第17話 育成するって単語の謎の魅力について。
【B11】
「アレは……フライリザード、が二匹。確か適正レベル20だった筈だから50階に着く頃には100くらいかしら」
「んーまぁ順当にいけばそうなるだろうけど、数とか難易度を加味するともうちょいいきそうじゃね?」
「……そうよね。何か普通に来てるけど、私こんな所にいていいのかしら」
「パイセンレベル150超えてるじゃん。テラ四天王クラス」
「自慢にも自信にもならないわよ、ズルしかしてないもの」
「そういうルールですしおすし」
納得出来ない顔のパイセンだが、敵はちゃっかり通り過ぎ様にスパッと斬り伏せておられました。八つ当たりにすらなってませんからね。
「この間まであんな脅威に見えていた存在が……なんか夢みたいね」
「実際どう変わったの?」
「そうね、前より小さく見えるのと、後は動きが凄くスローに見えるわね。斬って下さいって棒立ちしてる様にしか見えないわ」
「おぉ……これが強者の風格」
「そういうのやめて、まだ納得出来てないんだから」
「まぁでも受け入れるしかありませんから」
「分かってる、もう少し時間を頂戴」
何かダンジョンの攻略がメインだった筈なのに、流れ的にパイセン育成ダンジョンになりつつありますね。まぁそれで事故が減るなら良いんだけど。
『因みに今日はどこまで行くんや?』
「んー分からんけど二十くらいはいけるんじゃね?」
「そうね、そこから先はあまり油断も出来ないし今日のうちに進めるだけ進めたいわね」
『まぁ無理はせんようにな。言うたかてここのダンジョンボスになっとる八岐大蛇ってのはワイは知らんからな。ヤバそうやったらワイも加勢するから、アンディも頼むで』
「……え?」
『……なんやねんこっち見んなや』
「冷た過ぎて凍えそう。ってか千狐さん、戦えるの?」
『まぁそれなりに。本来は土属性の魔法に関わる能力を【補佐】するのがワイの能力やからな。ベースがおらんかったら大してサポートも出来んやろうけど、ガードくらいなら出来ると思うわ。おらんよりかはマシやろ』
何それ初耳なんですけど。千狐さん戦えるの? 戦えるマスコット? テラ万能ワロタ。
「そろそろ行くわよ、少しでも進まなきゃ、でしょ?」
「へーい」
雑談が長引きそうだった所をパイセンがシャットアウト。お陰でテンポ良く進めますわ。俺一人だとグダグダするのが確定的過ぎて笑えない。ナイス進行ですパイセン。
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【B19】
「ふぅ、今のがポイズンリザードね」
「何か色がヤバイキモい。緑? 紫? というか毒は大丈夫なのこれ」
「カイナスの話だと毒袋ってのが体内にあるんでしょ? 首だけを斬れば大丈夫かなって」
「なるぽ。因みに適正レベルは?」
「確か38だった筈よ。でも危険性を込みでそうなってるから、毒を度外視すれば倒すのは難しくないわ」
見る見る強くなるパイセンのお陰で終始ハナクソの処理しかする事のない俺と千狐さん。この分だと次の階も放置で楽勝ですわ、ちょろ過ぎ。
「次は階層ボスね。何が来るのかしら」
少しワクワクというか、高揚してる様にも見えるパイセン。未だに返り血の一つも浴びずに戦闘から経験を吸収しておられる。パイセンが毎秒剣狂に近付いている気しかしない。
「もう、早くいくわよ! 一人にしないでよ!」
違いました天使でした。プーっとほっぺが膨れますとね、剣持ってる時とのギャップがね。最高ですわ。ボンマリアージュ。
こりゃアレだここではまずお嬢様の救出とパイセンの完成が目的になりそうですわ。意味が見出せるのはいい事だけど、俺が空気っていうね。
ハッ!? それって……。
「つまり俺は皆に不可欠な存在って訳ですね」
『何ゆってんねん、早よ進めや』
「グエッ、分かってます、分かってますからほら歩いてるじゃん! 歩いてるからそろそろ尻尾を緩め……あ、待ってこれ気持ちいいかも」
『やめーや』
聞くや否や秒で尻尾を緩める千狐さん。
ふ、掛かったな、作戦通りだぜ!
いやほんとに作戦だからね? 違うから、そんな性癖はまだ少ししかありませんから。
ほんとほんと。
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【B20】
「パイセン、解説はよ」
「……見た事ない魔物ね。何かしら」
訪れた二番目の階層フロア、そこにいたのは双頭のドラゴンだった。というかリザード? うーん、どっしりした本体から二本首が生えてるんですけどアレなんなの?
「千狐さんは知りませんかね?」
『ワイは見識が広い方やないから堪忍な』
「俺も似た様なもんだけどさ、パイセンで分からないって珍しいよね」
「そうね、その辺りは割と勉強してたつもりだったけど……分からないわ」
パイセンすら見た事のない魔物。双頭のドラゴン。これはきっと凄まじい攻防が……。
「スピードは無いみたいね」
ありませんでした。スパッと斬られてはいそこまでっていうね。もう双頭どころか首なしっすわやれやれパイセンったら情緒もへったくれもないんだから。
「ねぇ、ひとまず今日はこのままここで休まない?」
「あーもう20か、案外早かったな」
「でも休まなきゃ身体がね」
「パイセンは特に疲れたろうから今日はここで休みますか」
『ほなルナの寝床はワイが用意するわ』
「……寝床の用意ってそれなんぞや?」
そういうと千狐さんはモフモフした尻尾をヒュンヒュンさせながら砂で簡易ベッドを作成。
「え、凄い千狐ちゃん。ここで寝ていいの?」
『そら今日の功労者やから遠慮なくつこーてや』
「ち、千狐さん、あの……ワタクシの分……」
「ワイは先の気配もまともに読まれへん無能やから一つで限界やわ、堪忍な』
「根に持ち過ぎワロタ」
結局千狐さんはパイセンの隣で寝てたから俺だけぼっちで床寝っすわ。ボクサーバッグさんだけが友達……あれ?
バッグが謎の塩水で濡れてるや、どうしてかな。