第43話 下りは落ちると早い
【B30】
「流石に誰もいないみたいね」
「ここまでくると行くリスクも戻るリスクも厄介じゃからな。そんなもんじゃろ」
「やっと静かになったね!」
黙々と進む事遂に三十階。ここまで来ると流石に人の気配はなさそうだ。少しでも誰かに戦闘を見られるだけでも厄介なんだよね。マジ危険。
「因みにパイセン、あの敵は何?」
「アレは……コカトリスね。適正50で有毒の魔物よ」
「あー何か聞き覚えあるわそれ」
なんというか、トカゲとニワトリを混ぜた様な微妙な見た目をしたソコソコのサイズの魔物。腐っても階層ボスって訳ですね。うーん、にしても有毒系か。そう言えば毒の耐性とかってみんな大丈夫なのかな? ……分からん。
「毒持ちだったら離れた所から倒しちゃいますか」
「はーい、私やりまーす!」
「あれ? モモって遠距離攻撃出来たの?」
「えっとね、千狐ちゃんと話してて、私元々は氷の力を使ってたらしいの! で、威力の調節はルムちゃんに教えてもらってさ、だから多分大丈夫だよ!」
「師匠が魔王でアドバイザーが古代の叡智ですか、鬼のフォーメーションですね分かります」
「よーし、いってみよー」
そう言うとモモはテクテクと全体の中から少し前に抜け出る。コカトリスからは十分に距離が取れておりまだ動きはみられない。何気にモモの戦う所は初めてみるな……氷の技ね。さて、お手並み拝見って所なのかな。……何俺も偉くなったモノですねぇ。
「取り敢えず全力でいってみようか!」
「……え?」
全力? モモが……ちょ、待って、今何て……。
「テオラゾーマ・アレイザウト・オン!」
「待って待ってダメだっ……どわぁぁぁぁ!!」
瞬間、魔力が爆発的に高まったかと思うとフロアを埋め尽くすとんでもない威力の氷撃が放たれる、むしろ既に一面の銀世界。レベル50の雑魚相手に何しちゃってんのこの子。オーバーキルどころじゃないから、遠足に浮かれてる訳?
「うーん、もう少しいけると思ったんだけどなぁ」
「いやいや十分ですから」
なんで失敗しちゃった方向性がもっと強く撃ちたかった方なの? もう十分ヤバイですから。これ以上とか俺らも巻き込まれるから。
『まぁゆーてもお嬢は元々、氷をサポートとして使ってた面が強くてな、もっぱら殴る専門やったわ』
「テラ鬼畜ワロタ」
それ氷使いっていうより殴り屋ですから。媒体が氷なだけで殴り屋ですから。
氷に埋め尽くされた部屋から階段を目指そうにも、どうも進み難い。当たり前じゃん、凍ってるからね。
「面倒じゃの、バーストバレット!」
「え? ルムたん……!?」
隣で魔王が爆発する小球を連続射出。これにより氷を粉砕しながら進む羽目に。難関……というか何なんだろうね、これ。
「破片が散るとマズイのでな、お主らは少し離れて来て欲しいのじゃ」
「はーい」
「ありがとねルムちゃん!」
氷を爆破しながらゴリ進むルムたん。
おや、チラッと振り返りましたね。
「えぇい! お主も早う離れんか!」
「ルムたん寂しいっしょ? そうやってすぐぼっちになろうとするんだから」
「……好きにせい」
否定しない所がルムたんの可愛いとこなんだよなー。何気に顔とか赤くなってるし。友情に疎すぎるのもなんか新鮮でいいですよね、ご馳走さまです。
「ルムたん赤くなってて可愛いな」
「なっ!? そんな訳……!?」
「ちょ!? ダメだっておいおいおいどわぁぁぁ!!」
ルム氏、連続射出しながら身体ごとこっちを向くの巻。するとどうなるか。
「当たるから、当たっちゃうから!!」
「訂正せい! 妾は赤くなど……!!」
この人狙ってますね本当照れ屋さんでワロタ。いや笑えませんから。
「ダメだから、ルムたんちょ、当た……!?」
ルムたんの攻撃が数秒ほど俺を狙うその中、……足元の地面が……崩れた。
「嘘だろ!?」
「チッ、アンダーソン!」
ルムたんがすかさず助けに入る。魔法の射出を止めずに。馬鹿なの?
「ルムたんそれ止めて止めてぇぇぇ!!」
「なんじゃ!? 早う捕まれ……!?」
ダメだ、崩れる範囲が広がってる。
パイセンとモモは……無事か。
ルムたんは……捕まえた!
でもこれはもう……。
「どわぁぁぁ落ちるぅぅぅぅ!!」
真っ逆さまですから。
どうなってんのこれ。