第5話 流石にノーパンだと英雄でも絵面的にアウト。
「い、一体何が……」
村が静寂に包まれる中、俺は自身のステータスのチェックに没頭していた。だってさこれ。桁がヤバくね? 来たんじゃないの俺の時代!? 漸くこの詐欺詐欺した状況から抜け出して神様から貰ったハッピーライフを満喫出来る体制が整った的な?
やっと来ましたよ。 チートですよこれチート。
見て、この【真・物体移動改改】とかいう斬新な変化形態。 フリ◯ザー様もビックリな変化してるよこれ。露骨過ぎじゃね? どう考えてもパワーアップしてるじゃん。
「アンダーソンくん! 無事だったのね」
「べべべつに俺はここで普通になんかアレしてただけだから全然アレだしへーきへーき」
「……何に動揺してるの?」
光速を凌駕する勢いでステータスを消滅させ、口笛を吹きつつ何事も無かったかの様に平生を装う。
マジ完璧っすわ。俺ってば演技派ですから。
「どどど動揺してねーしバーロー」
「……まぁいいわ。ソレイユ姉が様子を見に行ってくれてるけど、まだ油断は出来ないわ」
「あの四天王的な何かアレ?」
「そう、まさかザベルが……」
深刻な顔をしながら顎に手を置くパイセン。なんかザベルに執着でもあんの? 或いはあったとか? まぁどーでもいいんですけどね。俺みたいな部外者にナイーブな所を深掘りされても困るだろうし。
「兎に角、村の混乱が治るまではあまり変な事しないでよね」
「ん、りょーかい」
それだけ言うと、パイセンは群衆の中へと消えていった。変な事もクソも今を持ってなおノーパンなんですけどそれは……。まぁノーパンはいいか。
それよりスキルだ。あれがどう変化したのかくらいは確かめておきたい。他の連中はまだ不安だろうが、俺だけは違う。この圧倒的なレベルがザベルさんは死にましたって言ってるからね。爆上げですから。そこはもう安心してる。村の皆様には申し訳ないけど暫くバタバタしていてもらおう。その方が都合良いし。
さてさて、服も欲しいけど金どころかパンツ一枚持ってないし。シャンプーハットで万引きしたとしても、こんな閉鎖的な村でやったって即バレだしなー。
店先から無くなった商品をこれみよがしに着てる村の部外者とかソッコーで檻にゲットインでしょ、逮捕不可避っすわ。
となるとノーパン問題……まぁ後回しでいいか。別にこんな夢みたいな状況なんだ、パンツよりスキルっすわ。うん、スキルチェックが優先だな。誰かに見られても厄介だ。さっきの森の方に行ってみるか。
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さて、ここは森の中。服装は来た当初より酷くなってるけど、他は概ね良好。今の俺の感覚だと魔物や森の生物がどこにいるか大体分かるみたいだ。何かスゲー変な感じ。
もはや居場所が分かる上に大概がワンパンで倒せるから楽勝にも程がある。だからここで何かしても特に問題はない。
「ステータスオープン」
名前:アンダーソン
称号:神に選ばれしオタクガチ勢
レベル:158
HP:8769
MP:2789
筋力:8753
敏捷:8963
耐久:8921
精神:8716
魔力:8073
スキル
【真・物体移動改改】
何度見てもヤベェ……。もうこれ楽勝なんじゃね? 何でも出来る気しかしないけど、服一つ調達出来ない辺りのぼせるにはまだ早いという事だろう。万能感もクソもないからね、パンツないから。油断大敵。いくら夢でも死ぬのは寝覚が悪いし。
で、スキルの【真・物体移動改改】なんだけど。とりあえずポチってみるか。ポチっとな。
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【真・物体移動改改】
スキル
・シャッフルゲート 消費MP1
効果:二つの物体の位置をそれぞれ交換する。
・瞬間移動 消費MP50
効果:一度行った場所へ一瞬で移動する。
・空間の断裂 消費MP100
効果:指定空間を上下左右平面に断裂する
・空間固定 消費MP100
効果:空間を固定させ、変化を受け付けなくする
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うわぁめっちゃ増えてるんですけど。これ最早ポジションチェンジというより空間使いって感じじゃん。何このチート感、たまんねぇ…。来ましたよこれ漸く来たよこのチート大先生。もーここまで来たら後はパンツとズボンさえあれぼどこでも生きていけるくね?
ただ肝心のパンツもズボンも入手の見通しが立たないんだけどね。どーすんの? ノーパンで冒険とか締まり悪すぎですから、開放感良すぎでブラブラですから。辛らららら。
……取り敢えず村に戻るか。ここまで来たら村長とアー! って事にもならないだろうし、服装ちゃんとしてなかったら信用もクソもないからね。
やれやれと思いつつ村の方を向こうとしたその時。少し離れた場所に一際目立つ気配を感じた。何だ? あっちは確か……本当に俺が最初に飛ばされた聖水地点でパンツの墓がある辺りか? うーん、気配がというより、何かがウヨウヨしてるみたいな変な感じが……まぁいいか。いやーにしても何か気配察知みたいな事やってるし俺、ほんと慣れませんわ。
取り敢えず村に戻ろう。
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「ただいまンドリル」
「……貴方どこに行ってたのよ」
村に帰るとそこにはガヤガヤしつつも日常を取り戻しつつある村の姿があった。事件が起こったとは言え被害はゼロ。残留物もゼロ。後腐れゼロ。まぁそりゃそうなるよね。
「ちょっとパンツがリサイクル出来ないか墓荒らしに」
「……もう、服くらい用意するから。村長も心配してるわよ?」
帰還して割と早い段階でパイセンではなくソレイユさんを見つけたのでさり気無く合流。ソレイユさんの話によると四天王は恐らく何らかの幸運で事故死。死んだと断定してもいいだろうという運びとなったって。
「あ、村長。この子無事でしたよ!」
「ちゃーっす」
「あらよかったわー、アタシ心配してたのよ!」
物凄い地面をドスンドスンしながら俺の元へと駆け寄るマリア村長。そしてその勢いで俺に抱き着こうと……!
「だがしかし!」
「あら?」
俺はその抱擁を見切り、素早く回避。ふぅ、危ない危ない。背骨バキバキイベントとかいりませんから。ノーセンキュー。その後も抱きつこうと両腕を振り回してくるので、紙一重の神回避を続ける。ふっ、当たらなければどうって事はない。
「んもー恥ずかしがらなくても……あら?」
「ん?」
「え?」
だがそんな見事な回避を見せた俺の神動作に、腰に巻いていた服の方が耐えられなかったらしい。
縛った部分が解け、ハラリと服が地面に落ちた。
あはん、ポロリもあるよ。
「あら、可愛いジュニアね」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ほぶべぁ!!」
バチーーーンと、村全体に響き渡ったのではというレベルの轟音と共に俺は遥か彼方へと張り飛ばされた。ふぅ、やれやれ。相変わらず俺のファンタジーは理不尽過ぎませんかね。
大脳を震撼させる一撃に全俺が泣いた。