第65話 手のひらで転がしてる風、実は逆
「成る程、アーデンバイド王国を目指すのだな。だからツインドラゴンテイルまで移動したのか。確かにかの王国の付近に妙に強力なダンジョンが出現していたね。確か五年くらい前か」
「あれ? 割と最近なんですね」
「ダンジョンはいつどこに現れるか予想がつかないからね。特にあそこのダンジョンみたいに、外部に魔物を垂れ流す様なダンジョンは厄介極まりない」
「うへぇ、そりゃ面倒だ。なんで潰さない訳?」
「みんな君みたいにポンポンダンジョンを潰せる訳ではないさ。かく言う私もそのダンジョンの攻略は無理だろう」
「そんなヤベェダンジョンなの? 王国滅んでんじゃね? 引越しするしかないじゃん」
「漏れ出る分には低層の魔物が多いからね、それくらいなら対処も可能だ。問題は、漏れ出る程にエネルギーを持ったダンジョンの攻略にはどれ程の戦力が必要なのか、って事だね」
「にゃるぽ。確かに守ってるだけならまだ可能か。お互いに守りの体制になってる事で状況が拮抗した訳だ」
「平たく言えばそう言う事だ」
パイセンの実家を目指しつつ、何となく馬車を進めるアンダーソン一行。エルメスさんがかなり博識で常識の無い我々には非常にありがたい存在になっている。
意外な活躍と言わざるを得ない。
「そのダンジョンって、勝手に潰しても問題ない訳?」
「問題はないさ、可能ならね。君なら難なくクリアするだろう」
「まぁうちのパーティ、何だかんだ言って食だけが問題でしたからね。気が緩んで油断しそうになったら千狐さんが怒ってくれますし」
『しゃーないやん、ワイが言うしかないねんから。誰か危機感持たへんと終いにいかれてまうわ』
「ふふ、なら私も安心してこの場に居る事が出来るという訳だ。何ならどの様に私を活用しても構わ……」
「やめなさい」
のんびりと過ごしつつも馬車は進み、その運転はエルメスさんが買って出てくれたので任せっぱなし。馬は何とか捕まえる事に成功したので難は逃れている。
マジで逃がそうとしたからねこの人。
「ねーお腹すいたー」
「む、確かにそろそろお昼の時間か。何か用意しよう」
『ほなそこはワイが変わるわ』
「すまないね千狐くん」
博識でご飯も作れて、苦楽も共有してくれる。更にそれなりに腕も立つエルメスさんがいてくれるのは頼もしい限りなのだが、やはり別の危険が伴う以上は油断出来ない。
「今日はサンドイッチみたいにしてみたよ、この手の肉はパンに挟むのがベストだろう」
「いただきまーす。……美味しー!」
『飯が美味いのはほんま有り難い限りや』
「お褒めにあずかり光栄だよ」
パッと見は、いいパーティなんだけどね。あ、そうだ忘れてた。エルメスさんに聞きたい事があったんだわ。
「そういえばさ、前に攻略したダンジョンで別ルートのみを攻略したダンジョンがあるんだよね。あれってやっぱ消えずに残ってる?」
「そうだね、間違いなく残ってるだろう」
「深さって、ダンジョンごとに違うんですよね?」
「その通りだ、基本的には強力なダンジョンや特殊なダンジョンは深い傾向があるね。グルメダンジョンは特殊なダンジョンに部類する」
「強力なダンジョンって、最初からゴブリン十二体とかのダンジョンの事?」
「馬鹿な、最初からゴブリンがそんなにいたらどんな深さになるっていうんだい。最初はやはり一体からがセオリーさ」
あれ? やっぱあのダンジョンの初期ゴブリンかなり多かったっぽいな。パイセンもそんな事言ってたよね。にしても残ってるのか、気にしてなかったから放置してるけど、あそこもそれなりにヤバイダンジョンな気がする。
「九階とかにデカいミノタウロスが二体出てきたんだけどさ、どう思います?」
「たった九階で? ラージミノタウロスかい?」
「多分」
「……聞いた事ないね。そんなダンジョンなら私でも二十階にたどりつけるかどうか」
「うへぇ、やっぱやべぇダンジョンでしたか」
「それでも君なら何とかしそうだけどね、何故攻略を諦めたんだい?」
「別ルート見つけたからそっちクリアして、終わった気になってたお間抜けパターン」
「そういう事か、だからさっきの質問という訳だ」
「しょゆこと」
うーん、まぁ慌てる事もないし、ひとまずは先にパイセンの方を目指しますか。一応覚えておこう。
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「ねーねー、なんか村があるよ?」
「そういう場所には小規模な村が点在している、珍しくもあるまい」
「ふーん、でもなんか大変そうだよ?」
「小規模な村は常に飢えと戦っているからな、そういう事か?」
「うーん、なんか村の雰囲気に不釣り合いな豪華な馬車と、不穏な空気?」
「不釣り合いな馬車? 不穏な空気?」
馬車の運転席に座るエルメスさんの隣にモモが座り、二人で何やらやり取りしているようだが、先程からどうも様子がおかしい。
「本当だな、何かあったのか?」
「あったっぽいよねー」
「どうするリーダー、ここは無視するか?」
ん? リーダー?
誰の事ですかねぇ……。
「リーダー、呼んでますよ」
『ワイやないやろ』
「君だよ君」
いやいや、リーダーってガラじゃありませんから。
オタクですよ、オ タ ク。
「リーダーってやめて貰えません? 俺このパーティではただのオタク担当なんで」
「ならご主人さ……」
「リーダーに何か用かね?」
おのれ……巧妙な罠だったか……。
「うむ、何やら不穏な空気を放つ村が見えるのだが……」
「え、無視でいいんじゃね?」
「モモがな、気になるとの事だ」
「何が気になる訳?」
「えっとねー、あそこの馬車見える?」
「見える、むしろ浮きまくってるから超見える」
なんというか……民族の村にシンデレラ的なサムシングが迷い込んだみたいな場違い感。流石に分かりますわ、おかしいだろアレ。
「あの馬車にさ、マークはいってるでしょ?」
「ん? あー、確かに……!?」
マーク? アレは確か……。
「そうそう、あれと同じマークの首飾り、ルナちゃんが付けてたよね?」
「確かにあれは……」
パイセンが付けてた服装の一部としか見てなかったけど、確かに模様が同じ。偶然って事も無いだろう。
やれやれ、こりゃ無視は無理だな。 不可避のイベントっすわ。