第16話 八岐大蛇のドラゴンダンジョンとかいうけど確認したの誰ですか問題。
「こういう、どうあっても茨の道を進まなきゃいけない時は千狐さんレーダーマジ有能っすわ」
「本当にね、案内が無いと迷いそう」
『まぁどっちってのはハッキリ感じとるからな、後はそこに向けて進むだけやから案内も楽なもんや』
「道が全然楽じゃありませんけどねコレ」
一行は今、ダンジョンに向けて絶賛進軍中、なんだけれども。このダンジョンはこの地に二つあるドラゴンダンジョンでも難易度の高い方で、そもそも挑戦者が少ないらしい。
加えてもう一つある方のダンジョンが短期間低層にのみ滞在でも利が産まれるらしく、その辺りから挑戦人気にハッキリと差が出ている。それ故にこちらのダンジョンに辿り着く為の道を舗装する事に実利的な面でのメリットが殆どなく、有り体に言えばジャングル化していた。
めっちゃ進みにくい。
「千狐さんや、後どれくらいで着きそうなの?」
『せやな……このペースやともう一時間くらいで着くんちゃう?』
「後一時間なら頑張れる……けど鬼キツイわ」
いくら体力が増えたからといってもしんどい物はしんどいですから。辛い気持ちを振り払いつつダンジョンを目指した。
『お、見えて来たんちゃうか?」
「デジマ? やっと着きましたか……。挑戦前からスイミング帰りみたいなコンディションじゃん。とりま飯だな飯」
「よく分からないけどご飯は賛成、私もヘトヘト……」
漸く辿り着いたそこには、あいも変わらず禍々しいオーラを放つ地下へと向かう穴が開いていた。ダンジョンってみんなこんな感じなのね。見ていて気分の良いものでもないのでそれを背にしつつ、ジャングルをおかずにご飯タイムにする事に。
四次元バッグになった俺のボクサーバッグから食べ物を取り出し、暫し休憩。それが済めば、いよいよダンジョンだ。このメンツなら危険は無いと思うが、まだ実戦経験は圧倒的に足りていない二人だ。気は引き締めていこう。死んだら元も子もありませんからね。
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【B1】
「よーし、まずは一階。締まって行こうか」
「いくらレベルがあるからって油断大敵ね」
さて、いよいよダンジョンに突入。パッと見では前のダンジョンとの差が分からない。多分全部こんな感じなんだろうね。無機質な洞窟が謎に淡く光っていて、奥に向けて一本道。途中膨らみのある広場にて【何か】が待ち受けている。前回と同じならこんな感じだと思うけど。どうなのかね。
「いるわね、小型のドラゴンが八体」
「それくらいならパイセン一人でやっちゃう?」
「……そうね、私がやってみるわ」
予想を裏切らず、思っていた場所に魔物が待機していた。レベルは上がっても経験が追随しないパイセンが、自身の実力を身体で覚えるべく、一人で前にでる。
背中にクロスに所持している剣を二本とも抜いた。こうして見ると結構普通に片手剣っぽいサイズの剣が二つあるのでかなりイカツい。
鍔の部分から持ち手にかけて赤い色が使われているが、基本的にシンプルな細身の剣。パイセン身長が低いからアレ二本並べたら剣の方が長いんじゃね?
「ふぅ……行くわ」
そう一声かけると、パイセンは前へと踏み出した。
ワラワラと動きこちらに警戒していなかった小竜の群れは、悲鳴をあげる間も無く次々と斬り伏せられた。
流れる様に群れの中へと入り無駄なく剣を走らせ、まるで二本の剣と踊っているかの様に舞っている中で、気がつけば全て小竜の首が落とされていた。
パイセンマジかっけぇ……。
「凄い……身体が思う通りに動くわ」
「そりゃそうでしょーよ」
「ううん、今まで頭では分かってたのに全然上手くいかなかった事が、唐突に理解出来たというか……不思議な感じ」
余りの剣速に返り血を受ける事なく、まるで何も斬らなかったの如く輝きを放つ二本の剣。それらを鞘へと納め、二階へ向けて歩き始めた。
その過程でパイセンに聞かせて貰ったのだが、どうも剣術はきっちり教え込まれていたらしい。だがいくら稽古して技術を得ようと、基礎能力であるレベル問題が解決しなければ名刀を持った素人状態だったと。そして今、パイセンは水を得た魚の如く始動した訳ですよ。道理で動きが様になってる訳だ。
流石パイセン、俺たちに出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅー!
