第39話 同じ場所にいても同じ景色を見ているとは限らない。
「ま、ここでいいかな」
「いいんじゃないかな、普通だしね」
それから間も無く、特に苦労する事もなく宿を確保。馬を止めて別料金を払えば面倒も見てくれるというナイスオプションが付いていたのでそれを依頼。さて、ひとまず馬はこれでいい。
「やっと飯が食えるぅぅぅ!」
「うわっ、どうしたの急に」
「いやいやこの匂い分かる? ヤバくね? もうこれを目の前にして我慢しろとか限界ですから。ほら、モモさんは何が食べたいよ?」
「私? うーん、そうだなぁ」
ポクポクポク、チーン。
ちょ、はよ!
「あ、あった」
「なになに? とりあえずそれにするからそれを……」
「白玉団子」
「……シブすぎワロタ」
えぇ……このタレの匂い、肉の匂い、あらゆる食欲を掻き立てるこのタイミングで、白玉ですか。なんという草食感。いや草じゃないんだけどさ。
「じゃあとりあえず白玉だね!」
や っ て し ま っ た!
なぜ俺はモモさんの意見を優先するとか言っちゃった訳よこれだってこの匂いの中であえて白玉モサモサするとか何なの修行なの心の修行なの?
Whhhhhhhhhhy!!!
「おけ、なら白玉で」
とは言えないヘタレな我が心。
やれやれ、肉はお預けですか。
何の罰ゲームなのコレ。
______
「あ、あるね白玉ぜんざい屋さん」
「何であるんですかね」
探してみるとこれが意外とアッサリ存在してしまっていた。普通に美味しそうなぜんざいを屋台でカップ販売している。成る程、これならモモさんだけ食べれば俺は普通に肉にいけますわ。ふぅ、セフセーフ。
「すみませーん、二つ下さい!」
優しさが刺さるぅぅぅぅ。
「はい、アンダーソンくんの分ね!」
そして渡される俺のぜんざい。ええぃままよ! ここまで来たら男アンダーソン、もう肉とかどうでもいいですから。ずずずと一口……あ、クッソ美味い。
「あれ? 激烈に美味いわコレ」
「わー、本当に美味しいね!」
何これ、口の中に広がる優しい甘さ、そしてそれを引き立てる僅かな塩分、甘さに侵食されてきた口内をリフレッシュしつつ新たな甘みを提供する白玉。こ、こんな所に神が……オーマイゴッド。
「待って、美味すぎるわコレ。もう一つ買おうかな」
「ダーメ! 一つだから美味しいんだよ?」
あえて更に購入しようとする俺を何故かモモさんが諌める形に。デモデモダッテ! 俺、もっとぜんざいを……。
「だから次はお肉にしよ?」
「是非」
ぜんざい?
あー、あいつね。
あいつは……いい奴だったよ。