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オタクアンダーソン-神の手違いで異世界へ-  作者: 生くっぱ
第三章【アーデンバイド王国編】
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第81話 ギャク枠にもたまには愚痴りたい夜がある

「やっと見つけた、こんな所にいたのか」

「んん? 俺?」

「君だよリーダー、君しか居ないじゃないか」

「そりゃそうか、みんなは?」

「疲れて寝ているよ、彼女たちには特に色々あったからね。それでリーダーは何故こんな所に?」

「いや……何というか……まぁちょっと考え事を」

「ふ、らしくもない」

「ですよね。でも流石にこればっかりは……」

「今日の件か、何か責任を感じているのかい?」

「んー、逆……かな」

「逆?」

「責任を感じて無かった事について考えてるというか、何といいますか」

「……ほぅ、それは興味深い」


 同日夜、みんなが寝泊まりしている宿の屋根の上。

 例の襲撃事件は一旦落ち着きを取り戻しているが、まだまだ油断は出来ない。とは言え多分今日はもう何もないだろう。不確定要素の多い難敵俺がここにいて、向こうはパイセンとモモの実力にも気付いた。今攻め込むのは無謀だ。そんな間抜けだったら楽なんだろうけど、多分そうじゃない。


「責任を感じない事が悪いのか?」

「悪いとは俺も思わない。ただ……それだとさ、手を出す資格も無いかなって」

「確かにな、そこには同意だ」

「何かズルズル話しちゃってますけど、良いんですかねこれ」

「おや、私じゃ不服かい? これでもそれなりに歳を重ねた功もあるのだよ?」

「というか一人で考えなきゃダメな内容だと思ってさ。茶化して誤魔化して、そうやってはぐらかしてきた結果が今日の失態な訳で」


 これは……俺がいつかどこかで必ず向き合う必要のある事。流石に馬鹿な俺でもこれが夢じゃ無い事にくらいとっくに気付いている。そうなると俺はここで、この世界で生きて行かなければならない。


 ゲームもない、マンガもない、アニメもない。それどころか所構わず事件事件でいつも誰かがピンチになっている、そんなクソゲーよろしくなデンジャラスな毎日。


 だからって別にここが嫌な訳じゃない。実際、毎日笑ってばかりで。でも多分それはパイセンやモモ、エルメスさんに……今はいないけどルムたんとか、みんなが居てくれるからで。


 でもそこを笑っていられる空間にしようと思うと……どうしても付いて回る問題が、避けては通れない問題があるんだ。こればかりは……もう目を背けていられない。


「失態? どこが失態なんだい?」

「え、もう全部?」

「馬鹿を言え、君がいなければソレイユは死んでいた。それにゲオルグ王子も。国ももっと焼かれていただろうし、極論滅んでいたかもしれない」

「いや、それはナイから」

「分からないだろ?」

「敵は多分この国の旨味を吸い出しつつも無力化したかったんだと思う。だからあんな回りくどい事をさ」

「成る程、確かに一理ある」

「それに俺がちゃんとしてたら、再発は無かった」

「……どういう事だ?」

「俺は……二度のチャンスを棒に振った」

「チャンスを? そうは見えないがな」


 側から見れば良くやったと言われるかもしれない。でもそれは棚ぼたで手に入れたご都合チートのお陰で調子に乗っているだけに過ぎない。


 実際は……そうでもない。


「俺さ、この間までただのオタクだったんですよね」

「ほぅ、オタクとはなんだ?」

「世界を闇から救う事を影からしている人たち……革新的な映像技術によって世界に笑顔をバラまく神に選ばれし職、を応援する側の参加者A」

「……理解が難しいな」

「まぁなんせ俺は有象無象の一部だったんだ、それものびのびまったりのクッソ平和な場所でさ」

「大体の人がそうだろ? 平和なのはいい事じゃないか」


 つい先日まで俺は部屋でアニメを見てそんな時間をただ漠然と垂れ流してきた。その時はそれでも良かったかもしれない、でも……今は違う。


「その世界だと人は人を殺さなかった。俺も、そんな経験は無い」

「ほぅ、これは意外だな。これ程の力を持って尚、人を殺めた事がないとは」

「でもここじゃ……それでは通らない」

「まぁ、黙っていては奪われる場面もあるだろう」

「こんな俺でも守りたい存在があるからさ」

「……成る程、言いたい事は分かってきた。リーダーは殺しを躊躇った事で今回の件に上手く収束を見出せず、それが自身のせいだと考えている訳だな」

「まーそうとも言う」

「殺したくないのか?」

「そりゃまぁ。というか……ぶっちゃけ怖いからさ」

「……そうだったのか」


 俺は力を得てしまった、圧倒的な力を。そしてそんな俺の目の前に現れるのは大抵が倒すべき弱者。大体はそんな場面だろう。


 例えば凶悪な強盗犯が目の前にいたとしても、俺にとってはそいつが両手両足を縛られて放置されてるくらいのハンデが常にある状態だ。そして俺は強盗犯を目の前に刃物を手に持って、再発防止の為にそいつを殺す事を求められる。かつての世界ならそんな事したら逆にアウト、すべからく逮捕される。という状況に守られていただけだ。実際は見えない所で代わりの誰かがその強盗に罰を与えてくれる事に頼っていただけ。


 ここでは……それでは(まか)り通らない。再発の芽が目の前にあるのなら、自ら摘み取らねばならない。でなければ……次に傷付くのは俺の大切な人かもしれない。


 分かってる、分かってるけどさ。


「人を殺せないんですよね、俺。見て下さいよこの情け無い手。ちょっとリアルに想像しただけで震えてやがる、ぷークスクス。超迷惑なオートバイブレーション」

「成る程、バッタバッタと強大な魔物を討伐するから見損じていたよ。君がまさかそんな悩みを抱えていたとはね」

「もともと表立った事には関わらない、日陰タイプだったもので」

「とてもそうは見えないがね」

「猫被ってただけですって」

「ふ、羊が狼の皮を被ってどうする」

「誰うま」


 でもこのままだと……俺の甘さはいつか誰かを間接的に傷つけてしまう。それが……今回の件でよりリアルになった。で、怖くなった。そんな情け無い話。


 俺は本当に単純な馬鹿だ。

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