第66話 タキシードの彼はピンチを待っている
「すいません村の人、俺は旅人のアンダーソン。なんかあったの?」
「……余所者には関係ないよ、消えな」
「おっふ、そこをなんとか!」
「……しつこいねぇ」
取り敢えずその場で見かけた老婆に声をかけてみたが辛辣な返しを頂いてしまった。やれやれ何がまずかったんですかねぇ。
「その馬車さ、知り合いのやつっぽいんだけど、何でここにある訳?」
「なっ!? アンタ一体……、いや、これ以上話す事なんて……」
「ルナレシアかソレイユ、聞き覚えは?」
「……どうやら本当に関係者みたいだね。村長に取り次ぐからそこで聞きな」
アチャー、やっぱ当たりだったか。知らないならそれはそれだとも考えたけど、この反応だと多分関わってるなーコレ。老婆はそれだけ答えると、ゆっくりと一軒の家の前へと俺たちを案内し、自身は建物の中に消えた。そして数分後。
「入りな、後は自分で何とかするんだね」
中に入る許可を貰う。やれやれ、どうなってんだか。マジで何してんのパイセン。
______
中に入れて貰って村長とご対面。因みにモモとエルメスさんにも同行して貰っている。理由は勿論代わりに喋って貰おうと企んだ訳だが、この場での発言はリーダーに任せるよってこれ見よがしにエルメスさんが言うから既に俺が一人で喋る状況に。マジでこの人厄介だわ。
「まずはお主らと彼女らとの関係を聞こうか」
「うーん、友達って言うか何て言うか。俺らが仲良くさせて貰ってたのはルナレシアって妹の方なんだけど、お姉さんにも世話にはなったから見過ごせなくてですね」
「ソレイユ様の妹君のご友人の方々でしたか、成る程。ではまず尋ねさせて貰おう」
おやおや、これはもしやパイセンは無関係? なんかここには居ないっぽい空気が……まぁ聞いてれば分かるか。
「どうぞ?」
「お主らは腕に覚えはあるのか?」
「ダンジョン攻略経験は三回ほど」
「攻略!? それを信ずる証拠は?」
「証拠とか要る? 動きを見て分かんない人に?」
「……成る程、分かる者を呼ぼう。ダイバル、入りな」
「お呼びでしょうか村長」
「こやつら、お主の目から見てどうじゃ?」
「……私が如きには推し測れぬレベルかと」
「ほぅ、レベルはいくつある?」
「全員100は越えてるかな、余裕で」
「ダイバル、どう思う?」
「あり得ます、それくらいの差は感じますので」
「……よろしい、疑って悪かったの。では話を進めよう」
ふぅ、ふざけられない場面だから真面目にしてるけど、何とかストーリー進行許可は貰えたっぽい。セーブ出来ないってマジ面倒だわ。というかこれでセーブ能力とか得ちゃったら益々チート化するからいりませんけどね。
そして何やかんやあってその後、村長から語られたのはここ最近で村に起こった事件についてだった。
そもそもこの村は最近盗難に困らされていて、それだけなら困る程度だったのだが、抵抗の少ない村側の対応に味を占めたのか、遂に人攫いまで始まってしまう。しかし、やはり抵抗出来るほどの戦力もなく、隙のある場所から順に狙われて。村の貴重な若者が数人消えてしまった。
そんな困り果てていた所に我らがソレイユ姉さんが立ち寄ったと。
そして手元にある食料の一部を村に解放し、手厚く介抱。挙句の果てには許せないと盗賊とも一戦交わし、その戦いの末に敗北。結果連れていかれたそうだ。
やべー状況じゃんそれ。何してんのねーちゃん。
「それいつの話なの?」
「まだ数日の内の話じゃ。妹が頑張っているのに自分だけのうのうと過ごしておれんと、自国を目指して移動中だとかなんとか。旅の道中じゃというのに申し訳ない事をした」
まぁ盗賊にやられてるんじゃ、遅かれ早かれどうせ戦力的にどこかでやられてたっしょ、多分。
むしろ今回はまだ動向が拾えただけマシと思うべきか。これでこのまま姉ちゃんが行方不明とか流石にパイセンが可愛そうだわ。
まぁ、って事は残念ながらパイセンとは入れ違ってたって事か。困った困った。んーやっぱあの時最後まで見送るべきだったかなー。まぁ言ってても始まらないか。
パイセンがいたら楽勝だったのに。
「成る程ね、大体把握できましたわ。ソレイユ姉さんも知り合いだからほっとけないし、ちょっと助けてこようと思うんだけどさ、盗賊のアジトとか分かってるの?」
「いや、それを探る余裕もなくてな。自衛するだけで精一杯の現状じゃ。すまぬ」
相変わらずの盗りたい放題って訳ですね。なら……まぁ放って置いてもまたくるか。
「オッケー、なら次に盗賊が来るのを待ってるわ。どうせ今日も来るっしょ?」
「……そうじゃな、場所は毎回違うからどこから来るかは分からんがの」
「流石に来たら分かるからそこはへーき」
「そういえば……もう一人外部の者がフラッと立ち寄って、恐らく拐われておるな」
「外部の? 知り合い?」
「知らぬ者じゃ、勝手にきて勝手に拐われおったから気にもせなんだが、一応な」
「ならまぁ気にしなくてもいいか。そしたら自前の馬車付近だったら村に滞在させて貰ってもオケ?」
「……構わん、こちらとしても本当は何とかしたかった。じゃがこの件に報酬などは……」
「いやいや金とかいらないから、別に困ってないですしおすし。それに今回のは力不足で首突っ込んだソレイユ姉さんも軽率だった訳だし」
「……あの子は悪くない、悪いのはワシらじゃ」
まぁ助けるのもやぶさかでは無い村っぽいし、ここはひとつ人助けといきますか。
「そしたらさ、助けた村人に信用して貰うためになんか村長っぽい言葉が欲しいんですけど、何かあります?」
「村人まで気にかけてくれるか、すまぬ。ならば村人にはゲルティナと伝えてくれ」
「ゲルティナ?」
「ワシの名前じゃ、村人にしか明かしとらん」
「にゃるぽ。助かります」
さて、ソレイユ姉さん無事だといいんだけど……まぁ多分無事か。無傷のままにしておいて身代金貰った方が儲かるもんね。
にしても、やっぱ自衛出来る力がないとこういう事は起こっちゃいますよね。何というか、何とかなりませんかねぇ。