第12話 旅は準備する時が楽しさのMAXだけど、本人次第でMAXは継続するってばっちゃんが言ってた。
「村から出る事一時間。一行は今、森の中にいた」
「誰に説明してるの?」
純粋な顔でこちらに向かってナイスビューティーを提供してくれるパイセン。旅路はボッチじゃないと思う通りに計画が進まなくて面倒とか思ってたあの日の俺とはセイグッパイ。いやーもうね、二人旅最高ですわ。
『ワイをカウントしーや酷いやっちゃなぁ』
「おっとまた漏らしちまったか、やれやれ俺ってやつは」
ザクザクと森を進み、これで合っているのか間違っているのか俺にはサッパリな訳だが、どうも千狐さんレーダーによると問題ないらしい。テラハイテク。
「パイセンさ、姉さんになんて言って出てきたの?」
「私? えっと……まずダンジョンであった事を説明してさ」
「ふむふむ」
「それから疑うソレイユ姉さんにレベルを見せて納得して貰ってさ」
「ふむふむ」
「アンダーソンくんについて行ったら、まだまだ強くなれるかもしれないから、私頑張りたいって」
「姉さんは何て?」
「しっかり吸い取りなさいって」
「公認寄生ワロタ」
寄生もクソも俺から養殖してた訳だからアレなんだけど、やっぱ不測の事態でパイセンに何かあったらヤバイしさ。500ダメージ貰っても総体力が600なのと6000じゃ身体への負担も違う訳で。取り敢えずタフネスあったら心配事も減るかなーって安易な考えだった訳なのですが。
とは言え。まさかそれのせいで復讐心が育ってしまうとは。んーなんかここも巻き込まれる匂いがほのかに……。
「あ、何か見えてきたわ」
「デジマ? やっと森が終わるの?」
『ホンマか? 何やろ、森はまだ暫く続くんやけどな』
「えぇ……もう森はお腹いっぱいですしおすし」
「まだ一時間くらいしか経ってないじゃない」
やれやれ何があるのかと目を凝らしてみたが何も見えない。若干不思議に思いつつ気配の方から探ってみると、かなり先に三人ほど纏まった生命反応が。パイセン視力ヤバくね?
「パイセンすげーな、まだかなり遠いのに」
「あ、えっと……見えたっていうか、感じたっていうか……よく分からないんだけどさ」
あー成る程。ステータス向上で気配察知機能も上がったそれの感覚に慣れが付いて来ていない感じか。だから表現があやふやだったと。ま、そりゃ急に七倍以上のレベルになりましたしね。
『なんや二人ともかなりの手練れみたいやな、ワイにはサッパリや』
「おやおや、脆弱千狐さんにはちょっと難しかっ……グエッ」
『何やて?』
「締まってる締まってるギブギブギブ!」
『ほぅ、根性あるやん。まだ与えて欲しいと?』
「ち、違うって、ダメ、マジ締まってるから、あ、お花畑みえた、お花畑見えてるから! もう渡りそう、あー渡る、渡っちゃう……あ、気持ちよくなってきた」
「シッ、向こうが動くわ。静かに」
首に巻かれた千狐さんの締め付けが緩まる事なく、俺は黙る様に指示を受ける。うん、もうこれ渡るね。ちょっと逝ってきマンモス。
『おっと、緩めるの忘れてたわ。堪忍な』
「ちーん」
『自分でゆーてたら世話ないわ』
その場で倒れた俺に対して、千狐さんは倒れる直前に俺をパージ。そのままパイセンの肩へと移動した。イヤン見捨てないで!
