第57話 振り切った人は輝いている
「取り敢えず、この肉食べません?」
「一緒に食べていいのかい!? こんなレアな食材を!? ま、まさか分けて貰えるどころか一緒に食べても良いだなんて……君たちは一体……」
とんでもないモノを見る目でこちらを見つめるエルメスさんだが、ぶっちゃけアンタも大概だよとしか言いようがない。
他の食材を出した時のリアクションも気になるが、まずはこの謎ベアーの肉でも食べますか。
「モモ、ご飯にしても大丈夫?」
「私はお腹ぺこぺこだよ!」
「千狐さんは?」
『むしろワイも興味あるわ、はよ食べよ』
「おや、まだ誰か……」
お約束の千狐さんの紹介を終え、エルメスさんによって食材が捌かれる。パラパラと食べやすいサイズにされた肉の一部を残し、残りは鞄へと戻しておいた。劣化させるのも勿体ないからね。
「と、取り敢えず焼いてみたいんだけど良いかな?」
「全然オッケー」
「よろしくー!」
物の価値が分からない我々に対して、ひたすらタジタジのエルメスさん。相当ヤバイ肉みたいですねこれ。
「表面だけサッと焼いて……塩で十分かな」
そう言って綺麗に表面だけを鉄板で焼き、塩をふりかける。めっちゃ良い匂い。そしてそれを切ってくれたのだが、中はまだ赤いままで霜がふっている。
あーもうヤバイこれ。
「た、食べようか……」
「いただきまーす」
「わ、私も……!!?」
こ、これは……!?
「何だこの肉は……濃厚なのにしつこくなく、脂身の上品な甘さが口の中でトロける……。香ばしい表面は強烈な旨味を、中はジュワッとトロける様な濃厚な旨味を。それぞれが合わさる事で……なんて上品な肉なんだ。一体これはどこの……?」
「おいしー!」
感想は全部エルメスさんが代弁してくれたので割愛。クッソ美味い。涙目で美味すぎる事を主張してくるエルメスさんだか、ここはもう信用して話してしまった方が徳の様な気がする。
大概変人だし、多分大丈夫っしょ。
「エルメスさん」
「な、なんだい?」
「実は肉は他にもありましてですね」
「本当かい!?」
ガタッと音を荒だてながらその場で鼻息を荒くするエルメスさん。ヤバイ、目が逝ってる。
「ど、どんな肉なのかな?」
「今の奴よりヤバイのがゴロゴロと……」
「そんな馬鹿な!? いやでも……え? 本当なのかい?」
「マジです」
余りの驚愕に絶句するエルメスさん。うわー、なんか凄い事になりそうな……。
「是非私に捌かせてくれ! 出来れば一部を、いや、金なら払う、なんなら何でもするから!!」
「えぇ……」
「私はこれでもそこそこの雌だ、必要とあらばどんな要望にも応えよう! それに金だって大概持っている! 言い値で構わない、どんな事でも大丈夫だ!」
「いや、ちょっと……」
「えー、アンダーソンくんそんな事考えてたの?」
違います、違いますから。無理だからそんな駆け引き出来るようなタイプじゃありませんから。
待って、話の方向性がおかしい……。
「見てくれ、金はここにほら! それに私の身体も……」
「ちょいちょいちょいちょい!!」
「どうした!? 遠慮なんて必要ない、何でも言ってくれ!」
服を脱ぎ始めようとするエルメスさんを必死に静止する、この人マジで逝ってるわ、ヤバイ。
「肉を見せてくれ!!」
マジもんの美食家ですわ。
この人に頼むのが逆に無難っぽい。