第14話 結果オーライとかただの甘え。
「何だよテメーら、マジで馬車に乗ってただけなのか?」
「拙者先ほどから何度何度もそう申しておるではござらぬか」
「拙者知らないでござるとか連呼されてハイそうですかで流してたらこっちもやってけねーんだよ」
「まぁでもあった事と言えばさっきいったチンピラに絡まれたくらいでさ。こいつ的には捨てられてた馬車の有効活用してたくらいの気分の良い時間だったんだわ。勘弁してやってちょ」
「つか何で森の中にその馬車が捨てられてんだって話だ。ベリアスの野郎、まさか裏切ったのか?」
やんややんやと一悶着こそあったものの、気付けば酒場で知らない奴らとテーブルを共にしながらドリンクを煽っている状況に持ち込めた。一時はどうなるかと思ったけど、案外なんとかなるもんだ。
「ところで拙者は引き続きあの馬車を使わせて貰っても良いのでござるか?」
「あーアレな。馬は拾ったアンタが好きにすればいいが荷台はやめておけ。あの形は俺みたいなのに絡まれる可能性が高いからな」
人違いは認識して貰えたものの消えた荷物の行方は依然として不明のまま。どうしても釈然としない空気が漂う。
だがしかしだ。これはもうほぼ間違いない。この件に関してはこれ以上聞くべきではない。不容易なタッチ、ダメ絶対ノータッチ。どう考えてもヤベー臭いしかしないじゃん。さっさと撤退撤退。聞く事聞いたら逃げるに限る。
「ほーん、まぁいいや。それでさちょっと聞きたい事あるんだけど良い? あ、お姉さんここのテーブルの全員に同じ奴もう一杯、先に払っとくわ」
「気前が良い兄ちゃんだな。仕事の話じゃなけりゃ話してやるよ」
「あーアレアレ、ここの向こうにダンジョンあるっしょ?」
「ダンジョン? あー八岐大蛇のドラゴンダンジョンな。あんなゴツいダンジョンが何だってんだよ?」
あれ? もう既にヤバそうな情報しか出てきてないんですけど。え、そういう感じなの?
「あそこって難易度高いの?」
「兄ちゃんダンジョンは余り詳しくねーのか?」
「ルーキーなもんで」
「ならあそこは止めておけ、ありゃ相当ヤバイダンジョンだ」
「お、おふ……そうなのね。どれくらいヤバイの?」
「ランクで言うと十段階中の難易度八に当たるクラスだ」
おっとっと、これはちょっとちょっと。あのさ。いきなり難易度高過ぎませんかね千狐さん。うーん、行く行かないも再検討だな。
「階層とかって判明してる? あ、お姉さんなんかツマミを、このお金で持ってこれるだけ適当にお願い」
「階層は五十だな、ここまで深いダンジョンも珍しい。ここの町が町として機能しているのもその恩恵によるところが大きいからな」
「あー、入って出るのは自由だから、低層階の雑魚ドラゴンを倒して、それで得た物でって事?」
「そういうこった。ここの事も知らなかったのか?」
「全然」
「兄ちゃんどこの田舎もんだよ……。ここはツインドラゴンテイルって町でな、小さな町の割には良品が多いって事で結構賑わってんだぜ?」
「ツイン?」
「反対側にももう一つドラゴンダンジョンがあるのさ、黄金竜のドラゴンダンジョンって奴だ」
成る程。竜の口がそれぞれのダンジョンならここは尻尾って訳ですか、そして二匹分。誰ウマ。
にしても五十階層はキッツい。うーん。
「それさ五十とかって階層突破するのめっちゃ時間かかるじゃん?」
「そりゃな。最初こそトントン拍子だが、普通は一階層に半日か、後半なら一日まるごとあてるもんだ」
「ご飯とかどうすんの?」
「兄ちゃんマジックバッグも知らねーのか?」
おっと、なんかまた新出単語が。
なんだよマジックバッグって。
「えーあーまぁというか、用意するの大変だなーって」
「……? まぁそりゃ深いダンジョンを攻略するなら本来は二ヶ月分の食料や備品が必要になるからな。普通は二十階層くらいのを一週間で踏破するのがセオリーだ。じゃねーと割に合わねーからな」
ふぅ危うくダンジョンルーキーどころかこの世界ルーキーまでバレるトコだったぜ。でもお陰で大分煮詰まってきたな。つまり今足りない物はマジックバッグ、そして食料。ここはガチだ。
結構纏まってきたな、整理するか。
異世界に来て、イベントをこなして立てたフラグでダンジョン攻略へ向かう流れへ。そのダンジョンはそこそこ上級者向けでマジックバッグと食料が必須。ついでに未攻略故にボスの難易度も正体も不明、といった所か。
おっし、もう十分だな。ずらかるか。
「ところで積荷は何だったのでござるか?」
「ありゃ毒……おい、テメー何聞いてんだ?」
ちょちょちょいやいやもう待って。お前ほんとマジでいい加減にしろし。
「さ、ありがとな兄貴さん。俺はここいらで……」
「待ちな」
そそくさと退散しようと立ち上がる俺を兄貴が制止する。ちょっとマントを掴まないで貰えませんかね。おいおい嘘だろ、何なんだよもう……。
