表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリエイティブヤンキー  作者: 小松 稔
1/1

STAYGREEN~未熟なやつら

タイトル クリエイティブヤンキー



氏名 小松 稔











あらすじ


主人公のヤンキー高校生時岡 マモルは

元クリエイティブプロデューサーの父プロダクトデザイナーの母の間生まれたクリエイティブのサラブレッド。

ただ、両親が忙しすぎるため確実にグレてしまう。

マモルがバリバリにグレていた高1の時、父親がガンで他界。そのことにショックを受けた一家は隣町に引っ越す。

そこで、中学時代の先輩が経営するラーメン屋でアルバイトしながらマックを購入し、イラストレーターを駆使して暴走族のロゴデザインなどを趣味で作成していた。

マモルの人得なのか、この町に越してきてから、よき仲間に巡り合い、人生のターニングポイントをむかえる。

マモルを取り巻く様々な人間関係が交錯し、ひょんなことから、亡くなった親父の会社、TXCで最年少デザイナーとしてアルバイトをすることとなる。

そのTXCの社長はマモルの親父と同期であり、親友でも

あった人物だった。亡き親父の面影を感じたマモルに社長はアメリカの一大案件をマモルに託す。

未成年達の将来への葛藤と苦悩、日々の成長や思いを不器用ながら突っ走る様をコミカルに描いた未完成な未成年達のサクセスストーリー。

本をなかなか読まない最近の若い人達に読んでもらいたく、スピード感あふれる作りにしております。

それでは、ご覧ください。

私、あくまで連載されると思い込んで書いてまして、この物語には続きがあります。それも乞うご期待ください。



















「時岡ってーのはテメーか! おーコラ!」

三人のヤンキー達が朝からのご挨拶。

あー・・また来たよ、俺を倒して名を上げようってアホたちが。

ま、日常茶飯事だ、なんてこたねぇ。

お、紹介が遅れたな、俺の名前は 時岡 マモル 十七歳 高校二年生だ。髪は金髪、七連ピアス、タイマンじゃ無敗?の自称アウトローだ、趣味はバイクで・・・・。

まてまて、そんなことしゃべってる場合じゃねぇ、あっという間に囲まれちゃったよ。

だいたいこの町に越してきてからというもの、この風貌のせいか目をつけられてばかりでよ・・見た目で判断するなよな。あぁ、どうすっかなぁ・・・・

「おまわりさーん!こっちです!はやくー!」

かん高くて聞き覚えのある声が聞こえる。

「誰だチクショウ!おい!逃げんぞ!」

チンピラ共がバタバタ逃げだした。

「待てや!このハナタレども」

といいつつも正直助かった。

「ハナタレじゃないわよ!このバカ!」

振り返ると・・・

「うわっ!ナツコ!」

「なにそれ!せっかく助けてやったのにさー」

うちの高校の同じ学年で生徒会長のナツコだ、しかもテニス部のキャプテンでうちのクラスのヤロー達にも人気があるんだよな。

なにかにつけていいたい放題いいやがるし、俺は別にって感じだけどよ。

「コラ!時岡 マモル!何とかいいなさいよー!」

でかい声で怒鳴りつける。

「びっくりすんじゃねーかでかい声でよ、あとフルネームで呼ぶんじゃねぇ」

「早く行かないと遅刻しちゃうよ!今もかなり時間ギリだし」

「おお、じゃー乗ってくか?」

と隣にあるバイクのキーを回す。

「何それ?」

「いや、バイクだよ、俺のバイク」

バイクに指さす、ドラッグスター400だ。

「かっこいいじゃ〜ん!」

なぜかナツコの目は輝きだした、なんだコイツ、バイク好きなのか?

「ってコラ!バイクなんて学校乗っていったら駄目なんだよ!」

「ノリ突っ込みかよ」

「あー!遅刻しちゃう」

ナツコが時計を見て地団駄を踏み、アセりまくる。

「いいから乗れよ、ほら」

強引にバイクに乗せる俺。

「ちょっと!誰も乗るなんて・・」

またあせるナツコ。

「つかまってろ、あぶねーぞ」

と強引に発進。

「キャー!おろせ時岡 マモルー!」

朝から絶叫のナツコ、意外と楽しそうじゃねーかよ。

「・・・・・ちょっとさ!遅刻は免れると思うんだけど、このツーショットはやばくない?」

エンジン音に逆らうようにナツコが叫ぶ。

「そんなでけー声ださなくても聞こえてんだよ!」

俺もでけー声で返答する。

「遅刻という汚点がつくよりはましだろーよ!」

「どっちも汚点だよ!バカ!」

毒舌ゼンカイのナツコ。きっついな・・・

「まーいいわ!そろそろ着くぞ!」

すると・・やべえ、ありゃー

「コラァ!このクソ生徒―!なんだそのバイクはー!」

うおっ、生活指導の井上、こいつは鬼だぜ。大体生徒をクソ呼ばわりが気にいらねぇ。この間ウチの生徒がベランダにつるされてたからよ、次は俺か?ごめんだな、はっはっ。

「クソだけ余計なんだよ、なかやまきんにくんみてーなかっこでよ」

「あっはっは」

ナツコも笑う。その後、俺たちは学年指導室に2時間缶詰めにされたのはいうまでもねぇ・・・大丈夫だ、ちょっと吊るされただけだからよ、ナツコ?ああ、大丈夫だあいつは

つるされてねーよ。井上の野郎女にあめーんだからよ、2つ返事でオーケー。

生徒会長パワーだよな、テンション低いわー・・今日もふけるか、授業。

と思いつつ廊下を歩く。

「よう!問題児。今日も学年指導室で授業か?」

ポンと肩を叩かれる。

「おお、イサオ」

こいつは俺が越してきてからの一番のダチで悪友というか親友

というかよ、ウマがあうんだ。

「おまえ、もしかして吊るされたん?ぷぷっ」

と口を押さえながらイサオが言う。

「こ、殺すぞテメー!」

テレながらキレる俺。

「まぁ、きんにくんには勝てねーよな」

とイサオがなぐさめてくれた。

「あぁ、そうだな。はっはっ」

突然イサオが話題を変える。

「あっ、そーだ!おめぇナツコちゃんとダンデム通学したってマジ?」

とすげー勢いで聞いてくるイサオ、そういえばコイツはナツコんこと気に入ってたもんな。

「ま、まーよ・・」

頭をかきながら答える。

「まーじかよ!超いい!超うらやましいじゃん!」

コブシをにぎってうらやましがる。

「じゃー、てめーも免許とれよ、イサオ。」

「だな、だな! 取るしかねーよな!」

「そのまえに、ナツコがおめーのこと好きになってくれるのかが問題だろう。」

「あ、てめーそれをいったな、それをいっちゃったな、マモルちゃんよ」

泣きそうな顔で詰め寄ってくる。

「お、落ち着けよ・・・悪かった悪かった、缶コーヒーおごっから泣きながらよってくんじゃねーよ」

という面もあるがこいつぁーなかなかの男でな、町のワル共を束ねる

「ナイト」ってチームのヘッドなんだよ。男気もあるみてーだ、俺は見たことねーけど。

「イサオよ、チームのアタマなのにバイク転がしたことねーのかよ?無免でもよ」

と話題をそらしてみる。

「え?だって仲間が車でいつも迎えにくっからバイク乗る機会がねーのよ、マモルちゃん」

ヤクザの親分か?てめーは。

「あ、マモルちゃん!今日の三時間目は体育でサッカーだぜ」

とイサオがボールを蹴るマネしながら言う。

「あぁ、テンション下がったからふけよーかと思ってよ・・」

「何よ、俺の弾丸シュートがこえーのか?勝負せーや、マモルちゃん」

テンション高くからんでくるイサオ。

「わかったわかった。出るよ」

いやそうに答える。

「そうだよー、出ないとマモルちゃん3年生に進級できねーぞ!」

ぜってーチームのヘッドがいうセリフじゃねーよ、変わった奴だ。ざっくばらんなトークをしながら教室に入る。

「イサオさん!ちゃーす!」

とクラス全体からのイサオに対する挨拶の嵐。

いやな、うちのクラスはすげーんだよ。アホばっかでよ、なんせウチのクラスの

ほとんどが「ナイト」のメンバーでな、神様・仏様・ヨン様・イサオ様ってくらいの

カリスマなのだ。

「ハイ!マモルちゃん、これ着て!」

とクラスの一人が服を投げてくる。

「バサッ」

とキャッチすると、俺は感動した。

「これは俺の好きなスペイン代表のユニフォームじゃねーか!」

俺は興奮した。

「しかしこれをどっから」

「気にしないの!マモルちゃん!グラウンドまで走れー!」

「オー!」

クラス一同が叫び出す、すげーテンション。

とまー、うちのクラスのテンションはこんな感じだ、体育の時間は特に。

どんな学校だよ、なんて思うだろう。ま、ちょっと説明しよう。

うちの学校は共学といえば共学なんだが男子部と女子部で2つに分かれてて、女子部は超優秀で男子は超バカタレ共の集まりで、ありえねーだろ?だからウチの学校は

世間から「ラン学」っていわれてんだよ、意味わかんねーだろう?「ラン」はな、

あの「らんま2/1」からきてるんだよ。あの男が水かぶると女になるマンガ。

共学のくせに男子と女子が別れてるってーので2/1なんだろうけど。ま、女子部は偏差値、部活動ともに県内でもトップクラス、「文武両道」ってやつか?その点俺ら男子部は「喧嘩上等」それにしてもあのユニフォームどっからもってきた・・・ん?


だ・ん・が・ん・シュートぉぉぉー! ちょっと待てまだ解説中・・・

バサー!っとイサオのシュートが俺チームのゴールにさく裂!しかもキーパー俺。

ということは・・ただならぬ殺気を感じる。

「時岡―!」

ドドドーッと詰め寄るチーム時岡。

「テメー、何ボーっとしてんだ!」

「す、すまねー・・ま、落ち着けおまえら、な?たかだか体育でそんなに・・」

「戦力外通告だ、時岡ぁ」

とチームの一人がいう。まさか・・

「やっちまえー!」

ボコドカバキ!ドカー!とみんな笑いながら蹴るわ殴るわ・・本気じゃないけどな。

「まてまて、お前らー!」

・・・無敵艦隊に失敗は許されねーというわけだ。



と、まーこんな感じだ。。

世間じゃ、俺たち男子部を「バー学」「バー学」っていーやがる、バカヤローばかり

だから「バー学」だとよ。ふん、俺達は、確かにアタマは悪いが完全にバカではないわ。

くだらねー規則に縛られ小さい机の上でしか人間を評価しねぇ大人共、それにただただ従うだけになりたくねぇだけよ。楽しくねぇだろう、だいたい。

そんな奴らより俺達の方が自然に純粋に生きてるじゃねぇか、俺達に「点数」なんてねぇし、俺達には個性がある。俺は「バー学」でいいよ、十分だ。

学校という名の「カゴ」に入ってつまらない大人の「犬」やってるより、このバー学で純粋に自然に笑って、怒って、泣いて思う存分個性を磨く!

俺はそうありたいと思ってるんだ。

俺はこの学校に転校してよかったと心から思ってる、いい仲間にも巡りあえた。

ただ、ここに転校してから俺の「時間」と「成長」は止まったままだったんだ。

まぁ、また今度詳しくな。


「やった!3対1で俺たちの勝ちだぜ!」

イサオが飛び跳ねて喜んでやがる。

「ふふふ、やはり俺たちがまさに無敵艦隊だな、なー、マモルちゃん」

「なー、じゃねーよ!てめーの1点目のせいでヤキ入れられたんだぞコラァ!」

「まー、勝負の世界はきびしいからねーマモルちゃん」

「ここは高校だ、アホ」

ひとりつぶやく俺。もうやってられん。

「フケるわ」

ダッシュでグランドからおさらばした。

「マモルちゃーん!3年に進級できねーぞー!」

イサオが叫ぶ。今日はもう勘弁してくれ、イサオそう思いながら学校を後にした。


さて、俺はいつもフケると決まってとあるところにいく。

この国道をまっすぐ突き抜けて、右折すると丘の上に上がる。

そこには街を見渡せる公園があって、そこから見る景色が好きだった。

そこで一服すんのが好きなんだよ、タバコは二十歳になってからだが・・・。

ここが一番落ち着く、でもその間に世間はすげぇスピードで移り変わる。

そのスピードってのは俺には少し速すぎるのかもしれない。

だからここで一端リセットするんだ、もともと俺は自然が好きだから青空や雲を見るだけでゆったりした気持ちになれる、

タバコの煙もゆったりとスローモーションのように揺れながら空に消えていく。

すべてはこのタバコの煙のように迷いはすべて空に無くなってしまえばいいのに

と思うんだ。



夕方、俺は近所のラーメン屋でバイトしている。店の名は「ラーメン処 銀二」そこの店のマスターは俺の前のジモトの時の先輩、

その先輩っていうのが・・・

「コラ!マモルぅぅ!5分遅刻だぞ!時間厳守って何度いったらわかんだてめーは」

「すんません、銀二さん。ちょっとバイクの調子が・・・」

「あぁ!」

ガンくれる銀二さん。

「す、すんません。」

と素直に謝る俺。

「ちっ、男が言い訳してんじゃねぇよ。オラ賄い食ったら支度しろ」

ゴンっと俺の目の前にどんぶりが出てくる、その中には山盛りのチャーシューメンが入ってたんだ。

「あれ、銀二さん、今日はエライ賄いのメシ豪華じゃないですか?」

「バカヤロウ!今日は何の日なんだよ」

「え?あ、俺の誕生日でしたっけ?」

忘れてたな、今日は色々と急がしかったから・・・

「ったくよー、テメーの誕生日だろう」

「あ、ありがとうございます!」

まさかのプレゼントだし、銀二さんらしいはからいに俺は少し感動した。男って結構こういうのグッときたりすんだよな。


銀二さん 通称 「狂犬銀二」

前の俺のジモトでこの名前をしらねぇ奴はいない。 

髪はリーゼント、ヤクザみてーなダボシャツに190センチの長身、筋肉ムキムキの

上半身。なにせまずキレたらとんでもなく怖い人で俺がまだ中坊で、この人が高校二年の時だったろうか?

銀二さんの当時付き合ってた彼女とそのお友達がチンピラ2名にからまれてな、そしたらチンピラの一人がつれない彼女の態度にアタマきたらしく手を上げたんだよ。

その後、彼女が銀二さんの前に腫らした顔で現れたんだよ。

あの時の銀二さんはおっかなかった、調べによると、そこのチンピラの仲間は二十人ほどいたんだが、銀二さんは一人で乗り込んだんだ。

二十人とも全員病院送りで。ゴリラみてーな腕っぷしだろ?俺はその現場に居合わせててよ、マジでビビったのを覚えてる。

ぜってぇこの人とはやり合いたくないって思ったもんな。

そして3日後、絶対安静のチンピラグループのリーダーと彼女に手ぇ上げた野郎の二人が彼女の家に現れて金十万の慰謝料と菓子折りもって謝罪にきたんだってよ。

めでたしめでたしってわけよ。で、その当時の彼女が今は奥さんてわけ。

ドカドカドカドカと2階から勢いよく階段の下りる音が・・・

「ちょっと銀二!話があるんだけど」

とすごい剣幕で奥さん登場。

「え?な、なに?洋子ちゃん」

と、気まずい感じの銀二さん・・まさか、または始まるのか・・・・?

「あんた!あたしのプリン食べたでしょ!」

と怒り狂う奥さん。

「まてまて!今は営業中だし・・・たかがプリンでそんな・・マモルもいることだしよ、あとでプリンも山ほどかってくるから、な」

相変わらず奥さんに弱いなこの人は。でもこんな銀二さんなかなか見れなくて面白い。

とちょっぴり楽しんでる俺。

「あたしは今!食べたいの」

鬼の形相で非常にこえー奥さん。

「てゆーか銀二、アンタあたしの大好物を黙って盗み食いしたの何回目なのよ?何とかいいなさいよ」

ガシリと銀二さんの胸ぐらをつかむ。

「いや、なんつーか・・・うまそうだったんでついよ」

「はぁー!男が言い訳するんじゃないの」

俺に言ったことそのままいわれている始末、はっはっは。先輩の威厳が丸つぶれだな思いとくすりとと笑ってしまったマモル。

「マモル!テメー何笑ってんだコラー!見せ物じゃねーぞ!」

この修羅場で俺には強気な銀二さんだが、バシッと奥さんに頭を叩かれた。

「何すんだよ!」

と銀二さん赤面。

「マモルちゃんは今関係ないでしょ、逃げんじゃないわよ」

こりゃー確かにチンピラも手を出さなきゃ止められんわと思う俺。見せ物とおりこして夫婦漫才だ。

「銀二さん、俺プリン買ってきますけど」

とケンカの間に入る。

「や!まてや、俺が、俺が買いにいく!ま、マモル!テメーは店番だ!」と奥さんの手をはらいのけ、足早に店を出る銀二さん。

「じゃ、マモル。あとぁ頼んだぞコラ!」

「あ、ハイ」

以外と逃げ足はえーよなこの人は・・・・・。と、今はこんなにも仲のいい夫婦というわけだ。

「マモルちゃん、ごめんね。またはずかしいところ見せちゃって」

と奥さんが優しく気遣ってくる俺にはなぜかやさしーんだよな。

「いや、とんでもねーっす」

「いやね、あの人の下でちゃんと働いてる子、マモルちゃんが初めてよ」

「え?俺の前にバイトいたんすか?」

初耳だった。

「うん、30分もたたずにやめたわ、普通の子は耐えられないのよ、マモルちゃんはある程度あの人に免疫があるから」

なるほど、無理もねぇこえぇからな〜。

でもな、銀二さんは本当の「優しさ」持っている男だと思ってる、なんだかんだいって、奥さんも俺も銀二さんが好きだ。

言葉もわりぃし、こえぇし、不器用なとこもあるが本当は心の優しい人なんだ。俺がこの町に越してきて右も左もわからねい時に「俺の店でバイトしねぇか」っていってくれて、すげーうれしかった。

決して二人とも生活は楽じゃないはずなのにこんな俺を。だから俺はこの店にいる時間は大事にしたい、と思ってるんだ。

恥ずかしくて銀二さん達にはいってない、というか恥ずかしくて言えない。


次の日、

「マモルちゃーん、昼飯はサンドウィッチとコーヒーでよかったよな」

と、イサオが珍しく俺に飯をおごってくれた。 

「おお?珍しいじゃねーか、なんかあったのか?あ!てめー金ならねーぞ」

「違うよ!マモルちゃん、そうじゃなくってさ、今度の日曜空いてる?」

「実はさ、俺の愛するナツコちゃんのテニスの試合なのよ。ちょっと付き合ってくんない?」

「なんで一人でいかねーのよ?」

「だって俺みたいなヤンキーが一人でアツく応援してたらいやじゃん?」

「はー、おめぇはアホか?ヤンキーがもう一人増えたところでかわらねーよ、それによ、ひとりは目つきの最悪なオールバックのイサオと、もうひとりはド金髪の無愛想男の俺・・どう考えても浮くぞオマエ」

とコーヒーを飲みながら面倒くさそうに言う俺。

「確かに。ま、マモルちゃん変装していかない?」

「オマエなー」



日曜日、国立日の出競技場 午後十三時


乗り気じゃねー俺だったが、結局のところイサオに強引に連れられ、ナツコのテニスの応援にいくこととなった。



「よー、イサオぉ こ、こりゃすげーなぁ」

「ああ・・、マモルちゃん、来てよかった」

今まで、女子のスポーツ大会を観に行くなんてこたーなかった俺とイサオにとってまさに

感動!女子女子女子!のミニスカでフリフリ! なんかみんなカワイく見える。

「マモルちゃんさ、いままで男どもの中でやれ縄張り争いだの、集会だのやってる毎日だけど俺、ここに毎日いれんなら「ナイト」の引退をマジで考えるわ」

「バカヤロー、そんなこと下のモンにぜってー言うなよ・・気持ちはわかるが」

「なーに?マモルちゃん!あなたも好きねぇー、もうちょっと硬派かと思ったけど」

とがしっと肩をき組んでくるイサオ。

「さわんじゃねー!」

照れながら払う俺。

「だっはっは。」

超ご機嫌のイサオ。

「ま、そんなこんなでマモルちゃん、そろそろ大本命を観戦にいきましょうかい。」

今日の県大会のトーナメント表をポケットからおもむろに取り出すイサオ。

「イサオ、どっからそんなもん手に入れたんだよ?」

驚く俺。

「ナイトなめんなよ、マモルちゃん。係の人にもらったんだよ」

「別にナイト関係ないだろ、普通にもらったって言えよ。」

「ま、いいや。ナツコの試合ってのは?」

「おう!ちょっとまてよ・・あっ!ナツコちゃん第一シードだよ、マモルちゃん!」

大きい声ではしゃぎだすイサオ。

「シード?何よそれ?」

「あ?マモルちゃんこの凄さがわかんねーのかよ?」

「す、すまねー、教えてくれよ・・」

俺はスポーツとは無縁で、第一シードの凄さがまったくわからなかったんだ、その後、ナツコの凄さを肌で体感するとも知らずに。


「あ!こんなところで何してんのよ、時岡 マモルぅ!」

といきなりの大声にびっくりして振り返るとユニフォーム姿のナツコ率いる女子テニス部の面々がいた。

「ナツコちゃーん!」イサオはまたも大はしゃぎだ。

「あ、イサオ君も一緒なんだぁ、いつもつるんでんのね。で、どうしたのよこんなところでさ」

当然の質問である。

「いや、イサオの野郎がオマエのファンらしくてよ」

といった瞬間思いっきりイサオの野郎にどつかれた。

「いやー、テニスが大好きなんだよ!シャラポアの影響?」

とイサオがハイテンションで答える。このやろー、テニスじゃなくてナツコだろう?イサオは意外とシャイボーイだな。

「シャラポアかぁ、そこまでの美人選手はいないかも。あっはっは。」

ナツコが笑う。

「ナツコさん!そろそろアップの時間ですよ行きましょう!」

ナツコの後輩の一人が忙しそうに話しかけた

「わかった!すぐ行くー。 じゃ、イサオ君時岡 マモル!またね!」

ナツコは駆け足で後輩の待つ集団に戻っていった。

ナツコと女子テニス部軍団はアップのため、競技場の奥にあるコートへ向かっていった。

「ナツコさん、時岡 マモルと市村 イサオ知り合いなんですか?」

テニス部の後輩の一人がナツコに問いかける

「べつに知り合いってモンじゃないけど」

走りながら答えるナツコ。

「すごいですよね!あんな有名なワルと対等に話せるなんて、さすがです!」

尊敬のまなざしの後輩。

「え?有名なワル?あいつらが?あっはっは!うそでしょ?」

「市村 イサオはあの有名な「ナイト」のヘッド、時岡 マモルはほら、あの奥山中学校で番はってたってことでチョーウ有名ですよ!」

「うそ!イサオ君がナイトで、時岡 マモルが奥山中学校!」

ナツコは仰天した。

「そうなんですよー、しかも番はっていたほどですから。」

「え、でもあのへんが地元ならちょっとラン学遠いんじゃない?」

と素朴な疑問を後輩に問いかける。

「まー、なんでラン学なのかはわかりませんけどね。」

と答える後輩。

「ふーん・・・」

「それにしてもナツコ先輩モテモテですねーふふ。」

ひやかす後輩。

「バカじゃないの!さ!今日も勝ちにいくよ!」

話半分に気合十分のナツコ。駆け足でコートに向かっていった。


「イサオ、ナツコのやつテニスうめーのかよ?」

イサオに何気に聞いてみる。

「マモルちゃんは本当に何も知らないんだなー・・」

イサオはあきれた顔で腰に手を当てて含み笑いをした。

 イサオが言うに、ナツコは月刊テニスマガジンに出るくらいの注目選手で、超高校級らしい。すでに中学の頃から頭角を表していたらしい。

「おっ、そろそろ始まるんじゃねぇか?」

イサオがコートの方を指差した。興味本位で俺達は試合を観戦した。どうやら、団体戦らしくシングルスやダブルスなどが行われた。ナツコはどうやら最後らしくただなにげなく試合を観戦していた。

