第19話 前振りは大きくしておくと後の楽しみも大きくなるけど、大き過ぎると胃が痛い。
【B41】
「改めて少し確認しておきましょうか」
『せやな、さっきのアレを思うと念の為にやっとかんと、イレギュラーがあっても何ら不思議やないわ』
「そうなるとますば……」
『アンディとルナのポジションをどう取るかとかやな』
「そうね、私は守りには向かないから基本は攻める形でいいかしら?」
「まー多少の事なら千狐さんが防いでくれるし、多少じゃない事は俺が防げるから大丈夫だとは思うけど。パイセン前だと怖くないの?」
「寧ろ後ろでジッとしてる方が怖いわね」
「……そりゃそうか」
階段を一つ降ってそこにいた大きなドラゴン二体を瞬殺。そしてそのままその場で改めて昨日の事と50階の事について話しておこうとなった。
あの時は当事した高揚感とか色々ごちゃ混ぜになってたから一日おいて落ち着いてから話すべきだと千狐さんから提案があり、今日改めて落ち着いた状態で話し合い、という訳だ。
「私は魔法は火しか使えない上にレベルに対して熟練度が低過ぎて使い物にならないと思うの。剣二本しかないと思っててね」
「ん、了解」
『ワイのガードは球体型の方が脆くて、壁型が一番頑丈や。複数枚出す事も出来るけど硬度は下がっていくからそない乱発は無理や。スタミナは大概もっとるからそこはいけとると思うわ』
「となると、やっぱ俺がパイセンの補助をしつつ攻撃か。俺のバリアは一応防げるのは防げるけど範囲が狭くて同時発現が出来ないってのと、攻守同時展開が不能。俺自身の身体能力はパイセンよりやや強いくらいかな」
『アンディが補助やな、それでええやろ』
「うん、頼むわね」
「まぁこればかりはおふざけ無しで任せてちょ」
パイセンの動きのイメージ、俺と千狐さんのガードの耐久度や発現速度。それぞれを擦り合わせて練度を高めていく。
流石に40階であれに遭遇しちゃったら嫌でも意識しますよね。お陰で油断せずに済んだのは助かる話なんですけど。
いやーしかし本当覚めないよね。いつまで続くんだろこのリアルな夢。いい加減覚めないと机の上に置いてたヤバすぎるノートの事とか忘れつつあるからね。
アレが露見したらその時は改めてガチで神のじーさんに頼まないといけなくなっちまうぜ。
どうなっているのやら。
_______
【B42】
「パイセンあれは何て種類?」
「ニーズヘッグね、適正レベル90はあった筈」
「大分高いのが多くなってきましたな、さてそれではちょいと失礼」
その後階段を降りている途中で、二人から俺が戦ってる所も見ておきたいと言われたので、次の階でそれを見せる事に。
そんな俺の目の前にいるのは巨大な黒龍。因みに毒とかは無いけど火が吹ける上にレベルも高いから気をつけてとパイセンに言われている。
さて、取り敢えず出来る事を示しますか。俺はただ無防備にノーガードでニーズヘッグの目の前に出た。
「馬鹿! 油断しすぎよ!」
「え?」
パイセンの声に反応し余裕で振り返る俺、アンダーソン。迫り来る黒龍。
その爪が俺へと向けて、振り下ろされた。
「アンダーソンくん!? ……アンダーソンくん?」
「え?」
幾度となく振り下ろされる爪。噛み付こうとする動作。その全てが見えない何かに遮断されている。
「それが……凄いって言ってたバリアの事、よね?」
「しょゆ事」
『デタラメなやっちゃな』
この空間固定の利点は、一度固定してしまえば何であれ通過を不能にしてしまう。故に実はニーズヘッグの迫る逆側の下の方は少し空間を開けたままにしている。そう、振動も伝わらないので聞こえなくなっちゃうんだよね。後一度固定したらそこから移動出来ない。テラ不便。
「もうやっちゃうけど良い?」
「……お願い」
パイセンに許可も貰ったので一応ポーズだけナイフを抜いておく。そしてニーズヘッグがその場を少し離れた瞬間を見計らって固定を解除。
同時に断絶を発動。
「何も……見えなかったわ」
『むちゃくちゃなやっちゃなー』
縦に振り降ろされたナイフの軌道にそって、ニーズヘッグは縦に真っ二つとなった。マリアナイフマジ鬼の破壊力。
戦闘も済んだのでポツポツ歩きながらパイセン達の元へ帰還する。いやー疲れましたわ。
「見てた? 大体あんな感じ」
「見えないわよ。貴方本当にどうなってるの?」
「俺もまだあんまり分かってないんだよね」
『どーゆー事やねん』
そう言われてましてもガチで良く分かってないんだから仕方ないよね。なんせこないだまでマジモンのオタクだった訳ですから。
まぁこれで何となく俺の言っていた事は理解して貰えたっしょ。いやーほんと、どういう事なんですかねぇ。
_______
【47階】
「かーらーの、つまりこれはマジでどういう事なんですかねぇ……」
「少なくとも、誰かいるみたいね」
『こいつもけったいなやっちゃなぁー、爆散しとるがな』
順調に階を進めていく道中。このまま48階を目指してそこで休み、翌日に49階でウォーミングアップをして50階へ、という流れで話が決まりそこ目指していたのだが。
そこに本来いるはずのドラゴンが、既に砕け散った状態で放置されていた。
「パイセン、これ何だったのか分かります?」
「……多分ファフニールね。爪と牙に毒があってレベルもかなり高い魔物よ。確か適正レベル95だったはず」
「それがこれ? ヤバくね?」
文字通りファフニールさんは爆散していた。胴体で爆破されたらしく首や羽、前足後ろ足がそれぞれデロデロしたサムシングと共に四散している。そして身体が見たあたらない。つまりそこが爆心地だったのだろう。
『……何かおるみたいやな』
「別のダンジョン攻略者かしら」
「そんなのあり得るの? レベル95のドラゴンを爆破って、難易度低め?」
「……ギルドマスタークラスでもそうはいない筈よ」
「パイセン、一応次の階へは俺が前でいきますわ」
「……分かったわ」
何の事やらさっぱりではあるが進まなければ話は止まってしまう上に、言っても俺たちも同じ事が出来る訳ですし。ビビって止まっているのもアレだったのでひとまず俺を先頭に次の階を目指す流れにしておいた。
まぁ俺だったら多少のイレギュラーでもなんとかなるっしょ。え、足が震えてるって? 嫌だなー、武者震いってヤツですよ。
マジマジ。