第21話 敵には敵の事情がある。
「つい先程の話じゃ。妾は50階へ足を踏み入れてみたのじゃがな」
「え、既にフライングしてたのルムたん」
「左様、しかしながらそのまま引き返す事となった。理由が分かるか?」
「そりゃトイレは先に済ませて行くのが常識で……」
「危機感を覚えたからじゃ」
俺が予想を言い切る前に話を被せてくるルムたん。
やれやれせっかちさんなんだから。
「あの……私も話してもいいのかしら?」
「人間の少女か、お主もなかなかやるようじゃの。この様な所まで二人だけで来るとは大したものじゃ」
「……色々あってね。まずこれだけ確認させて」
「何じゃ?」
「何故魔王がこんな所に? それに私たちに攻撃してこないのは何故なの?」
「むぅ、さっきも言ったであろう。妾は殺しは好かん。それに世間の魔王のイメージが悪いのも理解しとる。じゃがそれと妾自身の在り方は関係なかろう?」
「……そうなの?」
「妾と話した事もないのに妾への評価を断ずる方が本来はおかしい筈じゃ。しかしながら……魔王という肩書きであればそれもやむなし。そこでじゃ、お主は妾を見て虐殺を好む巨悪に見えるか?」
「……見えない、見えないから困ってるのよ」
「仕方あるまい、世間のイメージとは言え魔王という肩書きは悪を為し過ぎた。妾の代だけでそれを払拭できるとは思っとらんが、妾と先代までが違う事をお主は認めてくれるか?」
「少なくとも、私自身が考える時間が必要ってのは分かったわ。質問に答えてくれてありがと。私はルナレシアよ」
「十分じゃ。よろしく頼む、ルナレシア」
パイセンと魔王が握手を交わす。
何か不思議な光景ですよね。
「で、話を戻してオケ?」
「おぉそうじゃった。50階にいた魔物、アレは八岐大蛇ではない」
「ワッツ? どゆこと?」
「正確には八岐大蛇が何かと融合して【別の何か】になっておる。その別の何かが何なのかは分からんが、少なくともまともなモノではなかったの」
「……もしかしてアレなんじゃね?」
「……そうね」
「何じゃお主ら、何故心当たりがある?」
不思議そうにするルムたん。
まぁそりゃそうですよね、俺たちも良く分かってませんし。
「千狐さん、どうも問題ないっぽいですわ。むしろこれは何かヤバイ臭いしかしませんぜ」
『……せやな、ワイも薄々感じとった』
「何じゃ、もう一人おったのか? 何処におる?」
『すまんな、こんな場所やから警戒させて貰ってたわ。ワイは千狐、今アンディが言っとった事を説明しよう思うんやが、ええか?』
スルッとパイセンの頭から帽子化を解除すると、千狐さんは静かに地面に降り立った。
「これは……。お主何者じゃ?」
『ワイは帝国時代の遺物。かつてこの辺りを治めた奴らに封印されとった使い魔みたいな存在や』
「ほぅ……帝国の。また古い言葉が出てきたものじゃ」
そして千狐さんは俺たちと出会ってからの事をルムたんに説明した。
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「成る程、つまりアンダーソンとルナレシアが言っていたのは、帝国時代の遺物と八岐大蛇の何らかの接触の危険性、という訳じゃな」
「しょゆ事」
『ワイが言うのもアレやけど、もしそこに封印されとるお嬢のエネルギーまで運用されとるんやったら色々ヤバイ事になる』
「何故じゃ?」
『まずお嬢はかなりの力を秘めとった。それを運用されとんのやったら時間が経てば経つほど厄介になる。それにお嬢の身も心配や』
「確かに、じゃが……妾一人ではどうにか出来るレベルではなかった。せめてリーティスかチルギアを連れて来るべきじゃったな」
「ん、誰それ? 友達?」
「妾の配下じゃ。四天王の中でも信の置ける数少ない存在じゃな」
「あ、ゴメン。その二人ではないけど、何か四天王っぽいやつ一人俺が倒しちゃったわテヘペロ」
「……お主じゃったか。あやつには妾も手を焼いておった。構いやしない」
「あざーっす」
「え? ……あれ貴方がやったの?」
「そうなのよウッフン」
「……もう何か驚かなくなってきたのが悲しいわね」
謎のサプライズも含みつつ話は煮詰まっていく。
大分出揃ってきたんじゃね?
つまりだ。
「さーて、オタクガチ勢の俺がここまでを纏めさせて頂きますがよろしいですよね始めます」
『拒否権ないやないか』
「まず敵は放置したらより強力になるタイプで今なおイケイケ、逆に救うべき対象は一刻を争う可能性が出てきた」
『……せやな』
「そしてここにいる魔王はそもそもここの異変に対するアプローチとして参じており、かつ四天王さえいれば何とかなったかもしれないが、現状やばげ」
「そうじゃな」
「そしてここに四天王を倒せる戦力が二人分いる」
「そうね」
「つまり、みんなで行けば良くね?」
「……共闘という事か? 先の言葉が真でアレば確かに可能性はなくも無いじゃろうが、お主らの強さに関してはまだ信頼は……」
「ん、とりまパーティおけ?」
「……成る程、いいじゃろう」
流れで魔王がパーティメンバーに。
もうこれ以上の混沌とか無くね?
ってレベルのパーティですよね。
「パーティ、オンザマイケル!」
「そんなキーワードじゃったか?」
「ステータス、オンザマイケル!」
「何言ってるの?」
そして開かれた我がステータス。
魔王は疑いながらもそれを確認した。
名前:アンダーソン
称号:神に選ばれしオタクガチ勢
レベル:256
HP:14286
MP:4523
筋力:14180
敏捷:15001
耐久:14232
精神:14379
魔力:14092
スキル
【神・物体移動改改】
パーティオン
【パイセン:レベル152】
【ルムたん:レベル387】
ルムたん強過ぎワロタ。
「名前の表記がめちゃくちゃじゃのう」
「最近変え方が分かりましてですね」
「そんな事出来たの?」
「それはさておき、どう?」
「……確かに、四天王に匹敵する実力者が二人という情報に偽りはなさそうじゃな」
「ルムたんも鬼強いじゃん」
「妾のレベルを見たものなど他におらぬというのに、不思議な勢いを持った小童じゃ」
「ま、これも何かの縁でしょ。ヤバイのなら尚更ね」
ルムたんの言っている事が本当なら、このレベルに育ったパイセンですら危険が多いという事。これはかなり気を引き締めていかないとヤバイっぽいね。
うーん、この緊張感。
やっぱこれって現実なんですかねぇ……。