「ナツコちゃん、最後かよー。てことは大将だよ大将!やっぱすげーんだなぁ」

と俺の肩に手をあてながら興奮しているイサオ。

「はーん」

あまり興味のない俺に対し、興味津々で試合を観戦するイサオだった。

「あっ、あの子かわいいな!あとで声かけちゃおっかな」

「オマエ、ナツコ命なんじゃなかったっけ?」

「まぁまぁ、かわいい子はかわいいじゃない」

「意味わかんねーよ、ナツコにいってやろ」

「まって!マモルちゃんそれはやめて!」

あせるイサオ。

「こら、そこ試合中なんだから静かに!」

関係者に怒られる俺達。ちょっとはずかしくて穴があったら入りたいくらい視線を浴びる二人。

「す、すみません・・」

と二人であやまる。とそんなこんなでとうとう、ナツコの番が回ってきた。今のところ団体戦の現在の状況は2―2。ナツコの試合でこの団体戦の勝敗が決まるわけだ、相手高校もまぁまぁ強いのか。

そして、試合が始まった。

「お、おい、イサオ」

俺は衝撃を受けることとなる。イサオもそれは同じだった。

「あぁ、まるで別人だ」

すごかった、とにかく格の違いを見せつける試合展開だった。相手がかわいそうなほどに・・

その凄さは、素人である俺でもわかるほど、とにかくうまい。そして速い。

「あんな顔、はじめてみたわ」

俺はナツコがうるせぇ女ぐらいにしか思ってなかったが、イメージが一気に変わった。凛とした姿にかっこいいとさえ思える自分がいた。

そして、試合はストレートで圧勝。チームも4回戦に勝ちあがった。

「あいつ、すげぇ奴だったんだなぁ」

と俺はぽろっといってしまった。

「まさか、まもるちゃん惚れちゃったんじゃないのぉー?」

とイサオがからかう。

「ち、ちげーよ!俺バイトの時間だからよ。帰るわ」

と照れ隠しをしながら俺は足早にその場を去った。

「あっ、ちょっ、マモルちゃーん!今日集会あっから顔だしてよー。」

「おう!じゃ、あとでな」

とバイクでバイト先に向かった。

バイト先に向かう途中、なんだかよくわからないが、ナツコに対してうらやましさを抱いていたのを感じていた。なぜこのような感情を持ったのかは、自分自身まだわからなかった。


「おはようございます!」

と今日は10分前にバイト先へ到着。

「おー、まもるぅ。今日ははえぇじゃねぇか」

と銀二さん。

「えぇ、近くでちょっと用事があったんで」

「おお。そうかよ、今日の賄いはチャーハンでいいか?これ、今月の新メニューにしようかとおもってよ」

と満足げにチャーハンを出した。

うーん、こういうときの銀二さんの新メニューはいつもはずれなのだ。

「どうだっ!」

ドンと誇らしげに銀二さんはカウンターにおいたチャーハンは・・・・

「名づけて、鴨南チャーハンだ」

あれっ、今回はちょっとましな感じだな。いつもなら、餃子にポテトチップス入れたりとか、ラーメンにピザのっけたりとかよ、料理人としてセンスを疑うんだよな。

それでいっつも奥さんに止められて。しかし今回はチャーシューが鴨ということで、見た目はまぁまぁ。

食べてみるとこれがおかしな話で

「う、うまいですよ!これ」

「マジか?うまいか!」

とカウンターから乗り出して聞いてくる銀二さん。

「よっしゃ!今月の新メニューはこれで決まりだ」

と超満足げな銀二さんだった。

その後、このメニューが名物料理となり、「ラーメン処銀二」が人気ラーメン店になるのはもう少しあとの話である。


20時頃

お客さんもひと段落、コーラを飲みながら休憩中。

すると、予想外の客が現れる。なんか、店の外がきゃぴきゃぴと同世代の女子の声が聞こえてくる。ガラッと引き戸が開くとそこにはナツコとテニス部員の女子2名が入ってきた。

俺は、飲んでいたコーラを吐き出すほど驚いた。

「ガハッ!ナ、ナツコ!」

「あー!時岡 マモルがラーメン屋にいる!」

やベーぞ・・学校はアルバイト禁止だ、セン公にチクられでもしたらめんどくせーことになりそうだ、と俺の頭をよぎった。

「何?バイトしてんの?」

ナツコが問う。

「お、おう」

「ふふっ」

ナツコはいきなり笑い出した。

「なんだよ、てめー」

「結構似合ってんじゃん、エプロンと長靴。ふふっ」

「ありがとよ」

と皮肉まじりに返す。

「ナツコ、セン公にいうのか?俺がバイトしていること」

と言い出した瞬間・・ガラリと店の戸が開く音が。

「今帰ったぜー」

と銀二さんが食材の買出しから帰ってきた。

「あれっ、なっちゃん!久しぶりぃ〜」

「お久しぶりです!マスター」とナツコが挨拶する。

「はっ?えっ?知り合いですか?」と銀二さんに聞く。

「あー、そうか。マモルの高校といっしょだったなぁ、なっちゃんは」

まったくわけがわからない・・・どういうつながりなのか。

「いつも試合で勝ったらよ、おれんとこよってくれんだよ。で、今日きたってことは勝ったのかい?」

「はい!いつものお願いします」

と試合に勝ったナツコは上機嫌だ。

「相変わらずつえーなぁ、よっしゃ!他のネーちゃん達はどうする?」

「私、ミソラーメン!」

「私は醤油!」

「よーし!今日はサービスだっ。チャーシューと煮たまごサービスするからよ!」

女性にはホント優しい銀二さんである。

「わー!ありがとうございます!やったー。」

と女子2人がキャーと手を握って喜ぶ。

「おい、マモル。ちょっと手伝ってくれ!」

「あっ、はい!」

「銀二さん、ナツコのいつものってなんすか?」

「あぁ、もやしたっぷりのミソチャーシューだ」

ナツコはミソラーメンが好きみたいだ。

「店長、時岡 マモルもラーメン作れるの?」

ナツコがいきなり切り出す。

「えっ、どうしてよ?」

銀二さんが作業をしながら問いかける。

「時岡 マモルの作ったラーメン食べてみたいんだけど」

「えっ?」

俺は驚いた。何いいだすんだ、こいつは

「へへっ、いいじゃねーかマモル、オマエなっちゃんの分作れ」

「ま、まじっすか?」

「いいから、やれ」

銀二さんに言われちゃやるしかない。

「わかりました」と答える。

「超楽しみ、言っとくけど私ラーメンにはうるさいから。私をうまい!とうならせることができたら見逃してあげるよ。アルバイトの件。」

「はっはっは。そういうことかよ、こりゃプレッシャーだなぁ」

と銀二さんがニヤニヤと楽しんでいる。くっそー、ナツコの奴見下しやがって。

「やってやるよ、旨すぎて泣くんじゃねーぞ」

「早く作ってよぉ、試合後でお腹すきまくりなんだからさ。」

「ちょっと待ってろ、うるせーな」

といいながら中華鍋をふるう俺。銀二さんのとこに世話になって半年近く、今まで一番じゃねーかというくらい入魂のミソチャーシューを完成させた。

「ほらよ」

ゴンとナツコの前に入魂のミソチャーシューをおいた。

「へー、様になってんじゃん。」

とナツコ。えらそーに。

「うーし、ネーちゃん達のもできたぜっ!」

ゴンゴンとカウンターに銀二さんの作ったラーメンが2つ並んだ。

「よっしゃ、食ってくれ!」

と銀二さんがいうと一同箸と蓮華をもち

「いただきまーす!」

とラーメンをすすった。

俺は正直ちょっと緊張していた、ナツコがどういう反応するのかを・・

テニス部員の女子2名は

「おいしー!超旨いんだけどこれ!」

とテンションが高くなる。

銀二さんも上機嫌で

「餃子食うか?餃子?はっはっは」

なんていってる始末・・

そして、肝心のナツコの奴はただもくもくと食べるだけで、何も言葉を発しねぇ。

なんかいえよ!こいつ。そんなこんなで20分後・・・

「ごちそうさまでしたー!」

と女子2名は笑顔で完食した。

「おう!またこいや、ねーちゃん達。またサービスするからよ」

「おい、どうだったんだよ」

我慢できずナツコに自らきりだす俺。すると水を一気に飲み干したナツコは

「うん!うまかったよ、ごちそうさま」

ゴンっとカウンターの上に出した器はキレイにスープまで飲み干してくれていた。

「このラーメンに免じて内緒にしておいてあげるよ」

とバッグをしょいながら笑顔でこたえるナツコ。

「おお、まじかよ!」

なかなか粋な奴だ。

「じゃ、帰るわ。暇だったらまた試合観にきてよ、また明日ね。」

とナツコ率いる女子3人は上機嫌で帰っていった。ナツコは以外といいヤツだった、今回ばかりは本当に感謝である。


「いやーまさか銀二さんがナツコと知り合いとはびっくりしました」

「そうか?もう2年くらいになるかな、なっちゃんとは。結構有名なんだぞ、テニスうまくてよ」

とたばこに銀二さんは火をつけた。

「あの子はラーメンが好きでよ、試合に勝ったら必ず来てくれるんだよ。いい子だしかわいいしでよ、いいお客さんよ」

「そうですか」

とどんぶりを洗いながらもくもくと作業をする俺。

「お前ら同い年だよな、ああいういい友達は大事にしねーとな。もしかして好きとか!」とニヤつきながらポンと銀二さんは俺の肩を叩いた。

「とんでもない!なにいってんすか」

俺は若干こういう話が苦手なのだ。

「はっはっは!いいねぇ、青春だねぇ」

あまりからかうんじゃねーよとちょっと俺は不機嫌だった。

「あっ、そうだ。あの子達に俺の新メニュー食わせりゃよかったなぁマモル」

と急に手をたたいて銀二さんは悔しがった。

「まぁ、いいじゃないですか。また勝ったら来てくれますよ」

「そうだな、まっいいか!」

とタバコの火を灰皿に押し消した。

「じゃ、そろそろ時間なんで上がりますわ。また明日もお願いします」

とエプロンをはずした。

「おつかれさん。また頼むわ、なっちゃんのも宜しくいっておいてくれや」

「わかりました、じゃお疲れ様です」

ガラリと戸を閉め店を近くにおいてある単車のキーを回した。

俺は、ナツコに「旨い」といってもらい実は嬉しかった。それと同時に俺もナツコに言うことをひとつ忘れていた。「次も勝てよ」ということを。恥ずかしいわっ!

夜、22時。

俺はバイトの帰りにイサオと約束をしていた集会に顔を出した。


ラン学の裏手に大きな池のある公園がある、その名も月が丘公園。

昼はデートスポットでよくカップルがデートでボートをこいでキャピキャピ楽しむ公園だが、夜になると一変。この町最大のバッドボーイチーム「ナイト」の拠点となるのだ。

毎週金曜の夜にはこの公園に、ナイトの面々が総勢200名近く集まる。このナイトのヘッドがあのイサオなのである。


バイト先から約20分、バイクを飛ばして月が丘公園に到着した。

「チャース!時岡さん」

と見張りのものが挨拶してくる。

「おう、イサオは?」

「奥の広場でお待ちです。」

「わかった、サンキュ」

と俺はバイクを置き奥の広場へ。

広場にいくと200人近くのナイトの面々がたまっていた、毎回毎回すごい光景だ。

カスタムされたビップカーやアメ車、単車の数々。そしてどいつもこいつもぎらついてやがる。その広場の奥のベンチにイサオが座っていた。

ベンチの方向へ歩くとイサオがこちらに気づいたらしく

「おお、マモルちゃん!」

と手を振っている。

「イサオ、すまねぇ。ちょっと遅れた。」

「いやいや、大丈夫だよ。俺も今来たところだから」

缶コーヒーを飲むイサオ。

「でも、久しぶりじゃない?こうやって集まりにきてくれるのも」

イサオがコーヒーを一口ふくんでから問いかける。

「あまり群れんのはすきじゃねーからよ」

「アウトローだもんね、マモルちゃんは」

「あっそうだ!マモルちゃん、ちょっと頼みがあるんだけどさっ」

と手を合わせるイサオ。

「なんだよ」

「マモルちゃんこのあいださ、4丁目の空き地にスプレー缶でイラスト描いたじゃん」

「ああ、ナイトのロゴだって描いたやつだろ。覚えてるよ」

後にその4丁目のイラストが原因でちょっとした事件が起きるのだが、まだちょっと先の話である。

「あんな感じでさ、また描いてくんないかなぁ。」

「えっ、なんでよ。」

「うん、実はあのロゴがさ結構ウチのやつらに評判よくてさ。今着ているチームの革ジャンに入れようぜみたいな話になってさ。どう?やってくんないかな?」

「まじかよ」

「いやいや、タダとは言わないから!マモルちゃん!交換条件じゃないけどいいものもってきたんだよ。おい!タカシー」

「はい!イサオさん。」

とグラサンでオールバックのヤツがこっちに向かってきた。

「こいつは俺らの1コ下のタカシだ、同じラン学なんだよ。知ってる?」

とタカシの背中をポンと叩く。

「はじめまして、牧村 タカシといいます。宜しくお願いします」

「ああ、宜しくな」

「いつも、話はイサオさんから聞いてます!あの奥山中で番はってたんすよね」

「で、イサオ一体なんなんだよ」

と話をそらす。

「タカシ、頼んでいたもの渡してくれ」

イサオがタカシに命じる。

「ハイ!」

タカシはポケットから白い紙を取り出し、俺に渡した。

「なんだよ、これは」

「いいから、見てみなってマモルちゃん」

イサオがいうので、4つ折りになった紙を開いてみると・・

「あ、これナツコの試合のトーナメント表じゃねーか?」

それは、ナツコの個人戦のトーナメント表だった。

「ビンゴ!そうなんだよマモルちゃん、これでベスト4にナツコちゃんが入れば全国大会進出という大事な試合のトーナメント表さ」

「またどっからこんなもんを・・・」

相変わらずすげーネットワークだなイサオは。

「いやさ、タカシのヤツが学年ひとつ下でしょ。小学校と中学校で幼なじみの子が女子テニス部にいるんだって。そこ経由!」

やはり、200人もいると違うな、情報網が。ナイト恐るべしである。

「そのトーナメント表と交換条件てことか?」

「そう!頼むよ、マモルちゃん」

手を合わせるイサオの姿に、「断ったら承知しねーぞ」的な殺気を広場から感じる。

「わかったよ、ロゴ作りは別に嫌いじゃねーし」

俺はしぶしぶ了解した。

「はいっ、じゃー決まり!これじゃあげるね。」

イサオからトーナメント表をもらったのだった。

よく見ると試合は一週間後の月曜日からだ、ナツコの場合は授業に出ず公休という扱いらしいとタカシが言っていた。

ん?まてよ、俺ナツコの試合を観にいくのか?そういう展開にイサオにはめられてしまったようだ。

ただ、行かないという気持ちは自然と俺の中の気持ちにはなかったんだ。

一週間後、俺はナツコの試合を観に行くことになったわけだ。

また、その間の一週間でナイトのロゴでも作成しようと俺は制作しては直しで考えに考えた。

やってみれば、かなり力を入れて制作したと思う。

俺は昔から頼まれたら断れねぇタチでな。

バイクの他にも趣味があって、イラストを描くのがとても好きだった。

だから家にはマックがある。そう、銀二さんのところでコツコツバイトして買ったんだよ、ちょっとインドアかもしれないがインターネットも結構好きだ。

よくミクシィとかやるしよ。学校では友達はイサオしかいねぇけどマイミクシィには実は100人いる。

ちょっと意外な一面だろう。まっ、そんなこんなでイラストレーターを駆使してロゴ作成に取り掛かったわけだ。


2日後の昼休み。

イサオと学校の食堂でメシの最中に印刷したロゴ数点の紙をポケットから取り出した。

「なぁ、こんな感じで考えてんだけどよ。」

イサオに手渡す。

「おっ、どれどれ・・・」

イサオはメンチカツを食いながらチェックする。

「おおー!どれもかっこいいねぇ。さすがマモルちゃん」

とイサオのテンションがあがる。

「俺はよ、この右側がいいと思うんだけどな」

とロゴを指差す俺。

「うーん、俺はこれがかっこいいと思うんだけど」

とイサオが別の案を指差す。

「そうか?」

これ、ちゃちゃっとやったヤツなんだけどなぁ。

「じゃっこの右のヤツと左のヤツ合わせるのはどうよ?」

とイサオが無理をいう。

「アホ、ぜんぜんタイプが違うだろ」

やいのやいのとやっていると後ろから突然・・

「私これがいいわ」

ナツコが突然あらわれ、俺のとなりに座りだした。ふとナツコの頼んだ定食を見てみるとメンチカツ定食にごはん大盛り、大盛りというか山盛りだった。

「ナツコ、それはそうとオマエそれ全部食うの?」

俺は唖然とした。

「えっ?普通だよ、こんなの」

結構細身だが実は大食いらしい。

「それより、それ何?かっこいいじゃーん」

ナツコが食いついてくる。

「あっ、これね、ウチのチームのロゴにしようとしててさ」

とイサオがいう。

「へー、これ誰がつくったの?」

「これはね、実はマモルちゃん作なんだよ」

とイサオが俺を指差す。

「おい!イサオ」

俺は恥ずかしかった、隠れた趣味がばれるだろうが。

「へー!以外!すごいじゃん。これ手書きじゃないよね?何?」

ナツコが興味深々という感じで聞いてくる。

「あぁ、イラストレーター使ってよ」

頭をかき若干照れながら答える。

「マジで?パソコン使えるってことだよね?ただのバカだと思ってたけど」

ナツコが笑顔でからかう。

「バカじゃねーよ、勉強が嫌いなだけよ」

「ちょっとさ、じゃあナツコちゃんに決めてもらおうよ、マモルちゃん」

イサオが突拍子もないことを言い出した。

「自分のチームのロゴだろう。オマエ決めろよイサオ」

いきなり何をいい出すのかイサオのヤツは。

「女のコのセンスを取り入れたいんだよ」

「なんでよ?」

「このロゴでもしかしたらナイト自体がモテることになるかも」

真剣な顔で答えるイサオ。

「おまえなー」

あきれてしまう俺。

「はっはっは、いいじゃんそれ。女の子にモテるチームって粋だよね、それ」

ナツコは賛同した。仮にも生徒会長なのに。

「ナツコちゃーん!ありがとう!」

イサオが感動してナツコの手をにぎる。

「じゃ、決めるよっ。私はこれがいい」

ナツコが指差したのは、俺が一番気に入っているロゴだった。

「じゃ、それで決定!」

とそんなこんなでとうとうナイトのロゴが決定した。

どんなロゴかというとサッカーのエンブレムのような形の中にナイトに因んで、馬に乗ってスピアを持たせた騎士を描いたヤツだ。

そしてこのロゴは早速チームのレザージャケットやTシャツ、バイクのタンク、クルマのステッカーに取り入れられることとなったのだ。


そして、学校も終わりバイトに向かおうと下駄箱で靴を履き替えてると

「今日バイトなの?」

ナツコとばったり出くわした。

「おぉ、まーな」

「それにしてもパソコンやってるとはねー、時岡 マモル」

「オマエな、フルネームで呼ぶなっていっただろ」

と校門の方へ向かう俺、ナツコも同じ方向へ。

「ねぇ、インターネットとかやるの?」

「あぁ、え?なんでよ?」

「いやさー私ももってんだよねパソコン、最近貯めてたお年玉くずして買ったんだよね」

ナツコがテニスバッグをしょいなおしながら俺の横を歩く。

「へー、パソコンやるのかよ」

「そうなの、でね?今さ、ミクシィにはまっててさ」

「あっ、俺もミクシィやってるぞ」

えっ?ナツコのヤツミクシィやってんのかよ?とびっくりするマモル。

「えっ?ほんと?意外なんだけど。まださー、マイミク10人なんだけどね」

「俺、100人」

「マジ?超多いじゃーん!」

ナツコが驚く。そして俺的には初めてナツコに勝利した瞬間だった。「よっしゃ」と心の中でガッツポーズが出る。

「ねぇ、ミクシィなんて名前で入ってんの?時岡 マモル?」

また俺を笑顔でからかう。

「バカ、ミクシィでフルネームはねーだろ、マモルで入ってるよ」

「ふーん、じゃ私部活だからこっち。バイトがんばってね、また食べにいくわ。」

走って部室にある方向へ向かっていた。しかしナツコのヤツもやってんだな、ミクシィ。


バイト終了後、帰宅した俺はロゴのデザインを詰めるためにいざマックの前へ。

まず、マックを起動してメールをチェック。するとミクシィメールが。「1件承認待ちの友人がいます」と表示がある。あれ?と思いクリックするとメッセージが・・

「時岡 マモルみーっけ!登録ヨロ。ナツコ」

とメッセージが。おっナツコじゃん。と俺のマイミクの記念すべき101人目はナツコとなった。

ついでにナツコのプロフィールを見るとこれがおもしろい。あ、コイツO型なんだとかカフェオレ好きなんだとか、ネコ好きとか色々な面が見れて面白かった、ちょっと笑ったわ。

