第72話 ここ、テストに出るぞーは巧妙なフェイントの前フリ
「で、その作戦ってのは具体的にどういうものなんた?」
「まぁ単純な話、余計な労力を温存して守りに徹してる間にダンジョンを踏破する作戦ですかね」
「ほぅ、簡単に言うじゃないか。その守りに徹するのに必要な戦力はどこから?」
「次にモンスターパレードが来る時に向けて、備えてますよね? それ全部で」
「ならスタンピードに対する戦力は?」
「え、ここに居るじゃないですか」
「……信じても良いのか?」
「問題ない、私が保証しよう。この女の子はテオラゾーマの使い手だ。男の方は理解も追いつかない使い手だ」
「テオラゾーマ!? 第六階級をこんな子供が?」
エルメスさんがいた事でギルドマスターとの階段が円滑に進み、こりゃ話すとこまで話した方が早いわと判断し、ひとまずここである程度まで話を進めてしまう事に。
「スタンピードさえ抜けてしまえば、防衛は十分ですよね?」
「過剰戦力なくらいだ、問題ない」
「でしたらその隙にパパッとダンジョン踏破してきますんで、情報操作おねしゃす」
「情報操作?」
「ダンジョンに向かったのは、ルナレシア・シードルプグルス率いる、国防メンバーだと。そしてその采配は第三王子によるものだと」
「……成る程、ここで点数稼ぎをさせてしまうつもりか」
「第三王子さんに頼まなくてもオケ?」
「俺は彼とは懇意にしていてね。常々二人で国の行く末を憂いていた所だ。まさかこんなチャンスが巡ってくるとは考えてもみなかったが」
かなり丸投げ的に第三王子とパイセンにパスする流れにしているが、全くコンタクトとってないんですけどね。大丈夫なのかしら。
ちと話くらいは聞いておくか。
「その第三王子さんとルナレシアはくっつけて大丈夫な訳?」
「そこは問題ない。好き合っている、というよりは今は同士に近い関係だけどね。そういう意味では……そうだな、他言無用な情報なのだが」
「進行に必要ならおねしゃす」
「感情的には第三王子、ゲオルグは姉との方が近かったのだが。その時姉は既に他家とのゴタゴタに巻き込まれ始めていて悪い噂が多くてね。早い段階で別の婚約の話も出ていたりで。王族との婚約は困難な状況だったんだ」
うへぇ、ゴタゴタしまくってる。
流石逃げるしかない状況、テラカオス。
「間接的にでも姉を守る為、形だけでもシードルプグルス家との繋がりを作りたかったゲオルグは、シードルプグルスの当主との話し合いの末に、ルナレシアとの婚約を決めた」
「あー、成る程。なら本当は姉さんとくっつくべきなのね」
「そういう事だ」
「うーん、姉さんの現在は立場的に問題ない?」
「情報はリセットされているが、良い話もないのが現状だな」
「ふむ、なら陣頭指揮は姉さんにとって貰いますか。部下Aがルナレシアで、その下僕が俺たちって事で」
「リーダー、それだと少し弱くないか?」
「絵面的に?」
「そういう事だ」
「確かし。だがしかしそこはあれ、カイン……じゃなくてカイナス氏でも呼んできますか」
「……成る程、確かにその用途もあるとの話だったね。流石リーダーだ」
「カイナス様をご存知なのか?」
!?
