第6話 ダンジョンに入らずんば狐子を得ず。
腰に巻いた唯一の装備を失って村の外に張り飛ばされた俺は、股間に大きめの葉っぱを一枚だけ装着して無事に帰還。遂に装備は葉っぱのみとなった。
目覚めそう。
因みに帰還後はそのまま村長の家に泊めて貰い、そして! 俺は念願の服を与えられた! やっとノーパン生活ともおさらばだぜヒャッハー!! と思ってたら何故かフンドシと村長お気に入りのピンクでハート入りの羽織が手渡される。
ちょっとそれはどうかと思うのですが……とは言えずですね、そりゃね。有り難く頂いておきました。所詮ノーパン居候の身分ですから。
さて、ここで皆様に現在の装備を紹介。
【白のティーシャツ、白フン、ピンクの羽織】
想像するまでもない圧倒的なテラキモス。
異世界チートロマンから逸脱し過ぎてませんかね。これ大丈夫なの? 俺こんな奴みかけたら秒で五十メートルは距離を取るぜ?
「あら、似合ってるじゃない」
「……あざーっす」
とは言えご好意は無駄に出来ないじゃん。助けて貰ってる事は素直に有難いんだし。それにノーパンとコレの二択ならやむを得なくない? 二択が右も左も地獄な訳だけど。
「で、結局行くの?」
「まぁ他にやる事もありませんし」
「でもあそこはアタシでも危険な場所よ? 一人でなんて……」
「でも最初からソロプレイですしおすし」
昨日村長の家に泊めてもらいながら、色々な事を話した。その中で気になったのがやはり【ダンジョン】の存在。何でも世界中にランダムに出現して攻略されたら消えるとか何とか。でもヤバイやつはしぶとくて何年も何十年もそこにあるって。
つまり昨日感じた変な感覚がそのダンジョンで、最初に会った時のパイセンはあれの確認に行っていたらしい。だから俺がいてあんな反応になった訳かと妙に納得した。
「でも確かアナタ、レベルが低いのよね?」
「まぁ頑張って雑魚狩りして細々といきますんでご心配なく」
「ほぼ他人とは言え死にに行くのを見過ごすのは寝覚めが悪いわね。だからってアタシが同行する訳にもいかないし……」
死地へと自殺に向かう謎の若者を目の前に、村長はとても困っておられた。
そう、これだけは言っておく。昨日一日をこの家で過ごして良く分かった。この人超良い人ですから。もうね、滅茶苦茶優しいから。ご飯も風呂も布団も丁寧に用意してくれた上に、質問攻めな俺に嫌な顔一つせずに一つ一つ答えてくれた。
何で最初に怖がる様な偏見持たせるのソレイユ姉妹。マジ勘弁……と思ったが多分俺が勝手に勘違いしていただけだろう。責任転嫁いくない。
「村長には感謝してますが、迷惑かけるのも忍びないんで。まー俺元々他所者だし」
「んもー水臭い事言わないの!」
テラ良い人。でもこれどうしようか。
「私が同行するわ」
そんな時、突然場の空気を一変させる存在が乱入。そう、パイセンがそこにいた。今日もちっちゃいパイセン。
「あら、ルナちゃんが?」
「元々は私が様子を見に行くって事だったし、この人も近くまでいったら諦めがつくと思うから」
「……それもそうね」
あ、成る程。同行というより、観光案内って事か。俺としては向かえれば何の問題もない。
「アナタ、武器とか杖はどうするの?」
「武器? うーん、武器……。あんまりゴツいの持っても仕方ないからナイフとか借りれたら助かる……かな」
「まぁそうよね、それくらい貸してあげるわ」
そんなこんなで村長からナイフをレンタル。パイセンに連れられてダンジョンを目指す事になった。
______
「あそこよ」
ダンジョンまでは割とあっさり辿り着いた。どうもパイセンはそこそこ強いっぽい。今の俺からしたらミジンコみたいなものだけどパイセンはパイセンで命の恩人には変わりない。
幼女幼女してて俺的には筋肉が圧倒的に足りない訳だから何の感情も湧かないが、感謝だけはしてる。あそこでオークにやられてたらゲームオーバーだったからそれを回避してくれた女神に最大の敬意を。
「ほー、あれが」
禍々しい雰囲気の洞窟の入り口。瘴気が渦巻き、外から見ても地下に続いている事が伺える。
「最初会った時、ルナパイセンはこれをチェックしてどうするつもりだったの?」
「……あの時は存在の確認だけよ」
「あと、村長が攻略したら消えるとか言ってたけど、攻略って?」
「ダンジョンの底にはダンジョンボスがいて、そいつを倒すと報酬が貰えるの。で、ダンジョン自体はそこから暫くすると自然消滅するわ」
成る程、そういう仕組みなのね。ならひとまずここを攻略して、その報酬をゲットしろってシナリオでいいんすよね神のじーさん。そういう流れで合ってるかな? まぁどっちでもいいか。何かこの夢なかなか覚めないし、折角なら楽しまないと勿体ないし。
「さて行くか」
「えっ、ちょっと!」
俺の羽織を掴んで進行を阻止するパイセン。
「何する気よ?」
「え? ダンジョン攻略?」
「馬鹿なの? 無理に決まってるでしょ!」
「えっと、ピクニック?」
「ふざけないで!」
心なしか怒ってるというか何というか。あ、これあれだ。つまりワケありって事か。
「パイセンさ、ダンジョンに何かあんの?」
「え? あ、いや……その……」
モジモジし始めるパイセン。改めて見るとパイセンマジ美少女。ツヤっとした赤い髪はポニテになってて、戦士っぽい装備を付けておられる。そしてちっちゃい、全体的に。あと筋肉が足りない。
「私の故郷がこれに困らされてて、避難させる意味で私はこの村に住ませて貰ってるの」
「あれ? パイセンあの村出身じゃねーの?」
「出身はもっと遠くの国ね」
「ふーん、でそれとダンジョンが何?」
「……故郷を困らせてるダンジョンを攻略するのが私の目標なの。あれは強大過ぎて近寄れないけど、ここくらいの規模だったらいつか……ってね」
「ここのはショボいわけ?」
「いえ……まだ不明なだけよ」
あー成る程ね。パイセンはダンジョンに怨みがあるって事か。俺としてもここは多分こなすべきイベントっぽいし、取り敢えず行ってみよう。ボッチで行く気満々だったけど、それならパイセンがついてくるのもやぶさかではない。他の人を守りながらの方がスキルの学習も捗りそうだし。命の恩人たるパイセンに怪我させる訳にはいきませんからね。
「パイセン、俺ダンジョンに行ってくるけどどうする?」
「え? 本当に言ってるの?」
「マジマジ、パーって終わらせて帰ろうかなって」
「……冗談よね?」
「マジマジ、じゃまた後で」
「あっ!」
明らかにオロオロしているパイセンを残して俺は一人でダンジョンへ向かった。地面に入り口があって、下に向かって緩やかに下降していくみたいな感じか。
まぁ何とかなるっしょ。
「……もう! 待ちなさい!」
何の躊躇もなくダンジョンに踏み込む俺の後ろからパイセンも続いてダンジョンに入った。
さて、ひとまずダンジョン攻略といきますか。