第1話 神の手違い
「…え? 何? どゆこと? ワッツ?」
「やかましいわアホたれ」
高校から帰宅して大好きなボディービルダー系美少女マッスル奮闘記のアニメを堪能。
興奮しすぎた勢いで絵に描いたけど落ち着いて見たらキモ過ぎて死にたくなって布団に入ったとこまでは覚えてるんだが、今は白い部屋の中に老人と二人でポツンと直立。
……どうしてこうなった?
「え? お主、死にたかったんじゃろ?」
「バカなの死ぬの? アレはほら思春期特有のアレでしょ? つーか何で知ってるの?」
「そりゃあアレじゃ、お主そのアニメじゃとその様なシーンは無いというのに、わざわざエロい絵を……」
「うわぁぁぁぁやめてやめて下さいお願いだから!」
何なのこの羞恥プレイ。
しかもじーさんと?
何してんの俺。
「で、お主はそこで死にたくなってしまった訳じゃ。まさかこんな理由で命を放棄する奴がおるとはのぉ。まだ若いと言うのに」
「誰が自分の描いた絵のキモさでうちひしがれたままガチで死ぬと思うの? バカなの?」
「……え?」
「え?」
静寂が場を支配する。
「……え?」
「ん?」
んん? んー、そもそもここはどこなんですかね。何がどうなっているのか理解出来ないまま、何故か目の前の老人の顔が見る見る曇っていくのが鮮明に映る。
……え? 冗談でしょ?
「あの……え?」
「……何?」
「その……落ち着いて聞いて欲しいのじゃ」
「え? いやいや、それはナイナイ」
「あの、すまん」
「いやいや、ないから。それはナイ」
「すまん。お主、死んだからよろしく」
「いやいやいやいやいや、おかしいから、ねぇ?」
「いやーワシ神なんじゃけど、やっちゃったわい」
「軽過ぎワロタ」
どうやら目の前のじーさんは余裕で髭をモサモサしながら俺の死について語っているらしい。どう考えても夢です本当にありがとうございました。
「まさかなー、ジョークじゃったとはのぉ」
「オッケーじーさん、落ち着こう。夢の出口はどっちなの?」
「夢?」
「え?」
「え?」
再び訪れる沈黙……じゃなくて。
おいやめろ、やめて下さいお願いします。
何なの本当に。
「……ガチなの?」
「ガチじゃの……」
「来週のビルダー美少女ガイアはどうなるの?」
「あれは最終回でガイアが地球と一体化するのじゃ」
「ネタバレやめてぇぇぇぇぇ」
ぐすん、もうやだ何なのこのクソじじい。
もう帰りたい。
ふぇぇ、ぼくおうちに帰りたいよぅ。
「はっはっはっ、無理じゃな」
「酷すぎワロタ」
つまりこれは何なの?
夢なの?
じじいのタタリなの?
嵌められたの?
むしろじじいのフルコースなの?
「じじいのフルコーラスなら何とか……」
「いやいらないから、頼んでもないから」
「では心を込めて、歌います。【森のクマさん〜家の裏口より〜】」
「選曲ヤバくね?」
いやもういいよコレ。
落ち着こう。
そうさいつだって落ち着けば何とかなるんだ。
汗だくのスポーツ監督が教えてくれただろ?
まだ慌てるような時間じゃないってさ。
「というかもう時間ないの、あと三十秒で通信途絶」
「慌てる時間んんんんん」
「簡潔に伝えるぞい、お主、死んだ、異世界、ハッピーライフ、オッケー?」
「全然オッケー」
「よし、行ってくるのじゃ!」
よーし、これから始まる異世界ハッピーライフに胸がドキドキするぜ。
俺の人生は、今日から始まった!
ー完ー
んなわきゃねぇーですからァァァァァァ。
待って、ねぇ待って?
嘘だろ?