第55話 減ったら増えるの法則
「さて、ひとまず……肉どうしよっか?」
「よく考えたら私たち調理出来ないよね」
ルムたんと別れてから落ち着いて状況を考える。するとある結論に辿り着いた。肉は得たが調理出来ないという切ない現実に。マジ切実。
「ねぇどこかの店に持ち込もっか?」
「うーん、それしかないかな。何せ調理とか無理ですからね、干物に……」
『やめーや、言うてそれも面倒やろ?』
「確かし」
得たものが良い食材なだけにあまり無駄にはしたくない所……おや? あそこの店の前にいるのってなんか騒がれてた人っぽい、微妙に見覚えがあるな。身の熟しが一体レベル以上だとどうしても視界の端で意識しちゃうぜ。
「あ、なんとかのなんとかって人だ」
「情報皆無でワロタ。ほぼ忘れてますよねそれ」
とはいえ俺も同じ様な意見だ。なんか俺の中の薄っぺらい記憶によると……確かダンジョンの入り口付近で騒ぎになってたような? 的な。
「おーい!」
ん? 向こうがリアクションを取ってる……?
いやいや、あり得ませんから。
無視無視。
「おーい君達!」
「……?」
俺か? いや待て待て。落ち着いて後ろを振り返ってみるも誰もいない。どうせこれって返事をしても【いやいや、お前の後ろの奴に声かけてんのに何自意識過剰に反応してんのこの人】的な恥ずかしい事になるアレだろ?
そう簡単には引っかかりませんから。
いや、ここは様子を見て……。
「君達だよ!」
「へ? 俺?」
「そうさ! 確かダンジョンの入り口にいたよね!」
うへぇ、よく見てますね。そちらは有名人でこっちは無名の旅人だってのに。
「それで、ダンジョンには入ったのかい?」
「まぁ、そうですね」
「なら何かゲットしたかい? 珍しい食材とかないの?」
何か物凄いキラキラした目でこっちを見てくるな……。
これはあれだ、ヤバいタイプだ。
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仲間にしてあげますか?
はい
▷いいえ
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「いえ全然、もう全然なんにも」
「嘘は良くないよ」
だがしかし、回り込まれ……またこのパターンですか。やれやれ、何なんですかね。このファンタジーでは選択肢先生は機能してないのですかね。いや、まだだ!
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仲間にしてあげますか?
はい
▷いいえ
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「いや……え、何でそんな事が? 何もありませ」
「嘘は良くないよ」
んなんでだよ理不尽イベント多すぎんよ!!
もうなんかハァハァ言ってるから!
この人ヤバいから!!
「マジで何にも……」
「その身のこなしでそれはないだろ? 見る人が見れば分かるさ、相当なレベルじゃないの?」
そうきます? 成る程、実力者が視界にはいったからマークしてたら、普通に帰還してると。そりゃまぁ……気になりますよね。お互い様、バレてましたか。
「割とそれなりにアレがアレなんで大事にはしたくないんですけどそれは……」
「ふふ、仕方ない。なら私の店にくるといい!」
「私の店?」
「私はエルメス、この街には良いダンジョンがあるからね。加工専用の店を持つベテランの美食家さ」
自分でベテランとか言っちゃうガチな人ですね。これ大丈夫なんだろうか。なんかまた回避不能なイベントが……。
「私の腕を疑ってるのかい? 自分で言うのもなんだけど、こう見えて200歳を越えたベテランなんだよ? エルフって知ってるだろ?」
「エルフ!?」
つ、ついにエルフが!? あのファンタジーの代名詞とまでなってしまったかの有名なエルフが目の前に!? だから何? って感じですよね、はい。というかまた200歳かよ。ルムたんの同世代じゃん。
「そのエルフさ! だからさ」
「いや、あの……」
「そこをなんとか!」
「えぇ……」
こりゃ逃げ切れないやつなんですかね。モモさんは……? あれ? なんか普通に串に刺さった肉を食べておられる。人がアタフタしてるのを良い事に一人で買い食いとは流石安定の食いしん坊さん。
「ちょっとモモも話を」
「はい、アンダーソンくんも一口どうぞ!」
「いやいや、今はそんな場合では……」
「はい!」
「ちょっ、押し付けな……あっダメ! 」
「ほら!」
それは間接キッ……いえなんでもありません。
いやいやいや、気にしてませんから。
肉の交渉?
何かもうどうでも良くなってきたかな。