第9話 階層ボスというよりどうみても魔王的なサムシングなんですがそれは
「やべぇ……階段おりたら扉とか見るからに危険な雰囲気」
「え……こんな大きな扉見たことない……」
真っ赤な階段を降り少し歩くと、そこには巨大な扉が設置されていた。何というか、村に侵略してきてた四天王的な奴が普通にチャーッスして来そうな雰囲気。物々しいにも程があるだろ。
「というかこれどうやって開けんの?」
「開けなくて良いわよ! 引き返すわよ!」
さっきからパイセンが俺のピンクの羽織を爆引きするのでフンドシちゃんがチラチラとコンニチワしておられる。絵図がどうも締まりません、村長ヘルプミー。
「ヘロー、遊びに来たよー開けてちょ」
「開くわけないでしょ! 帰るわ……え? 嘘よね?」
ゴゴゴゴという響きと共に緩やかに開かれる巨大な扉。
足から伝わるとてつもない振動。
耳から伝わるとてつもない轟音。
隣から伝わるとてつもない呆然。
そして完全に開かれる扉。
その扉の先には……。
魔王よろしくな邪神的なサムシングが佇んでいた。
威圧感ハンパない。
「う、嘘……ちょ、いや、あ……」
隣のパイセンはガクブルを通り越して指一本動かせない雰囲気。いやでも確かにアレはヤバイわ。
【良ク、コノ道二気ガ付イタナ】
何というか、とんでもなくアニメっぽい声。
ザ・ダークボイス。
【我コソハコノ地ヲ護リシ帝国ノ使イ】
頼んでもいないのに自己紹介を始める帝国のパシリ。うーん、これ聞かないとダメなのかな? こういう時に意外と重要なね、発言とかフラグをポロリしちゃうのがロープレの基本ですからね。
【長キ眠リヲ経テ……】
長過ぎワロタ。
もういいんじゃね?
なんなのこれ。
「パイセン、あれ? パイセン?」
「あ、あ……ぁ」
おーいとパイセンの目の前で手を振るも無反応。ついでにスクワットをしながらピースしたけどやはり無反応、スベったみたいで辛い。うーん、たったまま泣いて気絶しておられるのかな。何かさ、こう、目が虚なんだよね。あまり時間かかるとヤバそうだなコレ。
【舐メタ態度ヲ……愚カ者メ!!!】
んもう辛抱たまらないお方だ事。パシリがその右手に持っていた巨大な鉈みたいな武器をこちらに向かって振り下ろす。だがしかし、この余裕には理由がある。そう、この辺に関しては昨日のうちに村長の家で試せるだけ試してたんだよね。
「【スキル:空間固定】」
小さくそう呟いた直後に、パシリの攻撃が直撃する。ただ鉈を振り下ろす。それだけの事象でまるで魔法でも使ったかの様なレベルで周りの凡ゆる物が吹き飛び、天井から瓦礫が落下してくる。普通に考えて通常攻撃がこのスピードでパワー、勝てる訳がない。恐らく例えレベルが158となった現状でも、太刀打ち不可能な相手だっただろう。
だがしかし……何も感じないんだなーこれが。
【バ、馬鹿ナ……】
空間固定。内容は、指定した空間を固定する事。まぁつまり外部鑑賞のシャットアウトって事。こっちも動けないけど、普通に考えたら絶対防御でしょこれ。
チートすぐる。
【キ、貴様ハ一体ナニモ……!?】
「【スキル:空間の断裂】」
【グフッ!!】
瞬間、まるで縦に線が入ったかの様に謎の邪神的パシリマンが小さくズレる。パシリマンはこのスキル一撃で既に真っ二つ、右と左に分断され微妙に歪んでいる。
これも原理は簡単。全ての物質を超えて空間を右と左の二つに分ける。その間にある結合を解除する。そんなシンプルなスキル。
絶対防御と防御不能。もうね、チートが過ぎる。搦め手にさえ気を付けていたら油断してる敵とかに負ける訳ありませんから、残念。
【ソ、ソンナ馬鹿ナ、コンナ事デコノ我ギャッ!!】
「二重発動、【スキル:グランドクロス】」
パシリマンは最後にブツブツ言いたそうにしていたがそこは省略。もういいよね、どうでも。何かまだ動きそうな雰囲気だったから念の為さっきとは少しずらした場所でクロスに断絶しておいた。凄まじい轟音と共に崩れ落ち、文字通り地に沈んだ。
グッバイパシリマン。
さてこの向こうには何があるのか……おっと。
そうそうパイセンの事忘れてた。
「おーい、パイセン起きてー」
「あ、あ……ぅぁ……」
「んもーだらし無いパイセン、ほら大丈夫か?」
ひとまず俺はパイセンを抱きしめ、頭をポンポンしておいた。子供をあやすのはオタクだとしても苦じゃないよね、パイセン可愛いし。
「大丈夫でちゅよー悪いおじさんは退治しましたからねー」
「……ぁぅ……あ……え?」
「大丈夫でちゅよー」
「あ、あれ……私……?」
パイセンが何とか正気を取り戻した所で、とりあえずパイセンのカバンに入っていた飲み物を与える。
「ほらほらー、パイセンのドリンクでちゅよー」
「……やめて、気持ち悪い」
「酷すぎワロタ」
俺が飲ませようとした飲み物はパイセンに奪われ、パイセンは自力でグイッと飲み干した。
「ふぅ、あれ? さっきのアレは……」
「え、倒すとまずかった?」
「何で倒せるのよ……」
いやー何でって言われましてもですね。
神に選ばれしオタクですから、さーせん。
さて、前を見……いや待てよ。
まさかね、いやね、まさかまさか。
いやでもさ、もしかしたらさ。
ね?
「ステータス、オープンザマイケル」
名前:アンダーソン
称号:神に選ばれしオタクガチ勢
レベル:256
HP:14286
MP:4523
筋力:14180
敏捷:15001
耐久:14232
精神:14379
魔力:14092
スキル
【神・物体移動改改】
パーティオン
【ルナレシア:レベル151】
あちゃー、やっぱやべぇ事になってるわ。パイセンが百人乗っても大丈夫そうな耐久力を得てしまった。これは……まぁいいか。良い事だし。
っつかそれより神様や。いい加減この夢長くね? 一晩寝て起きてまさかのトゥビーコンティニュード。状況が続くとは思わなかったし。これもしかして夢じゃないの? ……と見せかけてみたいなね。
良いからはよ起こせし。
「な、何見てるのよ?」
「あーパイセンおめでと、何かレベル151まで上がっちゃったわ」
「……もう何かコメントが出ないわね」
「そこをなんとか!」
「……流石にこれは夢よね?」
あー、そう来ましたか。まさか同じ考えの方がおられたとはね。やれやれ、夢じゃないの? もしかして。……まぁ取り敢えずだ。考えるのも面倒になってきたので、呆然としたままのパイセンに対して、俺はありのままの気持ちで返事しておいた。
「俺もそう思う」