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プロローグ

※この話はフィクションです

 俺の名前はユウキ。

 平凡な日本人である俺は、ある日、異世界へと転移した。


 転移当時のスペックは21才、学生、オタク、童貞だ。

 そんな俺だから異世界転移には年甲斐もなくワクワクした。


 異世界ハーレムはすべての男の夢だと思う。


 

 そんなわけで、なんとか冒険者として食いつないでいた俺は、金を貯めて、奴隷の女の子を買った。

 いや、俺より3歳ほど年上だし、女の子っていうより女性という方がしっくりくるかもしれない。

 24才、平凡な顔と身体、茶色の髪と瞳。

 この奴隷が、駆け出し冒険者に買える中では最高品質の奴隷だった。

 でも、本音を言えば、16才くらいの金髪碧眼美少女が欲しかった。

 しかし、そういう奴隷は高い。めちゃくちゃ高い。

 というか、そんな娘そもそも売ってない。


 当時の俺は金に余裕がなかったし、その娘を購入することにした。


 奴隷に首輪をかけて、魔力を流し込む。

 簡単な契約方法だった。

 これが俺と彼女の出会い。


 女奴隷の名前はエスクラ。

 俺はすぐに彼女のことが好きになった。

 平凡な顔といっても、それは異世界基準であり、もし日本だったら確実に美人の部類だ。性格も明るくて話しやすい。

 俺はイケメンじゃないし、彼女が出来たこともなかったから、優しくしてくれる女性のことを好きになるのは仕方がなかったと思う。


 エスクラと出会ってからは、ハーレム願望を持たなくなった。

 彼女が出来てエロ本を捨てる奴の気持ちが分かった気がした。



 その後、長い旅の末、世界を滅ぼそうとする魔王を倒し、俺は勇者となった。



 勇者となった途端、各国の姫君や貴族の令嬢たちからの縁談を持ちかけられた。

 勇者との婚姻が多大な利益になるらしい。

 中には念願の金髪碧眼で美少女な姫もいた。

 でも、すべての縁談を断らせてもらった。

 一人の縁談を受け入れると、他の話も受け入れなければならないからだ。

 そうなるとエスクラが悲しむと思った。彼女は意外と嫉妬深い。

 それに俺も彼女との時間を大切にしたかった。



 王都に小さな家を買った俺は、エスクラと二人で暮らし始めた。

 そして、教会で誓いの言葉を交し合った。

 奴隷と結婚は出来ないが、事実上の婚姻関係になれた事を二人で喜んだ。

 

 子供はもう少ししてからということで、行為の際は避妊魔法を使っている。

 王族や貴族連中も相変わらず縁談の話を持ちかけてくるが、すべて断っている。

 なんだかんだで幸せな日々だったと思う。


 

 しかし、少し前からエスクラの様子がおかしい。


 最近妙に外出が多い。

 前は出かけて行ってもすぐに帰ってきていたのだが、最近はなかなか帰ってこない。

 それになぜか帰宅後すぐに風呂に入るようになった。

 それとなく聞いてみても、友達と食事に行っていたと言うだけで、具体的に誰と何処に行ったかは教えてくれない。

 前までなら、出かけるときは前もって誰と何処に行くか教えてくれたのに、最近は聞いてもはぐらかされてしまう。

 他にも、化粧の雰囲気や髪型が変わったり、いつのまにか知らない服やアクセサリーが増えていたりと、おかしなところが多い。

 

 なぜこのような行動を?

 思考を巡らせ一つの考えに行き着いた。


 『エスクラは浮気をしているのでは無いだろうか。』


 しかし、この考えはすぐに放棄して自分を恥じた。

 この世界で一番信用している女性を疑うなんてありえない。

 これからはもっとエスクラに優しくしよう、と決めた。





 今朝、俺は勇者の仕事をする為に、一人で王城へ出向いた。

 王城に奴隷は同伴させられないので、エスクラは留守番だ。

 仕事といっても、他国の王族との挨拶を兼ねた昼食会だけ。

 意外とすぐに終わった。



 帰り際、冒険者ギルドに立ち寄るために、いつもは通らない裏道を通った。


 空を見上げる。

 雲行きが怪しい。

 雨が降り出す前に帰りたい。

 速足で路地を抜け、煤けた裏通りに出る。


 そのとき見てしまった。


 エスクラが知らない男と宿から出てくる姿を。


 身なりの良い、若い金髪の男。

 幸せそうに手をつなぐ二人。

 寄り添う身体。


 俺は心臓を握りつぶされるような錯覚に陥った。

 激しい動悸に目眩、こみ上げてくる強烈な吐き気。

 俺はすぐに物陰に身を潜めた。

 何が起こっているのか理解できない。

 いや、理解したくない。


 まさか、いやそんな、エスクラに限ってそんなハズは――。


「エスクラさん、夕食も一緒にどうですか?」

 

 若い男の声。


「ええ、是非。」

「勇者の野郎はほっといて大丈夫なんですか?」

「平気よ、今日はお城に行ってるもの。」

「なるほど。それにしても馬鹿な勇者ですね。エスクラさんが他の男――、俺を愛していることに気づかないなんて。」

「……そうね」

 

 これ以上は聞きたくない……。

 俺は耳を塞ぎ、二人が立ち去るのを待った。



 家に逃げ帰った俺はトイレに駆け込み、吐いた。

 ひたすら吐いた。

 胃の中を全て出し切り、胃液しか出ないようになってきた頃には、頭の中もだいぶ落ち着いていた。

 今まで感じていた違和感が確信に変わる。


 あのクソ女、浮気していやがった。

 俺のことを裏切りやがったんだ。

 絶対に許さん。

 勇者である俺が力と権力を使って復讐してやる。


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