第56話 類ともはガチ
「さて、どんな収穫があったのかな? それ程日数は経ってないから……まぁ期待はしてないけどね」
エルメスさんに連れられるままに街のはずれにある加工専用と称された場へと移動。そこは加工もだけど、どうも食べるとかにも特化してるっぽい作りになっており、大きめの鉄板や調味料的なものまで配置されていた。
今は目の前に鉄板のある部屋にいる。ここに食材を出してくれと、そういう訳だ。
うーむ、何を出せばいいのか。期待してないとか言いながら目がめっちゃキラキラしてますから。明らかに期待してますからこの人。
「ではこれを……」
「これは……コカトリスか、凄いな。まさかこんな食材が出てくるとは……予想以上だ。結構深くまで潜ったんだね」
「ま、まぁそれなりに」
一発で見抜きますか、流石のベテラン。この肉一回凍ってたから心配だったけど大丈夫っぽいですね。エルメスさんは興味深く鉄板の上に出された食材を見つめると、横に設置されている刃物セットの中からそこそこの長さの包丁を取り出す。包丁っつか、腕くらいの長さはあるんですけどね。
「少し離れててね」
そう言われてモモと二人で三歩下がる。多分捌くのだろうと予想はついたが、なぜ離れる必要が……と考えていると。エルメスさんは肉を空中に投げ、そして空中に閃光が走る。
ハラリと肉が滑らかにバラけ、パタパタと綺麗に整列していく。やべぇ捌くの鬼上手いこの人。
「フレイム!」
そしてその一部を手にとって再び空中へ、そこに火の魔法を浴びせる。落下するそれを空中で三等分してから、見事に皿で受け止めた。マジベテラン。
「ほら、食べてみるといい」
「では一口……!?」
こ、これは!?
「え、これ凄くおいしー!」
「美味いだろ? コカトリスは塩分を含んだ変わった肉だからね、焼くだけで十分な旨味を発揮する変わった食材なんだ。では私も……うん、美味いね」
毒持ちって聞いてたから期待してなかった肉でこのレベル? これはやべっすわ。
「肉にはそれぞれに合った切り方や食べ方がある、だから間違った調理をされるのは忍びなくてね。コカトリスを持っていたのなら声をかけて良かった。斬れた肉の一部を売ってくれないか?」
「あ、いや捌いて貰ってるし、どうぞどうぞ」
「いやいや、お金は払うよ。ならこれだけの量で、この金額でどうかな?」
正直お金とか一切困ってませんからね。肉塊を食べやすいサイズに一瞬でしてくれただけでも感謝感謝ですよコレ。
でも食べ方か。うーむ。出して良いものか……。でも折角良い肉をゲットしたからなぁ。美味しく食べたいし……、よし。取り敢えずこれでジャブを打ってみますか。
「これってなんの肉かわかります? 俺らも分からなかったったんですけど」
「ん? どれだい?」
俺が取り出したのは、パイセンがクロウベアーの上位種と称した謎の魔物のドロップ。
「こ、これは……え? 待って、あれ?」
エルメスさんの様子がおかしい。やっぱなんかマズイ感じに……。でも美味しく食べたいし……。
「ベアー種の様な印象を受けるけど……明らかに質が……おかしい。どのくらいの階層で得たドロップなんだい!?」
「ちょっ、待っ、グェェ揺らさないで……」
「おっとゴメンよ。こんな素晴らしい肉、久しく見ていないからさ。コカトリスでも大概だというのに、これは一体……」
やべぇエルメスさんの目がマジの奴になってる。これでこの反応だと他の肉が出し辛い……。
「た、食べてみてもいいかな?」
「……どうぞ」
目にも留まらぬ速さで肉を一部切り落とし、そして生のまま……食べた。うわぁ……美食家ってほんと凄いというか……この人が変なだけなんですかね。
「凄まじいね、これ程とは……。是非一部、一部でいいから私に買い取らせてくれないか!?」
「ちょっ!?」
ダメだこの人滅茶苦茶興奮してる。目が血走ってますもん……。
「こんな……、あぁ調理してみたい。というか、焼くだけでも……いや、僅かにあのハーブを合わせれば……」
人の肩に手をおきながらブツブツ言い始めるエルメスさん。この人マジモンのヤベー人だわ。
こりゃ大丈夫だな。
気が合いそう。