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【B9】
「パイセンどうよ、手応えの程は?」
「大分掴めてきたわね、今は剣が振りたくて仕方ないわ」
「剣狂ですやん、程々にねパイセン」
「分かってる、力を得たからってそれに呑まれたらお仕舞いよ」
「パイセンテライケメン抱いて」
「ほらふざけてないで、次行くわよ。次は階層ボスね」
「あーそんなイベントあるって言ってましたね」
何だかんだとトントン拍子に九階までを無事に踏破。全部パイセンが一人で斬り伏せちゃってて本当にする事ないっすわ。俺の肩に移動してきた千狐さんと二人でパイセンが舞っているのをボーッと眺めていたら、次が階層ボスでしたって流れ。
テラ楽勝。これ初日に二十階くらいいけんじゃね?
「一応次も私が一人でやってみる。もし雲行きが怪しくなってしたらお願いね?」
「ん、りょーかい」
そして俺たちは十階へと繋がる階段を降り、ボスの待つ部屋へと歩みを進めた。
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【B10】
「サーベルリザード、御誂え向きの相手ね」
「ウゲッ、あっちも二刀流じゃん」
まだ距離は取れているが気配で敵の様子を先にチェック。どうやら二本の剣を持ち、鎧まで身に纏った戦士タイプのドラゴンがそこにいるらしい。
「パイセンいける?」
「問題ないわ」
鞘から剣を抜き、目の前の敵に集中するパイセン。結構パイセンって戦うの好きっぽいよね。何か構えたらめちゃくちゃ目が鋭くなるからギャップが凄い。
スタスタと歩く所から徐々に速度を上げ、そしてサイドにステップを踏み始める。リザードもこちらに気付いた。戦闘が始まる。
先に仕掛けたのはサーベルリザード。
引く事なく前に出た上にパイセンの三倍はあろうかという身体から放たれる剣撃は、レベルで勝るパイセンよりも先に走り始める。
剣を出すタイミングを失ったパイセンはこれを回避、二撃、三撃と続く剣を掻い潜り、その時点で一度距離を取るべく後ろに下がった。
ここで一呼吸。パイセンの目が、何かを狙っている。よく分からないが、何かする気なのはここにいても分かる。
そしてその距離を詰めるべく前に出たのはまたしてもサーベルリザード。二本の剣から放たれる圧力を含む攻撃は一つ一つにかなりの殺気が込められている。
……が。パイセンはこの連撃乱撃を、見事に捌いた。受け止めてもない、だが躱しているだけでもない。剣を使って、巧みに受け流している。あれは最早剣技なのか? 俺の目には舞の様にも映るその姿は、真剣で鋭いパイセンの表情も相俟って、酷く芸術的に昇華されている様に思えた。
何というか、惚れ惚れする剣舞。
パイセンこんなに凄かったのね。
と、ここでその均衡を破る様に何かが宙を舞った。否、それは何かではない、サーベルリザードの剣だ。それも……腕ごと跳ね飛ばされている。ヒュー、やるねぇパイセン。
そしてその返す剣でそのままリザードの首を刎ね飛ばした。
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「ふぅ、流石に少し緊張したわね」
「その割には綺麗な剣舞でしたね」
「昔から習ってた剣術よ。その感触を思い出す様に、噛み締める様に、生じた技術の全てを今のうちに吸収しようとサーベルリザードの剣を利用させて貰ったの」
「あー成る程、学習する為の時間だった訳か」
『アンディは得体が知れんけど、ルナも大概凄いやっちゃな。どうなっとんねん二人とも』
「まぁその辺りは帝国のパシリさんのお陰ですし」
『……パシリって誰の事や?』
頭に【??】と浮かべている様な仕草で物思いに耽る千狐さんが可愛くて暫く眺めてたら首に巻いてた尻尾が締め付けてきました。
ちょっとソワソワしてて口数も少ない千狐さん。思う所があるのかしら。ま、10階くらいだったらまだ戯れてる余裕すらあるけど、ここからどうなる事やらって話ですよ。
油断はせずに状況には向き合おう。
パイセンも千狐さんも怪我されるの嫌だかんね。