第2話 求めてるとは言ってもガチなヤツを急に突きつけられても対応出来る奴なんていない説
ん? おやおや?
ここは一体……ま、まさか! とかいうベタなヤツはいりませんから。どうせ二段落ちなんでしょ?バレバレですから。夢と見せかけて夢じゃないとみせかけて夢でした的なね。
はいはい、ワロスワロス。
周りを見渡せばモリモリ森。見れども見れども緑一色で何も見えねぇ。まぁぶっちゃけどうでもいいんですねどね。早く帰せしクソじじい。そんなことを考えながら空を仰げば見事な晴天、風が無駄に気持ち良い。
あーあーもうマジ勘弁して欲しいっすわ、まだアニメも途中だったしさ。しかもあの描きかけの絵とか机に置きっ放しですから。何の絵とは言わないけとヤバ過ぎるっしょ、早く処理させろし。
……ん? 何か目の前の茂みがワサワサしてるんですけど。おやおや、まかさ……これは美少女とのエンカウントイベント来ちゃう? いやー早速来ちゃいますか流石が夢補正。仕事が早い、マジ夢がありますわ。それでこそ夢、イッツマイドリーム。
俺の視線を釘付けにする中。バキバキと音をたてながら茂みから大きな影が姿を現した。……ん? バキバキ? 大きな影? 美少女が?
「ブモォォォォォ!!!」
「ぁんギャァァァァァァァァァ!!! うわぁぁぁぁ待って待って何何なんなのちょっとちょっとタイムタイム一旦落ち着こう話そう話せば分かるってこれ分かる訳ねぇぇぇぇからなんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ」
なになになになになになになになになに?
なななななななな何なの?
ぶぶぶブタ? 二足歩行の?
え、嘘、何こいつ意味わかんないんですけど。
なんか槍とか持ってるし。
夢だよね、そうなんだろ?
おいクソじじい聞いてる?
聞いてるのかって!!
はよ、夢オチはよ、もういいから、満足したから!
「ブモォォォォォ!!!」
「ぉんギャァァァァァァァァァ!!! 待って待って食えないから俺とかマジ毒だから食ったら何か色々ヤバイから引き篭もりの厨二でマッスル菌に感染しますからうんことか明日からレインボーだからやめてやめて待ってお願いしますお願いします!!!」
ちょっとマジお願いしますからクソじじいはよ帰してはよはよヤバイってこれマジだからコレマジですからァァァァァァァ!!!
ヤバイってこれガチだから何か鼻がブルンブルンしてますからいきり立ってますから殺す気満々ですからぁぁぁぁ!!!
……あー、オワタ。
脱力感が全身を駆け抜ける。
これは…もう死んだな、無理無理、確定。
確定っすわ、デッドエンド乙。
いやー短い物語でしたわ。
俺の夢、これにて完。
「フレイムランス!」
「ブモォォォォォ!!!」
諦めを見せ全身を脱力する俺の目の前で閃光が走った。何処からともなく響く声、燃え盛る目の前のガッデムブタ野郎。
そして下半身に聖水を纏う男、俺。
そんな俺の名は下村健一。友達からは健一と呼ばれたかった男ナンバーワンだった過去を持つが、実際はアンダーソンと呼ばれていた。みんなテラ鬼畜ワロタ。
学校ではそこはかとなく全てをこなしつつ、誰にも文句を言われ無い程度にノーマルに擬態する事に成功したオタクマン。
「どうしてこんな所でオークが威嚇を……え?」
「え?」
目が……合う。
こ、これは……!!
「人…なの?」
美少女。
そう、そこにいたのは正に美少女。
赤い髪の可愛い女の子がそこに佇んでいた。
目が覚めてから理不尽の連続。そして命の危機。あわやここで終わりかと思ったそこに、遂に一筋の光が差し込んだ。きっとここから逆転ストーリーが始まるのだろう。俺はそう確信した。
そうさ今こそ、第一歩を踏み出そう。
「え? 嘘、どうしてここに人が?」
「……取り敢えず助かったよ、お嬢さん」
「……」
「礼を言わせてくれ、ありがとう。それとここで会ったのも何かの縁だ、ついでに俺の頼みを聞いてくれないか?」
「え? な……何よ?」
「非常に言いにくいんですけど……」
「……何?」
「漏らしたんでパンツ貸して下さい」
「嫌よ、絶対嫌」
「辛すぎワロタ」
はいファンタジーさんマジ容赦ねーわ。
パナい。
______
「もう、信じられない! 何でこんな所にいて、しかもこんなに弱いのよ!」
「理不尽過ぎて全俺が号泣なう」
「ピンピンしてるじゃない」
突然の展開、畳み掛ける謎のイベントを経て美少女と出会い、そして俺は既に漏らしていた。
何なのこのクソイベ。あのじじい何のつもりなの? 夢でしょ? 夢なんでしょどうせ? 引っ張ったって認めませんから、無理ですから。
見てこのリアルさのカケラも無い状況。俺このクソゲー開始十分で既にノーパンなんですけど。どうなったらこうなる訳?
