第15話 センチメントな気分は一人の時にやらないとお互いにメリットがないと思います。
ひと騒動を経て、俺は聞き込みをしながらマジックバッグを取り扱う店を探して歩いていた。するとそれの専門の店があるらしく、割とすぐに見つけ出す事に成功。店主の話を聞く所によると、既に用意している分も、今ある鞄を改良する事も出来るらしい。
値段はグレード次第。まず容量は大きければ大きいほど高い。そして後は保存性。入れた物の性質を変化させずに保管できる機能をつけるか否かでも値段は変わると。取り敢えず二ヶ月分の食料を許容できるサイズかつ中身が腐らない仕様に、今持っているボクサーバッグを改良してもらう事にした。金はあるんですよね。
ダンジョンとやらが主流の世界だと、それに適応したものが発達するのは当然っちゃ当然か。便利な技術があるもんだと思いながら待ち合わせ場所を目指す……と。
そこには人集りが。なんかめっちゃガヤガヤしてる。しかも女の子ばっかりなんですけど。
「キャー何この子、可愛いー!」
「ほら、何か食べる? 何が食べれるんだろ?」
「やーん超フワフワしてるー!」
あー成る程ね、千狐さんはお取込み中でしたか。なら仕方ない、俺は静かにその場を……。
『待たんかいアホたれ』
グエッ。俊敏に伸びる千狐さんの尻尾が俺の首を締め付ける。ちょ、待って、マジで締まってるから。
「あ、お構いなく」
『何がお構いなくやねん。ずっと待っとったのにそれはないやろ?』
「あー悪い。こっちもトラブっててさ。まぁそれなりに有益な情報は集まったから勘弁な」
「ねぇアナタ、この子の飼い主さん?」
「ちょー可愛い、触ってもいいですか?」
「あーん、連れて行かないでー」
首に巻かれた尻尾を収縮する様に器用に身体を俺の肩へと移動させた千狐さん。お陰でギャラリーがこっちに集まってきましてですね。うん、無理無理。
「ねぇ、何ならお兄さんも一緒にいい事しない?」
「あ、それ良いわね。うちにいらっしゃいよ」
凄い勢いで捲し立ててくるギャラリーガールズ。
全く、これだから三次元女子って奴は……。
「ねぇほら、いい事しましょ?」
「その子も一緒どう? 私お風呂に入れてあげたい!」
ふぅ、やれやれ。俺はギャラリーからスッと離れ、そして振り返った。
「悪い、ちょっと急いでるからもういい? 俺二次元かつマッスルにしか興味ないから。こいつも多分似た様なものだと思うしゴメンな。じゃバイビー」
ポカンとするギャラリーガールズ。多分ここで鼻の下を伸ばさない男子とは会ったことが無かったんだろうな。何か自信ありますみたいな顔してたもん。そういうパリピはパリピ同士でちちくりあってくれればいいと思うよ。
「ね? 千狐さん」
『いや、ワイはそもそも種族がアレやん。自分の性癖押し付けんなや』
「はい、アブソリュートゼロ」
あいも変わらずドライな千狐さんをギャラリーから回収し、呆気にとられている間にその場をドロン。千狐さんに案内されるままに進むと無事に宿屋に到着。
普通の宿屋ですわ、ナイスパイセン。ツレが既に入室済みだと思うのですがとフロントで声を掛けると部屋に案内してくれた。
「随分遅かったじゃない」
部屋に入ると中には整髪剤のいい香りが漂っていた。そして目の前には髪を濡らしたパイセンがタオルで髪を乾かしている。その様を見るに、どうも湯上りみたいですね。
というか何で同じ整髪剤使ってても女の子だとこんなに匂いが違うの? 天使の匂いがするんですけど。二次元オンリーとかさっき言った直後なのにちょっと心にくるものがありますわ。
「まぁ筋肉が2500億ポイント程足りないんですけど」
「……何の話なの?」
「いやこっちの事。それよりさ、色々聞けたから話ておくわ。千狐さんも聞いておいて欲しいし」
『これで手ぶらやったら一晩中くすぐり地獄にでもしたろか思とったわ。流石に待たせ過ぎやて』
何それ怖い……。
千狐さんを怒らせるのは程々にしなければ。
「いやほんとマジさーせん。こっちも、色々あってさ。聞いてもらえると分かると思うわ」
そして俺は別行動中にあった事を説明した。
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「へー、つまり酒場で楽しくやってたんだ」
『ワイをあの状態で放置してか?』
「二人ともちゃんと聞いてくれてました?」
「冗談よ、情報ありがと」
そんなこんなで今日のハイライトを分かりやすく説明。お茶目なパイセンと千狐さんに弄られつつも状況は共有出来た。
「さて、そうなると後は食料さえ買えれば目指せる訳ね?」
「そゆこと、バッグだけ回収したら問題ないと思うわ。因みに千狐さんや」
『何やねん』
「俺たちの目指す方は八岐大蛇のドラゴンダンジョンでFA?」
『……せやな。何ゆーてるんか最後分からんかったけど、方角的に八岐大蛇っちゅーダンジョンで間違いない』
どっちもネーミングはヤバイからどう転んでもドラゴンダンジョンな訳だけど。もうなんかファンタジー感パネっすわ。
「サクサク行ったらどれくらいで踏破出来るっぽい?」
「うーん、こないだみたいなペースなら一日で十階層はいけるんじゃない?」
「というかさ、パイセンはマジックバッグとか知らなかった訳?」
「うっ……。ちょっと家庭の事情で巷の話には疎くてね。その分ダンジョンだとか他の所では役に立てると思うんだけど……多分」
パイセンの目が全国一位を取れる勢いで泳いでおられるが、ここは追求しないでおこう。言いたくない事は無理に聞かれてもウザいっしょ。まぁこのスイミングアイが可愛いからたまに目を泳がせるのも悪くないかもだけど。
『そしたら明日、もうそのダンジョン目指す流れでええんやな?』
「そりゃね、千狐さん急いでるんしょ?」
『まぁ……そりゃな、長い事待たせてしもてるから今更急いでもしゃーないのは分かってるつもりなんやけど……な』
「それでも気が急くのは仕方ないっしょ」
『アンディらがワイを見つけてくれて、パートナーが自分ら二人でホンマ良かった。すまんけど明日からも暫く頼むで?』
「ま、乗りかかった船ですしおすし」
「困った時はお互い様よ!」
『ホンマありがとーな。これで漸く、漸くお嬢と普通の時間を過ごせるんか。長かったなぁ』
少し遠くを見つめる千狐さんは、今日まで見てきた中で一番センチな雰囲気だったので、俺はその隣で酒場からさり気なく拝借してきたチップスをバリバリ食べておいた。
無論千狐さんにはすぐに睨まれたけど、パイセンがすぐに食いついて、嬉しそうに食べ始めたので突っ込むに突っ込めない、そんな千狐さんが最高にキュートな夜でしたご馳走さまです。
千狐さんテラマスコット。