考えれば分かるんだけど。
「あーマズったなー、抜け道か」
「まず間違いなくそうだろうな」
面倒な事になったな。こんな事なら捕まえてゲロさせた方が良かったか? いやでもエルメスさんと二人の時にダンジョン内で未知の敵、はヤバい要素が多すぎる。まだそのリスクを取るには早い。
探すしかないか。
「普通に探しますか。前の抜け道は普通に道があったから案外分かりやすいかも」
「そのタイプの抜け道なら私が見つけられる、任せてくれ」
「デジマ?」
「ふふ、これでも私は美食ハンター。ダンジョンの事なら隅から隅まで調べられるのさ」
「あー、そういえば全部調べたとか言ってたな。あれマジだったのか。今考えるとエルメスさんが言うなら確かにマジだし、マジだとしたら気の狂った返答だったわ」
「お褒めに預かり光栄だよ」
90階層からなるダンジョンを隅から隅まで調べられる、これは言うは易いが簡単な事じゃない。時間をかけたものだとばかり思っていたが、それにしても確実性は高くない。エルメスさんは【抜け道は無かった】と言い切った。つまりそう言う事か。
「これはかなり体力を使うから、見つかるタイミング次第では私はもう役に立たないかもしれないが、一刻を争う今だ。良いね?」
「任せてちょ」
「では見ていて貰おう、【緑化支配】」
地面に手を着けたエルメスさんを中心に小さく植物が生え、それは瞬く間に階層を埋め尽くした。成る程、こんな使い方も出来るのか。植物魔法って言ってたっけ? 熟練された使い手だとこんな事まで出来るのか。
「おや、どうやらここが当たりらしい」
「一発目ってのは助かルンバ」
「かなり体力は温存されたね」
エルメスさんの指す方角に進むと、部屋の壁、その上部に僅かに亀裂があり、そこから道が続いていた。
「あーここまで来たら何か奇妙な魔力を感じるわ、言われなきゃ気付かないレベルだけど」
「ほぅ、それは私には感じ取れないな。どう奇妙なんだい?」
「こう、ボスがいる! って感じじゃなくて、何かある? みたいな感じ」
「?」
「俺も良くわかんないですテヘペロ」
「だから奇妙か、成る程ね」
そして警戒しつつそちらに歩みを進めると、例によって扉が鎮座していた、のだけれども。
「扉青いっすね」
「……何だこれは」
「エルメスさんでも分からない?」
「聞いた事も見た事もない……青い扉? 一体これは……」
そこまで言われてしまうと流石の俺も……少し緊張する。扉を開けなければ入れない。念の為後ろにシャッフルゲート可能な対象を用意して、そこからすぐに瞬間移動出来る心構えはある。
ここが敵の本拠地だったとしても……これはどうあっても確かめるしかない扉だ。開けるしかない扉だ。
「少し下がって、開けます」
「頼む」
ゴゴゴと音を立てる扉に不安を覚えるが、この際なので一気に開けてしまう。おりゃ! と開けた扉の先には……何かがあった。
黒く、暗く、渦巻く何かが。
何だ……これは。
「空間が歪んでいる……?」
「敵は?」
「あ、さーせん。誰も居ないっぽい」
「誰も居ない? どういう……!?」
「あれ……何だと思います?」
「……分からない」
薄暗い部屋の中心に、歪曲空間が。
そうとしか表現出来ない。
ブラックホールの様な、でも吸い込んでいる訳でも重力を発している訳でもない。
あれは一体……いや落ち着け。
答えは出てるだろ、事実を並べろ。
敵はさっきの青い扉を通るしかない。
部屋の先にあるのはこの歪曲空間。
そしてここには誰もおらず、他に道もない。
念の為エルメスさんに調べて貰ったけど、ここは間違いなく行き止まり。つまり。
「これは……【道】なのか?」
「道だと? これがか?」
「いや、そう仮定しないと通らない筋が多すぎる。むしろそうであった方が……しっくりくる」
「……だかこれを道と断ずるのは」
「エルメスさん、ここにいて貰っていい? すぐ戻る」
「なっ!? 流石にそれは危険が過ぎるぞ! いくらリーダーとはいえこれは……」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってね、なに、見たらすぐ戻るから。逆に戻らなかったら……そうだな、十分で戻らなかったら撤退して欲しい」
「……確かに、ここまできてそれをせずに帰ると収穫は無いどころか謎しか残らない。……頼んだぞリーダー」
「任せてちょ」
ぶっちゃけ、これは流石にヤバイ。目の前にブラックホール、そこに自分から歩みを進めて飛び込むってんだから。まぁいっても俺は空間固定で向こう側まで続く様に道を作って、その中を歩けばいいんだから大丈夫なんですけどね。
「行ってくる」
「……気をつけてくれ」
まずは空間を固定。
これでもうエルメスさんの声は聞こえない。
固定されたとは言え、ビビりながら……
ゆっくりと……
ブラックホールの中へと……踏み込んだ。
……え?
