第18話 ポケットの中にビスケットを入れて叩いてみたら粉々になってる現実しか待ってない件について。
【B30】
「まさかとは思ってたけど……そういう事よね?」
「露骨過ぎワロタ」
二日目最後の攻略階。その階層ボスとして待ち受けていたのはギング◯ドラよろしくの三首ドラゴンさんだった。ポンポン雑に増えますね。
「因みにパイセン、あれは知ってるの?」
「……見た事ないわね」
「うーん、いける?」
「30階レベルならまだ問題ないわ。40階の時はちょっとどうかしら」
「ですよね、とりまここは任せますわ」
「アレくらいならなんて事ないから任せて」
博識なパイセンがその道中の敵に対する知識は発揮出来ても階層ボスにだけはそれが当て嵌まらない。そしてここは八岐大蛇のドラゴンダンジョン。
これが露骨以外のなんなのかって話ですよ。
因みに目の前のキング◯ドラさんは一瞬で三首からゼロ首に進化してました。一応ここに来るまでの道中のドロップ系は俺の四次元ボクサーバッグに回収しているが、どうも階層ボスの時だけは特に何もドロップしなかったりしている。ケチ臭いにも程があるぜ。
『今日もおつかれさん。相変わらずルナだけでガンガンいくからホンマ驚くわ』
「ですよね、俺も正直パイセンがここまでカッコいいとは思ってませんでしたサーセン」
「冗談言わないで、それよりご飯にしましょ」
それ程冗談って訳でもないのだが、本人がまだ納得出来ていない様なので特に何を言うでなくご飯タイムとなった。
敵の警戒レベルは少しずつ上がっていて予想通り前日の工程の倍程の時間がかかった訳なんですけど。これ明日はまだしも、40階以降は二日に分けた方が無難かもしんない。
『ところでアンディはどういうスタイルで戦うタイプなんや? 見た所ナイフしかないみたいやけど』
「あー、そう言えば千狐さん俺の戦ってる所ほぼ見てないもんね」
『ほんで、どうなんや?』
うーん、あんまりチート臭い説明してもややこしいだけかな? いつも通り適当な事言ってればいいか。
「俺の技は超バリヤー的なもう何か最強無敵のバリヤーと、この幻のマリアナイフさ」
『説明が残念過ぎて伝わらんわ、幻のマリアナイフって何やねん』
「それは世界を震撼させた全てを切断する伝説のナイフ」
『……聞いた事ないな、そんなナイフあるんか?』
「筋骨隆々なオカマッチョの精霊が宿ってんだぜ?」
『何一つ信用でけへんやん』
んもー極力真実だけで伝えようとしたのに千狐さんったらテラ辛口なんだから。
「マリアさんのナイフってそんなに凄いの?」
「そりゃもうこれに斬れない物とかないから」
全部マリアさんのせいにしました。ゴメンねマリアさんマジ反省してますテヘペロ。
『ならアンディは攻守両方いけるバランス型って認識で大丈夫か?』
「大丈夫だ、問題ない」
『そんな装備で大丈夫か?』
!?
「一番いい奴を頼む」
『……どういう事やねん』
そういう事です。
「いや、一応言わなきゃっていう責務感が。マジレスすると俺はともかくパイセンの防御力にちょっと不安が残るかな」
『ならワイは40階からルナの方におろか。邪魔やないか?』
「少し試したいから31階からお願いしていい?」
『せやな、そうしよか』
ちょっとずつ打ち合わせをしつつ、念の為フォーメーションや立ち位置や役割も確認。敵のレベルも上がって来てるから次の階層からは一層油断も出来ない。やれやれ、ガチのRPGはどこまでも安心出来ませんねコレ。
______
【B39】
「シルバードラゴン……初めてみたわ」
「既に死体ですけどね」
階が深まって敵の様子も随分と変わってきている。何かちょっと前からデカイのが増えてきたけど、まだ早かったり範囲の広い攻撃をしたりって奴がいないからそこまでの危険は感じていない。
『どうや? ワイは邪魔やないか?』
「これが一番落ち着くわ」
『ホンマか? それならええんやけど」
千狐さんとパイセンの連携。首に巻いてみても動き辛く、右肩に乗っても左肩に乗っても視野の狭まりになり。結局最終的に頭に乗ってますからね。なんというか、千狐さん帽子? 逆に可愛いくてウケる。
「いよいよ40階ね。予定通り私がメインでいいのかしら?」
「大丈夫だ、問題ない」
『さっから何やねんそれ、キモ顔やめーや』
「キメ顔なんですけど?」
激励に厳しい辛口コメントを貰いつつも、全員緊張を解いたりはしない。 でも背負い込み過ぎるのも良くないと理解出来ているらしく、あくまで自然体でいれるのが有り難いっすわ。地味に千狐さんの存在がかなり効いてるよねコレ。
いやーもうね、何というか。やっぱ千狐さんテラマスコット。ストラップとかになったら即買いですわ。さて、階段も見つけた事だし気合い入れて降りますか。
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【B40】
「分かってはいたけど、大きいわね」
「デカ過ぎワロタ」
そこにいたのは予想を裏切らない五ツ首のドラゴン。首の数は兎も角として、問題はサイズ感がかなり大きくなりつつあるって事。まだかなり距離を取ってるから襲われる事はないんですけど……アレちょっとマジでデカイっすわ。現時点で既に首まで入れると5階建のマンションくらいの威圧感。
これ最後の階でどうなるの? ヤバくね?