そして、やっぱり夢はプロテニスプレイヤーそう書いてあった。

そして俺はこう返信した。

「了解!今度の試合観にいくからよ、優勝目指してがんばれよ」

普段こんなことは面と向かって言えないがミクシィを通して、素直に言えない部分をメールで返信した。

3時間後、とうとうナイトのロゴが完成した。我ながら納得の出来栄え。ひと段落着いたので再度ミクシィを見るとナツコから返信が。

「登録してくれてありがと!試合のこと知ってたんだぁ、観に来るならかっこ悪いところは見せられないね。優勝目指してがんばるわ。」


このミクシィを通じてマモルとナツコの絆は一層深まった気がした。


次の日の土曜日、学校。


ロゴが完成し、印刷したロゴデザインとデータを焼いたCDを持って2時限目終了後イサオのところへ。

「約束のものできたぜ」

とイサオに印刷したロゴの紙とCDを手渡す。

「お!とうとうできたのかい」

とイサオはロゴのデザインをチェックする。

「うん、すげぇいいよ、これでいこうよ!マモルちゃん」

とイサオが何度もうなづきながら納得してくれた。

「ありがとう、マモルちゃん」

と頭を下げるイサオ。

「いいんだよ、俺もロゴ考えんのけっこう楽しかったしよ、このCDにデータ入ってるから、Tシャツなりジャケット新調すんならこれ業者に出せばOKだろ」

データの入ったCDをイサオに渡した。

「ほんっと何から何まで・・心の友よ!」

激しく抱きつき顔をすりすりイサオ。

「心の友って・・ジャイアンかよ」

といいながら仕方なく抱かれる俺。

「イサオよ、ロゴ完成したとしてもよ、色々と新調するの金かかんじゃねーか?」

「大丈夫よ、ナイトのヘッドは結構いい人脈もってっから」

ガッツポーズするイサオ。

「へー」

適当に答えていた俺だが、一週間後にはチームのジャケットやバイクのタンク、クルマのステッカーなど、チーム全体のロゴが新しいロゴにリニューアルされていた。

一体どんなマジックを使ったのか・・・恐るべしイサオの行動力である。

「マモルちゃん、今日もバイト?」

「ああ、どうした?」

「そっかぁー、マモルちゃんのお手製ラーメン食べてみたくてさぁ」

ポンと肩をたたきがら意外なことをいうイサオ。

「別にきてもいいけどよ、ナイトのツレをたくさん連れてくんなよ。ガラが悪くてお客さん寄らなくなったら困るだろ」

「じゃ、俺一人でいくわ。興味あるわぁー」

好奇心旺盛なヤツだ。ま、銀二さんが一番ガラが悪いのだが・・・それは伏せておこう。

「ねぇ、もちろんサービスしてくれるんだよね」

手をすりすりしながらせがんでくるイサオ。

「なんなんだよ、てめーは。チャーシューぐらいならいいよ」

「なんだよ、すんなりOKじゃん」

俺の背中をポンポン叩いて笑うイサオ。

「・・まっ、俺の店じゃねーし」

ポロリと口にしてしまう。

「あっ!マモルちゃんそんなこといっていいのかよ、店長めっちゃくちゃ怖いんだろ」

「まーな」

するとイサオはニヤニヤしながら・・

「サービスしねーと全部店長にいってやる」

イサオが強行に出る。

「なっ、まてまてイサオ、わかったわかった、勘弁してくれ」

真剣にイサオの肩をおもいっきりギュッと掴む。

「いててて、ほんとに怖いんだね。店長」

俺の手にタップしながらイサオが言う。

「あぁ、狂犬銀二ってお前も知ってんだろ」

「えー!そうなの?あの伝説の?今ラーメン屋なのかよ?」

と超驚くイサオ。

「実は俺の中学時代からの知り合いなんだよ」

「そうか、山中中学校だもんねマモルちゃん」

「まぁよ」

そう、銀二さんは地元じゃ有名な伝説のヤンキーだからよ、この世界でしらねぇ奴はいないからな。しかも銀二さんは山中中学のOBだからよ。

「むふふ、ますます楽しみだぁ」

さらにイサオは好奇心は高まっていた。

「何考えてるかしらんが・・とにかくデータ渡したからな、そろそろ帰るわ」

とカバンを肩にのっけて、ポケットに手を突っ込みながらその場を去り、下駄箱の方へ向かう俺。下駄箱で上履きからローファーへ履き替えていると、誰かが俺の肩を叩く。振り向くと、テニスバッグを肩にかけたナツコがいた。

「よっ。マモルっ今帰り?」

「おぉ、ナツコかよ、これからバイトでよ」

靴のつま先を地面にトントンと叩きながら靴を履き終わる。

「ミクシィ登録してくれてありがとう」

ナツコが珍しく謙虚な姿勢で答える。

「なんだよ、きもちわりー」

俺も照れ隠しで答える。

「あっ、そういや今日はフルネームじゃなかったな」

テレ隠すため話題を変える。

「だって、ミクシィのニックネームはマモルじゃん、だからマモル」

「あぁ、そうか」

意味なく納得の俺。まだテレが続いてることに俺は気づかず・・・

「ナツコは部活かよ」

「うん、来週の月曜日から試合なんだ。ま、最終調整かな」

とバッグをしょい直す。

「ふーん、そうか」

「マモルはバイト?」

「まぁな」

校門を出る途中でナツコがいきなり肩をバシッと叩く。

「いてっ」

俺は舌打ちしてナツコをにらむ。

「チャーシューメン!今日食べにいくわ、19時頃いるよねっ」

といきなり言い出した。

「えっ、まじかよ」

あっ、そういえばイサオもくんじゃんと頭をよぎる。

「じゃ、私部活だから。またね」

とナツコは駆け足でグラウンド方面に向かっていった。

何もいう暇ねーし・・と思いながら俺は学校の木陰に隠してあるバイクの元へ向かい、バイト先へ直行した。

まぁ、イサオとバッティングはしねーだろう。イサオはナイトの集まりもあるし、

22時くらいだろと多分俺は無意識にイサオとナツコが鉢合わせにならないことを祈りながらアクセルを回した。


そして19時頃、バイト先「ラーメン銀二」


客はいない。俺は一生懸命ねぎを切っていた。

「おー、マモルぅ。なかなか包丁捌きがまともになってきたじゃねーか」

銀二さんがたばこを吸い俺の作業をカウンターに座りながら眺めている。

「もう半年ですよ、ここにきて」

ねぎを軽快に切りながら答える。

「そうか、もう半年かぁ。はえぇもんだな」

「そうですね」

話をしているとガラッと店の戸が開いた。

「こんばんわー」

ナツコだ。本当にきやがった。

「おー、ほんとにきたなぁ」

作業を止めてナツコに話しかける。

「だっていくっていったじゃん」

テニスバッグを椅子におろし、カウンターに腰かける。

「おー、ナツコちゃん。嬉しいねぇ、またきてくれたのかい」

銀二さんが急に上機嫌になった。

「あっ店長、こんばんわ」

一礼するナツコ。

「マモル、学校で言った例のやつ作ってよ」

ナツコはニコニコしながら俺に言う。

「チャーシューメンだな、銀二さん俺やっていいっすか」

「お、かまわねーよ。せっかくだからチャーシューサービスしてやれ」

男気全開の銀二さんは、女の前ではいいかっこしぃだ。

それはそれとして・・・ナツコのヤツは試合に勝ったらラーメンを食いにくるのによ、試合は先じゃねーかよと思いながらラーメンをつくる。

「さっ、今日もうまくできてるかなマモル君」と

ツコがためすかのように俺をからかう。

「えらそーに、うまいに決まってんだろ」

俺は麺をゆでながらナツコに質問した。

「おまえ、試合前にもラーメン食うのかよ」

「いや、今回はイレギュラー」

「は?なんでよ」

「いや、単純にスランプなんだよね、スランプ!」

カウンターをバン!とたたく。

「お、おい・・どうしたんだよ」

麺の湯きりをしながら気になる俺。

「それがさ、なかなか理想のプレーができなくてね・・サーブもショットもイマイチでさ」とパーマのかかったセミロングの髪をグシャグシャにしながら塞ぎこむナツコ。

「めずらしーな、塞ぎこんでよ。なんつーか、完璧求めすぎなんじゃねーか」

と麺をスープに入れ、盛付けをしながら俺も珍しく的を得たツッコミを入れる。

「そうなのかな?」

とナツコが塞ぎこんだ顔をあげる。

「いやっ、テニスのことはよくわかんねぇけど、なんとなく頑張りすぎなんじゃねーのかってと思ってよ。はい、お待ちどうさん」

ナツコの前にラーメンをゴンと差し出した。

「うわー、超うまそうなんだけど!いただきます」

ナツコが割り箸を割り、勢いよく麺をすする。

男みたいな食べっぷりだ。まるでフラストレーションを発散するかのように。

「すげぇ、食いっぷりだな」

はぁ〜と感心する俺。

「なかなかいい味出してるよ。マモル」

ニコリと笑うナツコ。

「えらそーに」と本当はうれしいのにテレを隠す俺。ある程度の麺を食べ終えて、器を持ちスープを飲み干そうと器を持ち上げるナツコ。

「あ、なんとなくだけど器が重い気がする」とぼそっとナツコが言い出した。

「なっちゃん、もしかしてオーバーワークなんじゃねーの?」と銀二さんがたばこに火をつけながら言う。

「マスター、練習しすぎってこと?」とナツコが器をおいて銀二さんに聞き返す。

「なっちゃんはストイックなんだろうよ、ただよ、休養もトレーニングの内なんじゃねーの?」

銀二さんにしてはとてもまともな回答だ!と驚く俺。

「うーん、思った以上に体が疲れちゃってるんですね、きっと」とちょっとテンションの低いナツコ。

「まぁ、うちのラーメン食えばすぐ回復するだろうよ。あとは練習休んでリフレッシュするだとかよ」とたばこを吸いながら答える銀二さん。

「リフレッシュかぁ、実は今週の土曜日練習は午前中だけで日曜日も休みなんですよ。そこでうまくリフレッシュしよっかな」とナツコは器の上に割り箸をおいて水を飲む。

「そうだ!もしよかったら今週ウチのマモル貸してやるから、どっか遊びに行ってこいや」

と、銀二さんがいきなり切り出す。

「えっ!」

何をいってんだこの人は。俺は洗っていた器をおいて蛇口を閉めた。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ」

なぜか俺は動揺しまくっていた。

「えっ、マモルどっか連れてってくれんの?」

ナツコがわくわくした目で俺を見てくる。

「ツーリングしたいなぁ、そうだツーリングしよ!バイクでさ、このあいだ乗せてもらって結構よかったんだよね。私も取ろうかな?免許」

と生徒会長にあるまじき発言である。

「おー、いいじゃねーかよ。マモル、のっけてやれよ。今度の休みによ」

と銀二さんがニヤニヤしながら俺の肩を叩いた。完全に楽しんでるな、この人は。

「いや、ちょっと・・・」と言葉を濁す俺。

「ばらすよ、バイト、いいのかなぁ?」

ナツコが脅しにかかる。

「まてまて!わかった、わかった行こうぜ!行こう!」

完全に弱みを握られてしまった。

「よし!ラーメンもうまかったし、帰るわ!ありがとう、またあしたねー」

とさっさっとテニスバックをしょって、700円をカウンターにおきナツコは帰っていった。予想外の事態になった。女子と遊ぶのなんて小学校3年生以来だ・・。どうしようか。

「マモル、俺に感謝しろよ。ナツコちゃんとデートできるんだからよ」

銀二さんが灰皿にたばこを押し消しながらニヤニヤしている。

「もう、勘弁してくださいよ!」

俺はテレをかくしきれない。

「だっはっはっ!青春だねぇ、結果楽しみにしてるからよ」

結局俺は、今週の土曜にナツコとデート?することとなったのだ。そういや、イサオのやつ来なかったな。


その夜、家に帰りいつものようにマックを起動しメールをチェック。

すると、意外なヤツからメールが。

(よっ!今日はいけなくてごめんよマモルちゃん、俺もパソコン買ったよー!ソニーのバイオってノート型のヤツ、いいだろっ。ヨロシク! イサオ)

おぉ、イサオのヤツパソコン買ったのかよと俺は驚いた。あのヤロウ学校で一言もパソコン買ったことについて話しなかったのに・・・

俺を驚かそうと。でもアイツなんで俺のアドレス知ってんだ?本当に謎である。

(びっくりしたじゃねーか!なんで俺のアド知ってんだよ?明日覚えてろよ!)

と返信しておいた。引き続き、ミクシィをチェック。すると一件の新着メールが・・

(ナツコだよっ、今日のラーメンも美味しかったよ!ありがと。いい気分転換になったわ。今週の土曜日も楽しみにしてまーす。)

とナツコからだった。いく気マンマンじゃねーかよ、これじゃ断るに断れんわと思いながらこんな感じで返信した。

(しょーがねぇから付き合ってやるよ。そうだ、何時にどこ集まる?それからどこに行きたいか考えとてくれよ)

