第20話 意外な出会い程あっさり起こるという現実。
【B47】
「何か……いるな。しかも一人」
「そうね」
『どういう事や、何でこないなとこに一人でウロついとんねん』
階段を降りるとやはり予想通りというべきか、ドラゴンの気配は感じられなかった。代わりに感じたのが小さな気配。それも一人分。
「……向こうも気づいてるげ?」
「多分そうね」
こんな所に一人でいるんだ、まともな奴ではないだろう。既にこちらの存在にも気付かれた。これは今までで一番の緊張感ですわ。
少しずつ近づいてくる気配。俺はパイセンの周りの空間を念の為に固定しておいた。
徐々に足音が聞こえる距離に。そして……遂に姿が、一体どんなら奴が……は?
え? あれってもしかしなくても……。
「幼女じゃん」
「やかましいわい」
そこにいたのはちびっ子でした。
何のこっちゃ。
_______
「お主らこんな所で何をしとるんじゃ」
「幼女に言われたくないんですけど。どちら様で?」
「やかましいわい。妾はベルガムード・ゼル・ガルムディルグじゃ。お主こそ何者じゃ?」
「噛みそうな名前ですね」
「やかましいわい」
全身黒尽くめの衣装、小さなパイセンレベルのこれまた小さな出で立ち。そして額からは二本のツノ。人ではないっぽいが……うーん、これは……。
「じゃからお主は何者なんじゃ。というか妾が恐ろしゅーないのかの?」
「言っても幼女ですしおすし」
「じゃから妾はベルガムード・ゼル・ガルムディルグじゃと言うとろーが」
「長すぎますわ、ベルちゃんとルムたんのどっちがいい?」
「酷い二択じゃの。それよりお主は何者なのじゃ」
「ならルムたんでFA?」
「まこと、会話にならん奴じゃ」
んもー全然は話が進まないんですけど。
お前マジ誰なの?
「あ……、う、嘘でしょ……」
隣でパイセンはガクブル真っ只中。というのも、この幼女かなり強いっぽい。多分俺よりレベルも上ですわ。なんなのマジで。
「ま、魔王、ベルガムード・ゼル・ガルムディルグ?」
「ほぅ、妾を知る者がおったようじゃな」
……デジマ?
流石にふかしすぎじゃありませんかね。
「え、ルムたん魔王なの?」
「ルムたんなどと呼ぶでないわ」
「ルムたん幼女魔王なの?」
「死にたいのかお主」
まぁでも確かに強さだけでいうならかなりヤバイモノがあるから……そういう事もあり得るの?
「じゃからお主らはここで何をしとるのじゃ?」
「ルムたんはお散歩中です?」
「いい加減にせんか無礼なやつじゃな。妾がそんな理由でこんな辺鄙な場所に来る訳なかろう」
「俺たちも同じなんですけど分からないの? 魔王なのに?」
「……確かにそうじゃの」
テラ素直。魔王ってもっとこう、死ね死ねーみたいな感じじゃないの? 何かイメージが……うむ。
「というか魔王って肩書きなのにすげー寛大なのな。周りの方から変わってるって言われません?」
「お主に言われとーないわい」
タハー! ですよねー。
「まぁ良い、人間とここまで普通に喋る事も珍しい。少し向こうで話さんか?」
「デートでしたらパイセンもセットなんですけどそれは」
「構わん、寧ろ今のをどう捉えるとデートに誘った事になるのじゃ」
謎の超展開に頭がついていかないどころか、最初から超展開しかなかったから既に慣れつつあるっていう悲しい慣れ。それにカイナスと違って話やすいから寧ろ楽なくらいなんですよね。
「まぁ良い、少し向こうで座ろうではないか」
そう言って魔王ルムたんは俺たちを次の階層への階段近くへと誘導した。
やれやれ、どういう事なんですかねぇ。
_______
「つまりお主らは普通にこのダンジョンを攻略に来たパーティという訳か、恐れ知らずな小童どもじゃのぉ」
「それを幼女に言われましてもねぇ」
「……妾はこう見えて年齢で言えば200は超えておる、気安く幼女などと言うな戯けが」
おっと、ロリババァのジャンルでしたか。
間違えちったテヘペロ。
「オーライ、ルムたんは何でここに?」
「……まぁ良い。妾は調査に来ただけのつもりじゃったが」
「調査?」
「左様。近頃ここのダンジョンからは歪な力を感知しておっての。何が起こってあるのか確認に来た次第じゃ」
「ふーん、それで何か分かったの?」
「……そうじゃな。というか今更なのじゃが、お主全く物怖じせん奴じゃの」
「物怖じ? このルムたんの可愛さに対して? 馬鹿なの? あり得ませんから」
「言い切り方がまた凄いのぉ」
「ルムたんこそこんな末端の人間ごときに生意気な口聞かれて殺したくならないの?」
「妾はそもそも殺しは好かん。それに身内以外との会話も久しいからの。実は少し新鮮なのじゃ」
「ふーん、そんなもんなの?」
「これでも魔王じゃからの、普通に話す事などまずないわい」
「ならルムたんとこのノリで会話してても問題ないって事でオケ?」
「お主がそれで良いなら妾は何とも思わん」
「嘘ばっかり。何とも思わん、キリッ。とか言いながらちょっとニヤケてるのバレてますから」
「やかましいわい」
魔王ルムたんと展開される普通の会話。それを恐る恐る見守るパイセン、そして我マフラー也を決め込む千狐さん。恐らく緊急時の隠し球であるべく千狐さんは身を潜めてくれているのだろう。
あのコ、マスコットなのに鬼優秀ですからね。パイセンはこの世界の人で見識も広いから魔王って存在のヤバさを知ってるからこその反応なんでしょうね。
「無知ゆえの無謀。そう、そんな俺の名はアンダーソン。職業はオタクガチ勢」
「……アンダーソンか、覚えておこうかの」
「でさ、魔王ルムたんによる調査の結果、結局何が分かったの?」
「あぁそうじゃった、そう言えばお主らは最終階を目指しておるのか。悪い事は言わんやめておけ」
「WHY?」
「アレはもう魔物ではない。別の何かじゃ」
「ダンジョンボスの事?」
「左様」
そう答えるルムたんは、無知な俺たちに対して重々しくその内容を語ってくれた。