「予定通り私が出るわ」
「頼んだパイセン、無理しないようによろ」
『ワイがおるからその辺はまだ問題ない。そういう意味ではピンチの時の練習もしたかったしな』
「そうね、その辺りの連携も含めて形にしていきたい感じかしら。千狐ちゃんいい?」
『ワイはいけるで』
二人が会話を終えた時、パイセンは静かに剣を抜いた。そして、走り始めた。
【グオォォォォォォ!!!】
同時にドラゴンが咆哮を上げる。いや、咆哮を上げているのは三匹。残りの二匹はパイセンを追っている。
二匹の内の一匹がパイセンに向けて火を放った。かなり火力も火の速度も上がってますわ。カスったらすぐ燃えカスにされそう。そうは言っても流石パイセン、回避は問題なさそうだった……が。
避けた先にはもう一匹の首が待ち構えている。そしてその首は小細工なしでパイセンに向けて突進してきた、あーアレは直撃しますわ。
『任せとき』
千狐さんの声が小さく聞こえたと思うと、そこには砂で出来たと思われる壁が構築されていた。パイセンとドラゴンの丁度間、そこに一匹の首が突っ込んだ。
とんでもない衝突音はあったものの砂の防壁は崩れない。テラ頑丈。アレなら少々の事なら千狐さんに任せられそうね。助かるンバ。
突進時の思わぬ衝突の余波で混乱する首を、パイセンは容赦なく斬り落とした。そして斬った首を足場に次の首へ。だが、残りの首がそれを許す筈もない。
パイセンに向けて三方向からの炎が迫る、回避不能。だが千狐さんが特に慌てている様子もなかったので俺は今暫く観戦のスタイルを続ける。結構ヒヤヒヤしてるんだけどねコレ。
そして予想通り、炎の中から砂の塊の様な球体が出現し首へと迫る。砂が解除され、パイセンはそのまま首を二本斬り落とした。残るは二本。
なりふり構わぬ型で突っ込んでくる二つの首。その片方は千狐さんの防壁に止められ、もう一つはパイセンによって躱された上で斬り落とされる。そして着地と同時に踏み込み、その返す刀でそのまま最後の一本も斬り落とされた。
千狐さんパイセンペア強過ぎワロタ。
「ありがと千狐ちゃん。凄いわね、どれくらいまでなら耐えられるの?」
『場面にならなハッキリ言えんが、見たら無理かどうかくらいはすぐ分かるから伝えるわ』
「助かるわ。どうだった?」
「強過ぎて俺いらないんじゃね? ってなってました」
「実際は?」
んもーパイセンったらすっかり俺の扱いになれちゃって。色々バレバレですやん。
「ガード可能かどうかが分からない段階で、ガードに頼りきりになるのは良くなかったかな」
「……そうね」
「後は敵は炎を遠距離で撃てるのに安易に空中に出たのも悪手、あれ千狐さんがいなかったら骨ですよ?」
「そうよね、頼るのと共闘するのは違う……か。改めてありがと、千狐ちゃん」
『ええんやで。アンディ意外と結構厳しいやん』
「パイセンに怪我して欲しくありませんからね」
そこは常々そう思ってるからしゃーない。取る必要のないリスクは極力避けて欲しいし、出来れば怪我もして欲しくないから。
「ありがとね、アンダーソンくん。肝に銘じておくわ」
素直なパイセンマジ天使。
でもこれこの分だと50階がちょっとヤバそうかな。正直今の八岐大蛇のレベルがラストに来ると思ってたから、この先の想像がかなり難しくなっている。
うーん、サイズだけだったらもうかなりヤバいのが来そう。大丈夫なの? コレ。