第50話 羊を数えても眠れない時は眠れない
「ふー疲れたー!」
「流石にかなりとばしたからのぉ」
「でも収穫はあったわね!」
皆が思い思いの事を呟きつつその場に腰を下ろす。そして下ろすその場に千狐さんが砂でクッションを作成。ハイハイ安定の俺だけ仲間外れボンバーなんでしょって何も言わずに座ったら俺にもクッションを作ってくれました。この面子マジツンデレしかいない。
「取った肉は妾とアンダーソンで半分ずつ保管するとするか。妾は一旦離れるがすぐに合流する、特に問題はあるまい」
「あれ? ルムちゃんどこか行くの?」
「流石に無断外泊が長く続いておるからの」
「無断外泊って、魔王が言うと斬新ね」
「配下に過保護な奴が一人おってな……。もう一人は頭が逝っておる」
「で、心配されてるから一時帰宅って事?」
「まぁそう言う事じゃな。事情を説明してまたすぐに合流する」
「……わ、私もそれ考えてたのよね」
「ん?」
思い切って話すルムたんとは対照的に、とても思い詰めた様な趣きで話始めるのはパイセンだ。この子ほんと周りに気を遣いすぎてて心配になるわ。
「私はここのみんなと過ごす事でかなりの力を得た。そして扱い方も大分わかってきた。……そろそろ向き合わなきゃいけないの」
「……そっか、ルナちゃんずっと悩んでたもんね」
「うん、ここに居たら甘えちゃうからね。でも村にはお姉ちゃんも残して来てる。それに私の動向も一部には既にバレてるし。流石にね」
「なら一緒に行けば良くね?」
「ううん、それじゃ甘えちゃうから。私は私の力で、この問題を解決しないとダメなんだと思うの」
かー、まだこんな可愛い見た目のパイセンがこんな男らしい事を。ここまで言われたら反論の余地も……ないかな。ま、言ってもパイセン既に魔王クラスの実力者ですからね。余程の事でも無い限りは問題はないっしょ。
「成る程のぉ。とは言え、助けが必要な時はいつでも頼るのじゃぞ。アンダーソンが文字道理一瞬で駆けつけるからの」
「場所によりますけどね」
「ふふ、そうね。ありがと! みんな!」
どこかもの寂しげな雰囲気を出すパイセンだが、その一方で決意に満ちた表情もしている。これは茶化したり変に肩入れしたり……必要ないな。
「じゃあここを出たら私と千狐ちゃんとアンダーソンくんだけになっちゃうんだね」
『えらい寂しくなるやん。ルムはすぐ戻るんか?』
「奴次第じゃな」
『噂の過保護な部下か、しゃーないな』
「妾も早く戻って来たいのじゃ」
そうか、三人になるのか。なんか割とワイワイやってたからこの感じのままなのかなって錯覚してたけど、まぁ確かにパイセンの問題は放置してたし、ルムたんも成り行きのままだし。ここいらでその辺りの精算って訳ですか。
しかし、モモと千狐さんだけか。何故かちょっと不安になりますね……。
「なら今日は二人はアンダーソンくんと寝る? 私はこれからも一緒だしね!」
「ほぅ……」
「え……?」
横目で視線を俺に流すパイセンとルムたん。おやおや雲行きが怪しいですねぇ……。よし、逃げるか。
「さて、俺は向こうで……!?」
「待たぬか」
手を……掴まれた!?
「お主確か妾の匂いが好みだとか申しておったな?」
「……いや……そ、その……」
「仕方ない、暫くそれも堪能させてやれんからな。今夜は好きなだけ吸い込むが良い」
「意味が分かりませんから」
明らかに仕返しテイストに薄い笑みを浮かべて挑発してくるルムたんマジ危険なんですけど。やべぇあの時の事まだ根に持ってるよコレ。
「わ、私は……、私も側に居ても……いいのかしら」
「はい」
タハー! 直球とか逆に避けられませんから! 残念!
「ほれアンダーソン、近う寄れ。妾が抱きしめてやろう、ほれほれ」
「いや……ちゃ、ちゃうねん、あれやねん、あ、ほら急に用事を……」
「用事? ねぇ大丈夫?」
「大丈夫です」
ぐはー!
前からは意地悪なルムたん!
後ろからは素直なパイセン!
なんつー鬼のフォーメーション、逃げ道なすび。
「ちょ!? ルムたん!?」
「すまんな、妾には余り包容力はないが、お主の好きな匂いだけは存分に堪能するが良い」
ルムたんの胸元に抱き寄せられて……そのまま寝かされてシマウマ。そして千狐さんが砂でベッドをフォロー。こんな時だけマジ素早い。
『……ぷぷ』
野郎!? 楽しんでやがる……。
ひ、人が理性と二次元と三次元の狭間でもがいてるところを見て楽しんでやがる。千狐さんのいじわる! この人でなし! うん、人ではないわ、何なんだろね千狐さん。
「私もいい? 言ったは良いけど、やっぱりちょっと不安でさ」
「はい」
前はルムたんで視界がいっぱい。
後ろでパイセンがもぞもぞ。
うん、寝れる訳ねーですから。3の倍数数えるゲームで朝を目指そう。
3、6、9、12……