「今、何を聞いた?」
「え? 何も聞いてねーし、ドッグ、犬の話? 俺猫派だからゴメンね? じゃ俺はこれで……」
「聞こえてんじゃねーか」
「物騒でござるなぁ。毒でごさるか」
おほほほほぃコラコラやめろってば。何なのこの人、何でわざわざ自分から全部地雷を踏みながら歩くの? マインスイーパーなの? むしろマインクラッシャーなの? 隣人も巻き添えとかやめてくんない? 何回巻き込んだら気がすむのこの人。
「クッソ、話の拍子と酒のせいでつい漏らしちまった。テメーら、今日は帰れると思うなよ? オイあいつらを呼んで来い!!」
「ヘイ!」
取り巻きの一人がヘイ! と答えてそのまま店の外へ。あーあー、あいつらが召喚される訳ですか。誰だよあいつらって。どうすんのコレ。
「人が増えるので? 賑やかな事でござるな」
お前はちょっと状況に慌てろし。めっちゃ普通に肉食ってるし。はぁー結局こうなるのか。なんかここで暴れるのも実は親切な兄貴に悪いしなぁ。 藪蛇さえなけりゃ穏便に済んだものを……。
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「べほぶ!」「べばぼ!」
その後店の外に出るように指示され、俺とカイナスは店外へ。カイナスはツマミを持てるだけ手に持ちながらの退店。抜け目なさすぐる。
そして店外には待ってましたと二体のマッチョが。噂のああいつらで間違いない。騒ぎ立てるほどの事でもないから手でブワッと風圧を生み出し、とりあえず壁に叩きつけておいた。今は二人とも壁に埋まってスヤスヤっすわ。
「なっ!? あの二人が触れられもしねぇとは……。兄ちゃんら一体何者なんだ? 俺らをどうしようってんだよ」
兄貴はガクブルで組織ごと潰される事を懸念しておられるが、そんな訳ない。むしろ感謝すらしてるってのに。互いのデリケートゾーンにさえ触れなければ友好にやれたと思うとこの……。
「ボリボリボリ……これ美味いでござるなー。一枚いかがかな?」
「遠慮しとくわ……」
デリケートゾーンにも土足で踏み込むカイナスの存在のお陰で見事にパー。何なの? 問題製造のプロなの?
「因みに俺はこいつとそこで合ったところだから素性も何も知らないほぼ他人だから。俺個人としては兄貴の仕事にケチ付けるきはないから安心してちょ」
「……ならいいんだけどよ。テメーは何なんだよ?」
「拙者? 拙者は旅の学者で過去に栄えた帝国の情報を集めながら各地を転々としている者にござる」
あ、そうなの? 学者さんでしたか。ふーん、どうでもいいんですけどね。
「魔法はあまり得意ではござらんが、召喚系の魔法をメインに持ち、家は……」
「いやもういい。十分だ」
「……左様にござるか。時に諸兄方、先程の話にあった毒というのが、仮にポイズンリザードから精製した毒なのであれば、気をつけるでござるよ?」
「……一応聞いておく。どういう事だ」
「ボリボリボリ……」
「おい!」
もう掘り下げなくても良くない? 聞きたくない聞きたくないアーアーアー。
「ポイズンリザードから精製した毒は個人の暗殺やピンポイントの運用は無理でござる。アレは大量の毒袋からしか精製出来ぬ上に存在も不安定、効果も長く保たないでござる。それに毒性は強いといってもそれは効果範囲の話」
「……つまりどういう事だ?」
「程々に皆に影響する範囲毒で、余程の容器に保管しなければ運び手にも影響が出る代物。しかしながら服用したとて殺傷力はほぼゼロでござる。やんわり身体に影響を出しはしても、身体に吸収される事なく排便されるのでござるよ」
「……そうなのか。俺はどうも勘違いしていたみてーだな」
「なら良かったでござる、一枚いかがかな?」
「……遠慮しとくよ」
何だかんだと話はついたみたいだが。話が大分見えて来てしまってるのは大丈夫なんですかね……。
つまり兄貴は要人暗殺を企み、かつ毒を発注。それを届ける過程で何かがあり、毒は届かず。その上でその運用も間違った知識を持っていたか、もしくは与えられたか。やべぇ、結構判明してんじゃん。これ以上は関わらない方がいいな。
「互いに有益な情報を交換出来た上で、互いにこれ以上詰める理由もない訳でさ。解散しない?」
「……仕方ねーな。こっちとしても聞いた事のない貴重な話を聞けたんだ。取り引きとしては文句ねーよ」
「終わったのでごさるか? なら拙者はこれにて御免」
何とか落とし所を作ってこの場を解散させる事に成功。やれやれ一時はどうなるかと……。
「アンダーソン殿! また会おうでござる!」
「……ん」
一応形だけ手は振り返しておいたが、出来れば会いたくないですよね。ほんと火に油とガソリンを注いだ上からダイナマイトを放り込む様なお方でしたからね。
さ、気を取り直して。ひとまずマジックバッグとやらと食料の調達にでも行きますか。