「何してるのかしら」
『ん? どないしたんや?』
「分からない、でも何か動き方が……」
「多分囲ってますわ、1対3の構図」
『成る程、アンディやるやん』
普通に復帰したが誰も何も言ってくれない、テラ酷す。向こうは何と言うか……リンチまではいかないけど、片側が凄い不利な雰囲気。
「一人の方が心配ね。どうする?」
「無視するのはダメ?」
「それはダメ、気づいたんだから放ってはおけないわ」
事なかれ主義な俺に対してとても優しいパイセンは何とかしたいと主張。そんなパイセンの意見を無下にする理由もないので一先ず状況を見つつ助ける方向に。
「ま、待って欲しいでござる、拙者特に何も持ってないので見逃して欲しいでござる」
「あーん、持ち物全部おいて、後はやる事やったら返してやるよお姉ちゃん」
「そんな。拙者の持ち物は大切な……あ、これ拾った馬車でござった」
「そりゃいいや、その馬車は俺たちが大切にしてやっからよ?」
「そ、そんな……これは拙者が先に……」
「ほら、大人しくしてた……誰だ!?」
状況を見てたらどうみてもタチの悪いチンピラのナンパと判明。特に最後まで見る必要も無かったので普通に登場。何かちょっと背の高い色黒なお姉さんと馬車が多分ワンセットなのかな? その馬車ごと頂こうとヤンキーが群がってた訳だ。
「ちゃーっす」
「……誰だてめぇ」
めっちゃメンチ切られてる。何でこう言う連中はこんなに表情豊かなの? 何か顔芸でも極めてんの? 普通に怖いんですけど。
「悪い事言わないからさ、身ぐるみ置いてどっかいってくんない?」
「あ? 俺たちが今それを……」
ここでバコーンと木を一本殴り飛ばす。轟音と共に森に沈む一本の木。とばっちりの木さんマジ申し訳ない。
「ちょ……嘘だろ?」
「な? 今のを次はアンタに向けるけどどうする?」
「わ、分かった、大人しく引くから……な?」
「「あ、兄貴……」」
チンピラーズは下卑た笑いを零しつつ静かに後退。
「に、逃げろー!」
「「兄貴ー!!」」
チンピラーズは逃げ出した。抵抗されなくて良かった。何せ足がガクブルですから。
いくらね、レベルが上がったからってね。そりゃオタクにチンピラの相手しろって、土台無理な話ですよコレ。あーやばい、まだ震えてる。よし、落ち着け、何とか平生を装わねば……。
『ガクブルやんアンディ、ダッサ』
「カッコつけたいのに言わないで貰えませんかね?」
容赦ない千狐さんの口撃で精神的にダメージを受けつつお姉さんを見やると、既にパイセンが介抱にいっていた。流石っすわ。
「大丈夫だった?」
「た、助かったでござる……」
そもそもこんな森の中に何で馬車……と思って前後を見てみると普通に道があった。……千狐さん?
『……いや、ワイは最短ルートをやな』
「道を使いましょうよ道を」
わざわざサバイバルコースを進んでいたらしい。そりゃ進むのに時間かかるわ。無駄にしんどいし。カーナビさんのショートカットで畑を横断するルートを示されて、ガチでそのまま横断したパターンですやんこれ。これだから旧式のカーナビは。千狐さんマジ頼んますよほんと。
「危ない所を助かったでござる」
「何で一人でこんな所に?」
「拙者もよく分からないのでござる」
「……どう言う事かしら?」
パイセンとお姉さんの話を聞くに、目的地である町に向けて移動していたが、その過程で何故か馬車を発見。やったぜこれでラクチンだと意気揚々と馬車で村を目指していたら目立ち過ぎてチンピラに絡まれたと。……そりゃそうだろ。バカなの?
「何故このような事に……」
これは放置しなければ危険だ。こいつはアレだ、危険製造機タイプだ。雰囲気は何というか、アジアっぽい感じで少しエラの張った顔で美人という雰囲気ではない。真っ黒なローブとも言えない様な服を上から下まで着ている。髪は黒髪でポニテとは言いたくない様な雑に束ねただけのバサバサロングヘアー。あと色黒っていうか、地黒みたいな肌色。
何というか、全体的に残念。
年は多分ちょい上くらいかな。
「良かったら一緒にいかない?」
ぱぱぱパイセンそれはマズいって。そいつ絶対ヤバいアレだから、無意識に厄介ごと拾ってくるタイプだから。ね、落ち着いてさ。
アイコンタクトでそれを示すとパイセンはニコッと笑ってこう言ってくれた。
「アンダーソンくんも良いって! だからどうかな?」
「かたじけないでござる。ここはお言葉に甘えて同行させて頂くとするでこざる」
あ、あれー? パイセンがポジティブに間違えちゃってもう引き返せない雰囲気に。
あーもう、村に着くまでだからね!
絶対だからね!