これはデートなのか?デートなのか?と俺は少しどきどきしていた。一瞬、我に返るとなんか気持ち悪くなっていた。

「うおーっ!風呂はいろっ!」

と風呂に入り、汗とテレを洗い流し、深夜1時に就寝した。


金曜日、学校 昼休みの屋上にて。


「えー!ナツコちゃんと土曜日にツーリングすることになっただぁ?」

昨日バイト先で起こった話をイサオに話した。

「銀二さんがけしかけやがってよぉ、結果こうなってしまったわけよ」

「うらやましくてむかつくんですけど」

イサオが上下にあごを振り俺にガンをくれてくる。

「そんなこといったってしょうがねーじゃねぇかよ」

「で、どこいく気なの?」

「いや、まだ考えてねーんだけどよ。バイクでどっかサーっ流してって感じだな」

「ダメだよぉ、マモルちゃん。ちゃんと考えないと、これはデートなんだよ」

缶コーヒーを口に含むイサオ。

「考えるったって何をよ?」

「いやいや、たとえば遊園地行くとかさ、おしゃれなお店予約入れるとか」

「まじかよ」

俺は頭をぽりぽりとかきながら答える。

なんせ、俺はミクシィメールでどこに行きたいか考えといてというメールをナツコに送っていたからだ。こういうことは本当に無知で正直なにも思いつかなかった。

「よーし!わかったよマモルちゃん、人肌脱ぎましょうこの俺が。デートプラン考えよう!」

イサオはその場を立ち上がった。

「はっ?えっ」

突然のイサオお発言に戸惑う俺。

「デートプランを考えてあげるっていってんだよ、いい友達だと思わない?」

「楽しんでるだけにしか見えねぇよ、銀二さんもイサオもよ」

「まぁまぁ、そういわないで任せてよ。このあいだラーメン食べにいけなかったからさ、デートプランが完成次第ラーメン銀二に顔だすわ」

イサオが俺の肩をいつものようにポンと叩く。

そんな話の最中、屋上の扉がガチャリと開く。

「イサオさん!」

この間集会でトーナメント表をくれたタカシがやったきた。

「あれ、タカシどうした?」

イサオが缶コーヒーを飲みながらタカシに近づく。

「あ、マモルさんもいっしょで」

とタカシ。

イサオさんちょっといいっすか?」

この場がまずいのかイサオを呼び出した。

「マモルちゃん、ごめん。ちょっと出てくるわ、それじゃ続きはラーメン銀二で!楽しみにしてるよー!」

とタカシと共に屋上を降りていった。何かあったのかと思いながらも、残りの昼休みは天気のいい屋上で過ごした。




夕方、場所は変わりラーメン銀二


「どうもありがとうございました!」と銀二さんの声が外に響く。そしてお客さんが出たと同時に俺もバイト入り。

「おはようございます!」

正面玄関から颯爽と出勤するマモル。

「おう!マモルぅ、待ってたぜ!」

とカウンターにどんと構える銀二さん。

「えっ、どうしたんですか?」

俺はカバンを置きカウンターに座った。

「ほれっ」

銀二さんがカウンター出したのは二枚のチケットだった。

「なんですか?これ?」

俺はそのチケットを手に取る。するとそのチケットは大通りにできたスープカレー屋の無料チケットだった。

「商店街の福引で当ってよ」

超自慢げな銀二さん。

「おぉー、すげぇ」

驚く俺に対し、銀二さんがニヤニヤといやらしい表情でいう。

「今週の土曜になっちゃんといってこいや!はっはっはっ」

とカウンターを叩きながら笑う銀二さん。

「えっ、いいんすか?もらっても」

「あら、今日は照れないの?」

銀二さん的に俺の反応がイマイチだったようだ。

「いや、ナツコのやつをどこに連れて行こうかと悩んでたところでして」

と正直に答えるマモル。

「そうかそうか、いいから使えや!その代わりチャーシューとねぎを切っといてくれよ。賄い食ってからでいいからよ」

と言いながらたばこに火をつける銀二さん。

「はい!」

銀二さんはやはり粋な人だ、銀二さんに心の中で感謝した。チャーシューとねぎの仕込みをし、ちょっと休憩。

「あっ、銀二さん」

とコーラを飲みながら奥の倉庫で作業している銀二さんを呼ぶ。

「なんだー!」

あいた時間をみてガサゴソガサゴソと在庫のチェック中だった。

「いや、実は今日俺の友達がラーメン食いにくるかもしれないです。」

500mlのコーラのペットボトルをカウンターに置く。

「へー、女?」

「いえ、男です」

「なんだよ、男かよぉ」

残念そうに下を向き在庫を記入する銀二さん。

「俺、そんな女友達いないっすよ」

と半笑いで答える俺。

「はっはっは、そうだな」

とげらげら笑う銀二さん。ちょっとムカツク。

すると、やんちゃなマフラーの音のクルマが店の前に止まった。ありゃ、シーマだろうか。

店の窓から、見ていると運転手が降りる。運転手は黒い皮のジャケットを着ていて、その背中には見覚えのあるロゴが。そして運転手は後部座席のドアをガチャリと開ける。

すると、イサオがシーマから降りてきた。

「うぉ、イサオがきた!」

俺はその登場シーンにびっくりした。まるでヤクザみたいだ。そして俺は店の前に出る。

「おー、イサオ。オマエ、クルマできたのかよ」

とラーメン銀二ののれんを左手で上にまくる。

「マモルちゃん!おー、似合ってるねぇ、その格好」

くすくすと俺の格好を見て笑う。

「うるせーよ、ま、よくきたな」

店前で少し雑談する。

「イサオさん、それじゃ、俺はこれで」

イサオへの挨拶をすませ、シーマの運転手は大通りの方へクルマを発信させた。その背中の革ジャンのロゴは俺のデザインだった。

「まぁ、立ち話もなんだしラーメン食ってけよ」

「もちろん!その為に来たんだから」

と笑顔のイサオ。俺達に入り、銀二さんにイサオを紹介した。

「銀二さん、俺のダチでイサオって言います。」するとイサオも挨拶する。

「市村 イサオと言います、マモルちゃんのラーメン食べにきました。よろしくお願いします」と丁寧に銀二さんに挨拶した。しかし、銀二さんはイサオを見たまま黙ってる。

「ぎ、銀二さんどうしたんです?」

と俺は銀二さんに問いかける。

「市村君」

銀二さんが口を開く。

「はい!」

「君・・兄貴いる?」

イサオに急に問いかけた。

「えっ!なんで知ってるんですか?」

イサオは驚いた。

「君の兄貴の市村 トシヒコは俺の親友でよ、ナイト伝説の初代ヘッドだよな」

「えー!まじっすか!そうっ!そうですっ!」

とイサオは超仰天である。

「まじまじ、よくつるんでたもん。それにしてもよく似てるわ、兄貴と」

イサオに兄貴がいることに俺は初耳だった。

ナイトは5年前からこの町で活動していたそうだ、はじめは市村 トシヒコと他2名の3人でスタートしたそうだ。

今では総勢200名を超える最大最強チームとなったのである。

「まぁ立ち話もなんだしよ、すわんなや」

と銀二さんがイサオにお冷を入れてカウンターにゴンッとおいた。

「失礼します」

イサオはペコリと頭を下げ、カウンターに座る。

「何でも好きなもんをマモルにいってくれ」

と俺の肩をポンと叩く銀二さん。

「じゃ、チャーシューメンを」イサオがうきうきした表情で注文する。

「オーケー」

俺は早速、作業を開始する。

「おい、マモル大盛りにしてやれ」

銀二さんからサービス許可が入った。

「まじっすか?やったー!」

とイサオ大喜びである。

「トシヒコのヤツ、今度は東洋太平洋のタイトルらしーじゃねーか。この間のスポーツ新聞載ってたぜ」

銀二さんがシャドウボクシングのモノマネをしながらイサオに言う。

「えっ!イサオの兄貴ボクサーなの?」

俺は作業を止めてイサオの方を向いた。

「そうなんだよぉ、兄貴ボクサーでさ。あれ?マモルちゃん言わなかったっけ?」

と身内話のせいかテレながら答えるイサオ。

「聞いてねぇよっ!しかし・・びっくりだなぁ」

唖然とする俺。

「能天気な兄貴なんだけどね」

笑い出すとイサオ。

「へっ確かに。でもよ、ナイト時代もめちゃくちゃ強くてよ、日本チャンプクラスの強さはあったんじゃねーかって噂されてたくらいだからな、アイツは」

と銀二さんがカウンターに手をあてながら言う。

「す、すげぇ」

麺をゆでながら感心する俺。

「ま、世界チャンピオンになって店を改装してくれるってのがトシヒコと俺の約束だからな。

早く世界チャンピオンになってもらって店ピカピカしてもらわねーとよ」と鼻を掻きながら銀二さんがしゃべる。この2人の関係の厚さが伝わった。

「おーし、イサオできたぜ。チャーシューメン大盛りな!」

と話の途中ではあるがラーメンが完成した。

「おお!プロっぽいじゃん」

両手を叩いて拍手をするイサオ。

「ありがとよ」

とまんざらでもない俺。

「まー、なんせ俺の下で修行したからな」

腕を組みながら自慢げな銀二さん。あんた、何も教えてくれなかったじゃねーか、放任というか放置プレイだよ!と心の中で怒る俺。

「おぉー、なんか今日は気分がいいな。ビール開けようかイサオ君」

とさらに上機嫌の銀二さん。

「ちょ、ちょっとまだ早くないすか?」

と引く俺。

「喜んでいただきます!」

調子のいいイサオ。

「いいねー、さすがトシヒコの弟!話がはやいわ」

とキュポンと瓶ビールの栓を抜く。イサオよ、てめーは未成年だぞ。それからオマエ、俺のデートプラン考えてくれるんじゃ

なかったのかよ?おい・・・・


同日、19時頃・・・4丁目の空き地。


「なーんだぁー!このセンスのない落書きは!」

と、すげー勢いでブチ切れているのは隣町のギャングチームブルースプラッシュのリーダー高島シュンスケである。

ブルースプラッシュは隣町では最強のB系武闘派集団。

人数は30名弱とナイトに比べれば小数だが、「ダサいことはしない」という信念のもと、ダンスをこれなく愛するB系集団である。

「サッカーのエンブレムみたいだな、なめやがってぇ」

シュンスケが壁に近づく。

「でも、これ書いたヤツ超うまいですねー!」

仲間の一人ヨウジが感心してる。

「バカヤロウ!関心してる場合じゃねー!」

ばしっとヨウジの頭をはたく。

そして、シュンスケは壁の右隅に何かを発見した。

「時岡 マモル 作・・・・このデザインでサインは漢字かよ!思い切りわかりやすく名残しやがって!」

さらに怒りの炎が燃え上がるシュンスケ。

「シュンスケさん、時岡 マモルってもしかして元・山中中学の・・・」

ヨウジが言う。

「時岡・・・あっ!あのジャックナイフか!」

とシュンスケがはっと思い出す。

「俺らの神聖なダンス場所に落書きなんかしやがってぇ・・許さん!」

落書きされた壁を思い切り蹴るシュンスケ。

「時岡 マモルを引っ張ってこい!」

ヨウジに指差して命令する。

「いや・・俺の実力じゃちょっと・・」

頭を掻きながら下を向くヨウジ。

「かー、情けねぇ!オマエそれでもブルースプラッシュのメンバーか?わかったよ、俺が時岡 マモルをつぶしてやんぜ」

コブシを強く握り高々と打倒・時岡を宣言するシュンスケだった。

ゴォオン、ゴォォォン!と熱い決意を打ち消すかのようにバイクのマフラー音が鳴り響く。

どうやら、その先の信号から聞こえるようだ。ふと目をやるとヨウジがそのバイクのタンクに見覚えのあるマークを発見した。

「シュンスケ君、あれ見てよ!」

とヨウジの指差す先にはダンス場所に落書きされたものと同じマークが入っていた。

「あー!あの落書き!同じモンじゃねーかっ!今すぐとっちめて・・・ん?」

シュンスケの勢いが急に止まる。

「ヨウジ・・・ナイトって書いてねーか?」

とタンクを指さすイサオ。

「た、確かに・・・ナイトですね・・」

目を細めながら確認するヨウジ。

「ということは、時岡は今ナイトに所属しているってことですか?シュンスケ君」

「いや、あの一匹狼が組織に入るなんてありえねぇ」

と腕を組むシュンスケ。

「どちらにしろ、ブルースプラッシュ売られた喧嘩は買わせてもらうわ」

信号のある道路側と逆向きに歩くシュンスケ。まぁ時岡にしてみたら、喧嘩売った覚えがないのだが・・とにかくアツいヤロウである。

「あれ?シュンスケ君、とっちめんじゃないんですか?」

おどおどしながらいうヨウジ。

「相手がナイトがからんでんじゃそう簡単にいかねーよ」

冷静な一面も見せるシュンスケ、この男は意外と頭がキレるのだ。

「それに明日は土曜だろ?ちょっと用事があるから先帰るわ」

と空き地に止めてあるキャデラックに乗り大通り方面に車を走らせていった。

ブルースプラッシュとイサオ率いるナイト、そして時岡 マモルがぶつかるのは意外な場所で火花をちらすことになる。そのことに3人とも知るよしもなかった。

そして一方、時岡 マモルとナツコの初デートの日もせまっていた。この物語も、色々な展開が動きだしてきたのだった。



同日21時頃、時岡家にて。

風呂に入り、コーラを飲みながら、自分の部屋のある2階へ。

マックを起動させ、いつものようにミクシィをチェックすると、ナツコからメッセージが届いていた。

(おーい!明日は何時でどこ集合?ってなんで私がさいそくメールしてるわけ?男ならプランたてなさいよ。

とりあえず、ケータイ番号とメアド教えるから 090××××××メアドは

natsunatsudaisuki.docomo.ne.jpよろ!明日は天気が超いいらしいよ!)なんなんだ、このメアドは!夏夏大好きって・・

しまった、連絡が遅れた!と思い早速自分のケータイを取り出しナツコの番号とメアドを登録。そしてナツコに初メールした。

「うぉ、なんて送ろう・・・絵文字つけた方がいいのか」

イサオのヤツには絶対聞かれたくない独り言である。ま、とりあえずと思いメールを送った。

(悪い、連絡遅れた。とりあえず明日は昼の2時に大通公園の噴水の前でどうだ?)

5分後・・・・

(メールありがとう、大通公園ねー!おやすみぃー)

えっ、寝るの早っ!まだ21時だし・・と思いながらもケータイを机に置き、今度はミクシィの日記を見る。

すると、「集会」というタイトルでイサオが日記を出していた。見てみると

「今日はナイトの集会!国道5号線をぶっちぎりました、ポリに追われてちょっとやばかったけど、最高でした。特攻のヒデ、リスペクト」

タチの悪そうな奴ら5〜6名で集合写真を載せていた。こんな日記をミクシィで掲載しているのはせいぜいイサオくらいだろう。続けて日記を見ているとナツコの日記を発見。

題名は、「最近いきつけのラーメン屋」というタイトルだった。

まさかと思い開いてみると、案の定「ラーメン処 銀二」だった。

ご丁寧に写真も3枚掲載されてるし!思いっきり銀二さん写ってるし、

あ!これ麺ゆでてるときの俺じゃん!しかし、ナツコのヤツいつの間に取ったんだ?これ写メだろうか・・・

文章の内容は

(最近、元気をもらってます。この店でラーメンを食べるとサーブのキレが戻り、スランプを脱出しました!お勧めはミソラーメンです、マスターは元ヤンで外見は怖いけどおもしろいです。是非一度立ち寄ってみて!学校から歩いて5分の中村屋書店の道路はさんで向かい側です)

と書いてある。銀二さんおもしろいって・・・ぷぷっ。とナツコの感性には驚いてしまう。マジで大物になるかもしれねぇ。ただ、悪い気はぜんぜんしなかった、銀二さんもこれ見たらすげぇ喜ぶだろうしな。明日はちゃんとナツコをおもてなししてやろうと心に誓ったのだった。

「バイクきれいにしとこ」と夜ではあったがバイクを丁寧に洗車した後、就寝した。俺は意外とまじめでマメなんだよな・・・・



土曜日、14時になるところ 大通公園噴水前にて。

デートというものが初めてな俺、時岡 マモルは少し緊張しながらナツコを待っていた。

別に、別に意識はしてねーけどよ・・お気に入りのデニムパンツとよそ行き用のTシャツとレザージャケットを身にまとい、

そして昨日一生懸命キレイにしたバイクを横にナツコを待つ俺。

すると

「お待たせ!待ったぁ」

俺の肩をポンと叩きナツコがあらわれた。

「おお、俺もさっき来たところでよ」

ナツコの私服姿をはじめて見た。スタイリッシュなTシャツにスキニーデニムと可愛らしいショルダーバッグ。その姿に女を感じた俺、正直ドキッとくるものがあった。

ま、ま、ナツコもちゃんとすりゃかわいいじゃんと思う俺だった。そして俺は、ナツコの履いてるデニムのロゴに目がいった。

「あれ?ナツコ、そのデニムはディーゼルか?」

とポケットのロゴを指さす俺。

「うん、そうだよ。よく知ってるねぇ、最近はまっててさぁこのブランド」

「マジで!俺もほら」

自分のデニムのポケットにあるロゴを見せる。

「あー!ディーゼルじゃーん!好きなの?」

ナツコも俺のデニムのロゴを指さす。

「俺はココのデニムしかはかねーんだよ、ちょっとしたこだわりでよ。でも高いからそんな数もってないんだけどな、バイト代貯めて買う感じよ」

とミクシィに続きまたまた意外な共通点が。

「ちょっと今日のマモルの服装、ポイント高いかも」

ナツコが俺の全体をを見てニヤニヤと笑う。

「何ニヤニヤしてんだよ」

「いやいや、馬子にも衣装っていうし。あ、知らないかこのことわざ、ヤンキーだし」

「ヤンキー関係ねーだろ、知ってるわ」

とむきになる俺。

「超爆笑なんだけど、まぁいいや。早速天気もいいしツーリングいこうよ」

俺のバイクを指差すナツコ。

「おぉ、そうだな。いこういこう。じゃ、ヘルメットかぶれよ」

とナツコにヘルメットを渡す。

「ありがとー」

予備用のヘルメットをかぶるナツコ。

ナツコの頭のサイズは結構小さく、ヘルメットがぐらぐらしていた。

「ナツコ、あぶねぇからちゃんと絞めておけよ」

とベルト部分を指さす。

「了解〜」

ナツコはベルトをあごに絞めた。

小さくて丸い頭のナツコにブラックの大きなヘルメットが妙にマッチしておかしかった。

俺はプッと笑ってしまった。

「何笑ってんの?」

なんなの?という顔で俺の方をにらむナツコ。

「いや、なんでもねーよ。それより行こうや。」とバイクのキーを回し、エンジンをかける俺。ゴォォンと重低音の排気音が響き渡る。

「近くで聞くとすごいんだね」

と関心するナツコ。しかし俺はエンジン音ではっきりと聞こえず

「なにー!」

と聞き返す。

「音がすごいね!」

「あぁ!マフラー変えてるからな!ほら!早く後ろ乗れよ!」

ナツコはうなずきバイクにまたがる。そして俺の腰に手を回すナツコ。

「ちょっとなんか超緊張するんだけど!」

わくわくで笑顔一杯のナツコ。俺も急にナツコが腰に手をまわしてくるもんだから超テンパってしまいエンストしてしまった。

「おっ、おぉ・・わりぃわりぃ」

もう一度セルを回しエンジンをかけ直した。

「よしっ、いくぞぉ」

とアクセルを回して俺の人生初デートは走り出したのだ。

しかし、この初々しい瞬間をすべて監視していた男が一人・・・大通公園の左側の車道にはクロのシーマ、助手席のスモークのかかったウィンドウから鋭い視線・・

そう、イサオとその運転手である。

「ま、マモルちゃんマジデートかよっ!うそみたいだなぁ」

助手席のウィンドウを少しだけあけて悔しそうに覗いていた。

「よしっ!おっかけろ!」

とかなりのジェラシーを抱え、マモルたちを尾行するイサオ。

「楽しくなりそうだなぁ〜」

車内でコブシを握って興奮していた、というよりかは悔しがっているのだろう。



一方、マモルお気に入りのバイクでデート中のマモルは景色の綺麗な豊平川沿いの道をツーリングしていた。

「風が超気持ちいいんだけどっ!最高だよ!マモル!」

初ツーリングでナツコのテンションはかなりハイだ。

今日は本当に行楽日和でツーリング日和、俺がいつも休日にバイクを走らす時は天気がよくない日が多い。ナツコは晴れ女なんだろう。

「決めた!私免許とるわ!」

「おー!いいじゃん!とれとれ!」

と交差点に差し掛かり赤信号でバイクを止めるマモル。バイクは川沿いを警戒に流す。

「このバイクさー!どこ向かってんの?」

「豊平橋商店街!飯でも食おうぜ!」

「了解!」

とナツコが敬礼ポーズをとる。


ちょうどその頃、尾行しているイサオたちは・・・・

「なぁなぁ、マモルちゃん達どこ行くんだろ?いやぁ〜ドキドキするなぁ」

と尾行をテンション高く楽しんでいた。

「この方角だと豊平橋商店街ですね、イサオさん」

運転手がこたえる。

「豊平橋商店街か!色々とお店とかあるしね、ちゃんと考えてるじゃないの」

関心するイサオだった。本当はイサオが考えてくれる話だったのを本人は間違いなく忘れているだろう。


豊平川にかかる橋を渡り、バイクは豊平橋商店街に到着した。バイクを商店街入り口のスペースに止めて、バイクから降りるニ人。

「いやもう超いいね!ツーリング最高だよ、本当に免許取ろうかなぁ」

と両手をあげて伸びながら楽しそうに話すナツコ。

「女子が取るんならビックスクーターがオススメだぞ、ほれ」

隣に停めてあるビッグスクーターを指さす俺。

「うーん、確かにかっこいいけどさ、マモルのバイクの型ががいいよ」

「オマエ渋いな!」

とナツコの感性に驚く俺。

「それはそうと、何食べにいくの?お腹すいちゃった」

お腹をさするナツコ。リアルにグーグー聞こえる。

「おぅ、実は銀二さんがここの商店街の福引が当ってよ、スープカレーのタダ券もらったんだよ。それゃいくしかねーだろと思ってよ」

とポケットから2枚の無料券をナツコに見せる。

「きゃー!さすが店長だね、今けっこう人気あるとこじゃん!」

テンションの上がるナツコ。

「じゃ、早速いこうぜ」

と商店街にあるスープカレー屋へ向かった。その頃、イサオは当然一部始終をシーマの中から、凝視していた。

「楽しそうだなぁ〜、うらやましいなマモルちゃん。」

とジェラシーが最高潮に達していた。

「イサオさん、中に入っていきましたよ。どうします?」

運転手の舎弟が商店街の方向を指指す。

「ばれないように追跡しよう!」

シーマを降りて徒歩で尾行するイサオと舎弟。イサオさんは暇人だなぁと舎弟の人間は感じているだろう。

「でもイサオさん、このまま尾行していってもバレますよ。」

と舎弟がいう。

「ふっふっふっ、そんなこともあろうかと帽子とパーカーと大きめのグラサンもってきたから」

ギョッ!と驚く舎弟、なんなんだこの人はっ、どっからそんなもんと思いながらも

「こ、これなら大丈夫かもしれませんね」

と無難な感じで返答した。

「よーし、おもしろくなってきた!」

とイサオのあくなき尾行はつづく。一方、マモルとナツコは「スープカレーたかやん」に到着。ごっついはちまきを巻いたごっついおっさんがオーナーのこの店は、土日は行列ができるほどの人気店だった。

「うぉっ、めちゃくちゃ並んでるなー。」と驚きながらも2人は最後尾に並ぶ。

「それだけおいしいってことじゃん!待とう待とうっ!」

とわくわくしているナツコ。

「そうだなっ」

ポケットに手を突っ込みながら15分ほど待った。

そして、とうとうカウンターへたどり着き、やっと店内が見えるようになった。かなりお洒落でレトロなカウンターバーのようなお店だ。

「ちょっとマモルさ、超いい感じじゃない?」

「でもよ、マスターのキャラとこの店のレトロさがあわねーよ、どう見ても魚屋だろ」

「はい!いらっちゃい若者よ!何にする?」

かなりごっつい筋肉ムキムキのマスターが笑顔で聞いてくる。

「じゃ、俺スペシャルスープカレー」

メニューを指さす俺。

「わたしはシーフードのスープカレー!」

ウキウキで注文するナツコ。

「おっ!おねぇちゃん元気がいいねぇ!煮卵サービスしちゃうわー。」

なかなか粋なおっさんだった。

「えー!マジ?やったー!」

と大喜びのナツコ。ナツコはどこにいっても愛されるキャラクターである。

「おーい!煮卵追加なー!」ムキムキマスターが厨房のあるカウンターに向かって叫ぶ。

「はいよー!」

と厨房のカウンターの隅から出てきたのは、あのブルースプラッシュの高島シュンスケだった。カウンターから思いもよらぬ人物の登場である。

「10卓さんが煮卵追加と・・・10卓・・・ん?おわー!」

シュンスケがマモルを発見し思わず声が出てしまった。思わず振り向く俺とナツコ。シュンスケはとっさにカウンターの下に身を隠した。

めちゃくちゃマモルに会いたかったシュンスケではあったが、まさか自分のバイト先に現れるとは・・・動揺を隠せないシュンスケ。するとおっさんがカウンターに近寄る。

「おい、シュンスケどうしたんだ?」

とカウンターを上から覗きながら問いかける。

「な、なんでもねーよ親父」

冷静さを取り戻そうとカウンターに隠れているシュンスケ。

そう、この「スープカレーたかやん」はシュンスケの親父が営むスープカレー屋であり、その息子であるシュンスケは、

週4で親父の店でアルバイトをしながら高校にも通い、そしてブルースプラッシュの活動もしているちょっと忙しいやつなのだ。

お店の名前、たかやんは高島からきているのだ。とりあえず、冷静を取り戻し調理に戻るシュンスケ。

もしかしたら、ちがうかもしれない。あの時岡が女連れのわけがねぇと言いきかせるものの、どうしても確かめたいシュンスケは、マモルとナツコの注文したカレーを作り自分でマモルとナツコのいる10卓へカレーを運んだ。

「お、お待たせしましたー!スペシャルスープカレーとシーフードのスープカレー煮卵入りですねー!どうぞー。」

顔が引きつっているシュンスケ。

「どうもー」

とカレーをもらうマモル。

間違いねぇ、山中中学の時岡だ。ビンゴだぜ!と確信した。

どうもじゃねーよ、このヤロウ!俺の縄張りに思いっきり落書きしやがってー!場所がここじゃなかったら、一発かましてるわー!と思いながら今度はナツコの方にカレーを置く。

「どうぞー。」

「うわっ!おいしそー!ありがとう」

と笑顔のナツコ。

ここで、シュンスケに稲妻が走った。か、かわいー!誰なんだ?この子は。超タイプだわ!