「さっさと火に当てて乾かしなさいよ!」
「……はい」
俺は今着ていたTシャツを脱いで腰に巻き、ノーパンで焚き火に当たりながらパンツとズボンを乾かしている最中だ。どうやら美少女は男物のパンツを持っていなかったらしい。
取り敢えず近くに川があって助かった。
「あーもう、どうしよう。このまま放って置いたらこの人死んじゃうし……」
「やめて! 見捨てないでマリー!」
「ルナレシアよ! 誰よマリーって!」
惜しい! ハズレた!
「お願いルナパイセン! 見捨てないで! アタシ何でもするわ! だからお願いよ……ゴクリ」
「あーもう、どうしよう……」
「ふん、例えこの身を自由に出来たって、心まで自由に出来ると思わないでよね!」
「黙りなさい!」
「だが断る」
「断らないでよ!」
見た所、剣を持っていて戦士な雰囲気だけど多分かなり幼そう。んー十二歳くらいかな。ロリロリですね、めっちゃ可愛い。ただ俺のストライクゾーンに入るには筋肉が2500億ポイント足りないからその辺はどうでもいいんだけどさ、冷静に考えてノーパンの高校生が幼女に助けを求めながら身を捧げるって……なんか構図がおかしくね?
……どうでもいいか。どーせ夢なんだし。
「結局、貴方は誰なの?」
「俺の名はアンダーソン」
「アンダーソンね、私は……」
「マリーだろ? 知ってるさ」
「ルナレシアよ!」
んもー噛み合わないんだから。
話が全然進展しないの全部俺のせいでワロタ。
「貴方戦えるの? レベルはいくつ?」
「ワッツ?」
「レベルよ、いくつなの?」
「え?」
「……え?」
レベル? 何ですかねそれ。クンカクンカ……うーん、ほのかにファンタジーの匂いがするわね。
「ステータスオープンって言えば見れるでしょ?」
「し、知ってたし」
「嘘ばっかり……」
疑ぐり深いルナパイセンを隣に置きながら、ノーパンの俺はついに禁断の呪文を唱える構えに入った。ダメよ、このままじゃ目覚めちゃう!
「ステータス、オープンザマイケル!」
「何言ってるの?」
すると突然、俺の顔前にステータスが!
名前:アンダーソン
称号:オタク
レベル:1
HP:5
MP:1
筋力:1
敏捷:1
耐久:1
精神:1
魔力:1
スキル
【物体移動】
酷すぎワロタ。
待っておかしくない?
普通さ、もっとこう、さ?
ねぇ?
「見ていい? うわぁ……これは……」
俺もドン引きです本当にありがとうございます。
「ねぇアンダーソンくん、今まで何してたの? どうやったらこのステータスでこんな所をウロつけるの?」
「俺の経歴? 自慢じゃありませんが、この世に生を受ける→じじいに促されるがままにブタの前で失禁、以上です」
「……はぁ、どうしようこの人」
俺だってどうしようですよこれ。だってガチ情報なんですもの、寧ろこれもうどうにもならなくね? いきなり詰んでるとしか思えないんですけど。
唯一の頼みの綱のスキルが【物体移動】? 馬鹿なの死ぬの? もうちょいマシなスキル無かったの? 異世界だよ? 重力とか、全属性とかさ、チート 的なアレはどこに消えた訳?
クソじじいマジでハッスルし過ぎですから。
これのどこにハッピーライフ? 秒で裏切られてますやんこれ。だってさ、ハッピー要素なくない? 寧ろハッピーセットの方がまだお高くないですか?
お前の頭がハッピーセットかよ。
「取り敢えず、村に戻ろうかなぁ……あっ」
美少女ルナパイセンはおもむろに立ち上がり、村へ帰還する事を示唆しつつ、乾かしていた俺のズボンとパンツを火の海へと沈めた。
メラメラと燃える我がパンツ。
……うわぁぁぁ俺のパンツがァァァァァァ。