「カイナス【様】……だと?」
「彼はこの国では研究職の第一人者だ。仕事柄あまり認知はされていないが、歴史学的に言えば彼の右に出る者はいない。研究の末に古代の召喚魔法さえも復活させた偉人じゃないか」
「……いやぁ、今更それは受け入れられませんわ。野生のカインクラッシャーでFA」
「私も知らなかったな、研究職とはあまり縁がなかったからか。しかしリーダーはカイナス氏に厳しいな」
「前にちょっと色々ありましてですね」
「なら……カイナス様に依頼すれば解決しそうなのか? 彼は戦闘方面に秀でていた覚えはないのだが……」
「まぁ、多分大丈夫」
「……信じよう。なら後はお膳立てか。やれやれ、俺は完全に裏方だな。まさかこんな実力者が味方についてくれるとは」
「第三王子さんは大丈夫?」
「任せてくれ、俺が便宜を図ろう」
「なら残る問題は……」
「ルナちゃんとのコンタクトだね!」
「だなー、パイセンに一言もなしにこれはやり過ぎ感が……いや。まぁ今更な気もする」
またアンダーソンはそうやってアンダーソンとか言いながらバカバカってポカポカされるんでしょ? うーん、問題ないわ。どう考えても。
「では私たちは宿に来てるかもしれない伝言でも確認しに戻るか。もう他に話す事は無いか?」
「ならおさらいだ。次のスタンピードが起こり次第我々はここで防衛の構え、君たちが前衛に。そしてそのままダンジョンを踏破。細かい補填は俺の仕事。これで間違いないな?」
「ですね、それくらい単純にしておかないと付け焼き刃で盛り込み過ぎたら失敗の元ですからね」
「そこまで考えてくれていた上なら他に言う事はない、よろしく頼む」
本来ならもうちょっと掛かりそうだったけど、エルメスさんの顔が効くのがかなりでかい。この人普段はちゃんとしてるからどこに行っても人望があるんですよねぇ。人は見かけによらないとは正にこの人の事。いや、エルフか。エルフは見かけに寄らない、これテストにでますから。
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「アンダーソンくん!?」
「あれ? パイセン来てたの? 乙……どわっ!?」
「何で家に来てくれないのよ……言いたい事いっぱいあるし、お礼だって……もういつもそうやって貴方は……」
「悪い悪い、俺ってば高級ハウスより安宿の方が肌にあってるからさ。そういや頑張ってるってなパイセン。みんな噂しててドッキリマンチョコレート」
「……結局、私には目の前の敵を倒す事しか出来てないの。何も解決してないわ。ゲオルグ様も手は尽くしてくれてるけどなかなか……」
「婚約者?」
「え!? もうそんな事まで知ってるの!?」
「まぁ立ち話もなんだ、部屋にいかないか?」
「貴女は……えっと……確かエルメスさん?」
「ほぅ、君は博識だな。私如きの名を知ってくれているとは、光栄だ」
「時々ギルドで名前が出るって聞くので……どうしてここに?」
「あぁ、そうか君はゲオルグ王子の婚約者だったね、ギランとも通じている訳か。今は訳あって……いや、訳もなくリーダーのパーティに同行させて貰っていてね、このメンバーでは食事をメインに担当している」
「……そうなんですね」
「堅苦しいのは抜きだ、フランクにしてくれ。それに、まずは部屋にだな」
「……そうね、移動しましょうか」
宿屋の一階で待ってくれていたパイセンを迎え入れ、ひとまず借りている部屋へと移動する。うーん、にしてもパイセンが小綺麗な格好をしておられる。なんかマジで貴族みたいに見えるから不思議。
取り敢えずパイセンに事情説明と、事後承諾になっちったけど作戦の擦り合わせ。パイセンは最初こそ作戦に驚いていたが、やはり煮詰まらない現状にかなり参っていたらしく微妙にウルウルしていた。
王子の事も確認したが、やはり姉に対する引け目があったらしい。それで良いと、それはそれは快諾された。その姿を見て、あーだから姉ちゃんとも微妙にギクシャクしてたのねと妙に納得してしまったな。何か嫌いって訳でもないのに、寧ろ好きなのに距離を置いてたというか、微妙な姉妹だったものね。まぁこのカオスに巻き込まれてたなら仕方ない話だわ。
さて、こうなってくると後はカイナス氏か。大分やる事が明確になってきたな。カイナス氏もどこにいるのか判明してるし。
とっとと終わらせて、巻き込まれないうちに退散しますか。