とシュンスケは一瞬でナツコに恋してしまうのだった。

「ご、ご、ごゆっくりどうぞー」

と席をあとにするシュンスケ。え?時岡とつきあってんの?どういう関係?え?いやっかわいいなぁ、時岡殺す!と色々な思いが駆け巡り、そして考えながらカウンターに入るも仕事が手につかず親父に注意されるシュンスケであった。

「なにやってんだ、ボーっとすんなバカ野郎!」



「いただきまーす!」

スプーンを片手にマモルとナツコはスープカレーを食べた。

「俺、スープカレー初めてなんだよなー」

「私も、てゆーかどうやって食べるの?ご飯にかけるの?それともスープにご飯入れるの?」

まわりの食べてる人たちを見ていると様々で、ご飯にかけて食べれる人、ご飯を全部スープに入れちゃう人、上品にスープ間隔で交互に食べる人。食べ方によって性格がでるものだ。そんな俺達のとった行動は

「せーの、どーん!」

ナツコも俺もスープにご飯を入れてがっついた。

「おぉっ、これうまいな!」

久々なヒットだった。

「超ヤバいんだけど、これ最高!」

男みたいに胃に垂れ流すナツコ、最近見慣れてはきたがやっぱりコイツの食欲はハンパじゃない。カレーは飲み物という言葉がぴったりの食いっぷり

「これ、食べやすいよなー」

とナツコに話しかけるが・・・・

「すみませーん!ご飯って追加できますか?」

シュンスケに向かって手を上げるナツコ。

「えっ!もう食べたの?」

びっくりして食べる手を止めた。こいつはマジですごい。

そしてもう一人、パニックで心臓が止まりそうな奴が

「は、はい!少々お待ちくださいませぇえ!」

と若干声がうらがえりながらもシュンスケが駆け足でやってくる。

「ご飯のおかわりってできますか?」

とナツコがシュンスケに対し笑顔で聞く。

「はい!いっぱいだべちゃってください!」

と顔が真っ赤のシュンスケ。

「この店員さんおもしろーい」

手をたたいて喜ぶナツコ。

「おいナツコ、そんなに食べてばっかいると太るぞ」

ニヤニヤしながら悪ふざけでいう俺。

「うるせーぞ!この野朗、黙ってろ!」

シュンスケが帽子をとって怒りだす。

「はっ?」

俺は初めて店員の顔に目をやると見覚えのある顔がそこにあった。

「あっ!オマエ」

「気づくのおせーんだよ、時岡ぁ」

やっと本来のシュンスケに戻った瞬間だった。しかし、シュンスケのうしろに大きくて殺気立った影が。気配を感じでシュンスケが後ろを振り向くと、あのごっついシュンスケの親父がドーンと立ちはだかっていた。

「何してんだコラー!」

右ストレート一線、バゴッ!という鈍い音と共にシュンスケの体が店の外まで吹っ飛んでいった。

「おおー!」

と満員の店内がどよめき、拍手が起こる。実はこの店、親子喧嘩が派手で超有名な店でもあり、そのスリルを体感しようと連日多くのお客で埋まるのだ。

おまけに、スープカレーもうまいのでTV局の目にもとまり、取材も多くうけるほどの超有名店なのだ。だからこそ、たかやんの無料券が当った銀二さんはとても強運な男なのである。

「えぇー!」

とびっくり仰天の俺。

「若者たち、すまねぇな。ごはんおかわりだっけか?」

すごく笑顔のおっさん、逆に怖い。

「お願いします!」

とその最中スープに夢中だっだナツコのにはこのパフォーマンスは関係なかった。

「よっしゃよっしゃ、おーい!このおねぇちゃんにご飯もってこい」

とにかく笑顔のおっさんだ、それにしてもふっとばされたアイツは大丈夫なのか?なんだか知らねぇが騒がしいお店だ。

「マモル、ちゃんと食べてるの?冷めちゃうよスープが」

ナツコが俺のどんぶりをコンコンとフォークの先で突っついた。

「お、おう」

それからシュンスケは現れなかった、失神でもしているのだろう。そんなこんなで人生初のデートはとても波乱含みな展開になりそうだ。

して、この展開に一番喜んでいるのは他でもなく、どっからもってきたのか知らない双眼鏡を片手に店の真向かいにある喫茶店から監視しているイサオとその舎弟であった。

「えぇ、間違いありません。高島シュンスケですよ」

舎弟が双眼鏡で確認する。

「マジで?あのお間抜けダンスチームの大将かぁ」

とイサオもシュンスケとは顔見知りなのだ。

「なつかしい奴があらわれたなぁ」

とイサオが額をぽりぽりかく。

「でも、正直弱そうですね。思いっきりブッ飛ばされてましたし」

と双眼鏡をのぞきながら舎弟がなめた態度でイサオにいった。

「バカだなオマエ、高島シュンスケをなめちゃ痛い目みんぞ」

「えっ?」

「最近、高柳工業の高木がタイマンで負けたって話知ってるよな」

とイサオが双眼鏡で監視しながら舎弟に話し出した。

「えぇ、うちの界隈でも5本の指に入ると言われた喧嘩屋ですね」

「そのタイマンの相手は他でもないこの高島シュンスケなんだよ」

双眼鏡をはずして真顔で舎弟をにらむイサオ。

「えぇ!あんな野郎が高木に勝ったんですか?」

と驚く舎弟。

「いいか?シュンスケをブッ飛ばした親父は元自衛隊レンジャー部隊の隊長だからな。俺らみたいな素人なんてあんな感じなんだろうよ」

「そうなんすかぁ、そ、それにしてもイサオさん詳しいっすね」

と舎弟が関心する。

「まぁな、あいつとは色々あってよ、ちなみに中学ん時にシュンスケの親父にブッ飛ばされてんだよ」

「えぇ!まじっすか!」

と驚く舎弟。

「俺とシュンスケは小学校と中学校がいっしょだからな」

とここで意外ながつながりである。

一方、スープカレーたかやんの店内では満腹感で超幸せなナツコとなんだか落ち着かないマモルが会話をしていた。

「あーっ!超おなかいっぱい、幸せだわー」

おなかをポンとたたきながら水を飲むナツコ。

「ねぇねぇ、このあとどこ行くの?」

「そうだなぁ、いつもバイクでいくとこがあるんだよ、結構落ち着くぞ。まぁ飲み物でも買ってそこでのんびりしようや」

とマモルがスープカレーを食べながらナツコに答える。

「よしっ、またツーリングだね!いこいこう」

「すっかりバイクが気に入ったみたいだな」

「ぶっちゃけ、マジで取りたいもん 免許」

バイクのアクセルをふかすマネをして笑顔で話すナツコ。

「じゃあ、そろそろいくか」

「うん、いこう」

2人とも椅子にかけていたジャケットを手に取り、レジへ向かった。

「ありがとうございましたぁ〜」

とレジで待っていたのはシュンスケだった。殴られて鼻血が出たのか、鼻にはチッシュで血止めをしていた。そして俺にかなり細い目でメンチきっている。

「ひさしぶりだな、驚いたぜ。まさかここでバイトしてるとはな」

とマモルが話しかける。

「俺の親父の店だからな」と殴られた顔をながら答えるシュンスケ。

「えっ、そうなの?」

かなりびっくりの俺。こいつにしてあの親なのか。

「そんなことより時岡ぁ、この子は誰よ?」

とナツコを指さす。

「あぁ、同じ学校で・・・・」

と話そうとすると

「木村ナツコです!なになに?マモルのお友達?」

ナツコが明るく振舞う。

「いや、中学の時によぉ・・・・」

とマモルが切り出すと

「はいっ!マモルのダチでシュンスケっていいます、ナツコちゃんっていうんだ、かわいいね!またいつでも食べにきてよ!超サービスするから」

「わー、ありがとう!またくるねー」

シュンスケに手を振るナツコ。

「あっ、マモルちょっとトイレいってくるわー」

とナツコは店内の隅にあるトイレにいってしまった。

「コラ!シュンスケ、てめー何わけわかんねーことぬかしてんだ」

と俺は当然シュンスケに詰め寄る。

「1780円になりまーす!」とシュンスケは何もなかったかのように金額を請求。

「いつからダチになったんだコラ、てめーとはダチでも何でもねーじゃねーかよ」

と財布をだす俺。

「ナツコちゃんにまた会えるならダチでも親友でもなんでもなってやるよ、ホラ、早くはらえよクソ野朗」

こいつ、殴られて頭おかしくなったんじゃねーかと思いながらも銀二さんにもらった無料飲食券を出す俺。

「ホラ!これ使えるだろ!」

と券を投げつけるように出す。

「えっ、まさか時岡から無料券が出てくるとは!デートをリーズナブルにおさえようってハラか?かー、ださいねー」

とシュンスケがあおる。

「ふん」

何もいわずに店を出る俺。外に出てナツコを待つ。

あおってみたものの、思ってもみない反応のマモルにシュンスケは「あれ?」とちょっとびっくりしてしまった。

中学時代のやつなら、どんなシュチエーションであれ必ず殴りかかってきたろうに。

あいつ、ちょっとかわったな。と思うシュンスケであった。

「じゃ、シュンちゃんまたねー」

トイレが無事終わり駆け足で店を出るナツコ。

「あっあっありがとうございましたー!」

とまたまたテンぱるシュンスケ。

「シュ、シュンちゃんだって・・・・うぉぉぉ」

高島シュンスケ17歳、この恋の行方は一体・・。

それにしても、ナツコのやつはモテモテである。




マモルとナツコのデート引き続き・・・・

どたばたな「スープカレーたかやん」を出たマモルとナツコはマモルのバイクがおいてある商店街の外へ向かっていた。

「いやー、超うまかったね スープカレー」ナツコが俺の顔を覗き込むように話かける。

「確かにうまいけどよ、落ちつかねー店だよ しかもシュンスケがいるとは」

若干お疲れぎみの俺。

「シュンちゃんって知り合いなの?」

歩きながら話しかけるナツコ。

「あぁ、中学時代にちょっとな イサオと同じ中学校でよ」

「ふーん、イサオ君とも共通の知り合いなんだ ふふっ、みんなおもしろいね。マモルも含めてだけどさ」

くすくすと笑いながら俺の顔を見るナツコ。

「いやいやいやっ、俺を入れるんじゃねーよ 俺はそんなにおもしろくねーぞ」

と手をパタパタとと顔の前で払う俺。

「だってさ、紙は金髪でピアスしててバイク転がしてヤンキーで調子こいてるくせに、

パソコンでイラスト描くの得意でミクシィの友人が100人もいてラーメン屋でバイトしている17歳はマモルくらいだよ、世界各国さがしても」

とナツコが笑う。

「それっておもしろいかよ?ふ、普通だろう」

「いやいや、変わってるって」

「そうか?」

とそろそろ停めてあるバイク付近にさしかかったところで見覚えのある車が商店街の隅に停まっていることに気がつく俺。

「あら?あのシーマって・・・」

何かを感じたかのように後ろを振り向くと、わざとらしいサングラスと花柄のシャツにオールバックのイサオと

あっち方面にしか見えない舎弟がスポーツ新聞で顔を隠しながらも尾行していたのだ。

「うわぁー!何してんだてめー」

本日2回目のびっくりでついつい大声を出してしまった。イサオとその舎弟はソッコーで商店街の奥へと逃走した。

それを一部始終みていたナツコがこう言う。

「あんたらおもしろいって ねっ」

「だから俺をいれんなっつーの!」

やいのやいのでやっとバイクまでたどりついたマモルとナツコは丘の上公園に向かい、バイクを走らせるのであった。

ふぅう、今日はどんでもねぇ日だぜという俺の思いとは裏腹に空はまさに晴天であった。川沿いを走るバイクの心地よい風にナツコが叫ぶ。

「イーヤッホーゥ!」

右腕を突き上げるナツコ。まぁ、ナツコが喜んでいるからよしとしようと自分の心に言い聞かせ、人生初のデートを楽しもうとしていた。そして、バイクはやっとマモルとナツコを2人きりにさせてくれる場所、丘の上公園へ到着する。

丘の上公園付近にバイクを停め、公園の山道を3分ほど登る。すると、地元を展望できる広場があり、そこで缶コーヒーを買ってベンチで休憩することにした。


「ホラよ、オマエは微糖の缶コーヒーな」

近くに設置してある自販機からコーヒーを買い、ベンチでくつろいでるナツコに手渡した。

「ありがとう、思ってたより気が利くよね」

「普通だろ」

とナツコの隣に腰掛け缶コーヒーのふたとカシュッと開ける。

「それにしてもいいところだね、よく来るの?」

「あぁ、たまにな 今日は天気もいいし景色もいいだろうと思ってよ」

俺はコーヒーをぐぃっと口に含んだ。

「落ち着くよね、ここ スランプになったらまたこよっかなー」

こちらもコーヒーを口に含むナツコ。

「まぁ、チャリでもこれるしなっ」

と俺もまたぐびっとコーヒーを口に含む。少し沈黙が続く。

「そういえば、ナツコっていつからテニスはじめたんだよ?」

いきなり切り出す俺。ナツコの実際のプレイをみている俺としてはあのうまさが気になっていたのだ。

「うーん、6歳かな マモルは伊達公子さん知ってる?」

「あぁ、知ってるよ」

「よくさ、プロの人が1日だけ子供たちに教えてくれるみたいなのあるじゃない」

「はいはい」

「そのセレモニーみたいのにたまたま参加することになって、そこではじめて伊達さんに会ったの」

コーヒーを口に含み続きを話し出した。

「なんかすごくか輝いててさ、かっこいいなぁ、私もこの人みたいになりたいなーと思ってはじめたのが最初」

とテレながら話すナツコ。だが、その瞳はキラキラしていた。

「へー、そうだったのか で、やっぱりナツコは将来プロめざしてんのか?」

「そうだねっ、どこまでいけるか楽しみじゃない? このまま大学に進学してもいいけどこの若さあふれる時期を棒に振りたくないわけよ」

活き活きしながら話すナツコに正直感心していた俺だった。

「へー、すげぇな ナツコならなれそうな気がしてきたぞ マジで」

うんうんとうなずく俺。

「まさかこのヤンキーとこんな話になるとはねぇ ちょっと誰にもいわないでよねー」

と肩をグーで軽く殴られる。

「大丈夫だ、友達はイサオしかいねーしよ イサオには内緒にしとくわ」

と口チャックポーズをする俺。

「あんたこそ将来どうすんのよ ずっとヤンキーしてくわけじゃないんでしょ?」

「あたりめーだろ、俺だってちゃんと考えてるわ」

「なになに?誰にも言わないから教えてよっ」

「他言無用な お口ミッフィーで頼む」

人差し指で口の前でバツポーズを取るマモル。

「おっけい!」

親指を立てるナツコ。

「俺はな、ここ卒業したら東京のデザインの専門学校にいこうかと思ってんだよ」

「えー!そうなの!東京かぁ、チャレンジャーだねぇ あんたは意外性あふれる男子だよね」

ナツコははぁーと大きな口をあけて驚いていた。

「まっ、東京の方がデザイン会社もいっぱいあるしよ、就職もしやすいだろうしな」

「かんがえてんねー!感心した というか見直した」

と俺の肩をバシッとはたいて腕を組み大きくうなずくナツコ。なんなんだよ、と含み笑いをしながらもさらに話を続けた。

「間違いなくサラリーマンには絶対向いてないと思うしよ、なるべくなら自分が興味のあるものを仕事にって考えはあってよ、それでこの道を目指していこうかなーなんてよ」と俺は照れはしながらも自分のことを誰かに久しぶりに話しをした。

しかもイサオではなくナツコに。それから数十分、俺もナツコも自分自身のことやこれからのことをお互い素で話し合ったのだ。

なんというか、人って話してみないとわからないものだなと俺もナツコも同じ感じていただろう。

「そのためには、バイトしてこつこつ東京での生活費も貯金したりしてよ」

「へー、ほんと関心しちゃうわ でもさ、両親もある程度はお金だしてくれるんでしょ」

「いや、それがそういうわけにもいかねーんだよ」

「なんで?」

「実はな、1年ちょっと前くらいに母子家庭になったばっかりでよ」

「お父さんいないの?」

「ガンでよ・・・死んじゃったんだよ」

そしてマモルは初めて他人に今の心境を話し出した。この時すでにマモルとナツコの間で信頼関係が生まれていたのかもしれない。

「そうなの?」

「あぁ、俺も母親もめちゃくちゃ落ち込んでよ、特に俺なんか親父とケンカしたまんまで死なれちゃってよ」

中学、高校1年生までのマモルは両親も手がつけられないほど荒れていた。

度重なるケンカで警察にも数回お世話になり、その度に親父が迎えに来て頭を下げてくれていた。


某大手広告代理店の部長だった親父は家族をかえりみない仕事人間だった。

母親もプロダクトデザイナーとして働いていたため、俺は小さいころから「鍵っ子」だったのだ。普通の家よりかは多少収入は多かったと思う。

1人っ子の俺に寂しい思いはさせまいと、テレビゲームやおもちゃは常に最新のものがそろっていた。そのゲーム目当てで、小学校、中学校1年生くらいの頃は寂しさを紛らわすためなのか、友達を毎日のように呼んでは、ゲームや外で遊んでいた。

しかし、両親ともに帰りが遅いため、平日の夜は俺にとって寂しいものだった。

「かぎっ子」だった。

特に、小学校の頃は寂しかった。夜ごはんはレンジで暖めて食べる生活、早く週末が来てほしいと心から願った。

しかし、中学2年生になりだしてすぐに、親父の吸っているタバコに手を出した。

結局、匂いの敏感な母親にばれて両親にこっぴどく叱られた。

特に親父からは鉄拳が飛んできた、その右拳はとても硬くて痛かったのを覚えている。

だが、思春期だった俺はこう叫んだ。

「こんなことでもしなきゃ親の顔をしてくれねーのか?都合のいい時だけ親の顔すんじゃねぇ!」とはじめて口答えした言葉がこれだった。

それから2ヵ月後、息子の反抗を重大に受け止めた母親は仕事を辞めて家庭に入り、親父も子会社への異動を志願し夜の7時には食卓に座るようになっていた。ぽっかり空いた俺との時間を埋めようと両親は必死に考え選択したのだろう。しかしながら、思春期真っ只中の俺にとっては非常にうざかった。あと2年ほど早ければとても嬉しかったはずなのに、頑固で照れ屋な俺は上手に愛情表現することができず、家に帰らないという日もあったほどだ。まさに両親との間にすれ違いが生じた。そして、両親が外から入ってくる情報は警察から「お宅の息子さんが・・・」的な電話ばかり、特に親父に関してはここ1年で白髪が倍増したように見えた。

同時に、腕っぷしの強さは親父譲りなのか夜の街でストリートファイトを繰り返していた俺は徐々に有名になりはじめた。そして山中中学でも敵はなく、ほぼ番長といっていい扱いを受けるようになった、舎弟みたいな後輩も10名くらいできた。

そして、なりもの入りで地元の高校に進学。高校生になっても中学校の延長で暴れていた。

そんな矢先、親父が仕事場で倒れたという連絡が担任に入り教室にいた俺は急遽病院に直行した。病室に到着すると母親がすすり泣く横で親父がベッドで横になっていた。

親父の周りには、色々な機械が置いてあり危険な状態だというのはすぐに理解した。

「親父!うそだろっ!」

と俺は病室に立ちつくすほかなかった。

しばらくして、親父は俺と母親に見送られながら死んでいった。享年48歳、脳溢血だった。あまりにも早すぎる死だった。俺は親父に一言も謝罪の言葉が言えないまま、そして親孝行できないまま、この世から旅立ってしまったのだ。


「と、いうわけでよ死んだ親父に顔向けできねーから一生懸命今をいきねーと・・・」

寂しい表情を出すマモルであったが、目にはとても力があった。ナツコはただただうなずいていた。

「まぁねっ!これからだよね、私たち!」

ナツコはポン!とマモルの肩を叩いた。

「ふふっそうだな。これからだな」

マモルは何回もうなずきながら答えた。

「おっ、もうこんな時間だよ ほら、6時」

「おぉ、結構話こんじゃったな そろそろ帰るか?」

「ちょっと、何いってんの?これからはディナーの時間でしょ!」

「お、おい、また食べんのかよ?」

「川沿いにおいしいパスタの店があんの!」

「また麺類かよぉ?」

「ほら、早くいくよ!」

とぐいぐいとマモルのシャツを引っ張るナツコ。

「やめろっ、服がのびるっ!」


結局、パスタのおいしいお店で大盛りのカルボナーラをぺろりとたいらげ、その後はソフトクリームが食べたいと夕陽丘のソフトクリーム屋でソフトを食べーの・・・

このデートはまさに食い倒れデートとなった。それにしても、ナツコの食欲は半端じゃないことを痛感するデートだった。

このデートでストレス解消したナツコは、来週月曜からのの大会を順当に勝ちあがり、シングルスと団体で全国大会出場の切符を手に入れた。その影の立役者はストレス解消の食い倒れデートに付き合ったマモルかもしれない。スランプから脱出させてのは他でもないマモルだったのだから。

そして、見事にマモルに尾行がばれてしまい、一気に暇人になってしまったイサオとその舎弟は川沿いのファミレスに車を止めてドリンクバーのホットコーヒーをすすっていた。

「今頃マモルちゃんとナツコちゃんなにしてんのかなー」

タバコを吸いながらコーヒーを口にふくむイサオ。すると舎弟が面白がってこういった。

「チューとかしちゃってんじゃないですかね?へへっ」

すると、イサオの想像力が一気に膨らみだす。

「うぉー!それはまずいだろー!」と口に含んだコーヒーを一気に舎弟の顔面にぶっかけ

一人興奮していた。



同日、夜 ブルースプラッシュの溜り場


「あぁ〜いてててっ クソッ!」と親父に殴られたところを手で押さえて溜り場へ向かって歩いているのは高島シュンスケである。

町の繁華街のちょっと先に行くとビルの廃墟があり、そこがブルースプラッシュの溜り場兼ダンス練習場がある。廃墟にはハマーやリンカーンなどの大型車がならび、暗い廃墟に車のヘッドライトを照らして、ガンガンカーステレオの音楽を鳴らしダンスやバッドボーイズの交流の場となっているのだ。

「ハーイ、シュンちゃん」と手を上げてシュンスケに声をかけているのが、ブルースプラッシュのDJ 兼副リーダーの金城 マコト通称まこっちゃんだ。雪国まいたけみたいなドレッドヘアーと星の形の鼻ピアスが目印のこの町の情報屋である。

「おー、まこっちゃん 例の件どう?わかった?」

「まかせてよ、シュンちゃ〜ん ちょっとこっちきて」

マコトはシュンスケをマイカーであるリンカーンにの助手席に座らせる。マコトも運転席に乗った。

「さっ、これで話できるわ」

「で?で?どうなの?なっちゃんの件?」

シュンスケはナツコに一目ぼれして以来、どうしてもナツコのことが知りたくて、情報屋であるマモルに1万円を払ってまで調べてもらっていたのだ。アホである。

「木村 ナツコ 17歳 さそり座 スリーサイズは下から82・56・82 メーン!」

「そこまでしらべてんのかよ!」

「この町じゃ結構有名だぜこの子、テニスの腕前が全国レベルでそのルックスから雑誌にまで取り上げられててよ」

「へー」

「蘭学2年で生徒会長も務める文武両道でキュートな高校2年生というわけよ」

「あの時岡とはつ、つ、つきあってんの?」

「いやっ、そこまでの仲ではないらしいけどうわさじゃマイミクらしいぜ」

「マイミクってなんだよ?」

「はっ?シュンちゃん知らないのかよ?メーン!」

「そこんとこ勉強しておくように、うちのメンバーもやってるやついっから聞いてみてよ」

「お、おう」

「あぁ、それからあのイサオも通ってる高校だわ」

「は?イサオが蘭学?」

「しらなかったのかよ?」

「中学のときに大喧嘩して以来あってねーからよ・・・」

「話もどって、好きな男性のタイプがテニスの腕とルックスだけみれば松岡修三」

「はっはっは!」

お互い笑う。

「そしてこの子、結構なお嬢さんだぜ あの有名な広告代理店ティーエックスシーの社長の娘なんだってよ」

「めっちゃ金持ちじゃん!」

ティーエックスシーとは大学生のここに就職したいランキングトップ3に入るほどの有名企業である。

「家は高級住宅街でもひときわ目立つ西区のあのタワーマンションの一番最上階よ」

「えっ?あそこに住んでるの?すげぇな!」

「この恋愛がうまくいけば逆玉じゃね?シュンちゃん」

「うーん、スープカレー屋にとついでくれるかが心配だ・・・」

「ちょっと気がはえーんじゃね?メーン」



またまた同日 マモルの部屋

「うぉー・・・まだおなかいっぱいなんだけど」

食い倒れデートが終わりやっと家路についたマモル。早速いつものようにマックの電源を入れインターネットをつなげる。

そして、マイミクシィへ。すると一件のメッセージが入っていた。


(マモル、今日はありがとう!超たのしかったー!ツーリングも最高だったよ。そして色々な話がきけてよかった。話してくれてありがとう!私たちこれからだよねっ。あっ、そうそう、最近私の家には今話題のWIIがあるんだけど今度遊びにこない??それじゃおやすみー!)

