第84話 頭脳タイプには取り敢えずメガネ
「現在の体制を詳しく」
「えっと……王と王妃はこの国がダンジョンの被害に遭い始めた頃から病がちになって、今は完全に寝たきりね」
「え、それ大丈夫なの?」
「殆ど意識もないの、いつとうなってもおかしくない状況になってもう一年は経つわね」
「それ意思決定は誰がしてんの?」
「第一王子が殆ど仕切っているわ」
「ほほーん。ギルマス様的には第一王子の印象は?」
「そうだな……あまり悪く言いたくはないが、流されやすいタイプではあったと思う」
「にゃるぽ」
厄介なダンジョンの発生が意図的かどうかは分からない。そこまで出来るならかなりヤバイが、その後それらしい事が起こってない辺り便乗と見た方が良さそうだ。
仮に便乗犯だとして、国に何かしらのアプローチをかけて乗っ取ろうと考えたがそれなりに大国。戦力的には王国側が上だったからそれを削る作戦に出たと。
ダンジョンに手一杯でゴタゴタしてる隙に王と王妃の意識を奪い、手篭めにし易そうな第一王子に接触。
結果的に第二王子はそれにぶら下がる形になり、割と意のままに進行。
で、ここで問題。
何でその時点でもっと削ってしまわなかったのかという点。今回の件も、元々のプランでいけばそれなりに被害は出ても知れているレベル。ある程度の国力は残したいという意図が見える。
何故自分たちより強大な敵である王国の国力を残す必要があったのか。
……まだ他に敵がいるって事か。
「因みにパイセンや」
「何?」
「ここの王国レベルの国って他にどれくらいあるの?」
「アーデンハイドクラスの国は……無いわね」
「無い?」
「この国を中心とした魔族との抗争状態、それも今は軟化しているからそれ程重視されていないわ」
「んん? なら国レベルで魔族と争ってるとこって、無いの?」
「無いわね。私もよく分からなかったのだけど……ルムちゃんが仕掛けて来ないのが最大の理由ね」
「魔物とダンジョンは自然現象って言ってたけど、それを魔族の責にされてるせいで抗争状態もどきみたいな感じが継続してるって事か」
「多分……本当は殆ど魔族とは争ってなかったみたいね。一部の過激的な連中の小競り合いみたいな感じかしら」
「あー、なんか俺がウォーターハザードしちゃった四天王最弱さんか。そうなるといよいよ悪ふざけで仕掛けてくる魔族が殆どいなくなって、野生の魔物を倒して、たまにダンジョンを攻略する今のスタイルに落ち着いた訳だ」
「多分……だからこそ後は和解だと思ってルムちゃんも動いていたんでしょうね」
「……全俺が泣いた」
でも待てよ?
そうなってくると王国を乗っ取ったとして、その戦力はどこと戦う為に使うつもりだったんだ?
魔族サイドからの侵略だったのなら王国を滅ぼす道を迷わず選ぶ、それは無い。ならやはり第三者戦力の可能性が高い。
その第三戦力が王国の次に狙う王国レベルに強大な戦力……。
魔族か。
「うーん、思ったよりヤベェですねコレ」
「どうしたの?」
「あ、いやこっちの話」
王国を落として、次にその戦力を飲み込んで魔族を攻める。……ここの世界ごと狙っているヤバイ連中って訳だ。ガチ勢じゃん。
しかも使い捨てのレベル100相当の戦力をゴロゴロ従えて、本人たちは俺と同等、恐らくレベルだけならやや下くらい。だが空間固定をキャンセル出来る敵、つまり俺の手札的には天敵と言っても過言ではない。その上戦闘技術は向こうの方が上回っている。
危ねぇ……こないだのファーストコンタクトで何かを選び損なってたら世界ごといかれてた訳だ。
なら向こうはどうくる?
ここを本気で乗っ取るなら第三王子を含むこの面子を消さなければ国を綺麗に奪えない。恐らく、そこが向こうの懸念材料。自分たちだけじゃルムたん達を攻めきれない上で、籠絡も困難と判断したのだろう。
だから双方を争わせて傷だらけになった所で、意気揚々と漁夫の利万歳って訳ですよコレ。
やっぱ狙うなら俺たちか。しかも、王国に何かしらの働きをする前に消してしまいたい。
……つまりこれは二つのミッションがある。
一つ、国を第三王子の元に統合するチーム。
二つ、侵略者の迎撃するチーム。
国チームは今回の件で上がったソレイユ株と、元々あったゲオ兄さんの信頼で第一王子を失墜させられれば万々歳。王様夫妻はもうダメだ、多分敵のやり口から見て起きてくる事はないだろう。それなら敵は流され易い第一王子。多分いけるっしょ。
迎撃チームは倒すのではなく、敵がどこから攻めて来ていて、どれくらいの組織なのかを測る必要がある。また取り逃がして再発とか洒落になりませんからね。
「悪い、またパイセンには王子の護衛を頼む事になると思う」
「分かった、寧ろその方が良いと私も思う」
ゲオ兄さんが死んだら終わる。第一王子は説得出来たとしてもまた流される可能性が高い。ゲオ兄さんの代わりにはならない。なら……護衛は手厚い方が良いか。
「あとモモと千狐さんも引き続き頼む、多分次は俺がここにいるから追い込まれるまでは行かないと思うけど、二人でいても前回みたいな事になるから気をつけて欲しい」
「オッケー!」
『妥当やな』
「今やソレイユ姉さんも戦力に数えられるから、姉さんとギルマスも感覚的には護衛で。でも姉さんは万が一の時は守られる側ってのを忘れずに」
「了解だ」
「分かったわ」
これだけあればこっちは大丈夫だろう。むしろこれでダメならもうダメぽ。
「で、多分来るであろう侵略者と戦うのが俺。サポートにエルメスさん」
「引き受けた」
「今回は追撃、或いは追跡する事になると思うからその辺りも頭の片隅によろ」
「成る程な、任せてくれ」
エルメスさんは戦力的には中途半端だからどっちにいても大きな安心には繋がらない。ならいっそ俺の不備をサポートしてもらった方が街への被害も減るだろう。
「つまり簡単にまとめると、お膳立ては済んでるから国はパッパとよろしく。他は任せてちょ作戦って訳ですわ。みんなよろしこ」