第10話 宝箱を用意する奴はガワ以下の中身にならない様に気を遣ってやらないと中身が可哀想な件について
「パイセン歩ける?」
「……ちょっと無理かも」
「しゃーない、ほらそこで待ってな」
「置いて行くの!?」
「うそうそ、俺の背中使って」
「……嘘でも怖い事言わないでよね」
「ごめんごめんマジさーせん」
ヘタリ込むパイセンを背中にのせパシリマンの残骸の隣を通り過ぎてその先へと進む。他の階の時と同じで戦闘部屋から奥に通じる道があるから多分この流れで合っている筈。
「これさ、ここクリアしたら次はどうなると思う?」
「……分からない、聞いた事ないわね」
情報通なパイセンを持ってしても不明。なら考えたって仕方ない。万が一の為に気配は探りつつ、スキルの発動も常時可能な心構えで前進。背中のパイセンに怪我させる訳にはいきませんから。……おやおや?
「普通に階段か、降りないと始まらんわな」
「……そうね、貴方といるともうどうとでもなれって気分になってきたわ」
やや自暴自棄なパイセンの意見も参考にしつつ階段を降りる。パイセンが投げやりなのは何故なのか……。
下りの階段が尽き、そのまま自然と前へと歩みを進める。視界一転。
ん? こんな感じだったっけ? 何というか、目の前には今までと全く違う光景が広がっていた。
「これは……宝物庫?」
「す、凄い……こんな量って……」
そこにあったのはとんでもない量の金銀財宝。それ程大きな部屋ではないが所狭しと詰め込まれており量の想像もつかない。それぞれがキラキラとした輝きを放っており、恐らくダンジョンに薄く光を灯していた何かの光を反射しているのだろう。
もうね、眩しい。
どうでもいいけど眩しい、何とかしろし。
「ねぇ、あれ見て」
「ん?」
パイセンが指で示す先には一際大きな宝箱。そう【宝箱】だ。ザ宝箱といった雰囲気でこの部屋のどの財宝よりも美しいディティールで細部までこだわった造り、更には可能な限りの宝石をふんだんに使用され、このサイズ感と見た目から察するに中身のレベルが推して知るべしという迫力を放っている。
もうさ、そりゃ異彩を放つでしょ。だって周りの金銀財宝は地面に捨てられてるんだぜ? あのレベルの財宝でだぜ? で、そこに宝箱。しかもめっちゃ豪華な。
でゅふふ、これは期待出来ますねぇ……。
おっと、その前に。
「パイセン、立てる?」
「あ、そうね。そろそろ大丈夫だと思うわ」
ひとまずパイセンには自立してもらい、一人で宝箱へと歩みを進める。別に独り占めしたい訳ではない。
こういうのはここまできても罠というパターンが捨てきれない。そう、つまりミミ◯クだ。油断しきった所に突然トゥルルルし始めてあっという間に死の呪文でゴートゥヘブン。
有り得たらシャレになってないっすわ。まぁ無いと思うけど念の為ってやつ。
「さて、んじゃ取り敢えず開けてみるぜ?」
「き、気をつけてね」
恐る恐る、宝箱に手を掛ける。俺は油断などしない。だがしかし……特に何も起こらない。うん、何も起こらない。
少し、蓋を上げると……上がった。デジマ? 鍵はかかっていないの? あれ? 普通に開けれるんだけど。
そーっと、そーっと持ち上げると……。特に何も起こらなかった。ふぅーセフセーフ。危うくビビり過ぎて漏らす所だったぜ。五ミリで耐えたから多分セーフ。
大きく深呼吸し、改めて宝箱と向き合う。さて、お楽しみの中身は……? こ、これは!!?
「ど、どうしたのよ?」
「え? いや、あれ?」
取り敢えず閉じてみた。あれ? 何か間違えた? 何で宝箱に生き物が入ってる訳? いやいや、それはナイか。うーん、気のせいかな……。もう一回……。そっと小さく蓋をあける。
『何やねんはよあけーや』
!!?
た、宝箱がしゃべった!!?
『ちゃうやん、ワイやん。気付いてるのにやめーやそういうの』
「お、おぅ……え? いやいやナイナイ」
『あるっちゅーねん』
宝箱の中に入っていたのは、狐ともフェネックとも言い難い様な小さな生き物ですた。待って、意味不過ぎるから。
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『ふぁぁーよー寝たわ、今どの時代や?』
「……は?」
「……え? か、可愛い」
宝箱からヒョイと飛び出してきたそいつはそのまま箱の前にチョコンと座り込んだ。
ちっちゃい。なんかね、耳が大きくてフサフサ。で首の周りにモフモフしたマフラーみたいな毛がはえていて、そこだけ白い。後は全部黄色い、長いフサフサのしっぽまで全部。
うーん、狐? というかフェネックとチワワを足して二で割ったみたいな……。何の解説してんの俺?
『何やわからんのかいな?』
「じじ時代とか分かんねーし」
『……まぁええわ。ここに来るまでに門番みたいな奴おったやろ? アレ倒したんか?』
「パシリマン? あーあいつなら向こうで気持ち良さそうに寝てるけど」
『どういう状況やねん』
こっちが聞きたいっつーの。何なの? つまりどゆこと?
「てかさ、お前何なの?」
『ワイか? ワイは千狐って名のしがない小動物や』
「へー、俺アンダーソン。よろしこ……じゃなくて!?」
『何やねんもー騒がしいなぁ』
何なのこいつ? 話全然進まないんですけど。
「何で宝箱に?」
『何でって……そらあれやん。時間を置いて安全が確認されてからお嬢を……アァァァ!!』
「なななな何何、何なの?」
『そうや、えらいこっちゃ、はよ行ったらなあかん!』
「何々、何なの? つまりどういう事だってばよ」
『お嬢が待っとるんや! 間に合ったらええんやが……ほら、はよ行くでアンディ!』
「いきなりニックネームワロタ」
全然意味がわからないままに捲し立てる千狐さん。
いやー結構ここまで意味不が多かったけど、これは相当な意味不ですわ。コ◯ン君でも推理不可能なレベル。もう宝物庫の探索とか忘れてたっしょ?
俺も俺も。
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その後落ち着いて聞いた話によると、どうも千狐さんはここに長い事封印されていたらしい。過去に繁栄した帝国の技術を持って、遠い未来へと希望を紡いだと。つまり帝国は滅んでいる。何があったかは千狐も分からないそうだ。
パイセンに確認しても大して何も分からなかった。かつて繁栄した国の事は知っててもその情報は殆ど残っていないんだとか。ならば何故その帝国が千狐を未来へと放ったのか。
護るべき存在の生存率を上げる為だそうだ。その存在こそがさっきの【お嬢】って訳だ。かつては帝国の姫の立場だったらしいのだが、立場的には数ある姫の中でも弱小。で、その危機に際して姉妹で秘密裏に逃がされたとか。
その妹を助ける役割として、千狐は眠りについていたと。何その壮大なエピソード。
え、ここからどうなるの?