とナツコからだった。

「えー!あいつの家 ウ、ウィーがあんのかよー!」

マモルは前々からWiiがほしくてほしくてたまらなかった。そして、ナツコのことだからWiiスポーツのソフトは絶対もってるだろうし。

でも、女の子の家に行くのは恥ずかしい・・・いや、しかし!

マモルは考えた末にこう返信した。

(こちらこそありがとう、それにしてもナツコはよく食うよな。俺はもうおなかいっぱいだ、それにしてもWiiが家にあるってマジ?Wiiスポーツができるなら行ってやってもいいぜ)

実はめちゃくちゃ気になるくせに素直じゃない文面で返信をしてみたがあきらかに

食いついていた。せっかくミクシィを開いたので、マイミクたちの日記をみる。すると、本日のイサオの日記が書かれていた。タイトルは「恋愛探偵」内容を見てみると

(恋愛探偵のイサオです!俺の親友が初デートということで興味深々で尾行を開始しました。まだ尾行の技術が未熟で見つかってしまいましたが、今度こそ完璧にスクープしたいと思います!)

その日記のコメントが5件ほど入っている。

コメント1(イサオさん、おつかれっす!今度は俺も参加させてください!)

コメント2(親友ってだれですか?てゆーか誰が親友なんですか?)

コメント3(おつかれっす!おつかれっした!明日集会でヨロです!)


「イサオのヤツ!誰が恋愛探偵だよ」

しかもコメントに入っているやつらはほとんどイサオの舎弟である。来週の月曜日にとっちめたる そう思いながらスウェットパンツにはきかえる。するとケータイの方にメールが受信した。おっ、と思い見てみるとナツコからだ。

(Wiiスポーツとマリオカートあるよ〜)

「熱い!すげーなーあいつ、マリオカートもあんのかよ」とこれでマモルの心は決まった。

(マジ!オマエは一体何者なんだよ。いくいく!)

すぐにナツコから返信がきた。

(おっけい!また来週学校で日程きめようよ。明日は日曜だけど部活だから寝るわ。おやすみ!)

このナツコの家でマモルは運命は大きく変わろうとしていくことにマモル自身はまだ気づくよしもなかった。



日曜日 ラーメン銀二にてアルバイト


「おはようございまーす!」

バイクを近隣に停めてラーメン銀二の正面玄関から颯爽とのれんをくぐる。

「おーう!マモル、昨日はどうだった?楽しかったか?」

銀二さんはスープを仕込んでいた。

「いやいや、なんかもう大変でしたよー」

とため息をつく俺。

「はぁ?なんでよ」

スープを味見をする銀二さん

「イサオは尾行してくるし、スープカレー屋じゃ昔の知り合いにあったり」

「なに、尾行されたの? おぉ!そうだ、スープカレーたかやんどうだった?」

「スープカレーはめちゃくちゃうまかったんすけど、店の雰囲気がちょっと」

「あそこの親父はパンチ効いてるだろう」

と銀二さん。

「あれっ、あのおっさん知ってるんですか?」

「ま、福引で偶然当たったのは当たったんだけどよ。あそこの親父とは10年来の付き合いなんだよ」

と腕組みをする銀二さん。

「えー!そうなんですかっ」

エプロンを装着している手が止まる。そんな話聞いてないぞという顔で銀二さんを見る。

「ほんとほんと」

意外とあっけらかんとしている銀二さん

「いや〜実は俺もそのおっさんの息子と知り合いでして」

「あっそうなの?世間はせまいなぁ はっはっはっ」

「あそこの親父はよ、若いころは自衛隊のレンジャー部隊の隊長でよ」

と、ことの成り行きを話し出した。

「え!そうなんすか まぁどおりで」

シュンスケがぶっ飛んだ光景がマモルの脳裏に甦った。なるほど、あのガタイのよさと威圧感、パワーはそういうことだったのか。

「俺とトシヒコがまだお前らくらいのときによ、タチの悪いチンピラたちとあの店の前でたまたまケンカになってな、その仲裁に入ってきたのがあのたかやんのおっさんでよ」

タバコに火をつける銀二さん。

「へぇ〜 で、どうなったんすか」

といいながらカウンターの中には入り手を洗うマモル。

「そのチンピラ2名はあのおっさんの迫力に逃げ出したけどよ、俺らは当時敵なしだったからよ、邪魔すんな!上等だっていって一人ずつ向かっていったんだけどよ」

そして銀二さんは深くタバコを吸い込んだ。

「そ、それで」

「これがまた2人とも秒殺でよ はっはっは、ありゃバケモンだな」

「えぇー!銀二さんが秒殺?マジですかっ?」

「プロと素人の差だよなー」

銀二さんはタバコの煙をゆっくりはき出した。

「ただ、その秒殺された以降、なぜかおっさんとは仲良くなってよ、妙な縁で俺とトシヒコはたかやんでバイトすることになったんだよ」

「えー!」

超驚く俺。銀二さんがアルバイト?うそだ!と思った。

「俺がこの店を出そうって決めたのは、あのおっさんの影響が大きいしな」

「そうだったんすか」

確かにあの銀二さんがラーメン屋を開くなんて想像もしなかった。

ラーメン銀二を出す背景にあのたかやんのおっさんが咬んでるとは思いもよらなかった。

「ちなみにうちのかみさんとはたかやんのバイト先で知り合ったしよ」

「まじっすか!それ」

銀二さんが超てれながら仕込みの準備をする。もっと詳しくその辺を聞いてみたいマモルだった。

「それはそれとして、ナツコちゃんとは愛を深めることはできたのか?」

話題を変える銀二さん。

「愛って・・・ただナツコと毎日デートしてたら間違いなく太りますわっ。」

「やっぱ体育会系だよな、結構食べるの?」

「えぇ、一心不乱に。あっ・・・・」

「なんだよ?どうした?」

「今度もしかしたら、ナツコの家にいくかもしれないです」

「なにー!すげぇな、それってすげぇ進展じゃないかよ」

「いやいやっ、まだわかんないんですけどねっ」

かなりあせりながら否定する俺。

「青春だなぁ〜、いいなぁ」

若さをうらやましがる銀二さんだった。



月曜日 朝 学校の教室にて

「おはようっすー」

ガラッと教室の戸をあけて窓側の自分の席に座るマモル。相変わらずクラスはドンちゃん騒ぎである。

「おーっす!」

少し遅れてイサオが登場、俺の顔を見るなりダッシュで駆け寄ってくる。

「なんだよっ」

「さっ、屋上でひなたぼっこでもしようかっ!」

「くもってんぞ、今は」

「まーまー」

ぐいぐいとマモルの腕を引っ張るイサオ。

「わかったわかった!いこう」

めんどくさそうに歩き出すマモル。教室から廊下に出て階段に登る。

「イサオ、オマエ俺になんかいうことあんじゃねーの?」

「えー?どうしたんだよマモルちゃん、怖い顔して」

「もう尾行すんじゃねーぞ、てゆーかベタすぎんだよ尾行が!」

「ごめん、ごめん!気になるじゃなーい」

「だから屋上いくんだろ?結果を話しに」

「まっ、そういうこと!」

階段を上りきり屋上に到着した。

「で、で、その後どうなったんだよ?マモルちゃん!」

「いやいや、オマエが期待するようなことはなかったけど、楽しかったぞ」

「うわぁ〜何それ?何その余裕っくそ〜!」

「そういえば、スープカレーたかやんでシュンスケに会ったぞ」

「あぁ、知ってるよ」

急に下を向いてポケットに手を突っ込むイサオ。

「まだお前ら決着ついてねーんだろ?」

「まぁいいや。実はよ、今度ナツコの家でWiiやりにいくかもしれねーんだよ」

「うそっ、マジ!家に?」

「別にどうでもいいんだけどよ、マリオカートやりにいきたくてよ」

「またまたぁ〜、めちゃくちゃいきたいんだろ?マモルちゃん」

「俺はただ、Wiiがやりたいだけよ」

「まっとにかく、おもしろそうだね!ナツコちゃんち。俺も行きたいなぁ〜」と言ってる間に1時限目のチャイムがなる。

「おっ、チャイムだ。確か1時限は体育だったなぁ〜」

俺が流し目でイサオにささやく。

「そうだ、今日の体育は野球だ!早くもどらねーと!」

俺の話をそっちのけでダッシュで教室へ戻っていった。

「ふ〜、やっぱこういう話は苦手だわ」

うまくイサオを興味を別へと変えたマモル。そういや、今日からナツコのやつは試合だったか・・・と気になるマモルであった。結果は前回も言ったとおり全国大会の切符を手にする。




学校帰りの下駄箱にて

マモルとイサオは6時限もある授業を受け、ちょっとお疲れ気味で下駄箱にて靴を履き替えていた。

「マモルちゃん今日バイト?」

「いやっ、今日は休みだからよ。帰ってちょっと寝ようとおもってよ」

「いやー、今日は疲れたよね。スタバでも寄ってあまーいもん飲みたいなぁ」

「いいねぇそれ!」

ということでイサオを俺のバイクの後ろに乗せて大通りのスターバックスコーヒーへとバイクを走らせた。バイクを飛ばして約10分スターバックコーヒーへ到着。到着と同時に殺気だったものを感じる2人。

「おい、イサオ」

「わかってるよ、マモルちゃん」

スターバックスコーヒーの正面玄関兼テラスに10名程のバッドボーイズがたむろしていた。そう、この辺の界隈はブルースプラッシュの溜り場である。そしてマーキング代りといってはなんだがスプレーでおしゃれにブルースプラッシュと壁に英語で書いてあった。

おしゃれなスタバを配慮してのことだろうか。するとひとりのごっついバッドボーイズが

近寄ってきた。

「にーちゃん、いいバイクのってんな」

男がバイクのタンクを触ろうとする。すると、イサオが男の手をグッとにぎりいきなり男の顔面をドガッぶん殴った。でかい巨体が吹っ飛ぶ。

「なにすんだてめー!」

後ろの方でたむろしていたバッドボーイズ達が立ち上がる。

「きたねー手でさわんじゃねーよ、おまえらシュンスケのところのヤツらか?」

「なんだ、てめーコラ!」

ともう一人の男がイサオに殴りかかる。しかし、イサオは男の右ストレートをさっと交わし、男のハラに膝をぶち込んだ。

「ぐあぁぁ」

と悶絶する男、さすが伝説のチームナイトのヘッドである。

普段おちゃらけてさえいるが、こいつのケンカセンスは半端じゃねぇと再認識するマモルであった。只者じゃないと感じるバッドボーイズ達・・・するとひとりの男が2人に気がついた。

ドラッグスター400の金髪ピアス・・・アロハシャツで黒髪オールバッグ・・・

「山中中学の時岡 マモルとナイトの市村 イサオだ!」

「なに!」

改めてかまえるバッドボーイズ達

「おいおい、俺たちはただコーヒー買いにきただけなんだよ 道あけろ」

しっしっと犬を追い払うかのように手を振るマモル。こういうのははっきりいって面倒くさい。

「仲間やられてほいほい通すわけにはいかねーな」

「なら、お前ら全員ここで死ねや」

イサオの顔が真っ赤になって興奮している。

シュンスケのところが相手だからなおさらか。イサオとシュンスケ、この二人はチームに入る前、中学時代からことあるごとに争ってきたのだ。

こうなったらイサオは止まらない。キレるととんでもなく凶暴だからだ。この顔をみると

イサオにはじめて会ったときを思い出す。



俺がイサオとはじめて会ったのがナイトが集合しているあの公園だ。

当時、俺の後輩がナイトの下っ端のやつと口論になり、5対5の乱闘が始まった。

その話を他の後輩から聞きつけ、公園に着くと広場に10人の延びた男たちが横たわっていた。さらに奥の方へ目をやるとベンチに一人の男が座っている。

「誰だ?オマエ?」

「オマエこそ誰なんだよ!うちの仲間やったヤツしらねぇか?」

「俺の縄張りで騒ぎすぎだから全員俺がシメたんだよ 静かになったろ?」

「嘘つけコノヤロー」

俺はのされた後輩の一人によりそい、体を起こした。

「おい、おまえらやったのはあいつか?」とイサオの方に指さす。

すると、後輩が口から出る血をぬぐいながら辛そうに話した。

「マモルさん、あいつ強いですよ・・俺らだけじゃなく自分の仲間まで・・あの野郎イカれてますよ」

というのがイサオと俺の最初の出会いだった。

あの時のイサオの目は今でも覚えている。殺気が体全体から出てて、触れただけども切られそうな感覚だった。やりあったらただじゃすまいなと思いながら、一触触発の雰囲気のところにマッポに邪魔され、やられた後輩たちを起こし、重傷のヤツをおんぶしながら逃げた思い出があった。あの時、邪魔が入らずタイマンをはってたら果たしてどちらが勝っていたのだろうか・・・


「あ〜ぁ、どうなってもしらねぇぞ、おまえら」

バイクを降りるマモル。

「マモルちゃん、先いってカフェモカのアイスかっといて、すぐ終わらすから」

「あぁ、あとでちゃんと金はらえよ」

といって俺はスタスタとバッドボーイズを押しのけながら店内に入った。呆然とする男たち、するとイサオがあおり出す。

「ぼけっとしてねーでこいや」

不意打ちで一人の男の顔面にとび蹴りを入れる。

「がぁ!」

声をあげふっとぶバッドボーイ。こうなったらもう止まらない。

あっというまにもう一人もぶっ飛ばし、起き上がったところにかかと落としで失神させる。

そんなストリートファイトにスタバ周辺は野次馬や通行人でごったがえしてきた。

「えー!つえぇ、おい!シュンスケさんに連絡しろ、とりあえず撤退だ!マッポもじきくんぞ!」

のびたやつらを抱えて引き上げるブルースプラッシュのバッドボーイズ達。

ちょうど、アイスカフェモカが2つ出来上がり、正面玄関からマモルが出てくるころには男たちはおらず、警察のサイレンの音がこちらに近づいてくるのがわかった。

「もー、なんか最近落ちつかねーよなぁ」

アイスカフェモカをイサオに渡すマモル。

「そんなことよりバッくれるよ、マモルちゃん」

ソッコーでバイクにまたがり、アイスカフェモカ2つはイサオに両手で持ってもらい、ニケツで逃走した。逃走中、俺とイサオに笑顔はなかった。そして、バイクは、ナツコのとき同様丘の上公園に到着する。バイクを停めこの街が一望できるベンチに座りアイスカフェモカを飲むマモルとイサオ。


「はー、こんな無意味なケンカ続けてもなんの解決にもならんって知ってるんだけどさっ」とイサオが話し出した。知らないヤツに手をあげることに罪悪感が出てきたのだろう。

「相手はブルースプラッシュじゃなくてシュンスケだからね」

と自分に言い聞かすようにマモルの方を向く。

「なんだよっ」

「いやね、俺はナイトのトップだから勝手に行動しちゃいけないと思うし、でもね・・」

うんうんとうなずくマモル、そしてマモルはこう答えた。

「市村 イサオとしてケリつけたらいいじゃねーかよ、ただそれだけのことだろ」

「この争いは頂上対決ってことだね」

イサオはふつふつと決意をあらわにしているようだ。表情が引き締まっているのがわかった。

マモルとイサオ、状況は違えどお互い次の踏み出す一歩がお互いのターニングポイントになるとは思いもよらないだろう。



夜19時頃 時岡宅にて


「お帰り マモル、ご飯つくってんだけど食べる?」

時岡 涼子 母の登場である。

デザイン会社として超有名な株式会社スリットの元アートディレクター、うちの母親はクリエイターである。今はフリーのデザイナーとしてスリットから仕事をもらい、在宅で仕事をしている。よく近所の人には岡江久美子に似てるといわれて本人はとてもうれしいらしい。ただ、ほとんど作業で家にいるのでノーメイクに黒縁メガネ、ぼさぼさの髪にラコステの白いポロシャツにジーンズをこれなく愛するマイペースな母親である。俺は正直、ジョニーデップに似ていると最近ひそかにおもってんだけど・・・

「ただいま、今日のごはんは何?」

「あんたの好きなヒレカツよ」

「おー!」

テンションがあがる俺、キッチンで手を洗う。

「ごはんとお味噌汁は自分でよそって食べて。私はもう食べたから」

リビングの壁側にあるマックに腰掛けて作業の続きをする涼子。そしていつものように、ごはんとお味噌汁をよそい席に着く。

「それじゃ、いただきまーす!」

「なんかさ、最近あんた楽しそうだよね」

とマウスでいじりながら話しかける。

「なんでよ、べつに普通だよ・・・おっ!このカツうまい!」

箸でカツをさすマモル。

「!・・まさか彼女できたんじゃないの?あんた!」

がばっとマモルの方を振り向く涼子。

「いねーよ!そんなもん!仕事に集中しろよ」

といいつつナツコの顔が一瞬頭をよぎる。

「気をつけなよー、女はこわいよ、女はぁ」

カリカリと作業しながら涼子はニヤニヤしていた。しばらくして、涼子がまた口を開く。

「そういやあんた、最近お父さんに顔つきが似てきたよね」

涼子はリビングの置くの和室に飾ってある父親の写真を見ながらいう。

「そりゃ親子だからな」

口にごはんを運びながらマモルがいう。

「アルバイトはどうなの?楽しいの?」

「あぁ、楽しくやってるよ」

「今度わたしもいこうかしら、銀ちゃんのところ」

「恥ずかしいからくんなよ、てゆーか銀二さんしらねーだろ」

「・・・そういえば、最近仕事はどんなことしてんのよ?」

と話題をそらすマモル。

「某下着メーカーの男性物下着のデザイン、納期が短くてさーもう最悪!」

もじゃもじゃ頭をさらにもじゃもじゃとなでる涼子。

「へー、そんなんまでやってんのかよ」

母親の影響でマックを買い、母親の影響でロゴやイラストの真似事をして約半年、母親がやっている仕事にはとても興味がある。こういう風に親子の会話ができるのも、マックを購入してからなのかもしれない。マックの使い方やソフトの触り方などは母親に聞いて勉強をした。

「母さん、俺よ・・・」

「なになに?」

聞き返す涼子。

「いやいや、なんでもねーよ。おいしかったよ、ごちそうさま。部屋にもどるわ」

「はいはい、お風呂入れたらまた呼ぶから」

「わかった」

2階へ駆け足であがるマモル。

うちの母さんに俺もデザインの道に進む!と言おうとしたけど、ちょっと恥ずかしかった。

そして、マックに向かうそのストイックな姿勢に話しかけるのをためらってしまったというのもある。うちの母がすごかったんだなというのは最近なんとなくわかってきたのだ。


夜、風呂から上がると携帯のランプがチカチカと光っていた。メールの着信だ。

誰かと思い開いてみると、ナツコからのメールだった。

(ハロー、全国大会きまったし、部活は静養のため2日間お休みなんだ。だから学校おわったらWiiやりにうちに遊びに来ない?一人がこわいならイサオ君もつれてきたら!)

