第13話 お約束ってのはつまり定め。
「いやーまさかこの様な所でこんな素晴らしい方々出会えるとは思ってもなかったでござる。馬車といい、今日はツイてるでござるなぁ」
「そう言えば馬車はどうしたの?」
結局なんやかんやで同行する事になってしまった問題製造機さん。一応名前はカイナスって言うらしい。声さえも中性的だから正直お姉さんとは言ったものの性別は不明。胸はない上にダボっとした服なのでジョニーがブランコしてるかどうかも視認出来ない。故に性別不明、そしてどうでもいいっていう。
「馬車は何故か馬だけが繋がれた状態で持ち主と積荷が空っぽでござった」
「ふーん、よく分からないわね」
折角同行するのだからと今はカイナスが運転してくれる馬車に俺たちが乗せてもらっている状況。いやーさぞかしラクチンなんだろうなと、幻想を抱いていた時期が私にもありました。だがしかしその実、滅茶苦茶揺れて心地良さもクソもありませんでした。
ガッタンゴットンですやん。尻が痛てぇ……。
「パイセン何でそんな平気そうな顔してんの? お尻痛くない訳?」
「え? あぁ、全然平気よ?」
「そんなバハマ。俺の尻とかあまりの衝撃で真っ二つに割れちまったぜ」
『さっきまでくっついてたんかいな、キッショ』
「千狐さん突っ込みが的確過ぎませんかねぇ……」
酷過ぎ泣いた。つーかマジでさ、何で平気なの?
「そんなに痛いの?」
「むしろ何で痛くない訳?」
『ワイの尻尾をクッションに提供してるからやな』
「なん……だと?」
良く見るとパイセンの肩に乗った千狐さんは尻尾をマフラーにしていなかった。そう、尻尾は下に垂れ下がり、そのままクッションの様に丸められていて、その上にパイセンは座っていた。
「羨まし過ぐる、千狐さん俺にもクッションプリーズ」
『すまんな、ワイは先の気配も読まれへん無能やからちょっと無理やわ』
「根に持ち過ぎワロタ」
不貞腐れる千狐さんに放置された俺の尻は町に到着する頃にはすっかり真っ赤に腫れ上がっていた。今日の排便は激戦の予感しかしない。
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「まだ夕方か、意外と早く着いたな。さーてどうしたものか」
旅は順調に進み無事に町に到着。カイナスのお陰で結果的に早く着く事が出来てしまった。今はまだ日が傾きかけた程度、折角なので今日のうちにもう少しやれる事をやっておきたい。
「それでは拙者はこれにて御免。またの機会があればよろしく頼むでござる」
「お、行っちゃう訳?」
「拙者にも旅の目的があるのでござる」
「なら仕方ないわね、こちらこそまた会えたらよろしくね」
「それでは御免」
パッカパッカと馬を引きつつカイナスは何処へと歩みを進めた。ふぅやれやれ、一安心だぜ。さーて、それでここからどうしようか。まずは軽く情報と、今日の宿の確保か。
「じゃあパイセンは宿を頼むわ。場所が決まったら千狐さんをここにリリースで」
「成る程ね、貴方はどうするの?」
「俺はもうちょい聞き込みを」
『ほなワイはルナに着いて行くわ、また後でな』
「ん、よろしこ」
そんなこんなで二手に分かれて、俺は少し情報収集する事にした。まだ分からない事だらけだかんね。流石にこのまま動き続けるのは不安だわ。
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とは言ったものの、どこで何をして良いかが全くノープランだったのでとりあえず町中をプラプラしつつ人の集まってそうな場所を探す事に。
すると一際賑やかな建物を発見、看板を見ると【酒場】と表記されていた。ふむ、確かにファンタジーの定石としては酒場で情報収集か。悪くないですねぇ。
酒場での情報収集を決意すると同時に少しマントの角度を調節。髪の毛を整え、キリッとした顔で酒場を目指す。舐められる訳にはいかねーぜ。
そしていざ酒場と、その扉に手を触れ様とした瞬間。
「ござるぅぅぅぅぅ!!!」
扉を吹き飛ばす勢いで店内から店の外へと見慣れた顔の奴が飛び出してきた。心臓がバクンバクンである。ちょ、何これ、どゆこと?
「テメーコラ、その馬車から降りてきて積荷が空っぽってどういうつもりだ?」
「な、何の事でござるか?」
飛び出した勢いそのままに店の前で転がり、続いて出てきた兄貴的存在によって無理やり胸ぐらから掴み起こされる見慣れた問題児。やべぇってコレ。この場は静かに退散するしか……。
「とぼけてんじゃねぇ! 積荷は何処へやった!」
「し、知らないでござる……あ、アンダーソン殿」
!?
ちょちょちょちょ待てよ、待ってお願い。
嘘だろ?
「あ? 知り合いか?」
「アザー、他人です」
「そんな殺生な、さっき馬車を共にした仲ではありませぬか」
「何? テメーも馬車にいたのか?」
いやいやいやいや、何これ?
こんな展開あります?
どんな強制イベント?
「いやそんな人知りませんし、私の名前はケンイーチなので人違いですはい」
「アンダーソン殿、さっきまで痛がってたお尻は大丈夫でござるか?」
「いやいや、ちゃうねん、あれやねん。ワイはちゃうねん」
「おいテメーしらばっくれてんじゃねーぞコラ」
もうヤダ。
どうせ勝てるけどさ、問題起こしたくないし。
何より怖いもんは怖いですから。
ガクブルですから。
でも……ここまで来たらやるしかないか。
俺は生唾をゴクリと飲み込み、覚悟を決めた。
「いや失敬。俺はアンダーソンってしがない旅の者だ。よろしくな?」
そういいつつ握手の構えで手を差し出す。
兄貴的なピーポーは突然の余裕にたじろいでいる。
やれやれ、小心者は俺も貴方もみんな同じですか。
「何? ここの奴らは話するのに拳しかない訳? ほらとりあえず握手しようぜ?」
「テメーふざけてんじゃねー……アダダダダ!!!」
半ギレで俺の差し出す手に乗っかってきた兄貴的なピーポー。恐らく手を握り潰すつもりできたのだろうが……相手が悪かったな。こっちは一万馬力越えですから、残念。
「あ、兄貴!?」
「いででででコラテメー離しやがアダダダダ!!」
「落ち着いて話す気になった?」
「ふざけアダダダダ痛い痛い痛いちょ待て分かったから分かっアダダダダダダダダ!!!」
「落ち着いた?」
「分かったから分かった分かったからちょっと緩め痛でででで!!!」
こうして俺は漸く状況の説明を得られる情報にたどり着いた。
あれ?
俺ここに何しに来たんだっけ?