外?
見渡す限りの草原、しかも薄暗い。
あれ?
これなんぞ?
後ろを振り返ると……そこにはブラックホールが……ある。ある。ちゃんとある。え、空間固定が解除されてる、怖い。意味わからん。動揺して消しちゃった?
再構築……出来ない。固定出来ない。
え?
これなんぞ?
ここはあのダンジョンの先?
え?
ここはどこ?
どゆこと?
【第三章あとがき】
いやー意外と長引いてしまったアーデン編。もっとサクッと終わらせるつもりだったのに、実力の無さを痛感します。もっとサクサク書けないものですかね。ココナッ◯サブレくらいのサクサク感。なんというかカントリーマ◯ムみたいなしっとり感でしたね。うーん、難しい。
来週からは遂に本編が始まります。異世界転移後異世界転移編。うん、訳わかりませんね。今までは比較的にチートひゃっほいでやってきた彼ですが、それでは通らない話が始まります。
来週もお楽しみ頂ければ幸いです。
さて、いつも恒例のアレなんですけど。
もしまだ! 最近読み始めたから評価してないよーっという方がおられましたら、この下↓にそのままスクロールすると【評価】というボタンがありますので、それをポチポチッとして頂けると、ランキング的な所でオタクアンダーソンが楽しい事になり、それを見てにやにやする事で作者の多大な励みとなりますので、よろしくお願いします。
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これ因みに前回頂いた評価で多くの皆さまの目に触れて、何かが間違ったらしくですね。【今日の一冊】っていうなろうのトップページのアレにオタクアンダーソンがアンダーソンしようとしております。テラワロス。
どうも奇跡の事故の末にサイトがアンダーソンを応援してくれるという事態になっておりまして、これはまだ本決まりはしていない下書きの段階なので、もう少し詳しく煮詰まって進展したらまた連絡させて頂きます。いやー事故るものですね。
という事はですよ?
これは奇跡の大事故の末に書籍化あるんじゃないか疑惑が……おっとすみませんついつい私のアレがアレしてしまいました。いやいやそりゃ並みのことではそうはならないと思いますが、どうせなら目標を高く持ちながらこれからもバリバリ頑張っていきたいと思います。頑張るのはアンディなんですけど。
にしてもこの小説は冒頭からマッスル美少女奮闘記とかいう謎ワードを押す小説ですからね。
しかもその導入時点から我は四天王の中でも最弱とかいう1冊打ち切りエンドみたいなスタートの切り方。
あまりにも意味不な作品だと言うのに【今日の一冊】にオタクアンダーソン ?
うーむ、大丈夫なんだろうか。
まぁ大丈夫ですかね。
では最後になりますが重ねて、ここまでアンダーソンにお付き合い頂き本当にありがとうございます。【第四章】からもどうぞよろしくお願いします。
【生くっぱ】