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オタクアンダーソン-神の手違いで異世界へ-  作者: 生くっぱ
第三章【アーデンバイド王国編】
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第82話 大は小を兼ねるが、小を侮ってはならない

「君は人を殺せる様になりたいのかい?」

「……必要なら、やれないとなとは思ってる」

「違う、なりたいかなりたくないかだ」


 殺さなければならない、とは思っている。けどそれをやりたいかどうかだと……話は別だ。その二択だと、特に迷う事もない。


「なりたくないですね、ノーセンキュー」

「なら良いじゃないか、それで」


 簡単に言ってくれる。今日取り逃がした奴らの片割れはどうか分からない、奴は魔力解除系の力を持っていたから。だがもう片方は確実に空間の断裂で殺せた。あれは有無を言わさぬ殺しの技、逃げ切れるはずもない。


「良くないですよ、実際今も緊張状態にあるのは俺が取り逃がしたせいですし」

「なら仮に殺せたとしよう。その上にいるかもしれない別の存在が報復に、或いは代わりに任務を遂行しにくる可能性を懸念するだろうな」

「……確かし」

「結局、終わりなんてないのだよ。殺しも恨みも、過去から現在、未来に至るまで延々と続く怨嗟の渦はそう簡単に途切れたりしない」

「とはいえ、当面の問題は……」

「解決しないだろ? 敵の組織の全容が割れていないのだから。手足を切って捕まえて、拷問につぐ拷問の果てに全てを吐かせ、見つけた敵組織を皆殺しにするのかい? そこで更に拷問を繰り返して、次の組織を皆殺しに?」


 なんという芋づる式大量殺戮。

 ……ちょっと無理ですかね。

 考えただけで吐きそう。


「ここに来て尚考えが甘かったみたいですね」

「別に良いじゃないか甘くても、私は甘い物は好物だぞ?」


 おい何の話だ。それは聞いてませんから。


「それに、殺さない道の方が遥かに茨の道だ」

「……え?」

「君の中で殺せない基準はなんだ?」

「殺せない……基準?」

「魔物は殺しているだろ?」

「……成る程。んー意思疎通出来る同じ様な見た目をしたどう考えても悪な存在、かな」

「というと?」

「魔王が仮に超禍々しくて巨大な悪で、なんかもう悪魔的にてとんでもない凶悪な顔や見た目やサイズをしてたら、多分殺せる」

「ふむ」

「けど……実際は小柄な女の子だった」

「……そうなのか」

「そうなったらもう、多分手出しは出来ない」


 ダンジョン内にいる奴らは魔物であり倒すべき存在。だから躊躇なくいける。けど……ルムたんみたいな存在は、例え魔王だからと世界に殺せと言われても、俺には無理だ。


「別に殺さなくても良いじゃないか。捕獲し、牢に放り込み、観念するまで(くすぐ)ってやればいい」

「いやいや遊びじゃないんですから」

「そうさ、遊びのつもりなんて毛頭ない。同格の敵を殺さない様に捕獲する。これはとんでもない難易度だぞ?」

「……まぁ確かに」

「それに、魔王サイドを守りたいと思ったのなら、その時は世界と戦えばいい」

「……」

「勿論殺さない様に、世界と戦えばいい。やり方なんて幾らでもある。但し……とんでもない茨の道だ」

「……ですね」


 成る程、やり方は幾らでもある……か。どうやら俺は少し【殺す】事に囚われ過ぎていたのかもしれない。それをしなければこの世界を生きる覚悟を決めた事にならないと、見ないフリをしつつも……実際は過剰に囚われ続けていた。だから、大切な場面でこそミスをする。


 なら……どうしたら良いんだろうな。


「ところで、今日は特に冷えるな」

「んーまぁそんな薄着だと仕方ないっしょ」

「それに引き換え君は暖かそうなローブを持っているな」

「始めからここに来るつもりでしたからね」

「リーダー、ちょっとこっちに来い」

「は?」

「ほら、共に暖を取ろうではないか。……仕方ない、私が行こう」

「いやいやちょっと……」


 エルメスさんが……座ってる俺の真後ろに、俺に覆い被さる様に座った。そしてローブを俺から剥ぎ取り、自身を含めて覆いなおす。


 そして綺麗な白い腕を……俺の首に巻きつけてきた。おっふ……ついでになんか背中に当たってる気もする。多分気のせいだ。そうに違いない。


「無理をするな」

「いやいや無理とかじゃなくてこれはアレがアレなだけで別に……」

「殺さなくても良いじゃないか」

「……え?」

「私はもうその感覚をとっくに忘れてしまった。同胞を殺され、怒りに任せて組織を潰した事もある」

「……」

「だからもうそんな事にならなくてもいいように、必死に強くなった。が、結局何も変わらなかった。そして私はそのくだらない連鎖の果てに食の道を選んだ。逃げたと取っても構わない」

「そんな事は……」

「だから必要なのであれば、私を使ってくれ」

「やめなさい」

「私が代わりに殺してやるよ、君の理想を阻む存在を」

「……やめなさい」

「ならどうする?」


 耳元で囁かれる、その声が心地良い。

 声のトーンを落として、俺を安心させる様に。

 ゆっくりと、言葉を紡ぐ。


 状況は何も変わっていないのに別に良いんだと、許されているようで。つい笑みを浮かべそうになってしまう。


「どうする? リーダー」


 全く、これが年の功ってやつなんですかね。

 敵わないな……やれやれ。


「ありがと、エルメスさん」

「ん?」

「俺、やっぱ殺さない事にしますわ」

「……それが良い」

「但し、線引きはする」

「どう引く?」

「敵対する相手が度を過ぎた悪の場合、そして仲間の命が本格的にかかっている場合は、もう迷わない。その時は秒を跨がずに……瞬殺する」

「ふ、リーダーに本気になられては手も足も出ないだろうな」

「そうでもないですよ。実際、敵には厄介なのもいたし」

「それはまた改めて聞かせて貰おう」

「ですね。でもまぁそれ以外の時は……全力で生かそうと思う、もうそれでいいや」

「分かっているんだな? 難しいぞ?」

「ま、そこは俺ですし」

「ふふ、違いない」


 冷たい夜風が頬に触れ、体温を奪っていくにも関わらず、俺の身体は暖かい。人の温もりに触れるってのはあまり経験がないんですけど、こういうやつなんですかね。悪くない。


「リーダーには長きに渡る念願を叶えて貰った恩があるからな。とは言え殆ど興味でここまで付いて来てはいるが、そこには報いていきたいと考えている」


 そんな恩とか気にすんな的な事を言いたいけど、言うと夢を下卑する事にもなりかねない。この人の中では、きっと大きな事だったのだろう。


 俺が、パイセンの生へのひたむきさに触れて、こんな風に変わっていった様に。


「だから……困ったら遠慮なく頼ってくれ」

「流石年長者、言葉の重みが違いますわ」

「バカ言え、私ほどの極上のメスはそこんじょそこらには」

「やめなさい」


 実際は何も解決していない。俺は、それでも殺せないから。でもお陰で、少なくとも迷う事は無くなった。


 命のやり取りに迷いを持ち込む奴は死ぬって相場で決まってますからね。


 たまにはこんな夜も……悪くないな。

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