「イサオも連れてっていいのかよっ はっはっは」

ということで、イサオに連絡を入れ次の日の放課後にナツコの家にお邪魔することになったのだ。イサオがたいそう喜んだのはいうまでもない。



次の日の放課後、西区のタワーマンション。

放課後、校門の前で待ち合わせしバスでナツコの住む西区へ向かったマモルとイサオ。

「ここ私のウチ」

と指差すのは住宅街の中でも一際目立つ高層マンション。

「でけー!」

とイサオのテンションはどん!と上がった。

「オマエの親って何の仕事してんの?」

とナツコに聞くマモル。

「社長みたいよ」

とたった一言。

「へー」

と俺もその時は軽く流してはいたのだが今後マモルの人生を変える男になることは今のマモルに知るよしもなかった。

ナツコがマンションのオートロックを解除して自動ドアが開くとそこには、人口の滝が流れていた。マンションなのに・・・と思う2人。

エレベーターに乗り20階の最上階へ。降りるとそのフロアは一室だけの造りのようだ。

「さっ、入って」

とナツコが家のドアをあける。

「お、お邪魔しまーす」

中に入ると玄関はとても広く、白でまとめたおしゃれな部屋だ。ぱっと見でも超広いのがわかる。

「今、お母さんロンドンいってていないからさ」

「はー・・・ロンドン」

住む世界が違う、としみじみ感じる2人。

そして、俺たちは50インチのでっかい液晶テレビでマリオカートを楽しんだ。

Wiiはめちゃくちゃ楽しかった、絶対バイト代ためて買ったる!と心に誓うマモルであった。すると・・・

「ただいまー、ナツコ?帰ってるのか」

とナツコの父親が突然帰ってきた。なぜかピーンと背筋が伸びるマモルとイサオ。それまでの雰囲気が一遍する。

「パパ!あれ今日早いじゃーん」

木村 敬三 白髪混じりの短髪で鼻は高くすらっと背が高い。高そうなスーツ、低い声。ナツコの父親は優しそうでナイスミドルな男だった。

「あれ、この子たちは?」

きた!やべぇ!このなりは怒られんじゃねーかと思う2人。

「あっ、同じ学校でお友達のマモルとイサオ君」

あっさりと紹介するナツコ。

「時岡といいます、お邪魔してます」

緊張しながらもちゃんと挨拶するマモル。

続いてイサオも挨拶

「市村です、こんにちは」

「こんにちは、ナツコが男の子連れてくるなんてめずらしいなぁ。まっゆっくりしてってよ。市村君と時岡・・・時岡・・」

とマモルを指さしたまま、凝視する。

やべぇ、この金髪とピアスだ。怒られる前にここはすばやく帰宅と思ったイサオは行動に出た。

「あー、もう時間だ!」

と腕時計を見るイサオ。

「どうしたの?急に」

とナツコが不思議そうに聞く。

「俺とマモルちゃん塾があるからここで失礼するよ!」

は?何いってんだ?こいつは。とイサオをみるマモル。

「さ、マモルちゃん帰ろう。ナツコちゃんまた明日!うんうん」

「ちょっと、もう帰るの?」

敬三の挙動がマモルの金髪ピアスに切れだすかもと思ったイサオはマモルを連れて速攻でナツコの家を飛び出した。


「なによ、塾って!私に負けまくったから逃げたのね!」

と不機嫌なナツコだった。


「ナツコ、あのピアスつけた子は時岡っいってたけど・・・」

敬三がナツコに話しかけた。

「マモル?あいつはかなりおもしろいよ、ヤンキーで調子こいてるけどラーメン屋でバイトしてて、パソコンでイラストとかデザインできてねっ、無愛想だけどミクシィには100人もマイミクがいるんだよ!おもしろくない?」

「デザイン・・・時岡・・・彼のお父さんって・・・?」

どうやら、金髪とピアスで怒っているわけではないようだ。

「あぁ、なんかね、ガンで亡くなったって。そうそう、お父さんと同じで広告代理店に勤めていたらしいよっ」

とナツコがいうと何か思い出したかのようにパンッ!と手を叩く敬三。

「そうか彼が!・・・・彼が時岡の息子か!どうりで似てるわけだ」

「いきなりでかい声出さないでよパパ マモルのお父さん知ってるの?」

「知ってるも何も、彼のお父さんとは共に仕事をしていた仲なんだ、彼のお母さんもしっているよ」

「マジ!超世間狭いんだけど」

「そうか・・・彼が2人の息子とは・・」

何かを感じている敬三。

「どうしたの?パパ?」

「ん?いや、なんでもないよ。で、彼はラーメン屋でアルバイトしてるって?」

と自然なふりして娘に聞く敬三。

「そうそう、南野横丁のラーメン銀二でバイトしてるよ」

「そんなんだ、パパ ラーメン好きだから今度いってみようかな、はっはっは」

そういって敬三は書斎の方に入っていった。そして、携帯を胸ポケットから取り出し、自分の秘書に電話する。

「もしもし」

「あぁ、田中君 ちょっとお願いがあるんだけども」

「はい、何でしょう?」

「明日の夕方のスケジュールを変更して、南野横丁にいきたいんだが」

「承知しました、至急調整致します」

「ありがとう、宜しく・・あぁ、それから」

「前クリエイティブ局部長の時岡 清二の息子さんについて調査できるか?」

「時岡部長の・・・ですか?」

「あぁ、できればでいいんだが」

「承知しました、それでは至急かかります」

「悪いね、それでは宜しく」


そして、明日にマモルの人生のターニングポイントがラーメン銀二にて起こることをマモルはまだ知らずにいた。そして銀二にも・・・


次の日、ラーメン処銀二にて

マモルと銀二は客が入らず暇なため、テレビの野球中継をみていた。

「じゃまするよ」

ガラリと戸が開くとそこにはナツコの親父さんが。

「うわー!ナツコのお父さん!」

突然のことにびっくりする俺。

「なにー!なっちゃんの?」

同時にびっくりする銀二さん。

「座ってもいいかな?」

と敬三がカウンターを笑顔で指差す。

「あー!すみません、どうぞどうぞ、いらっしゃいませ」

お冷を差し出す銀二さん。

「ありがとう」

とお冷を飲み一息入れる敬三。どこかのブランドもののスーツだろう。ラーメンを食べにくる格好ではない。

「さて、どこから話そうか・・・急に来てなんだろうと思ってるだろ?」

娘に近づくな!という台詞がなんとなく頭をよぎるマモルと銀二。


「実はね、君のお父さんとは同期入社の同僚であり、数少ない親友であり、そして最高の僕の理解者だったんだ、今の私があるのは君のお父さんのおかげさ、僕は当時営業として仕事をもってきて彼がすべてのものを作り出す、素晴らしいクリエイティブプロデューサーだったよ」

と笑顔で話す敬三。

「はー、そうだったんすか・・・」

とりあえずは娘に近づくなという説教でないことに安心した。マモルは父の仕事での評価というのをはじめて耳にした。クリエイティブプロデューサー・・・・?親父の職種なのか?


「実は今日、マモル君にどうしても伝えたい話があってね、ナツコにこのアルバイト先を聞いてやってきたわけなんだよ」

「え・・・じゃあラーメン食べます?」

緊張をほぐそうと冗談まじりで聞いてみるマモル。

「そうだね、味噌チャーシューを大盛りで」

娘と同じ注文で驚いた、さすが親子である。そして、娘のナツコと同じいい食いっぷりである。

「店長さん、ここって替え玉のサービスはあるんですか?」

「えっ?あぁ、すみません残念ながら」

とこちらも緊張している銀二さん、なぜ知人の保護者が来ると大人ってみんなこんな態度なのだろうか?

「あぁ・・そうですか、じゃチャーハンをひとつ」

大食いはぜってー父親似だなと思うマモルと銀二さん。

「あ、そうそう今鴨南チャーハンってのやってまして」

早速一押しメニューを進める銀二さん。

「ほー、じゃそれをひとつ」

「ありがとうございます!」

とチャーハンの支度をする銀二さん。そしてまた敬三が切り出した。

「実は今日2丁目の空き地のスプレーでやったロゴデザイン、マモル君なんだって?」

「えっ?何で知ってるんですか?」

なぜ知っているんだ?この人は?

「うん、ちょうどばったりお友達のイサオ君に会ってね。教えてもらったんだよ、あとね・・」

と敬三はポケットからごそごそと紙のようなものを取り出した。

「あっそれ!ナイトの」

そう、敬三が出したのはイサオに渡した数案をプリントした紙だった。イサオのヤツ、性格に似合わず大事に持っていたのだ。

「あいつ・・・」

「いいお友達だね、空き地にも彼が連れてってくれたんだよ」

「な・・・」

とにかくびっくりだ、それにしてもなんでばったり2人はであったのかマモルは不思議でならなかった。

「マモル君の話を楽しそうに話してくれたよ、君の才能を一番理解してくれているのは彼なのかもしれないね」

ラーメンをすすりながら話す敬三。ポカーンと立ちつくす俺をよそに、銀二さんおすすめの鴨南チャーハンが完成する。

「はい、お待ち」

「お、うまそうだね」と早速れんげでチャーハンを口に持っていく敬三。

「おお!これはうまい!」

と蓮華で何回もチャーハンを指す敬三。

「ま、まじっすか!」

「是非弊社でやってる情報誌に載せたいなぁ、今度取材にいかせてもいいかい?」

「えー!はじめてっすよそんなの、でも宣伝いただけるんでしたら是非」

「それじゃ、後ほど担当から連絡させるから」

「あ、ありがとうございます!・・・えーっ、急展開」

確かに、銀二さんがびっくりするのも当然だ。

「んー、うまい。さてさてちょっと本題に入らせてもらおうかな・・・」

敬三が一旦箸をおきだした。



「マモル君、高校を卒業したら、是非うちのクリエイティブ局で腕を磨かないか?」

突然のヘッドハンティング?に驚くマモル。

「えっ?・・・でもそういうとこって大卒じゃないとだめなんじゃないっすか?俺はバー学で勉強できねーし」

「確かに正社員では厳しいね、だからはじめはアルバイトで入社するんだよ。いきなり実践感覚の専門学校だと思えば最高じゃないか、そしてお金ももらえるんだし」

「でも、そんな・・・いいんですか?俺みたいな素人が入っても」

「お母さんの才能を受け継いだのか、君には才能がある」

「な、なんで俺をそんなに・・なんで俺なんすか?」

「君のお父さんとの約束なのさ、俺がいなくなったら俺の家族を頼むとね。僕はこういうことでしか今の君たちに恩返しができない、だから君の進路に関しては惜しみなく協力させてもらうよ、ちょっと強引だったかな?はっはっは」

「あの・・・」

君たちって母親も入っているのかな・・・一体俺の両親とこの社長の間で何かがあったのだろうか?色々と頭の中が駆け巡る、こ、恋仲?まさかな。

「あぁ、忙しいところ悪かったね、明日の夜は空いているかな?」

「と、特になにもないっすけど・・・・」

「じゃ、夜の7時にここの住所にあるビルにきなさい」

ポケットから名刺入れを取り出し名刺をとりだした、そこに何かをペンで書いている。社長室に通すようにと。


「受付に渡せば中に通してくれるはずだ、それじゃまた明日楽しみにしているよ」

「あっ・・ちょっと!」

と社長はすたすたと歩いて帰ってしまった。すると銀二さんがのれんをかきわけ店から出てきて俺にこういった。

「ナツコの親父さん只者じゃねーな」

「銀二さんこんな名刺もらいました」

と銀二さんに手渡す。

「なになに、ティーエックスシー・・・・代表取締役・・お!おい!ティーエックスシーったら大企業だぞ、そこの社長なのか?ナツコちゃんの親父さんは!」

びっくりした顔で俺を見る。

「そんなすげー会社なんすか?明日ここに来てほしいって・・」

高校生の俺はそんな大企業とかあまり興味がなかった、全員サラリーマンに見えたから。

「うーん、まぁ、オマエの年でなかなかこういう経験はないしよ、明日バイトもねーんだし行ってみたらどうだ?てゆーかいっといて損はねぇよ」

銀二さんに背中をバシッと叩かれた。確かに銀二さんの言うとおりである、明日の19時に俺はTXCに行くことを決めた。ただ、その前にどうしても母親に色々聞きたいことが増えたのは確かだ。

「TXCということは、情報誌・・・」

銀二さんが腕を組みながら何かを思い出そうとしていた。

「あぁー!月刊ランチマガジンか!」

思い出した銀二さん、その声はでかかった。

「おー!あの有名な?俺今月号買いましたよ、いいじゃないですか」

「とうとう俺の店もメジャーにか?はっはっは!」

とうかれる銀二さんであった。ランチマガジン掲載後ラーメン処銀二は一躍有名店になることを銀二さんとマモルはまだしるよしもなかった。

「伝説の元ヤンキー店長がつくる鴨南チャーハンは絶品」と

いうタイトルで。



バイト終了後、自宅に帰りまずすぐにイサオに電話した。

「はい!マモルちゃん」

「はいじゃねーよ、今日ナツコのお父さんが来てオマエに渡したロゴの紙持っててよ、超ビビッたんだぞ」

「いやいや、俺だってびっくりだよ、ナツコちゃんのお父さんと急にばったり会ってさ」

「どこで会ったんだよ?」

「いやいや、いつも俺がいってる駅地下の喫茶店でパフェ食ってたらいきなり現れてよ、なんでもそこの常連らしいくてよ、そこで一時間くらい話したかなぁ」

「まじかよ」

「あぁ、で、たまたまナイトのロゴデザインの追加発注考えててさ、あのデザインの他に数案くれたじゃん?そのプリント見て悩んでたんだよ、別のデザインもありだよなって感じでよ、マモルちゃんの話をきくなりその紙もできたらもらえないかってゆうもんだからよ渡したんだよ」

「そうか、それであの紙を・・」

「で、まぁ他にもおもしろいのみたいんであれば、3丁目の空き地にスプレーで書いたロゴがどーんと描かれていますけどって話したんだけどさ」

「なるほどな、それでか。あー、いままで気持ち悪かったわぁ」とやっと真相を知ったマモルであった。

「いきなり悪かったな、また電話するわ」と電話をきった。服を着替え、マモルは一階のリビングに下りる。すると涼子がテレビを見ながらコーヒーを飲んでくつろいでいた。

「母さん、今日この名刺の人がラーメン食いに来たよ」と涼子に名刺を渡す。

「え?どれどれ」

黒縁メガネをかける涼子。

「この人!けいちゃんじゃない」

驚く涼子。

「親父と一緒に仕事してたって、母さんのことも知ってるって言ってたしよ」

「えぇ、よく知ってるわよ。最近連絡がないと思ったけどこんなにえらくなってたのね」

と笑顔で話す涼子。そしてマモルが本題を話し始めた。

「実は俺の友達のお父さんなんだ、俺の親父にはとても世話になったから君の協力をしたいっていってよ、そこのTXCのデザインするところでアルバイトから入らないかって誘われてよ」

「えー!そうなの?いや、私も聞こうとは思ってたんだけどあんた進路どうすんのよ?」

「こ、こないだはちょっと言いにくかったんだけどよ・・」

「うんうん、何?」

「いや、母さんの影響でマックはじめてよ、アルバイトして金ためて東京のデザインの学校いこうと思ってたんだけどよ、この話もらって悩んでんだ」

「なるほどね、で、あんたはどうしたいのよ?」

「あした詳しく話聞いてみてだけど、TXCにいってみたい」

「正解だわ、一人前になるんだったら現場に飛び込んだ方が早いわよ。それからひとつ言わせてもらっていいかしら?」

「なんだよ」

「東京の専門学校よりも私から教わった方が絶対ためになるわよ、この業界では結構有名なんだからね、なめんじゃないわよ!」

涼子は嫉妬していた。

「なんで怒ってんだよ」

「とにかく!デザイナー目指すんなら、私に絶対相談しなってことよ!一番近くに教科書があるってーのに水臭いのよ、親子でしょ!」

「ごめんごめん」

確かにそうだ、東京の専門学校にいくより一番近くにいいお手本がいたじゃないか。

「どちらにしろ、明日けいちゃんと会うのね」

「あぁ、でもな、気になるんだけどよ。なんで俺にこだわってんだ?あの社長は・・」

その時、涼子が飲んでいたコーヒーを置いて話し出した。

「彼はね、お父さんがガンで亡くなったのは自分のせいだと思ってるのよ」

「えっ?なんでだよ」

「けいちゃんは当時バリバリの敏腕営業マンでね、大きい仕事をどしどし取ってくるTXCでは名の知れた営業マンだったのよ」

「そうなんだ」

「その大きな仕事を任されたのがお父さんでね、よくTXCのゴールデンコンビといわれてたわね、お父さんはずっと夜遅くまで頑張ってたんだけど、なかなか手ごわい仕事でね、ストレスも多かったと思う」

「そうか・・俺はその時期・・」

「だからけいちゃん、自分が取ってきた案件でお父さんが体を壊してしまったんじゃないかって責任感じちゃって・・・涼子ちゃん申し訳ない、俺のせいだって」

「うーん」

「けいちゃん、お父さんのお葬式のときもずっと泣いててね・・時岡ごめんよって、お互い同期で親友でもあったから辛かったんだと思うわ。今社長になってようやく恩返しができると思ってるんじゃないかしら」

「なるほどな、でも社長は全然悪くは・・・・」

「そうなのよ、気にしすぎなのよ。明日会うときに言っといてくれる?気にしないでって」

「あぁ、わかった。言っとくよ」

階段の上にある自分の部屋に向かうマモル。

親父をガンで死なせたのは俺だ・・・と親父が死んでからずっとあの時の自分自身に後悔していた。俺の時間が止まっているのは親父に対する後悔の念というのもわかっていた。

息子の俺だけじゃなく、親父の死は俺の知らないところで思いもよらない影響や思いを生んでいたようだ。

俺は、親父のいる業界に入って一人前になることが死んだ親父への親孝行であり、あの時

理解し合えなかった親父を知るきっかけになるかもしれない、そう思った。

TXCにお世話になるかどうかわからないが、俺の本能がこの業界いくだろうという変な

確信がこの時あったのだ。俺は布団に入ったものの、緊張と期待でなかなか眠れなかった。

やっと俺の中で止まっていた時間が動き出そうとしていた。

そして、当日 学校の屋上・・昼休み俺はイサオをメールで屋上に呼び出した。

「おー、マモルちゃんおつかれ」

「おう、悪いなわざわざきてもらって」

「いいよ〜、それよりどうしたの?あっ!まさかナツコちゃんに告白?」

「全然ちげーよ、ナツコはナツコでも親父さんの方だ」

「親父さん?」

マモルは親友であるイサオに昨日の話を全部話した。

「うーん、なるほどね。ナツコちゃんのお父さんとしたら時岡家に対する罪滅ぼしでもありマモルちゃんの才能発掘でもあるんだね」

「あぁ、そうなんだよ とにかくイサオには知っといてもらおうと思ってよ」

「そうかぁ、絶好のチャンスじゃない?俺らみたいな底辺のヤツからしたらさ」

「俺の親父はよ、家庭を顧みず働いてたんだよ、そのTXCで。俺はまだガキだったからわかんなかったけど、やっぱ仕事が面白かったんじゃねーかなってよ」

「親父さんのこと知りたくなった感じ?」

「それもあるけどよ、俺の親父が人生かけてハマッてた仕事がどんなもんなのかしりたくてよ。俺は、もし雇ってくれるんであればやってみてーんだ」

「うんうん、今日だったよね。ナツコちゃんのお父さんに思いのたけをぶつけたら?」

「あぁ、そうだな。イサオに話してみてスッキリしたぜ」


「イサオさーん!」

ガチャリと屋上の扉が開いた、イサオの舎弟だ。

「どうした?」

「あっ、時岡さんちゃーす。イサオさん、ちょっといいですか?」

とイサオを手招きして呼ぶ舎弟。

「おう!じゃ、マモルちゃん俺いくわ」

「あぁ、ありがとなイサオ」

イサオと舎弟が階段を下りていった。階段を下るイサオと舎弟はあるひとつの事件が動き出すことを予測していたのだ。

「イサオさん、今さっき、仲間から連絡入りましてブルースプラッシュの高嶋がイサオさんと時岡さんをつぶすってあちこち探しまくってるらしいですよ」

イサオの穏やかな表情が一変した。

「あのスタバの一件か」

「多分そうっすね、だいぶぶち切れているらしいです」

「そろそろ決着をつけねーとな・・・」

「えっ?」と舎弟が聞き返す。

「とにかく、動きあったらすぐ連絡くれ」

そう、もし今のマモルちゃんにシュンスケが手を出すことがあれば・・・イサオの不安はそこだったのだ。これから前に向かおうとしてる友達を邪魔するようなことはあってはならない。そう心に誓うイサオであった。


放課後、マモルは携帯から銀二さんへ連絡を入れた。

「はい!ラーメン処銀二です!」

「あっ、銀二さんマモルです」

「おぉ、マモルどうした?」

「今日の夜にTXCにいってきます」

「おぅ!そうだったな、あんま緊張せずいけよ」

「はい!ありがとうございます」

「それからよぉ・・」

「はい?」

「人生変えて帰ってこい、マモル」

人生変えて帰ってこい この言葉がめちゃくちゃ胸に響いた。

「は、はい!それじゃまた連絡します」

と電話を切った。俺は銀二さんにここが勝負だぞと教えられているような気がした。その後、俺は早速バイクで自宅に帰り、自分の作ったロゴや制作物を夢中でまとめた。人に見せるものなだけに気合を入れて作成した。


気づけば、約束の時間の45分前だ。

自分の部屋を出て、階段を降り涼子のいるリビングへ。

「かあさん、いってくるわ」

「いってらっしゃい、けいちゃんに宜しく」

「おう」

と軽く挨拶をし、玄関を出てすぐにバイクのエンジンを回す。バイクにまたがり

TXCのある豊浜のオフィス街へバイクを走らせた。

川沿いを走った跡に陸橋の真下を通るトンネルがある、しばらく走ると道路の真ん中に人影が。バイクのハイビームが照らした先はなんとブルースプラッシュの高嶋シュンスケが仁王立ちしていた。バイクを止めヘルメットを取るマモル。

「シュンスケ・・・」

「時岡ぁ、待ちわびたぜ」

「こんなとこで何してんだ?」

「この間はうちの奴らが世話になったなぁ」

「いそいでんだ、先いかしてもらうぜ」

「俺の仲間に危害加えといてそれはねーだろ

、きっちり御礼させてもらうからよ」

「俺をやろうってーのか」

「決着つけようぜ時岡ぁ」

シュンスケが勢いよく俺に向かってくる。急いでるのにコイツとタイマンはんなきゃなんねーのかと思った瞬間、俺らの間に黒い車が進入してきたのだ。

ブォォ!キキィィー!

「ちっ!あぶねーなコラ!どこ見て運転してんだ!」とシュンスケが叫ぶ。

突っ込んできたのは黒のシーマ・・・まさかとマモルが気がつくと運転席からイサオがドアを開けて登場した。

「イサオ!」

俺はびっくりした。コイツ車運転できんのかよ?17歳だろ?

