対面
眠れないまま夜が明け、
一睡もしていない体を無理矢理起こす。
カーテンを明けてもまだ薄暗い外、
窓ガラスに映る自分は疲れた顔で自分を睨んでいる。
暫くそのままいたが、時計を見たって針は五分と進んでいない。
着替えを済ませて書斎に行くが、とても落ち着かない。
血の繋がった弟に会うだけなのにこんなに気が重い。
腹違いとはいえとくに憎しみあっているわけでもないのに。
思い耽っていた俺を現実に引き戻したのはチャイムの音だった。
常識的な客ならこんな時間に来ないだろうと頭を抱えながら、嫌々リビングに向かう。
すでにそこにいて、満面の笑みをこちらに向けたその男は目があった瞬間口を開いた。
「久しぶりだな!兄さん」
朝から元気そうなその男を席に座るように視線で促す。
「何度も言うが兄さんなんて呼ぶな、同い年だろう」
たった一日違いの、母親の違う弟。
弟はスッと目を細めて、ニヤリと笑った。
「相変わらずだなあ、蓮は」
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべたまま、
少しはねたアッシュグレーの後ろ髪をいじる弟。
何も言わない俺にしびれを切らしたように、
急に立ち上がって部屋を歩き回りながら話し出した。
「本当になんにも変わってないな、部屋の中も、蓮も」
返事をしなくても部屋のことについてあれこれ語るそいつを目の隅に追いやって、これから紹介する彼女について考えた。
瞳について言っていたがどうするつもりなのだろうか。
それに、まだ朝食の時間にもなっていないのに起こすわけには―…。
「で、お見合い全部断ったあげく俺たちに黙って結婚したお姫様はどこかな?
それともお見合いを断るためのはったり?」
ニヤニヤしているくせに視線だけは鋭いそいつに溜め息を吐いてから時計を指差す。
「普通の客ならこんな時間に来たりしない。
相変わらずお前も常識のない男だな」
そう言うと呆れたように首を振って、悪戯っぽく言った。
「こんな時間だったら、代わりを雇っていないだろうと思ったんだよ」
賢いだろー、とかなんとか言いながら部屋をうろつく姿から目をそらした。
二人だけでは話すこともないし、疲れるだけだ。
あとで拝み倒すとして彼女を起こそうかと考えていると、
その声がその場に響いた。
「ずいぶん早い訪問だな、おかげで出遅れてしまった」
静かな空間にその声は鈴の音のように響く。
黒いチュールレースで目元を微かに隠した彼女が真っ赤なワンピースを纏って階段を降りてくる。
思わず見とれてしまう程の姿、
あの瞳も、体に浮かぶ痣も上手く隠している。
「こっちは、俺の腹違いの一応弟の水無月愁、
彼女が俺の妻の蝶だ。」
互いに説明をする間も彼女がよろしく、と挨拶をしても、
愁はただまっすぐに彼女を見つめていた。
凝視されることには慣れているのだろう、
彼女は黙って瞳を閉じて見つめられている。
「へぇ、綺麗な人だね。
こんな人がいるなんて思いもよらなかった」
そんな風に笑いながら愁は彼女に歩み寄る。
「よく、見せてくれないかな。その瞳」
すっと瞳を開いた彼女はいつものあの視線を愁に向ける。
「宝石みたいだなぁ。
それにその視線、ゾクゾクするね」
ニヤリと笑う愁は彼女に近寄り、その手をとった。
「よろしくね、蝶」
躊躇いなく呼ばれたその名前、
手の甲にそっと口付けられても全く表情を変えない彼女に苛立ちを感じた。
彼女に気安く触れ、言葉を交わす愁に、
愁を興味深そうに見る彼女にも苛立ちがつのってゆく。
こんな感情は知らない。
初めての、彼女と二人きりでない1日は、
まだまだ終わらないのだとソファに座り込む愁を見て悟った。