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八七月短編集

タレイアの笛は今日も行くっ

作者: 八七月

目が覚めたら綺麗な少女が隣で寝てました。

何を言っているのか分からねぇと思うが全ては現実での出来事さ!

スヤスヤと寝息を立ててそりゃあもう気持ちよさそうに眠っていやがるクリーム色した長髪の美少女。

こりゃあ食っちまっても誰も文句言えねえわな。

そう思って俺が服に手をかけようとしたところ目を覚ましやがった。

ちぇなんだよ、起きていやがったのか?起きちまったらめんどくせぇじゃねぇか色々。

俺がこんなに綺麗な少女を食えなかったと深いため息をつくと目をぱっちりと開けた美少女がこちらの顔をじっと見つめてくる。

なんだ、なんだ?俺に惚れちまったかいお嬢さん?



「…とても悪そうなお顔。きっと今まで悪いこと一杯した。」



びしっと効果音がするような綺麗な指さしをして断言する少女に俺は悪そうな顔をより一層悪くさせた。

おいおい外見で決めつけてんじゃねぇぞと、俺は思わず少女にどなりつけようとした。

俺の人相というやつはそれはそれは酷いもんで小さいころから凶悪犯罪者呼ばわりされていた。

…まあそんな奴らなど相手にする価値すらなく、以降の学校生活で友達など出来たためしのない俺だ。

久々にまともに話をしてくれる相手に少々嬉しくなっていたのかもしない。

ぐっとこみ上げてくる怒りを鎮め、出来るだけ穏やかな顔を浮かべる俺。



「いやぁ嬢ちゃん。人を見かけで判断するのはよした方がいいぜ?マジで」



かなり頑張った譲歩の言葉に、少女は呆気からんと言い放つ。




「…でも悪い人なんでしょう?だから私がきた。ちょっと待ってて、今すぐ楽しくさせちゃうから。」



俺の言葉など露ほどにも思っていないのか、彼女はいきなり飛び出すと服の中から一つの笛を取り出した。

その笛は異様な輝きに包まれていた。まるでこの世にはあってはいけない特別な存在であるもののよう。思わず俺は生唾を飲む。



「楽しくなったらきっともう悪いことなんてしなくなるよ。悪い子はめっだけど皆これで幸せにするの。」



彼女に対する反論も、言葉も失われてしまう。

彼女の持つ輝かしい笛、それに全て吸い込まれてしまったかのようだ。

笛は彼女が吹くまでもなく自ら曲を奏で始めた。その音は陽気でリズミカル、思わず踊りだしたくなる魔力が働いているみたいである。



「…さぁ踊ろう悪者さん。この『タレイアの笛』さえあれば皆皆喜劇に変身、だよ?何もかも忘れて、踊ろうよ!みんな!」



音符が目に見えるかのようだ。

頭上で四分音符、八分音符が踊り出す。

また大小様々である楽器達が俺の狭い6畳の部屋に押し寄せる。

彼女は喜劇を支配する笛だと言った。ならばこれも喜劇、ギャグの一種だと言うことだろうか。

まぁそんなことはもう、どうでもいい。ここで踊らにゃ損損。

今はただこの激情に溺れてしまいたい気分であった。




「…おぃ俺を忘れては居ないかい?お隣の富岡さッ!」


「またせたな!小野だ!」


「…こんなこともあろうかと、駿河であるッ!」




狭い男だけの過密住宅、隣の家にもこの笛の音が聞こえていたのだろうか。

次々の俺の部屋に人がなだれ込んできて、てんやわんやのお祭り騒ぎ。

でもおりゃこの雰囲気は嫌いじゃねぇ。寧ろ上等じゃねぇか。血が騒いで仕方ねぇ!



「おらっお前らこの主役を忘れちゃいねぇかい!この部屋の主様だぞ!どけどけぇ!」




俺もついにその輪へと身を投じる。

それからの記憶は存在していない。

ただ踊り疲れてクタクタになった俺たちに笛を持つ少女が一言告げていたのだけは分かった。




『…ごめん皆!人違いだったみたい!更生する相手間違えちゃうなんて神具の付喪神失格だよぉうぇええええん。』




最後の方は涙交じりに消えゆく彼女の言葉は、虚しく男だらけのむさい部屋に広がるだけであった。



補足:タレイアとはギリシア神話に出てくる喜劇を司る神様である。それを今回は笛という形で短編を書かせてもらいました。

ちなみに舞踊を司るのはテルプコシーという神様です。

タレイアさん関与してません。

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