「ちょっとまてや、シュンスケ なんで俺のところにこねぇ?スタバでやったのは俺だぜ」

「イサオぉ・・・てめぇ」

「俺らの神聖な縄張りに落書きした時岡から殺すんだよ!次はてめーだイサオ!」

仲間をやられ完全にブチギレているシュンスケ。顔が鬼のような形相だ。

「落書きだと・・・てめーはやっぱりケーワイだな」

イサオはあきれて失笑した。

「はぁ?」

「あれは落書きなんかじゃねぇ、あれは立派なデザインっていうんだよ!」

と速攻でシュンスケの顔に右ストレートをお見舞いするイサオ。

「ぐわっ」

シュンスケが吹っ飛ばされる。

「マモルちゃん、早くナツコちゃんの親父さんとこいくんだ、コイツは俺がぶっ殺す」

「ちょっとまてよ・・・・」

「いいから・・・早く行けコラァ!」

と俺ははじめてイサオにどやされた。

「ぐっ・・・すまねぇイサオ!負けんじゃねーぞ」

バイクにまたがりTXCへバイクを飛ばした。

このときマモルの目には涙があふれた。俺たちの友情は本物だ、今までマモルは子分はいても同い年の友達ってーのがいなかった、当時は凶暴だったから。この街に越してからマモルにはお金じゃ買えない財産を手にしていたのだ、それはマモルの本当の魅力がにじみでているからこそなのかもしれない。イサオは今後もマモルにとってなくてはならない男になるのはいうまでもない。




「シュンスケよ、てめーマモルちゃんがバイクでよく通るルートを調べるために俺の後輩フクロにして財布も奪ったそうだな」

「ふん、それがどうした?てめーは俺の仲間4人もタコにしたんだぜ」

「シュンスケ、俺が勝ったら後輩の財布返せよ」

「勝つなんてことはありえねーな、もし勝つことがあったら10倍にして返してやんぜ」

中指を立てる俊介。

「ふー、シュンスケよ・・・オマエいつまでこんなこと続けるんだ?」

なぜかつまらなそうな表情をするイサオ。

「あん?」

「これでオマエと争うのは最後だ、つまり完全決着だ。このケンカにケリがついたら俺はナイトを引退する」

いきなりのイサオの発言に驚くシュンスケ。

「なに?オマエがナイトを引退だと?はっはっありえねぇ」

イサオがタバコに火をつけながら話し出す。

「俺の兄貴は今プロボクサー、マモルちゃんはデザイナー、ナツコちゃんはプロテニスプレーヤー・・」

たばこの煙をはきだすイサオ。

「シュンスケはやりたいことあんのか?」

いきなりシュンスケに問いかける。

「やりたいこと?てめーさっきから何いってんだ、ケリつけんだろーが!」

「この3人にはやりたいことがある、俺にはない。その日が楽しければそれでいいと思っていた。でもマモルちゃん達のイキイキした顔見るとよ、うらやましくてどこかさみしいんだよ・・・」

「・・・」

黙るシュンスケ。

「先をみてるマモルちゃんはもうこの世界の人間じゃねぇ。マモルちゃんに手を出すっていうなら俺が許さねー!」

「ふん、上等だ!こいや!イサオー!」

イサオとシュンスケ、彼らはこのケンカを節目に新たな道にそれぞれが進むことになる。

この続きは第二章で。



一方、シュンスケから逃れたマモルはバイクを飛ばし5分前にTXC本社に到着。

ヘルメットをとりビルを見上げるマモル。イサオのことを心配しているものの、ここは自身の勝負の時、そう思い深呼吸をしビルを見上げる。

「で、でけぇ・・」

豊浜の中でも一際目立つ30階立てのタワービルだ、一昨年TXCが建てた自社ビルらしい。石作り・・大理石でとてもおしゃれだ。マモルはかなり緊張していた。

早速、ビルのエントランスに入ると警備員が数名と受付が目の前に。マモルはすぐに受付

へ向かおうと歩き出す。

すると、警備員が2名よってきて

「こちらどうぞ、荷物だけチェック致しますので」

と荷物をチェックされる、当然怪しいものは何一つないが・・・・。

「ご協力ありがとうございました、それでは受付にてご用件をお伝えください」

「あっ、はい」

さすが、大企業というのだろうか、万全なセキュリティー対策だ。

そして受付にいくと綺麗な受付嬢2名が座っている。受付嬢に敬三からもらった名刺を差し出した。

「この人と約束してるんですが」

「あっ・・少々お待ちくださいませ」

と受付嬢がパソコンで何かを確認している。

「お待ちしておりました、時岡 マモル様ですね。28階でございますのでエレベーターでお上がりください」

「は、はいありがとうございます」

エレベーターに向かうマモルだったがちょうど19時は会社員の帰宅ラッシュと重なり

多くの社員が行き来していた。金髪ピアスで学ランというめずらしいいでたちのマモルを社員たちはちらちら見ながら家路に向かう。

「なんかはずかしいな、ちくしょう」

と早くエレベーターが来ないかと落ち着かないマモル。

エレベーターが到着し28階へ、扉が開き右側へ歩くとまた受付が。

「時岡様ですね。社長秘書の田中です」

今度は男性があらわれた。ご丁寧に名刺も渡される。

「ど、どうも」

なぜ?なぜ俺だとわかる?

「さ、社長がお待ちです。どうぞ、中へ」

「ありがとうございます」

重厚間あふれる木製のドアから入ると、ガラス張りで街を一望できる景色にポツンと机が置いてある。そして部屋の資料室のようなところから敬三があわてて出てきた。



「おぉ!マモル君よくきたね、ばたついててごめんよ。そこ座って、そこ。あー、田中君、何か甘い飲み物を彼に」

と秘書の田中に依頼するも

「コーラを買ってまいりました」

と右手にはすでにコーラが、敏腕秘書である。

「さっすが、田中君。早いねー まっまっ、これでも飲んで」

田中からコーラを手渡される。

「い、いただきます」

とおじぎするマモル。

「社長私はこれで」

社長室をあとにする秘書の田中。

「ありがとー」

バタンとドアがしまると同時に敬三が話し始めた。

「ふー、さてと・・今日きてくれたということはいい返事を期待してもいいのかな?」

「はい、宜しくお願いします!」

「早っ!はっはっは、決意は決まってたんだね」

すると、マモルは緊張しながらも敬三に自分の思いを語り出した。

「俺の親父は家庭を顧みない人でした、俺は仕事で家に帰ってこない親父が嫌いでした」

「うんうん」

「最近・・俺は思ったんです、家庭を顧みず働き続けたこの場所がどんなところかみて見たいと。母親もこの業界の人だから親父に何も言わなかったと思います、悪く言えば俺だけのけ者だったんです」

「うーん、なるほど」

「だから、俺はこの会社で親父や母親が見てきたものを感じたいと思ってます。そして、親父を超えたいっす」

「はっはっは、親父を超えるか!やっぱ親子だねぇ、めちゃくちゃ似てるよ。お父さんとマモル君は」

笑顔の敬三は、机の上においてあるコーヒーを手に取り、一口含んだ。

マモルも、置いてあるコーラのキャップを取り、緊張しながら口に含む・・が蒸せる。

「がっ!ぶほっ、ぶほっ!あ〜・・・」

「大丈夫かい?・・・・ふっ!」

敬三が、マモルの行動に思わず吹いてしまう。

「い、今笑いました?」

顔をあげたマモルの口からコーラが滴り落ちていた。

「はっはっは!いや〜、傑作だねぇ!マモル君」

敬三が大爆笑する。この一件で緊張が嘘の様に解れたマモルであったが、若干敬三にムカついてしまう。

「その笑い方・・・ナツコにそっくりっすよ!」

少しキレモードのマモルに対し敬三は

「え?ほんとに?ま、娘だからさ。あ、マモル君言っとくけどウチの娘あげないから」

「いいです、別に!」

「ま、君がこのTXCで一人前になったら改めて挨拶に・・・ね?」

と肩をポンポン叩く敬三。勝手に話進めんな!と思うマモル。

「いやいや、思い出すなぁ〜、実は若い頃・・・聞きたい?」

「なんすか、もう」

申し訳なくも、若干社長にウザさを感じるマモル、コーラを飲み直す。

「君のお母さんの涼子ちゃんと君のお父さんと俺、三角関係だったんだよ〜」

「はぁ?」

この社長の本当のキャラがどんどん出てきているような・・・

「いや、ホントホント!若い時の涼子ちゃん結構モテたんだから」

「まじっすか?あのぼさぼさ頭が・・・・」

うそだ、あの母親がモテていたなんて。

「実はお父さんと俺で涼子ちゃん取り合いしたんだから」

「まじっすか?」

「だって、当時は珍しかったのよパートナー会社に女性デザイナーがいて綺麗で腕がよくて!みたいなさ。そりゃ気になる存在になるよ」

「はぁー・・・」

よくわからないマモル。

「俺がさ、仕事でニューヨークに出張中に差つけられて帰ってきたらデキてたんだよー!卑怯だと思わない?どう思う?」

「しらないっすよ!」

なんかこの人、イサオに似ているような。

コンコンっとドアのノック音がなる。

「うわっ!オホン!どうぞ〜」

ガチャリとドアを開け田中さんが入ってきた。

「社長、吉永課長が参りました」

「ん、ごくろうさーん」

いきなり、社長の顔に戻る敬三。

「あっ、社長お疲れ様です」

現れたのは、白髪まじりの単髪でおしゃれ黒縁メガネをかけ、よれよれのポロシャツをきた男だった。見るからにデザイナーっぽい。

「おー、ヨッシィ今度新しいアルバイト入るから面倒みてやって」

「時岡です、宜しくお願いします」

「時岡・・時岡・・・?社長、もしかして?」

「ビンゴ、時岡部長と涼子ちゃんの息子さんだ、鋭いねぇ!」

「おぉー、なるほど!よく似てらっしゃるもんですから」

すると、マモルは思い立ったかのように、カバンから自身が制作したものを取り出し机に広げた。

「あ、あの一応こういうことやってます」

「おっ、制作実績ってやつだな、どれどれ・・・ヨッシーも見てあげて」

「はい、じゃ失礼します」

敬三とヨッシーがマモルの制作物をチェックしだした。

「なるほど〜、ほー、んー、へー」

とヨッシーが食い入るように見ている。なんか人にこうまじまじと自身の作ったものを見られることがなかったマモルは少し緊張していた。なんていわれるんだよ・・・一体。

「時岡さんは今おいくつなんすか?」

ヨッシーが急に切り出した。

「あっ、17っす」

「17歳・・・・17歳ですか?」

「はい」

「ヨッシー、マモル君はまだ高校生だ」

「なっ、なるほど〜」

「で、どうだヨッシー」

「うん、まだ荒削りですけど・・わるくないっすね。綺麗に仕上がってますし。ウチのチームでまずは働いてもらいましょうか?社長」

「あぁ、宜しく頼むぞ」

え?決まったのか?早いぞ、こんなすんなりと・・・

「時岡さん、連絡先おしえてもらってもいいですか?」

「えっ、あ、はい」

「090・・・・です」

「あっ、ちょっとすみません・・・やっぱ赤外線で」

ヨッシーが携帯をマモルに向けた。

「あ、はい」

ヨッシーの携帯に赤外線で送信した。

「あのー、社長俺は採用なんすか?」

「うん」

採用かよ!とびっくりしながらも再び話し出すマモル。

「まだ学校の授業が平日あるんすど・・・」

するとヨッシーが口を開く。

「僕ら制作部はフレックスなんすよ、だから大体みんな夜遅くまで作業していまして」

「フレックス?」

「自由出勤ってやつです」

「なるほど」

「なんで、17時に8階にある制作部に来ていただいていいですか?まずは毎週火曜日と木曜日の週2回くらいでどうでしょ?」

「問題ないっす、宜しくお願いします!」

「よし!マモル君宜しく頼むよ!」

敬三とがっしり握手するマモル。

「ありがとうございます!宜しくお願いします!」

そしてついに、TXC最年少デザイナー時岡 マモルが誕生したのだ。 


マモルが帰った後 TXC社長室・・・


「いや〜、驚きましたよ社長。まさか時岡さんの息子さんとは」

ヨッシーがコーヒーをすすりながら話し出した。

「まっ、宜しくたのむわ」

最上階の眺めを見ながらマモルのマネージメントを吉永課長に託した。

「それにしても・・・すごい才能ですね彼は、10年後が末恐ろしい」

悪くないといったもののマモルの才能を高く評価していたヨッシーだった。

「個性的だよ、好き嫌いはあると思うけど基本スキルを身につければいいデザイナーになるよ」

「そうですね」

「いきなりシフトが火曜日と木曜日ってヨッシーよ・・・」

振り返る敬三。

「えぇ、彼のテイストが適任だと思ってますあのロス案件を」

「うんうん、なるほどな、ウチにできる人間はいないしな・・」

「とにかく、次会うときに時岡君には内容を全てお話します」

コーヒーを飲み干し席を立つヨッシー。

「楽しみだなぁ、でも火・木だけじゃデザインできないだろ?」

「まっ、進捗報告ですね。作業場は地下の美術室になりますし、チェックは私が」

「あの規模なら毎日美術室だな〜・・・」


話は飛んで歩道橋下のトンネル


「相変わらずしぶといじゃねーか!はぁはぁ・・・シュンスケぇ!」

イサオとシュンスケのタイマンは壮絶だった

、お互い服は破けてほこりだらけ、顔面は晴れ上がり出血している。

「てめぇのパンチなんか全然きかねーんだよ!」

お互いこの最後の一撃で勝負が決まる、そう

感じていた。それほど二人の力は拮抗しておりまさにライバル同士のタイマンだった。

「シュンスケよー!」

イサオがふらふらになりながら拳をにぎりしめた。

「俺は、負けず嫌いなんだよ。先に行かせてもらうからよ」

「こっから先は行かせねぇよ、イサオ!」

「ふん、そういう意味じゃねぇよ。だからてめーは俺に勝てねーんだよ」

「なんだと・・・」

意識が朦朧としてるシュンスケ。次の瞬間に

イサオの飛び蹴りがシュンスケの顔面にクリーンヒットした。飛び蹴りを喰らったシュンスケは派手にぶっ飛ばされ、失神した。

「はぁはぁ・・・シュンスケよ、先に行くってことはマモルちゃんのところじゃねぇ。自分の将来の行き先のことだ・・」

イサオはドスンと地べたに座り、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。

「おい、シュンスケ聞いてるのか?・・あっ、のびてるわ。はっはっは」

タバコを深く吸うイサオ。上を見上げると空には星が輝いていた。

「さ、そろそろケジメつけとかなきゃな」

その3日後、イサオはナイトのヘッドの座を

引退することを表明した。このことは、2日

とたたずに街の不良少年たちに知れ渡ったのだった。この街最大のバッドボーイズチーム

のヘッドの引退は、内外ともに衝撃をあたえた。

「シュンスケ・・・のびていて聞いてないと思うが、しんどいから帰るわ」

イサオは立ち上がり、シュンスケに近づいた

「まっ、風邪引くんじゃねーぞ」

と失神しているシュンスケにナイトの刺繍の入った学ランの上着をかけてその場を去った

。なかなか粋な男だ、実はシュンスケは失神してはいなかった。話も全部聞いていたのだ

。シュンスケはイサオの去る後ろ姿を見ながらこうつぶやいた。

「最後までかっこつけやがって・・いてて」


こうして、イサオとシュンスケの因縁のタイマンバトルはこれで終止符を打った。



その一方、マモルの家近くの川の縁側・・


マモルもTXCを後にし、バイクをとめて星を見ていた。やっと、親父に近づく扉をあけた

とほっと一息といったところだが、マモルはイサオのことが気になっていた。イサオに電話をかけてみる。

「トゥルルルル・・・・」

「はい!マモルちゃん」

「おぉ、イサオ大丈夫だったのか?」

「俺があんなヤツに負けるわけないっしょ」

マモルはほっと胸をなでおろした。

「今回はホント、世話になったな。イサオ」

「いや、こっちとしてもよかったよ。ケリついたしよ」

「そうか・・・」

「それより、どうだったのよ?」

イサオもマモルの合否が気になっていた。

「あぁ、来週からお世話になることになったよ。まずはバイトだけど」

「すげーじゃない?マモルちゃん!」

「オマエのおかげだよ、イサオ」

少しお互いの沈黙があり、イサオが話し出した。

「マモルちゃん・・・俺、ナイトを引退することにしたよ」

「・・・なんだって?」

「俺もそろそろ次にいかないとな、また学校で話するよ!じゃ、お疲れ〜!」

「あっ!おい、イサオ・・・」

とイサオは電話を切った。


その頃、シュンスケはぶっ飛ばされた場所にしゃがみ込み、悔し涙にふけっていた。

すると一台の業務用軽トラックがシュンスケの前に止まった。

「お〜、ガッツリやられたなぁ」

シュンスケの親父だった。

「あっ!親父・・」

すると、親父がタオルから迷彩柄のタオルを

シュンスケに投げ渡す。

「血ふけよ、ほれぃ」

「す、すまねぇ・・・」

血と涙を迷彩タオルで拭くシュンスケ。

それを見る親父の表情はとても笑顔だった。

「どうだ?シュンスケ、悔しいか?」

「う、うるせぇよ」

「おい、明日の仕込み手伝ってくれよ」

「この状況できついぜ・・親父」

「はっはっは!そうだな」

腕組みして笑う親父。

「親父ぃ・・・いてて」

「なんだ?」

「スープの・・スープの作り方おしえてくれよ、明日から」

えっ?と驚いた表情をする親父

「バカ野朗、簡単じゃねーぞスープ作りは」

嬉しそうに返す親父。

「やってやるぜ、親父」

「はっはっは、さ、かえろーぜシュンスケ」

「あぁ」

イサオとシュンスケ、このタイマンは彼らにとっての大きなターニングポイントとなったのだった。

シュンスケは本気でスープカレーたかやんを

継ぐ意志を固めた。

そして、シュンスケもブルースプラッシュの引退を視野に入れたのだった。



同時刻、時岡家・・・


マモルの母、涼子の携帯に着信が入る。

「もしもし?」

「涼子ちゃ〜ん」

「あら、けいちゃん久しぶり」

「マモル君をウチの会社で預かることになったから」

「そう、いいの?ウチの子で?」

「涼子ちゃんに似て才能あるからさ」

「ふふ、彼に超似てるからでしょ」

「えっ?」

「けいちゃんはもう一度彼と仕事したいんでしょ」

受話器の向こうで敬三の沈黙がつづく。

「うん・・・そうかもしれないな」

「まだ・・・責任感じてるの?」

「・・・・・あぁ」

「ふふ、彼なら多分怒るわね。大きなお世話だこの野朗って」

「涼子ちゃん・・」

「ガンになってしまったのもあれは管理不足よホントに、か弱い私たち残してさ」

涼子はユーモアを交えながらも敬三のせいではないことを強調した。

「あ、そうだ涼子ちゃん。マモル君がおもしろいこといってたよ」

「え?なに?」

「俺は家に帰ってこない親父がきらいだった

。ただ、家庭を顧みず働いたこの業界に興味があるっていってたよ」

涼子は驚いた。

「マモル、そんなこといってたの・・」

「あのストレートなところそっくりだよ」

「ふふ、そうね」

「あ、そうだもう一個涼子ちゃんのことで」

「なに?」

「あの髪ぼさぼさがモテるわけないってよ、年とったね〜お互い、はっはっは」

「いったわね・・殺すわよ」

「いやいや、言ったのマモル君。お宅の息子!変わってないな〜涼子ちゃん・・」


30分後 マモル宅


「ただいま〜」

激動の一日が終わりやっと家路についた。真っ暗な玄関で靴紐をほどき家に上がろうとすると、涼子が仁王立ちしていた。マモルはまだ気づいてない。

「マモル」

「うぉ!びっくりした〜!」

「ぼさぼさ頭で悪かっわね〜」

「えっ、何それ?」

玄関のあかりをパチッとつける涼子。

「今日けいちゃんから連絡もらったのよ」

「あの親父め〜」

チクリやがったなぁ、と思うマモル。

「聞いたけど、世話になるんだって?TXC」

「あぁ、色々教えてくれよ母さん」

「そうね、いいわよ。でも・・・」

「なんだよ?」

「アンタに一体何をやらせるのかしら?」

「あ〜、聞いてねぇな。そういえば・・」



次の日、学校にて・・・


イサオは壮絶なタイマンの影響で、今日は休みを取っていた。ナイトを引退するとも言ってたし色々考えることもあるんだろう。

「イサオさん、今日休みだってよ」

「えー、珍しいな」

クラスのみんなも、学校大好きなイサオの休みに驚いていた。

マモルの携帯のバイブレーションがポケットの中で動き出した。

携帯を見てみるとナツコからメールがきていた。

(ちょっと、パパから聞いたんだけど!パパの会社でバイトするんだって?お昼詳しい話きかせてよ!)

マモルもすぐメールを送った。

(情報早いな、じゃ、昼休み屋上で飯食うからよかったらこいよ)

またナツコからメールが届く。

(オッケイ!じゃ昼休みね〜)

そうだった、社長の娘はあのナツコだった。

一応ちゃんと挨拶はしておこうか・・・・


昼休み 屋上


今日は天気もよく、ご飯を食べ終わったマモルは、いつもうるさいイサオがお休みのためゆっくりと漫画を読みふけっていた。

しばらくして、ガチャリと屋上のドアが開く。

「よっ!」

ナツコが右手を上げてこっち近づいてきた。

「何みてんの?」

ナツコが覗き込む。

「なんだよっ・・ワンピースだよ!」

「何巻?」

「17巻」

「いいよね〜、そこ。感動した?」

「おう、ぐっときた」

漫画本を閉じ、マモルは話を切り出した。

「聞いた通り、ナツコの親父のところで世話になることになったわ」

「聞いたよ!超びっくりなんだけど」

「まぁ、宜しく頼むわ」

うんうんとうなずくナツコ。

「それにしてもさ、私のパパとマモルのパパが同じ会社だったなんてね〜以外!」

腕を組むナツコ。

「そうだな」

マモルは立ち上がり、屋上のフェンスによしかかった。

「ねぇ、私弁当食べていい?」

ナツコは屋上のベンチに座る、何か見せたそうだ。

「おぉ、好きにしろよ」

引き続きワンピースを読むマモル。

「いやさ、朝練で超おなかすいたし」

ナツコは大工さんが持ってそうなステンレスの大きな弁当箱を持参していた。

「でけぇな!その弁当箱」

驚くマモル、さらにそれだけじゃない。

「これ、見てよ。ホラ、味噌汁入ってるんだよ。すごくない?」

パカッとフタをあけるナツコ。

「ホラー!」

「うぉ!すげぇうまそう・・」

その弁当箱は保温能力が自慢らしい。湯気出てるし超うまそうだ。

それにしても、ナツコはバリバリの女子高生なのに持ってる弁当箱は職人クラスだ。

「オマエ面白いな」

「オマエってゆうな!ヤンキー」

またいつものようにガッツリ飯を食うナツコであった。

「よく食べるな、で・・・一体何しにきたんだ?」


               

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