第80話 守る側が捨て身に出たら攻めてる側も終わる事を忘れてはならない
「まさかこっちの攻略にこれ程の戦力がいたとは誤算でしたね」
奥に控えていたもう一人がノンババァの隣に移動してくる。こいつも……かなり強そうだ。後ろを見ればモモもパイセンも肩で息をしている。つまり二人掛かりでも辛い戦いだったという事か。
ん? 奥の奴が前に出た時、ノンババァの方が僅かに一歩下がった。……こっちが上司か。
「今日の所は引かせて貰いますよ」
「やけにアッサリ引くけど、足元のアレはどうすんの?」
「あぁ、アレは使い捨ての実験体なので調べても何も出ませんよ。捨てていきます、どうぞご自由に」
「いらねぇ……」
「では私たちはこれで」
「え? 逃がしませんけど?」
ここでこいつらを逃すと厄介な事にしかならない。分かってはいる……けど、やっぱ断裂を人に向けて撃つのはまだ抵抗がある。腕や足を斬り落とし、死に追いやるのが……怖い。
だからと言って簡単に捕まる相手ではない。
どこまで通用するか……!!
「ほぅ、なかなかやりますね」
「お前モナー」
殴りかかった拳を……掌で受け止められる。多少加減したとは言えまさか止められるとは……。
「貴方……慣れている様でまるで慣れておられませんね。何ですか? その覚悟のない攻撃は?」
「でゅふふ、何の事でごさるか?」
「まぁいいでしょう」
やべぇ勢いでこうなってるだけなのがバレバレじゃん。殺しきれないのが見切られたら付け込まれる、でも……くっ。人を殺すのは無理だ。
何とか殺さずに……!?
「風刃」
「ちょっ!?」
急に狙いを俺からパイセンたちへと移される。今の状態じゃどっちかに当たる……クソっ!!
「やはり庇いましたか、甘いですね。いくら強くてもその程度の攻撃、その程度の心構えではどうとでもなる。次に会った時は……殺しますよ?」
「おパンツ」
「……まだ余裕はあるみたいですね、次回が楽しみです。では御機嫌よう」
そう言い残すとそのままノンババァと上司マンはその場から姿を消してしまった。
言われたい放題だった訳ですけど……こりゃ何も言い返せませんわ。やれやれ、それはそうとまずは……。
「わりぃ、また逃がし……!?」
「アンダーソンくん!」
パイセンが俺に突っ込んできた!
躱しますか?
はい
▷いいえ
「どわっ!? ちょっ、パイセンまだ危ないから!」
「ゴメン、一瞬だけ」
「……ったく、お疲れさん。悪い遅くなって」
「ううん、ありがと。……もう大丈夫」
「うっし、王子は?」
「大丈夫よ」
「流石パイセン、ナイスです」
「ダンジョン攻略は終わった?」
「そっちはバッチリ」
「ふーもう大変だったんだからねー!」
「悪い悪い、二人とも助かりましたわ。もうちょい早くこれたら良かったのに、さーせん」
「ううん、王国が何年も攻略不能だったダンジョンを三日で潰してくれたんだから。早いくらいよ」
「まぁ何にせよ、ギリ間に合って良かった」
周りに敵の気配はない。
下には自称鬼神らしいサムシングが埋まってるけど、多分手がかかりは奴くらい。でもなんか実験体とか言ってたから、情報は出ないんだろうけど。
「とりま全員で合流しますか」
まずはひと塊りになって、現状の共有からかな。
______
パイセン達の話を纏めると。予定通り王子の護衛には付けたものの特に何の変化もなく、二日が経過。それでもモモとパイセンが交代で常にガードしていた、そんなモモがガードしているタイミングで外部から強い気配を感じたと。
しかも複数。
それにすぐ対処したのがパイセンとギルドマスター。でもその一体一体とギルドマスターが互角レベル。対処出来るのはパイセンだけで、順番に倒していっていた時にさっきの黒マントが二人出現。
これがパイセンの手に余った。片方は刃物で攻撃しくるだけで二刀流のパイセンは難なく凌げたが、もう一人は風の魔法を操り状況を掻き乱した。上手く接近する事も出来ず、困っていた所にモモが現れる。
ギルドマスターに王子の護衛を預けてでも、パイセンのいるここを何とかしないとどの道やられると千狐さんが判断。二人掛かりの戦闘が始まる。だが敵は卑怯で狡猾。時折街に向けて大き目の攻撃を繰り出される度にそのフォローに回らなければならないチームパイセン。
敵は侵略側、こちら側だけ守る物が多過ぎた。
そして苦戦していると配下の一人を呼び寄せてそいつが巨大な魔法を展開。アレを防ぐにはモモが街を凍らせてでも何とかするしか……と考えていた所に。
アンダーソンが颯爽登場、キラッ!
で、あの通りという訳だ。
その後倒れていた敵兵と、俺が地面に埋めた自称鬼神さんを捕まえて、カイナス氏らが様子を見てくれたのだが、使い捨てという言葉が的を得ていた事が判明。
そいつらは魔力をブーストされていたが、その分回復しない仕様になっていたらしい。結局、魔力の完全枯渇からくる疲労不回復で全員死んだ。わざわざ延命する義理も無かった上に、特にこれといった情報も得られなかったからその判断となったそうだ。
とは言え今回の戦犯は言うまでもなく、俺だ。
敵を殺すでもなく、捕まえれもせず。挙句の果てにそれを敵に見抜かれて、付け込まれて。
何回同じミスを繰り返せば気がすむのやら。
どういう形であれ、このままこの世界で生きるのであれば、もう少し現実的に色々と決断しないとな。
でなきゃ……失ってからでは遅いですからね。
こんなキャラじゃ無い筈なんだけどなぁ。